業界動向
Access Accepted第457回:PlayStation Nowとクラウドゲーミングの未来
プレイヤーのハードウェアにソフトをインストールすることなく,ゲームが楽しめるというサービス「クラウドゲーミング」。「PlayStation Now」のサービスを北米で開始し,さらにクラウドゲーミングの先駆的な企業であったOnLiveの重要な技術を買い取ったことから,Sony Computer Entertainmentは,この分野において一歩リードした感があるが,現在,「PlayStation Now」がゲーム業界に大きなインパクトを与える存在であるとは言い難い印象も受ける。2012年9月に掲載した当連載の第358回「大量解雇が起きたOnLiveと,クラウドゲーミングの未来」の頃に比べて現状はどうなったのかを紹介したい。
サービスを終了したOnLiveと,SCEに買収されたGaikai
クラウドゲーミングとは,プレイヤーがコントローラやキーボードに入力した情報を受け取ったサーバーが,計算やレンダリングなど,ゲームのすべての処理を行い,その結果となるゲーム映像をプレイヤーにストリーミングするというサービスで,“ゲームオンデマンド”と呼ばれていた時期もある。ネットワークの高速化により実現したものであり,プレイヤーは自分のハードウェアにゲームソフトをインストールする必要がないばかりか,通信機能を備えてさえいれば,ハードウェアの種類や性能にかかわらずゲームをプレイできることになる。
OnLiveは,専用の小型デバイス「MicroConsole」をテレビと接続することでゲームを楽しむというシステムで,サービスは2010年6月にスタートした。それに対し,ブラウザにアドオンプログラムを組み込み,Webベースでゲームがプレイできるのが,OnLiveのライバルであったGaikaiのシステムだ。Gaikaiのサービスは,OnLiveに遅れて2011年の前半に始まっており,2012年7月,SCEに3億8000万ドルで買収された。
このGaikaiの技術やノウハウが現在の「PlayStation Now」に結実しているのだが,今回のOnLiveの技術購入により,名実共にSCEはクラウドゲーミングサービスの最大手になったといえそうだ。
Gaikaiの元CEOで,現在「PlayStation Now」部門を率いるデイビッド・ペリー(David Perry)氏は,OnLiveの一件について自身のブログで「これまで常にOnLiveをクラウドゲーミング業界のライバルとして見てきたが,GaikaiとOnLiveはのアプローチは,いつも異なっていた」と,過去を振り返る。
そして,OnLiveが主としてPCゲームにフォーカスしていたのに比べ,Gaikaiは早い時期からコンシューマ機市場の統一性や豊富なタイトル,コントローラのシンプルさなどに注目しており,SCEのアプローチを見逃さなかったと続ける。この違いが,Gaikai技術が生き残った理由ではないかとペリー氏は考えているようだ。
PlayStation Nowの立ち位置
2015年1月,SCEはPlayStation 4を対象にしたクラウドゲーミングサービス,「PlayStation Now」の正式サービスを北米で開始した。現時点では,PlayStation 3向けの「The Last of Us」や「TOKYO JUNGLE」といった自社タイトルを中心に,セガやカプコン,Electronic Arts,Warner Bros. Interactive Entertainment,そしてTelltale Gamesなど,日米パブリッシャの270作品を超える,なかなか豪華なライブラリを誇っている。現在,PlayStation 3やPS Vita,一部モデルのBRAVIAをプラットフォームにしたオープンβテストが行われているほか,イギリスでもオープンβテストが始まっており,今後は対応機種を増やしつつ,世界中でサービスが行われていくことになるだろう。
とはいえ,サービスから4か月が経った現在,PlayStation Nowが北米の多くのユーザーの注目を集めているとは言い難い印象だ。SCEから利用者数の正式発表は行われていないが,ネックになっているのはやはり,1か月19.99ドル,3か月で44.99ドルという価格帯だろう。北米における中古ソフトやレンタルショップの値段を考えると,だいたい月にゲーム3本をやり込めば元が取れるといった感覚で,やや割高な感じがするのは否めない。
また,PlayStation Nowは安定した転送を実現するため,720pの解像度を上限としている。したがって,PlayStation 4タイトルでは画像をダウングレードする必要があり,これはPlayStation 4でゲームをプレイするようなゲーマーにすれば,まったくあり得ない話だ。しかも,少なくないPlayStation 3が現在も現役で使われているため,わざわざ高い金を払ってPlayStation 4で昔のゲームをプレイしたい人がどれだけいるのか,という疑問もある。
例えば,「PlayStation Network」の有料会員向けに無料配布されるゲームがクラウドでプレイできるようにすれば,HDDが一杯という人でも安心して遊べるし,PlayStation NowのタイトルをPCでプレイできるようにすれば,家族がテレビを見ているときや旅先でも,気軽にゲームがプレイできる。PlayStation Nowは,クラウドゲーミングの利点をうまく活かしきっていないように思える。
クラウドゲーミングと直接の関係はないが,SCEのライバルであるMicrosoftは,2015年発売予定の「Windows 10」を武器に,Xbox Oneの巻き返しを図っている。Xbox Oneで動いている「Fable Legends」の画像をPCへストリーミングしたり,PCとXbox Oneのクロスプラットフォーム対戦などが実現される予定になっており,「Forza Motorsports 6」や「Halo 5:Guardians」など,同時期の発売が考えられる人気タイトルを含めて,PCとの連携強化を狙っているのだ。
また,オンライン配信サービス「Steam」を運営するValveが,クラウドゲーミングへの参入を狙っているという噂も根強い。この噂は,OnLiveやGaikaiがサービスを開始する前からあるものだが,例えばSteamは2008年からセーブデータのクラウド化を行っており,実績を積み上げていることは間違いないだろう。
OnLiveの技術を手にし,クラウドゲーミング分野で一歩先に出た格好のSCEだが,PlayStation Nowがこのままでは,そのアドバンテージを失ってしまいそうだ。メーラーやワープロ,画像ソフトなど,さまざまなサービスがクラウド上で行われるようになった現在,筆者はゲームのクラウド化は避けて通れない道だと思っている。Gaikaiに続いて,OnLiveという先駆者も表舞台から姿を消すことになってしまったが,今後も継続して注目していきたい。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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