秋田県男鹿半島を中心に、農山漁村の民俗行事として伝わる「なまはげ」の後継者不足が深刻だ。高齢化や人口減少で行事の担い手が減少。かつて男鹿市では147の全町内会で執り行っていたが、今は81に減った。市は交付金を出すなどして復活を後押しするが大幅増に結び付いていない。地方に若者が減った余波は、農業生産だけでなく、伝統文化の存続をも危うくしている。
「雇用が少なく、農家も後継者はいない。こんな状況で今後も続けられるのだろうか」。なまはげ発祥の地の一つとされる同市真山地区で50年以上、なまはげに携わってきた菅原昇さん(71)は心配する。
人口減少率が日本一の秋田県でも、同市は特に深刻な状態にある。14年度の人口は、前年度より2.34%減った。県内の市では最も減少率が高く、65歳以上の割合も39%とトップクラスだ。
菅原さんによると、独身男性がなまはげ役をやるのは、古くから伝わる約束事。しかし、人口減で守り切れなくなった。昨年は既婚者を含め18~40歳の10人で、なまはげ行事を維持したという。
高齢化で、なまはげを迎え入れる家も減ってきた。昨年、同地区で迎え入れたのは13戸。全59戸の2割程度だ。なまはげが来る時は、もてなしの料理を作る必要があり、部屋の片付けもしなければならない。体力の問題から「とても対応しきれない」と断るケースも多い。
なまはげ文化の存続に危機感を抱いた市は12年度から、なまはげをやった町内会に交付金を出し始めた。交付額は世帯数などに応じて決め、これまで6町内会で復活した。しかし、多くの町内会は今も中断したままだ。
市は「少しずつ復活はしているが人口流出で若者が減り、担い手がいないという根本的な問題がある。地道に伝承を促していくしかない」(観光商工課)と打ち明ける。 (塩﨑恵)
・農村が疲弊
なまはげ文化に詳しい秋田県民俗学会の鎌田幸男会長(ノースアジア大学教授)の話
農村の人口減少は食料生産だけでなく、伝統芸能の継承にも影響を与える。農作業や日々の暮らしにおいて、集落内の結び付きが希薄になったこともなまはげの衰退を引き起こしている。伝統文化を維持し、育んでいくには集落で将来展望を話し合う必要がある。