このブログのコメント欄には、STAP騒動に関して様々な観点からのコメントが寄せられているが、やや混乱している感がある。
研究で行き詰った時には、データを最初から見直すというのが鉄則である。ここでもこの騒動の初期の動向について振り返ろう。このブログで既に述べたことも含まれるが、その点はご了解いただきたい。また、この記事については、追加・訂正があるかもしれないことを最初に述べておく。
STAP騒動の初期の動向(4月1日まで)については以下のブログで詳しく述べられている(http://stapcells.blogspot.jp/2014/02/blog-post_5586.html)。発端は、画像に不自然な点(TCR組換えの証拠として示された電気泳動の図に画像切り貼りが認められることを含む)があることや、論文方法の記載にコピペがあるということであり、通報(実際には、「研究論文に疑義があると連絡を受けた研究所職員が役員を通じて監査・コンプライアンス室に相談」)を受けた理研は、石井氏を委員長とする調査委員会を2月13日に発足させた。その調査中に「テラトーマ画像」が小保方氏の博士論文と酷似していることが発覚し、また世界中の研究者が小保方氏の実験結果を再現できないという結果が公表されていく。石井委員会は3月14日に中間報告を発表し、4月1日には最終報告書を示し、「電気泳動画像」を改ざん、「テラトーマ画像」を捏造と認定する(石井委員会の問題点については、7月29日のブログ記事で詳しく述べているので参照されたい)。小保方氏は4月8日に不服申し立てを行なったが、5月7日付に調査委員会に却下されている。
最終報告を受けて理研は「研究論文(STAP細胞)の疑義に関する調査報告について」を発表する(http://www.riken.jp/pr/topics/2014/20140401_2/)。そこでは、(1)不正者の処分と論文取り下げの勧告、(2)不正防止への取り組み、(3)「検証実験」が表明される。「検証実験」は同日にその概要が発表され(小保方氏ぬきでの「検証実験」については、6月3日のブログ記事でその問題点を批判している)、4日には研究不正防止改革推進本部が設置され、9日には岸輝雄氏を委員長とする研究不正防止のための改革委員会が設置されている。
理研(野依理事長)が行った最大の問題点は、不正と認定された者が不服申し立てを行い、それに関してまだ結論が出ていない段階で「不正者の処分」や、不正者ぬきの「検証実験」の実施を発表したことである。これは理研の「科学研究上の不正行為の防止等に関する規程」に対する違反行為であろう。不服申し立てに対する委員会結論が出る前に、「不正者」と認定することは規定上許されない。こんな出鱈目な行為が許されるのは日本だからであろう。米国のように被疑者の人権が保障され、検察側が法の手続きを厳密に守ることが求められている米国であれば、弁護士から「理研の手続き上の不正」を訴えられて、処分などは行えなくなるはずだ。
手続きだけの問題ではなく、そもそも理研が「検証実験」を行うこと自体に問題があった。これは「研究不正」とは関係ない話であり、実験は研究不正認定のための「再現実験」に限定すべきであったのだ。「検証実験」は、「STAP細胞はあるのか、ないのか」というマスコミ、政治家、世論へのパフォーマンスであり、これが問題を大きくこじらせる原因となった。世間がどんなにやかましくとも、理研は「研究不正」に絞り、「再現実験」も含めて綿密に調査を行って結論を下すべきであった。そして、「「STAP細胞はあるのか、ないのか」は不明であり、今後のこの研究に興味を持った研究者あるいは小保方氏が誰かのサポートを受けて解明される問題である」と言明すればよかったのだ。「検証実験」は、「STAP細胞はあるのか、ないのかをはっきりさせろ」という世間の風圧に、野依良治という科学者がすり寄った・屈服したことの証左であり、これによって日本の科学は更に信頼を失うことになった。改革委員会の会見で東大教授の塩見氏は、「将来誰かが同じ現象を見つけ出し、それを科学的に証明したら、その人が新たに命名すればよい」といった主旨の発言をしていたと思うが、理研はそういった姿勢に徹するべきであった。瞬時にはマスコミがその姿勢をたたくであろうが、今日まで続く騒動にはならなかったであろう。
最近、このブログに登場したJ・ワトソン氏はSTAP細胞の存在を主張されているが、存在の有無についてはこの問題に興味を持った科学者の将来の研究に任せるべきであり、現時点では「小保方氏の不正」に限定して議論を行うべきだろう。勿論、持論を展開されるのは自由であるので、私の方としてはコメントを制限する気はない。
研究は「個人の責任」なのか、「所属組織が責任を持つべき」なのかについてもこのブログコメントで疑問が出されているが、基本的には「個人の責任」であり、所属組織は個人がその責任を遂行することをサポート・ガイド(指導・支援)する責任があるということだ。今の議論では、組織による不正の「管理」ということが強調されてしまっているが、私は科学者そして教育者として「管理」という言葉は適切ではないと思っている。
小保方氏が「論文を撤回したらSTAP細胞はなかったことになるので撤回しない」と発言したにもかかわらず、論文を撤回したのだから、「STAP細胞はなかったことになる」という主張を展開される方がいるが、このような論理の展開は「議論」を否定することにつながるので止めた方がよいだろう。小保方氏が論文を撤回したのは、当初はそう思っていたが、竹市氏や他の人の「データが信用性を失っている論文は撤回すべき」という「意見を受け入れた」と理解すべきであろう(あくまで撤回の時点での判断であるが)。議論や他の人の意見を聞いて意見を変えることは当然ありうることであり、それに対して「当初言っていたこと」を持ち出してコメントするのは、「私は意見を絶対に変えない」ということを暗に言っているようなものであり、それなら議論をしても意味がない。
小保方氏の不服申し立てに関連してであるが、不服申し立て審査結果の報告書(http://www3.riken.jp/stap/j/t10document12.pdf)には、小保方氏の不服理由として以下の記載がある。「研究所では、4 月に、「論文に記載された方法で再現性を検証する」 こともその目的の一つとして、STAP
現象を検証するプロジェクトが立ち上げられていることからすれば、この検証実験の結果を待たずに、不服申立て者の行為を研究不正と断ずることは許されない」。「検証実験」の過程で自ら「再現実験」を行い失敗したわけであるから、「不正認定」については彼女も認めるであろう。ただし、「テラトーマ画像」については、「捏造」であったかどうかは不明である。もしかすると小保方氏の主張どおり、「画像の取り違い」であった可能性は残る。なぜなら、小保方氏がES細胞を使って捏造をしたのであれば、DNAのメチル化実験と同様に(1月23日のブログ記事参照)、捏造の必要はなかったはずなのである。
追記
小保方氏のキャラクターをめぐって意見が出されているが、このような事件が起きた原因として、彼女のキャラクターが大きく影響していることは疑いの余地はなく、その点では彼女のキャラクターの議論には「公共性」があるので、名誉棄損には当たらないだろう。ただし、プライバシーは守られるべきであり、コメントを求めて追いかけまわし怪我を負わすなどというNHKの行為は許されるものではない。これに関しては、マスコミやサイエンスライターたちは、まるでそのようなことがなかったかのようにふるまっているが、これに関しては1月21日のブログでも述べたように「仲間意識」が影響しているのであろう。
11月4日のブログで「小保方擁護派」と「小保方批判派」について考察したが、小保方氏像については各自の経験や考えが強く投影されていると思われる。
私の小保方氏像であるが、最近このブログに登場した「ななこ」女史がいくつかの点で小保方氏と共通であるように私には思えてならない(勿論、「ななこ」女史が捏造する人間であるというような意味ではないので、お気を悪くされないように)。
共通点の一つは、年上の男性の庇護欲をかきたてるということだ。「ル」氏も、私に対してシニカルな在米ポスドク氏もメロメロであり、それ以外の人も彼女との対話を喜んでいる。これは若山氏、笹井氏が小保方氏を可愛がったのと類似している。相澤氏などは、小保方氏が石井調査委員会で「捏造者」と認定されていたにもかかわらず、検証実験中、彼女を励ましていたという話もある。このようなことが起こる理由は、その女性が有する礼儀正しさ、謙虚さ、人への尊敬、純真さ、甘え上手などに起因するのであろう。小保方氏の場合は、彼女が笹井氏へ送ったメールにその一端が伺える。
>笹井先生
いつも大変お世話になっています。寒い日が続いておりますが,お体いかがでしょうか
お陰様で丹羽先生からEpiSCと抗体などを分けていただき大変楽しく実験をさせていただいております。
もうすぐFigの仮作りが出来そうですので、また近いうちにご相談に伺わせていただけないでしょうか?
よろしくお願いいたします。
小保方 晴子
これはNHKスペシャルで放送された笹井氏と小保方氏のメールのやりとりであるが、当時は男女関係を想像させると思われていたものであるが、今、読み返すと、小保方氏がなぜ年上男性から庇護されるのかがよくわかる。「ななこ」女史の場合も「「分からない事があればいつでも聞きに来なさい」高校時代、大好きな先生に言われたこの言葉が嬉しくて、休み時間は数学準備室に入り浸っていました」(1月10日付けのブログ記事へのコメント)とあるように、純真に相手の申し出を受け入れる甘え上手だ。
勿論、同性からすると小保方氏のような行為は「また爺ころがしをしている」ということになる。実際、ワシントン大学の鳥居氏は、最近の彼女のtwitterで「何度も申しますが、実力派女性研究者が彼女の生データを直接精査できる立場にいたら、全然異なった結果になったのでは。どうやって周りを信じ込ませたのか、その集団心理を解明する必要性が」と述べているのはその例であろう。
もう一つの共通点は、言葉の使い方が独特であるということだ。小保方氏はSTAP細胞研究に関しては「やめてやると思った日も、泣き明かした夜も数知れない」、STAP細胞の検証実験の参加に関しては「生き別れた息子を捜しに行きたい」、再現実験の失敗に関しては「魂の限界まで取り組み」と述べている。通常の人はこのような言葉は使わない。「ななこ」女史も、「魔法は現在修行中です(^^)V。やっと、ほうきに乗って30センチほど浮くようになったのですが、早くも効果が表れた」、「高校時代の物理の先生に「どこまでも果てしない宇宙よりも、ミクロの世界の方が貴方に向いてる気がする。」と言われた時の複雑な気持ちは今でも忘れられません」。後者は高校の先生の発言であるが、「ななこ」女史には男性教諭にそのような言葉を発せさせるキャラクターがあり、また、彼女もその言葉を忘れずに他人に対して述べることをいとわない。
「ななこ」女史は明らかに小保方擁護派なのだが、多くの人に好かれている。
コメント
コメント一覧
1139、1140は「ななこ」さん宛です。
書き忘れていて失礼いたしました。
4月の検証実験発表記者会見では、丹羽さんが光る胎盤画像の存在を理由にES混入説を強く否定しました(全文はhttp://archive.gohoo.org/column/140413/)。
近々予定されている検証実験最終報告では、丹羽さんには、科学者の良心に従って桂調査委員会の結果を踏まえた新たな見解を語っていただきたいと思います。
自分が発した言葉が自分が意図とは違って受け取られたとき、その誤解を解くにはひどく骨が折れます。
言葉足らずの部分があるにしても、言葉を受け取る人の中には必ず相手に「そういう意味ではなくて」と言わせている人たちがいます。私の場合は、そういう面倒な相手は無視することが多いのですが、律儀に対応しようとすれば言葉が伝わらないもどかしさに疲れ果ててしまうことになるのでしょう。もちろん私も言葉が伝わる間は伝える努力はしますが、無駄だなと判断した場合は、そんな曲がった受け取り方をする人もいたとしても、多くの人にはちゃんと伝わっているはずと思うことにしています。
自分の意見を述べるのにレベルも何もないと思いますが、相手を傷つけないことを最優先にして気を配りすぎると、本当に伝えたかった事も伝えることが出来なくなってしまうのではないかと思います。自分の発言を自分の意図したことと違う意味に受け取りそれを基にしてさらに歪めて伝えようとする者がいたら、私はその行為に対して強く批判しますが、それを良しとしない人の場合は口を閉ざしてしまうことになるのでしょうね。
1033-1034ドクターT氏の発言に群がった人達の様子や、1108からの流れを見ていてそんなことを思いました。
打ち切りで12月のが最終報告になったんじゃないのですか?
そうでしたっけ?
ありがとうございました。
この2ヶ月間、何度もまろんさんの言葉に励まされ、癒され、気持ちを立て直したことを思い、感謝の気持ちでいっぱいです。
>>もしご本人もご遺族もそれを望んでいないとしたら、第三者が誰かに怒りを向けたり、罰することを望んだりするのは正しいことなのだろうか、という疑問も湧きました。
笹井先生のご遺族のお話は、私も何かで読みました。私もまろんさんのおっしゃる通りだと思います。
自分にできること、自分がしなければいけないことって何なんだろう。
そう考えた時、今の私にできることは「勉強することだけなんだ」って思いました。
笹井先生の死を悼み続けるのではなく、stapに関する鬱屈した思いを持ち続けるのでもなく、いつか誰かの役に立てるように勉強を続けること、そして、それをその先の未来に繋げること、それが今、自分がするべきことなんだって、そんな当たり前のことが、やっとわかった気がします。
まろんさんには本当にお世話になりました。
聡明で優しくて、以前も書きましたけど、私が100回生まれ変わってもまろんさんのようにはなれないと思います。
でも、少しでもまろんさんのような女性になれるように努力することは無駄ではないはずなので、これから一生懸命頑張りたいと思います。
最後になりますが、高校卒業の時に大好きだった数学の先生にアルバムに書いていただいた言葉を載せさせて下さい。
「"The best way to predict the future is to create it."(未来を予測する最良の方法はそれを創ることだ)」
本当に、本当にありがとうございました。
>検討の結果、ES細胞が、故意でなく、誤って混入していた可能性があるなど、十分な証拠がないとして、、、
納得がいかないので一言だけ言わせて下さい。
ES細胞の混入に関して、マウスの遺伝的背景の合うES細胞が何度も混入またはすり替えられていたこと、その後の実験においてES細胞が解析されたにも関わらず、STAP幹細胞・FI幹細胞は、ES細胞とは違う性質を持つという結果が出されたこと 、、、
この点から、なぜ「故意でなく、誤って混入していた可能性」といえるのか、理研の見解を聞きたい、きちんと説明して欲しいと思います。
こんな風に思うのは理研の大人の決着に対して野暮というものでしょうか?
筆頭著者が、事実を認め、反省し、関係者に対して密かに謝罪しているのならば、理解しますが、、、
桂委員長が会見で、「『誰か』を確定できないから『故意かどうか』も認定できない」とおっしゃっていた方がまだ納得できるのですが、、、
理研も、周囲の小保方擁護派や批判派も、捜査でES混入の詳細が明らかになることに如くは無いんだろうから。
痛い腹を探られるからいやだなんてことほんとにあるんでしょうか?
素敵な言葉を贈って頂いて、ありがとうございます。良き師に恵まれるのは、きっとななこさんの人徳ですね。
「いつか誰かの役に立てるように勉強を続けること、そして、それをその先の未来に繋げること、それが今、自分がするべきことなんだ」
本当に、その通りだと思います。故人の胸中は分かりませんが、もし私が笹井氏の立場だったら、きっと同じことを望むような気がします。これからの未来を背負う若い人達には、自分の分まで頑張ってほしいと。
私も新年度からは、少し忙しくなりそうです。ななこさんに贈って頂いた言葉を大切に、頑張りますね。
ご活躍を心からお祈りしています。
さっきまで、久しぶりに「魔女の宅急便」を観ていました。
「小さい頃は神様がいて、不思議に夢を叶えてくれた。」
主題歌を聴きながら、「これからは自分で夢を叶えるんだな。」、ふと、そんな風に思いました。
このblogで過ごした2ヶ月間。本当にたくさんの事を学びました。
様々な思いが浄化され、淘汰され、私も少しだけ大人になったような気がしています。
それはもしかしたら、神様からの贈り物だったのかも知れません。
4月からお忙しくなるとの事ですが、まろんさんもどうか頑張って下さい。
まろんさんの凛とした大きな優しさで、たくさんの方々を幸せにして差し上げて下さい。
お幸せを心からお祈りしています。
本当に、本当にありがとうございました
在米ポスドクさんも阿呆が言うことなぞ気にせず書き込みを続けてほしいです。貴方のお陰で嫌気がさしていた科学界に希望が持てました。
往復書簡はいつまで続くのかなと。
スタップ騒動についてもっと知りたい。
在米ポスドクさん、ありがとう。
結構きつい書き方したこともあったかと思いますがその点申し訳ありませんでした。
推測するに4月から本格的に学部研究室メンバーの一員になられるということですね。兎に角、しっかりとした知識を身に付けた上で研究室の仲間と大いに自分の研究だけでなく仲間の研究についても議論して下さいね!遠慮のないオープンな議論ができる研究室で研究不正が生じるようなことは殆ど無いのではないかと思います。頑張って下さいね!
コメント、ありがとうございます。
お気遣いいただいてしまってすみません。決してXスナーさんの言葉がきつかったわけではないです。
私はstap問題で、ネットに溢れる特定個人への誹謗中傷が嫌で仕方がありませんでした。その為、極力こういったblogは眼にしないようにしていました。
こちらのblogにはそういう方々はいらっしゃらなくて、科学的な疑問を本当にわかりやすく教えてくださったり、建設的なお話を聞かせていただいたり、また、将来の事、人としても大切なことを学ばせていただいていたので、私にとってはとても有意義な空間でした。
ただ、自分がstap問題への思いを述べる時に、私の偏った正義感から個人を批判してしまっていることに気づき、それは私自身が最も忌み嫌う行為だったので、もう、書き込みは控えよう、そう思ったんです。
Xスナーさんからも、とても勉強になるadviceをいただき、本当に感謝しています。
これからもblogは拝見させていただきたいと思っているので、コメント、楽しみにしております。
このblogで、stapと関係のないことを多く書きこんでしまったこと、お詫びします。
これからも皆さまのコメントを楽しみに拝見させていただきたいと思います。
本当にありがとうございました。
ご返信が遅くなり、失礼いたしました。
理研は、窃盗罪や偽計業務妨害罪での告訴を見送ったとのことですね。
おそらく、告訴できるほどの十分な証拠があるか、メリットとデメリットはどうか等、様々な現実問題を勘案して検討された結果だと思いますので、真実がどうなのかは分かりません。
しかし、「犯罪人扱いするのは妥当でない」というのは、全くその通りだと思います。(仮に告訴されたとしても、罪が確定するまでは犯罪者ではありません)
ES細胞の混入については、単なるミスとは考えにくい頻度で起きているということ、当該の実験部分とデータの用意を担当していたのが筆頭著者の方であり、すでに論文での不正が認定されていたことから、彼女が疑いの目で見られていたのだと思います。
ただ、誰が混入させたのかという決定的な証拠がないため、調査委員会も明言は避けています。
ですので、こちらについても断定することはできないでしょう。
それと同時に、他の特定の誰かが共犯あるいは真犯人である可能性について言及することも、根拠がないのであれば慎重にされたほうがいいのではと思います。
「ドクターT」さんが何を根拠に共犯の可能性が高いとされたのか分かりませんが、名前を挙げられた若山氏については、不正に関わった事実は確認されておりません。
研究の担当状況から言っても、動機の面から見ても、彼が混入したと考えると不自然な点が多いです。
また彼自身が共著者の中で最初に疑問を呈し、真相解明に積極的に協力していたことからしても、混入に関与していたとは考えにくいというのが私の意見です。
とのこと、同感です。ただ、だからといってeラーニングに全く意味がないとは思いません。
難しい問題が山積みしていても、できることから対策を立てるしかないのであって、eラーニングは比較的簡単にできることです。
おっしゃるように、悪いと知っていて不正をする人を矯正する効果はあまり期待できないかもしれませんが、それでも前述のように「いけないとは知らなかった(悪意はなかった)」という弁解はできなくなるので、そういう意味での抑止効果はあるのではないかと思います。
もしも理研が、小保方氏が単独でES混入をした可能性が高いと判断していた場合、暴挙としかいえない石川氏の場合と違って理研には告訴するだけの根拠がありますし、刑事告訴し事件化した方が詐欺師に騙された被害者の立場を取れるので、理研にとっては大きなメリットがあります。小保方氏が単独で詐欺行為を働いていた場合、理研が小保方氏を守る理由などどこにもないわけで、被疑者不詳の偽計業務妨害罪で告発して捜査を司法に任せることで、名誉毀損などの訴訟を起こされる危険を負うこともなく真相解明に繋げることが出来ますし、それが理研の信用回復のために最も効果的な対応と言えるでしょう。
もし本当に誰かが故意に混入させた可能性が高いのであれば『告訴の要件に該当するような疑義がない』とはならないわけで、仮に捜査が行われた結果として犯罪性が認められず立件に至らなくても理研には何の責任も生じません。理研は被害の報告をすれば良い事なので、そこに犯罪性があるかないかは理研が立証すべきことではありません。←ここ勘違いしている人も多い。基本的には告訴によるデメリットはあまりないのです。
なのに告訴をしなかったということは、理研本部も小保方氏はやっていないと認識している可能性が高く、それは即ち石川氏が刑事告発した窃盗事件も存在しないということだし、そうなると告発者側に何らかの嘘がある可能性も出て来ます。あるいは、不正調査にあたって関係者がなんらかの不法行為を働いていて、それを表沙汰に出来ないという可能性もあるかも知れません。
いずれにせよ、小保方氏の故意による混入の可能性はかなり低くなったと言えるでしょう。
違うね。誰が混入したかは特定できないだけ。
混入と、笹井氏の意味ではないので誤解ないように。まろんさんの言う通り、今後同じ誤りがないようにするのが大切かと、読んで思いました。理研を批判しつつも、教訓として今後は実験ノート保管期間決めたし、前向きに動きは出てます。ななこさんみたいな人が科学者になってくれたら、科学にも希望が見えるかもしれない。
①は小保方さんの方が分が悪い。②は光るはずのないものが光ったのだから調査すべき現象である。理研調査委員会もマスコミも追求しないのはおかしい。
こちらの意図が伝わったようで何よりです。
お互いに言いたいことが伝わらずにすれ違いになってしまう状況は生産的ではないですし、何より楽しくないですからね。
ただ一点、「共犯の可能性が高い」と感じたのはただの感想で、意見ではありません(書かなきゃよかったですね)。私の考えは分からないものは分からないってだけです。
「ES混入」の真相については色んな人が色んな考え方をしていて、しかし現状では何も断定できないという状況です。その中で分からないものは分からないと認めましょうということですね。
eラーニングについては意見が違いますが、人により意見が違うのは当然のことだと思います。
私が気にしているのは、事務方が何か対策をしたという口実に使われるだけだという点(税金や労力が余計に使われますし、別の面倒で本格的な対策をさぼる理由にされる)と、実際に実効性が期待できない点(内容が現実の研究環境にあっていない、悪意ある捏造の巧妙化につながるだけではないかという懸念)です。
「弁解はできなくなる」ということについては本当にそうなのか(つまり実際にeラーニングの内容に反して記録が不十分だった時に何か罰することができるのか)が分からないのと、そもそもそういう後ろ向きな対策でいいのかという疑問があります。
盗難等について被害の客観的な事実が認められるのならば否応なしに告訴しなければならなくなるはずで、告訴するかどうかは該当する客観的な事実があるかどうかで決まるはずです。
これこそ、理研としては、何としても、避けたいことだろう。
告訴となれば、どんな組織でも、生身の体である。
その体に応じて、メリット・デメリットを第一に考えるのは普通のことである。麻酔を効かせて手術を行うわけにはいかないのである。
「分からないものは分からない」
その通りですね。真相の核心は謎のまま、というのが正しいでしょう。
ですので、「窃盗の事実が否定された」「故意のES混入は否定された」と言い切ることも、現時点では難しいように思います。
特にES混入については、確かに実験ミスによる可能性を100%排除することはできないのでしょうが、全てが不作為のミスと考えると、やはり不自然な確率で起こっているように思えます。このあたりは、専門家のご意見を伺うべきところですね。
理研の不正対策については、eラーニングとは関係なくですが、研究記録を五年間保存することが罰則つきで義務づけられるようです。他の研究機関も、新年度からの新ガイドライン施行に合わせ、対策を強化していくものと思われます。
これだけ研究倫理研究不正の事が社会的な関心事になり、実際にそういった問題がある以上、研究者を雇用する研究機関としては事務方の言い訳云々以前の問題として研究機関として何らかの対策を講じなければならないでしょう。eラーニングはその中のone of themだということでしょう。確かにそこで触れていないことを理由に巧妙に言い逃れをする不届き者も出るかもしれませんが、剃ればその都度実情に合うように改良していくことで対応すればいいんじゃないでしょうか。まあ、いたちごっこかもしれんけどやらんよりかはナンボかマシです。
「ドクターT」さんが言及されているのは、刑事訴訟法239条2項のことですね。「官吏又は公吏がその職務を行うことにより犯罪があると思料するときは告発しなければならない」
ただ、犯罪というからには多くの場合故意性が問われてくると思うのですが、誰がどんな理由で持ち去ったか分からないような場合にも適用されるのでしょうか。
メリットとデメリットについて補足しますと、「K」さんのご指摘された点は、確かに理研にとって避けたいことではないかと思います。
加えて、理研は延期された国立研究開発法人への指定を受けるために、この問題を早く収束させるよう文科省からプレッシャーをかけられていた節があるので、これ以上捜査やら裁判やらでゴタゴタすること自体が、大きなデメリットだと思われます。
翻って、警察の捜査によって真実が明らかになることは、一部の職員の処罰感情を満足させるくらいしか、理研にとって得るものはないのではないでしょうか。そのような方法で、理研に対する信頼が回復するかというと、それも微妙な気がします。
それよりも、もし「誰でも細胞を持ち去れるような状況」があるとしたら、一刻も早く改善するべきでしょうね。
誰でも細胞を持ち出せる状況の改善
となると、すべての部屋の入り口に防犯カメラを設置する、idカードを通すとかとか指紋認証された人しかドアが開かないような設備にする、等ですね。実際何処でも誰でも入れてしまう状況にある大学が数多く存在するのではないでしょうか?
「窃盗の事実が否定された」とか「実験ミスによる可能性」とかいうのは私の主張ではなくて理研の発表ですね。理研がそういう発表をしているということ自体は断定できる事実です。
その理研の発表が正しいかを含めて真相は分からないということですが、理研が組織として発表している事実関係についてはそれなりに信用できるのではないかと私は思っています。
>ただ、犯罪というからには多くの場合故意性が問われてくると思うのですが、誰がどんな理由で持ち去ったか分からないような場合にも適用されるのでしょうか。
その場合は被疑者不詳で告訴することになります。被疑者不詳なら当然、故意性も判断できないので、故意性は関係ありません。要するに盗まれたという被害の事実があるかどうかです。
被害の事実があるのに理研が告訴しないというのは可能性はゼロではないでしょうが、非常に考えづらい状況です。そこまで疑ってもなぁという気がします。
一つご理解いただきたいのは、大学や研究所等の運営資金や人的なリソースは有限であり、一つのことをやるということは別のことを諦めるということだということです。一部の機関を除き、多くの所は本当にかつかつの状況でやっています。
何でもかんでもできれば理想的ですが、実際には一部のことしかできないので、優先順位をつけて処理するしかありません。
その中でeラーニングは比較的労力が少なく、紙の上での実績になりやすく、実際上の効果が見込めないという性質のものなので、私は懐疑的なのです。
返信ありがとうございます。
お聞きしたいのですが、仰るように大学の持つ有限なリソースの中であっても、研究不正対策は各研究室に一任してしまうのではなく、大学全体の方針または学部全体の方針をコンセンサスを得た上でしっかり立てて行っていくのが望ましいのではないかとは思っています。ドクターTさんとしてはどのような対策を優先して行っていくのが望ましいとお考えでしょうか。
研究不正、懲戒解雇判定した者に対して甘過ぎ…>_<…
この研究不正にどれだけ損害を被った事か!
やはり刑事事件とすべきと考えます。
科学会は甘過ぎ…>_<…
これでケジメが取れると考えているのか…>_<…
私自身の考えとしては「研究不正対策」という枠組みとして問題に取り組むのは必ずしも適切ではないと思っています。目に見える研究不正を減らそうという対処療法的なやり方ではなく、全体としていかにして透明で健全な研究・教育環境を作って維持していくかということを考えなければいけないのだと思います。
それには組織単位でできることともっと大きく国単位でやらなければできないことがあります。また、どちらも一朝一夕にできるようなことでもなく、特効薬があるわけでもありません。既得権益や国民の意識の問題もあります。
根本的な部分の問題としては、特に大きいのは教育費の公的負担の少なさと短期的な成果主義(役に立つ研究)の弊害だと私は思います。
研究費は少なくてもそれなりに何とかやりくりできるものですが、教育費の少なさ(すなわち、教員と事務職員の不足)はどうしても教育の質に限界を与えます。根本的に教育の質を上げるにはやはり他の先進国レベルの教育費の負担が必要で、それを国民が認めるか(それとも質の高い教育は諦めるか)という話になります。
また、短期的な成果主義を徹底していけば研究不正が増えるのも当然のことで、本来は数十年単位の長期でないと成果の判断ができない学問の世界で無理やりに過度の競争を煽ることは環境の健全性を損なうことになります。また、役に立つ研究ということで金と研究が直接に結びつくことで腐った部分が生まれています。これは根本を考え直さないと小手先の対処法で何とかなる問題ではありません。
> 被疑者不詳なら当然、故意性も判断できないので、故意性は関係ありません。要するに盗まれたという被害の事実があるかどうかです。
> 被害の事実があるのに理研が告訴しないというのは可能性はゼロではないでしょうが、非常に考えづらい状況です。そこまで疑ってもなぁという気がします。
デタラメなことを言いますね。
盗む=占有者の意に反して故意に占有を侵奪する、です。
上の第1文の「盗まれた」の部分を「故意に占有を奪われた」に入れ替えて読むと、いかにおかしなことを言っているのかが明白になります。
理研発表の「法的措置について」を読むと、理研は告訴義務が生じない程度の調査にとどめたようにみえます。
で、「法的措置について」は、その弁解に終始している印象を受けます。
結局、1166. Kさんの見解が核心を突いているのかな。
理研としては正解手だったと。
バルタサン疑惑の舞台となった京都府立医大の調査費は約1200万円。
東大分子細胞生物学研究所で起きた33本の論文不正では、調査費に約230万円。
麻酔科医による172本の論文不正では、日本麻酔科学会では事務局の人件費含めて524万円。
STAP細胞論文不正では、理研が調査や検証にかけた一連の経費が8360万円に上ったことがわかった。
法律事項など専門家への相談(弁護士経費など) 2820万円
検証実験(技術スタッフ人件費、研究消耗品、実験室整備費)1560万円
保存試料の分析 1410万円
やはり・・弁護士費用が一番多い。
小保方嬢もそれ相当に支払っているだろうから・・
弁護士の掻き入れ時だったのは間違いない。
間違いないが・・笹井博士の生命保険(社会通念上、組織が保険を架けているはず、組織が受取人)も・・毎日が調べてくれれば、バランスが取れた。
なるほど確かに言葉遣いに誤りがありますね。以下のように訂正します。
「要するに被害の事実があるかどうかです。」
いずれにしても理研の判断としては小保方氏等による窃盗は立証できず、立証できる見込みもないというのが結論です。
立証できる見込みがないこと(つまり客観的に事実と認められないこと)について全く根拠もなく事実だと断定したり、ちゃんと調査をすれば明らかになって告訴義務が生じるから故意に調査をしなかった等と陰謀論めいた話にしたりするのはどうなのよ? っていうのが私の意見です。
ただ、まだ石川氏の告発が残っていますので、理研の判断の是非は告発が受理されるかどうかで明らかになると思います。
> なるほど確かに言葉遣いに誤りがありますね。以下のように訂正します。
> 「要するに被害の事実があるかどうかです。」
「言葉遣いの誤り」として矮小化したいんでしょうが、ごまかしがありますね。
1173で、あなたは「被害の事実があるのに理研が告訴しないというのは可能性はゼロではないでしょうが、非常に考えづらい状況です」と述べています。
そこで展開したあなたの論理は、『盗まれたという被害の事実』すなわち犯罪による被害の事実が認められれば理研は告訴するであろう、というものです。
が、占有について「被害」を被るのは、犯罪に起因する場合に限りません。
過失で侵害される場合(他人が無意識にバッグに入れて持ち帰ってしまった、といった例)や自然力に起因する場合(台風で他人の庭に飛んで行ってしまった、といった例)もあります。
この2者はいずれも犯罪を構成しません。
ところで、あなたの訂正を受け入れた後の1173は、占有を失ったという被害の事実があれば理研は告訴するだろう、というものになります。
上で説明したことが理解できれば、これが的外れの指摘であることが分かります。
要するに、被害の事実が「故意に基づく」ことがあなたの論理展開の必須項目であるにもかかわらず、あなたは言葉遣いの誤りとしてごまかしている。
誠実な人なら1173の論旨が破綻していたことを付言せざるを得ないはずです。
あなたは理解力のない人だとは思えないので、分かっていて無視しているんでしょう。
こういう不誠実な対応をされると、コメントのやりとりをする気持ちが失せます。
「被害の事実があれば理研は告訴」しますよ。当たり前のことです。
それから、自然力による被害は論外としても、被疑者の特定や故意性の有無の判断・立証は警察や検察の仕事であって理研の仕事ではありません。被害者が訴える時に必要なのは被害の事実を示すことだけです。
コメントをありがとうございました。
昨年12月15日の第二回改革・モニタリング委員会議事録概要を読むと、研究データは研究所の所有とする方針のようです。実際の保存方法などは、現場の事情に応じて弾力的に応用するとされています。
また理研は2018年度には、データのバックアップシステムを導入する予定だという報道もありました。
データを裏付ける実験ノートについては「五年間追跡可能な形での保存を義務づける」という規定を罰則つきで設けるようなので、これは研究者個人に属するのではないでしょうか。
×「応用」→○「運用」
失礼いたしました。
基本的なルールのみ定めて、細かいことは現場の判断に任せる方針のようです。
議事録では、すでに導入が決まっているeラーニングについても議論されていました。
全ての研究室に防犯カメラや認証システムを設置するのは、予算的に無理でしょうね。
素人考えなので的外れかもしれませんが、例えば劇薬などは棚に鍵をかけるなどして厳重に管理されているのではないかと思います。そこまでしなくても、在庫管理チェックなど紛失したら気づけるような仕組みを導入する、ラベルや色シールなどで取り違えを予防するなどの工夫は難しいのでしょうか?
細胞は増えたり減ったりするので、量の管理は大変だと思いますが…誰でも入っていじれる状況ならば、せめて何か起こった時に気づけるような対策は必要なのではないかと思った次第です。
1177のコメントでご指摘されていること、もっともだと思います。
健全な研究環境と教育環境をつくるためには、政策と予算が関わってくるので、私たち国民一人一人が真剣に考えていかなくてはいけない問題だと思います。
それとは別に、不正をする人がいなくなることはないという前提に立って、できるだけ起こりにくくする状況を整えたり、不正を早期に発見して対処できるような方策も、今すぐ求められています。
「ドクターT」さんも研究者でいらっしゃるようですから、ご自身の経験から具体的なご提案をして頂ければ、より建設的な議論につながるかと思います。
うーん・・・、後半部分はそのとおりなんだけど・・・
> 「被害の事実があれば理研は告訴」しますよ。当たり前のことです。
困ったなぁ。
告訴しなかったのだから理研は犯罪事実がなかったと認識したはずだ、というのが、あなたが展開してきた論旨なわけね。
「犯罪の事実」ではなく「被害の事実」としたんじゃ、その論理が崩れるんですよ。
分かっていて言ってるんだろうから、もういいですけどね。
前メールで必要以上に詳しく書いたのは、コメントを読み流す人にも流れが分かるようにしたかっただけです。
ドクターT氏は、私の前々メール以降は分かっているはずです。
それだけの話でしょうに。
窃盗事件のように犯罪性が客観的に明らかなものに対しては、公務員は告発義務を有しているので、準公的な組織である理研は盗難があった場合には告発しないわけにはいかない。そして告訴しなかったということは理研としては盗難という認識はないということだから、即ち理研が公式に「窃盗の事実を否定」していることになるという話でしょ。
『占有について「被害」を被るのは、犯罪に起因する場合に限りません。』という論駁に何の意味があるのか分かりませんが、その件もまた犯罪事実を否定するものなので、どう転んでも『理研が公式に「窃盗の事実」を否定した』という同じ結論になるのであって、これほど無意味な議論も珍しい。
> 所有権を持つ理研が盗難と認識していない以上「窃盗の事実」は存在しない。
> それだけの話でしょうに。
物がなくなったとき、それが窃盗によるものだとしても、被害者には、盗まれたのか他の原因でなくなったのか分からないときがある。
というのが、引用箇所に対する回答です。
>> どう転んでも『理研が公式に「窃盗の事実」を否定した』という同じ結論になるのであって、これほど無意味な議論も珍しい。
理研が公式に窃盗の事実を否定したんですか?
そりゃ大変だ!
理研も大胆ですな。
返信ありがとうございます。
大局的には仰るように通りだとは思いますが、まろんさんも書かれるように、研究現場におられるドクターTさんなりの、自ら現場で優先的に実践すべき研究不正対策をお聞きしたかったです。いざ自分が属する研究機関で大々的な研究不正が発覚すれば謝罪会見を行うのは大学なら学長、学部長でしょう。国の役人が自分達の科学技術・文教政策に問題があったなどと謝罪会見を行うことなどほぼ絶対ないでしょう。具体的な責任を問われるのは研究機関であるので、小さいことでも現場でできる具体的な研究不正対策への組織的なコンセンサスを得た上で実践すべきかと思います。
また当然就業時間中は仕事をしています。
なので、このコメント欄に日中書き込む人は、リタイヤされた方、学生さん、海外勤務の方(時差)などかと思っていました。
現役の科学者の方が就業時間帯にここに書き込みしていらっしゃるのでしょうか。
もしいらっしゃるとしたら、それは問題ないのでしょうか。
ちなみに私がいた企業では、個人情報保護のため私物PCの持ち込みも禁止でした。
1190. Xスナー様
まず前提として、私の分野では研究不正の問題というのはほとんど起きていません(身元を特定されたくないので、ぼやかした表現になるのをお許しください)。その理由は、そもそも注目が少ない分野であること、直接的に民間の金が関わりにくい分野であること、再現検証やクロスチェックが比較的容易であること等が考えられます。
そんな分野でも「怪しい」話は時々出てくるわけですが、それはほとんどの場合、悪意のないただの思い込みやミスに由来するものであり、特に問題視されておりません。むしろ研究分野の活性化に寄与している(実際にそれに由来する/触発される活動で全体的に論文数や研究費が増えることも多い)と肯定的に捉えている人も多いと思います。
研究不正とひとくくりに言っても、本当に悪意がある不正以外は問題視する必要はないのだと思います。間違いは研究活動に付き物で、そういうヒューマンエラーを含めて試行錯誤で進めていくのが研究というものです。むしろ、過度に騒いで問題視したり、徒に管理を強化しようとしたりする方が問題だと私は思います。
その前提の上で、悪意がある不正が生じる原因は業績と金の大きく二つあると思います。
業績については、本来は、再現性がしっかり確認されて学説として確立してから社会に向けて発表したり、業績として評価されたりするべきで、その基本がしっかりしていれば不正は生じ得ません。しかし実際には短期的な成果主義の導入により、不正の要因になってしまっています。また、学説として確立していない研究に対して一部のマスメディアが大きく取り上げてしまうという科学報道の問題もあります。この点については個人や組織の問題というよりは社会全体の問題だと私は思います。
(続き)
金については、民間から出される研究費と産学協同、知的財産の問題があります。
民間から出される研究費は外部資金の獲得ということで業績扱いになります(研究成果でないことが業績扱いされるということ自体が本来は異常なことですが)。また、研究者も他の公的な研究費よりも使いやすい(時には額も大きい)研究費として歓迎する傾向があります。しかしながら、金を出すと口を出すは非常に近接した関係にあり、研究不正の最大の温床になっているように私には見えます。これは産学協同も同じことです。私自身の個人的な考えとしては、この辺のルールをもっと厳しく整備すること、またできれば公的な研究機関は民間と直接的な研究費のやり取りは禁止して、科研費に寄付をするような形に統合するのが理想だと考えています。これについては反対意見が多いでしょう。
知的財産については、昔は大学等ではほとんど気にしていなかったのですが、近年は特許等も業績扱いもされて重要視されるようになっています。同時に研究活動を過度に複雑化し、そのことが直接ではないにせよ、研究不正に寄与することになっています。これについて私自身の考えとしては、基本的には公的な研究機関で研究されたことについては公的なドメインにおくべきだと考えています。もちろん全てが全てそういうわけにはいかないですが、知財管理は最低限にするという方向性で進めていくべきだと私は思います。これも反対意見が多いでしょう。
コメントをありがとうございます。
成果主義や科学報道のあり方、研究資金と産学協同、知的財産など、いずれも研究不正の背景をなす核心的な問題だと思います。
特に生命科学分野では、昔よりも格段に進歩のスピードが増して競争が激しくなっていること、高度に専門化して研究自体に多額の資金を要するようになっていること、社会のニーズと期待度が高いぶん産業化しやすいことなどが関係し、国や企業の思惑と結びつきやすいのかなと推測しています。
そして実際、国策としての支援や企業のバックアップがないと、国際競争をなかなか勝ち抜けない時代に入ってきているのでしょう。
ご提案頂いた点はとても重要なことだと思いますが、産官学それぞれの利害が絡み合っているので、確かに合意を形成するのは簡単ではないでしょうね。
しかし研究不正が増えればいずれその分野にマイナスとなって返ってくる話なので、例えば医薬品のように誇大広告を取り締まるルールを設けたり、利益相反のチェックを厳しくするなどして、対策を立てられないものかなと思います。
一点ご教示頂きたいのですが、「公的な研究の成果は公的なドメインに置く」というのは、大学などに技術移転をしないという意味でしょうか?その場合、特許はその公的機関が取得・保持するのでしょうか、それとも公共の技術とされるのでしょうか?
誰でも自由に使える公共の知識にするという意味で書きました。
そもそも特許等の知財管理は技術開発の投資に対する報酬や権利を保障して文化の発展に寄与するためのものですが、本来、公的な資金で研究された成果は誰かが独占するべきものではなくて社会全体に還元されるべきものであり、また公的な機関の研究者は報酬や権利のためではなく人類全体の知の領域を拡大していくために(もしくは純粋に知的好奇心を満足させるために)研究活動を行うべきで、公的な機関が知財管理を行うのは原理的におかしいのではないかと私は考えています。
「研究は知的好奇心の満足の為に行い、成果は無償で提供すべし」
高邁な理想ですが、私は諸手をあげて賛成する事はできません。
研究には多額の公的資金を使われていますが、もし研究成果によるアウトカムで自立できるならそれにこしたことはありません。独立採算とまでいかなくとも、一部の研究費を捻出できるようになれば、その分、税金を使わなくてすみます。理想の為に血税を犠牲にすべきではないと思います。
従って、研究成果のうち、採算の取れるものを見極めて特許を取得し、特許料をいただいて利用に供する、というのが世論に納得していただける方針であろうと思います。
参考までに、「科学者の楽園」である理研が戦後にコンツェルンを解体された後に立ち直って来た歴史を、もしご存じなければ調べてみられると良いかもしれません。研究でも何でも先立つものが必要です。
http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/publications/riken88/riken88-1-1-1.pdf
「科学研究所の使命は基礎科学の研究と、その成果の応用にある。研究所の1つの社会である限り、経済面は無視できない。われわれは自分の額に汗したパンを食べて理想に邁進せねばならない」
と述べて、抗生物質を製造・販売してかろうじて研究所を継続された仁科先生を初めとする先達がいてこそ、今の日本の科学水準があるのだと思います。
申請が当たりさえすれば科研費が貰える現状が、恵まれているのだということを意識してほしいです。
研究所の1つの社会である限り → 研究所も1つの社会である限り
返信ありがとうございました。何点か。
ドクターTさんの研究分野ではあまり研究不正がない、とのことですが、失礼ながら例えると、田舎町なので、凶悪事件は殆ど起こったことがない、という感じでしょうか。しかし、どんな田舎町でも絶対凶悪事件が起こらないとは必ずしも言えないし、不審者には注意しましょうとか地域みんなで防災防犯などといった啓蒙活動を行いはすると思います。一旦事が起こってしまった時の被害が甚大だからです。研究不正防止対策についても、仰るように過度の管理に繋がる事は避けるべきでしょうけど、必要な啓蒙活動はすべきだと思います。
民間が金を出す時は口も出す、との話については、民間企業の社員を研究員として大学が受け入れる受託研究員の制度もありますので一概にいい悪いとは言えないと個人的には思っています。
高橋克己博士によるビタミンAの抽出化を製品化した「理研ビタミン」の大ヒットが戦前の理研の運営に多大な貢献をしたことは有名な話ですね。
ビタミンAのお話、詳しく知らなかったのでこの機会に調べてみました。タラの肝油から精製されたのですね。「ヴィタミンA」という表記に時代を感じました。(肺結核に効くとの誤情報が広まったこともあり)売り上げだけで一時期は理研の経費の約半分を調達できたとのこと、研究機関の経営形態として理想型の1つのように感じます。(誤情報はいただけないですけどね。)
教えていただいてありがとうございます。
当時は肺結核の特効薬がなく、患者は安静にし滋養のある物を食べる位しか術がなかったようです。その中でビタミンAを取るのにそれまでは何か凄く不味い物で補わなければならなかったのが「理研ビタミン」で手軽に摂取できるようになったというのは、当時の患者にとっては朗報であり全く荒唐無稽な話でもなかったのではと思われます。
NHKの批判はいいのですが、論旨不明です。
>iPS細胞の作製を報告したTakahashi & Yamanakaの論文では、ES細胞や初期胚で発現しているFbx15という遺伝子領域が「レポーター」として使われた。
「レポーター」とはGFPのことでしょうが。小保方論文においては、緑色蛍光が自家蛍光でないことの証明は、まず第一に、Oct4の特異的な発現の確認です。PCRによるmRNAレベルおよび特異抗体によるタンパク質レベルでのOct4検出です。おっしゃるように、他の多能性マーカーの発現も重要ではありますが、「レポーター」を使ってみているのが、Oct-GFPなんですから、まずそれが本当にOct4なのかを確認しているわけです。その上で、他の多能性マーカーも発現していると、さらに証拠を積み上げているのです。
加えて、PIおよびAnnexinVを用いたFACSによる解析で、緑色蛍光を発している細胞においては、死(+死にかけ)細胞と生細胞が共存しており、7日目までは生細胞が増加し死細胞が減少していくことを示しているのです。つまり、すくなくとも、死細胞由来の自家蛍光だけではないということです。
以上が、論文による自家蛍光説の否定であり、小保方氏笹井氏が記者会見で語っていたことの内容だと考えられます。これに対して、緑色蛍光が自家蛍光でないことが、スペクトルによって証明されていないなどと文句を言うのは、単なるイチャモンにすぎません。証明の方法などどうでもよいのです。
上で私が公的なドメイン置くべきと書いたのは公的な研究費で行われた研究成果に限定された話です。民間の研究機関での研究や自費で行われた研究については別の話になります。
採算の取れるもの(現実にはほとんどなく、公的な研究機関の知財管理はほぼ赤字なのですが)というのは、言い換えれば民間で研究が可能なものということであり、そもそも公的研究費を投じるべきかという根本的な問題があります。経済学的には市場に歪みをもたらすので公的な機関が手を出してはいけないということになるでしょう。民間でできることは民間でやるべきというのが一つの有力な考え方です。
また、一部の採算が取れるものについても本当に特許を取ることが社会全体のためになるのかということについてはよく考えなければなりません。研究機関の収支という小さな視点で考えれば特許をとれば収支が改善されて税金の節約になるということで良いことと言えるでしょう。しかし、もう少し大きな視点で社会全体を見ると、支払われた特許使用料というのは結局のところ末端の利用者である市民が負担しているわけですから、税金の形で負担するのか、利用者限定で負担するのかという徴収方法の違いでしかなく、どちらが良いかは一概には言えなくなります。また、特許取得には知財管理の経費もかかりますし、民間の研究を圧迫するという市場の歪みの問題も無視できません。ミクロの視点だけではなく、マクロの視点で考えてみることも大切です。
(続く)
公的な研究費の使い道は社会の承認によって決められることです。公的機関の研究者はその範囲内で研究を行い、成果は社会全体に還元されるべきもの(そのやり方は議論の余地があるとして)というのが私の考えです。社会に承認されない研究や公的な研究費の使用制限を超えた研究、自己の利益のための研究をやりたいのならば、公的機関を出て民間の立場でやればいいわけです。その辺が曖昧になっている現状がよろしくないと私は考えています。
1200. Xスナー様
研究不正啓蒙活動は必要ですし、現状でも十分に行われています。
問題となっている悪意ある研究不正が起こるのは啓蒙活動の不足によるものではないと私は思います。なぜならば、悪意ある研究不正というのは不正が悪いことと知らずにやっているのではなくて、悪いこととを知っていてやっているからです。これは啓蒙活動で防げるものではありません。
少なくとも私が修士の学生でいた学科では当時は研究不正啓蒙教育は全く行われてませんでした。ブログ管理人さんも仰ってましたが、犯罪を犯す人が無くならないように、研究不正が無くなることはない、とのこと、貴方の仰ることに通じます。いくらどんな教育をしようが意に介さない人がいるのはもう仕方ないですが、啓蒙教育によって防止効果が期待できるのは、学部時代はコピペ常習者で研究者志望のような、不正に対するハードルが低い研究不正予備軍のような人達に対してだと思います。小保方氏が所属してた早大常田研では小保方氏以外にも複数の方の博士論文コピペが報告されており、そこでは研究不正啓蒙教育が殆ど為されてなかったのではと思われます。確信犯的な故意の不正を行う輩に対しては、その者が研究室におれなくなるようにするしかないんでないでしょうか。徹底的な透明性ある議論が誰に対しても日常的に行われるような所にはそのような者はいられないと思います。
仰る事の理念はよく理解いたしました。
しかしながら、基礎研究と応用研究はちょうど車の両輪、基礎研究なくして(採算のとれる)応用研究はありえません。
大学等公的機関が民間が不得意とする基礎研究に注力すべきというのはその通りですが、でてきた成果を元に資金調達をするのは決して悪い事ではないと思います。
Xスナーさんに教えていただいた理研ビタミンの例では、ビタミンAの精製方法が確立できた時点で、民間に特許を売却するという案も出たようですが、理研が精製から販売までを手がける事により莫大な利益をもたらし、その利益がその後の理研の多彩な分野における研究成果につながりました。恩賜金や助成金・民間基金のみに頼っていては決してこのような発展はばかった事でしょう。むしろ、現在の理研は、国の運営費交付金や補助金に頼り過ぎであると思います。特許料等による資金獲得は0.1%程度だと思います。
>>社会に承認されない研究や公的な研究費の使用制限を超えた研究、自己の利益のための研究をやりたいのならば、公的機関を出て民間の立場でやればいいわけです。
このような研究について言及した覚えはありません。
公的資金は、直接応用に繋がらない純粋基礎研究から出口志向の応用研究まで幅広く支援すべきだと思いますし、事実そのようにされています。国民への還元という意味では、後者の方が圧倒的に還元される可能性が高いですが、前者にもさらに力を入れてほしいものです。
特許使用料と税金のくだりは、私には全く理解できません。「マクロの視点」ではなく、単なる暴論に見えます。どなたか経済学に明るい方、解説していただけませんでしょうか?
コピペと不正はちょっと違うというのはさておき、最後のところは因果関係が逆です。正しくは「徹底的な透明性ある議論が誰に対しても日常的に行われるような所」なら自然と研究不正啓蒙教育も身につくし、悪質な研究不正も生まれないということであり、いかにして、そういう環境を作っていくかが大切なわけです(私の過去いた/現在いる研究室はそういうところですし、私の研究分野ではそういう研究室がほとんどだと思います)。ただし、それは学科で知識としての研究不正啓蒙教育を徹底すれば実現するというものではなく、もっと大きく研究・教育環境全体を改善しないとなりません。
1210. 在米ポスドク様
まあよく考えてみることです。様々なことに疑いを持って、自ら調べて、考えるというのは、研究者に限らず、一人の人間としてとても大切なことですから。
不適切なコピペを罪悪感なく行ってしまうような人は不正に対するハードルが低いだろうと考えられます。よって、そのような傾向を持ちかつ研究者志望の人を「研究不正予備軍」と書いたのです。徹底的な議論が誰に対しても日常的に行われる研究室の実現には、研究室PIの人柄も大きく左右されると思います。メンバーみんなで議論する場といえば普通研究室ゼミにおいてですが、小保方氏について報じられているように「発表中質問されると時折突然怒り出す」様な人にこそそれを上手くたしなめ、議論を終わらせてしまうことなく疑問点は徹底的に追及することが本人の為にも研究室の為にもなるでしょう。
ご返信大変遅くなりました。ご意見、興味深く拝読させて頂きました。
知的財産の問題について、私はほとんど知らなかったので少し調べてみましたが、日本学術会議で五年前に詳細に検討・報告されていたようですね。
「科学者コミュニティから見た今後の知的財産権制度のあり方について」
日本学術会議 科学者委員会 知的財産検討分科会 2010年8月4日の報告より
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-h100-1.pdf#search='%E7%A7%91%E5%AD%A6%E8%80%85%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%8B%E3%83%86%E3%82%A3+%E7%9F%A5%E7%9A%84%E8%B2%A1%E7%94%A3%E6%A8%A9%E5%88%B6%E5%BA%A6'
「ドクターT」さんの問題意識は、16ページの5(5) 「科学者コミュニティにおける知的財産活動の位置づけ」のくだりと重なる部分が多いように思います。
(違っていたらすみません)
ざっと目を通した印象として、知的財産の制度については時代の変遷の中でまだまだ試行錯誤の段階であり、発展途上なのかなと感じました。
報告書にもあるように、知的財産の権利保護と公益性をいかに調和させていくかが、今後の課題なのでしょう。
素人なので的外れな感想かもしれませんが、公的な機関が特許をとらなかったとしても、特許という制度がある以上は、誰かその情報を得た第三者が特許を申請する可能性があり、その場合使用者の払う特許使用料が浮くことにはならないのではないかという疑問が湧きました。
もし公共の知的財産として利用に供するならば、公共のものとして特許の申請を制限するような仕組みも必要になってくるのではないかという気もします。
また、これはまた別の問題ですが、「在米ポスドク」さんのご指摘されるように公的な研究機関の経済的な自立性が低く、ほとんどを税金に頼っているのが現状だとしたら、その分まさに「金を出すなら口も出す」で、今回の理研のように政治家や官僚の介入する余地も大きくなるわけで、意思決定の自立性をいかに担保するかが今後の課題になってくるのではないかと思いました。
「第三者が特許を申請する可能性」→「第三者が改良発明して特許を申請する可能性」
すでに発表された先行技術があると、たとえ特許が取得されていなくても支障をきたすようですね。
>もし公共の知的財産として利用に供するならば、公共のものとして特許の申請を制限するような仕組みも必要になってくるのではないかという気もします。
これについては単に特許を取らずに公開してしまえばいいだけだと思います。そのように公開されたものについては他の人が特許を取ることはできません。また、それをベースにして十分に改良発明された技術については別の発明と考えるべきでしょう。著作権についてはもう少し難しいところもあります。この辺については研究機関の問題というよりは知財の制度全体の話になると思います。
>政治家や官僚の介入する余地
これについてはまた別の論点です。公的機関は基本的に税金で運用されることになるわけですが、その中で学問の自由や大学の自治等をどのように守っていくのか、また同時に民主主義的なプロセスによる社会的な承認をどのように確保していくのかというバランスの問題になります。ただし、経済的な自立によって問題を解決しようとするのは本末転倒であり(それならば最初から民間でやればよく公的機関である必要性がありませんので)、本来は制度設計と運用で解決するべき問題です。
これについては文科省不要論とか研究費の傾斜配分の問題とか個人的には色々と考えるところはありますが、長くなるので書きません。
ご丁寧な解説をありがとうございました。
今回の騒動にも関わっていると思いますが、研究費の配分は大きな問題ですね。
そもそも、誰がどのように研究の価値を決めるのかという評価基準が問われてくるのでしょうが、現状では地道な基礎研究よりも、短いスパンで目に見える成果が出やすい応用研究や、再生医療のように国民のニーズが高く、産業と結びつきやすい分野に助成が偏りがちだと聞きます。
特に昨今のように経済の先行きが不透明な状況では、予算の使途にハイリターンを求める傾向が、国民のほうにもあるのだろうと思います。
私たち一般市民が直接何かを変えられるわけではないですが、有権者として日本の科学技術政策はどうあるべきか、科学研究の発展をサポートする健全な環境とはどのようなものかということに関心を向け、理解しようとすることが大切ではないかという気がします。
教育問題についても同じことが言えますね。いま教育現場で何が求められているか、そこに十分な予算が使われているか、長期的な視点で考えながら投票していかねばならないですよね。
これらはすぐに利益が上がる類いのものではありませんが、未来に向けての大切な投資だと思います。
色々と考えさせられるコメントを頂き、ありがとうございました。またご意見を拝読するのを楽しみにしております。
ブログ主さんの記事でも、是非こうした問題を取り上げて頂きたいですね。
ちょっと過去になりますが、本記事にコメントを寄せたJ・ワトソン氏と在米ポスドク氏の間で「DNA二重らせん」が話題になりました。
しかし、両氏とも正しい情報を持ち合わせておらず、know-all の「虚言・放言」「情報捏造」に近いものを感じました。
私は構造化学の専門家ではありませんが、本ブログの真面目な読者のために、主題からは離れますが、若干コメントします。
気になった二人のコメント。
>・・・構造は、X線回折像から(見慣れた人の目には)一目瞭然だった(1079. 在米ポスドク)
X線回折像から得られる情報は限定的で、分子構造が「一目瞭然」でわかるものではありません。「DNA二重らせんモデル」を導くためには、多くの化学的・生物学的知見で補う必要があります。
>・・・分子模型は、ほとんど全部私が作ったんですからね。クリックは見てただけ(1082. J・ワトソン)
Crickは冥界にいるからといって、こういう「虚言/妄言」は許されないと思います。(タンパクの)らせん構造のX線回折理論に精通していたCrickなしでは正しい模型は作れなかったでしょう。
写真No.51は、DNAが「らせん構造」であることをW&Cに確信させただけで、必要な情報の多くは、Franklinが King's からBirkbeck に移る際にMRCに提出した「報告書」から得たと思われます。「報告書」は提出後すぐにPrutz (CambrigeでMRCのラボを主催し、Crickの博士指導に当たっていた?)の手に渡り、W&CはPerutzに依頼してそれを見せてもらったことが分かっています(Perutz自身認める)。他に、Furbergのヌクレオチド/核酸のX線回折、Griffithの塩基対の示唆、Donohueの塩基G、Tのケト-エノール互換異の指摘、Chargaff則など、どれも欠かせない事柄です。
ケト-エノール互換異 → ケト-エノール互換異性
Cambrige → Cambridge
>>構造は、X線回折像から(見慣れた人の目には)一目瞭然だった
は1076のワトソン氏の発言を受けて、ワトソンとクリックの業績は、構造もさることながら、その「生体における情報伝達における意義」が大切なのですよ、と主張するために書いた文章です。
当時、X線構造解析に携わっていた人になら、写真51からDNAが(当時考えられていた3重螺旋ではなく)2重螺旋の構造を持つことは「一目瞭然」であったと考えていいと思います。Perutzの目にも明らかに読み取れた事でしょう(そのように述懐している自伝もあったと思いますよ。)。そこに塩基対の概念を加え、半保存的複製の仕組みを予言したクリックの洞察力(と分子模型を細部にまで組み上げたワトソンの集中力)には刮目する次第です。
早速のご返事ありがとうございます。
本論ではないので、ここで議論するつもりはないのですが、反論です。
>当時、X線構造解析に携わっていた人になら、写真51からDNAが(当時考えられていた3重螺旋ではなく)2重螺旋の構造を持つことは「一目瞭然」であったと考えていいと思います。・・・
は、やはり勝手な憶測だと思います。
Watsonの自伝でも断定的には述べていません。「そのように述懐している自伝もあった」って、誰の自伝でしょうか。
らせんが何本かは直ちに決まるものではなく、結晶単位(B型なら、径20Aと3.4A(あるいは34A)からなる円柱/円筒)に入り得るヌクレオチド数を、DNA繊維の密度から算出することで求まり、らせんは2-3本(3本以内)になります。
Wilkins, FranklinともNature論文で2本だろうと推論し、自分たちのデータ・考察はW&Cの二重らせん模型と矛盾しない、という記述をしています。
Pauling & Coreyも同様の計算で3本らせんとし、誤ったモデルを提出しました。Paulingらの失敗の理由の一つは、排除されていない「2本らせん」の可能性を追求しなかったことだと思います。
ですから、『2重螺旋の構造を持つことは「一目瞭然」」であったと考えていい・・・Perutzの目にも明らかに読み取れた事でしょう・・・』というのは、無知/不勉強による憶測と言わざるを得ません。
ご多忙とは思いますが、もう少し虚心坦懐に資料に当たられることを希望します。
後半の、Watson, Crickの評価には、概ね同意します。
Watsonの自伝は彼の強烈な個性による一方的な視点で書かれているので、差し引いて読む必要がありますね。自伝について言及したのは、Perutzの著作ですが、自伝ではなく各ノーベル賞受賞者の伝記だったと思います。なにぶん、10年あまり前に読んだため記憶が不正確で申し訳ないです。
手近に手に入るwikipediaの記述(核酸の構造、英語版)では以下のようになっていました。
By November 1951 Watson had acquired—by his own admission—little training in X-ray crystallography, and therefore had not fully understood (again, according to his own admission, in The Double Helix) what Franklin was saying about the structural symmetry of the DNA molecule. Crick, however, knowing the Fourier transforms of Bessel functions that represent the X-ray diffraction patterns of helical structures of atoms, correctly interpreted further one of Franklin's experimental findings as indicating that DNA was most likely to be a double helix with the two polynucleotide chains running in opposite directions. Crick was thus in a unique position to make this interpretation because he had previously worked on the X-ray diffraction data for other large molecules that had helical symmetry similar to that of DNA. Franklin, on the other hand, rejected the first molecular model building approach proposed by Crick and Watson: the first DNA model (which in 1952 Watson presented to her and to Wilkins in London) had an obviously incorrect structure with hydrated charged groups on the inside of the model, rather than on the outside. Watson explicitly admitted this in his "Double Helix" booklet.
逆平行の対称構造をとる2重螺旋であることがmost likelyと述べられています。構造屋さんだから一目瞭然というわけではなく、螺旋構造の回折パターンに親しんでいたから分かった、というニュアンスですね。Perutzもご存知のようにαヘリックスの構造を初めて解いた人ですから、当然螺旋構造には詳しかった事でしょう。
>逆平行の対称構造をとる2重螺旋であることがmost likely・・・
というのはX線写真からわかったのではなく、Franklin の「報告書」にあった「結晶単位の対称性がC2空間群である」という記述からです。
ここで、2回対称軸をどう取るかが問題になります。
Klugの調査によると、Watson は対称軸をらせん軸に取り、2本のらせんを同じ向きに配置したが、構造的に無理があることがわかり、Crickは2本のらせんを互いに反対向きに配置してらせん軸に垂直な向きに対称軸をとると、無理なく2重らせん構造を組み立てることできる、ことがわかったということです。
FranklinのNature論文には、残念ながら、「C2空間群」のことが反映されず、2本のらせんの配置関係にはあまり触れていません。彼女には、C2空間群の意味することが、そのときは理解できていなかったようです。
したがって、「2本らせん」であることも、「2本のらせんが「反対向き」に配置する」ことも、写真を見ただけでは分からないということです。
繰り返しになりますが、虚心坦懐にauthorized資料に当たられることを希望します。
>Perutzもご存知のようにαヘリックスの構造を初めて解いた人・・・
???
あの、わざわざ解説をして下さって申し訳ないですが、当方、結晶構造解析に少しだけ携わった経験があります。空間群は、通常回折像の対称性から判定するものですよ。
また、螺旋構造であることは写真のX型のパターンから類推されます。
>>Perutz
ヘモグロビンの美しい回折像を撮り、ポーリングらとともにαヘリックス構造のモデル作製に貢献した人だと私は認識しておりましたが、Nekoguさんのご認識と異なりましたでしょうか? (初めはなんと左巻きでした。)
>>空間群は、通常回折像の対称性から判定するものですよ。
空間群は、通常、回折像から決定した格子定数から判定するものですよ。実際は、各空間群を試してみて、最もよくフィットするものを選びます。
>>αヘリックス
結果的にヘモグロビンよりケンドリューのミオグロビンが先行したということでしたら、存じておりますので、ご指摘には及びません。
>>・・・分子模型は、ほとんど全部私が作ったんですからね。クリックは見てただけ(1082. J・ワトソン)
>Crickは冥界にいるからといって、こういう「虚言/妄言」は許されないと思います。(タンパクの)らせん構造のX線回折理論に精通していたCrickなしでは正しい模型は作れなかったでしょう。
なるほど、たしかにそうかもしれません。私のこの件に関する知識は、ジェイムズ・ワトソンのいくつかの著書から得られた印象に過ぎませんので、私の「方言」は言いすぎである可能性は高いと思います。ただ、私の言いたかったことは、フランクリンのX線写真からだけで、あの詳細な分子模型を作製することができるはずはないだろうという点、それから、あの分子模型を組み立てるにあたって、もっとも創造的なアイディアを思いついたのはクリックではなく、ジェイムズ・ワトソンではなかったかという点にあります。
「方言」じゃなくて「放言」でした。
「結晶単位の対称性がC2空間群である」というのはX線写真から判明するのでは?
というか、X線写真以外に、どうやって判るのか?
まさか、巨大結晶を肉眼で観察したとか???
Nekoguさんはいつも「放言」して去ってしまわれるので、お返事をいただくことは期待できないですが、私も空間群は「X線写真(回折像)から判明する」と思います。
かつて構造解析に少しだけ携わりましたが、空間群の判定は現在は自動化されたプログラムを用いて行い、回折像を入力してちょこちょこっと操作をするとできてしまいます。よって、私自身がフーリエ変換だとかややこしい原理について全く理解できていないのがお恥ずかしいです。因みに、その時に用いた結晶は、C2空間群でした。対称性が高いので回折像の情報を有効に使え、ラッキーでした。
>>1228. J・ワトソンさん
GとC、AとTを対合させることを(ダナヒューの助言を得て)成功させたのは間違いなくワトソンくんの業績だし、それによってシャルガフ則が満足されたんだから、逆平行二重螺旋構造の看破と半保存的複製への洞察はクリックくんに譲ってもいいんじゃない?
>逆平行二重螺旋構造の看破と半保存的複製への洞察はクリックくんに譲ってもいいんじゃない?
「逆平行二重螺旋構造の看破」はいいけど、「半保存的複製への洞察」はクリック?どうなんだろう?よくわからないなあ?
これは正直に言うと自信が無い。本人達の回想も、記憶違いやら忘却やらで錯綜しているみたい。どっちの手柄だったにせよ、2人で偉大な業績を擧げたのは確かだ。
単にぐるぐるの螺旋の形をモデルで作ったからすごいんじゃなくて(それもすごいんだけど)、遺伝情報の伝達という現象をDNAという物質の振る舞いによって説明し得ることを洞察しおおせたのが美しい、と思う。それまで、染色体の分配がメンデル則と符合する、とか、核酸が遺伝物質、とか、様々な知見が積み重なっていたけど、この論文で一気に遺伝子コードの概要がすっきり理解できるようになった。生物学の歴史の中でこれだけ美しい仕事は他にないんじゃないかな。クリックはその後も遺伝子暗号の解読を続けたんだよね。
>「半保存的複製への洞察」はクリック?
>これは正直に言うと自信が無い。
そうでしょう。
>どっちの手柄だったにせよ、2人で偉大な業績を擧げたのは確かだ。
もちろん、それは認める。
>単にぐるぐるの螺旋の形をモデルで作ったからすごいんじゃなくて(それもすごいんだけど)、遺伝情報の伝達という現象をDNAという物質の振る舞いによって説明し得ることを洞察しおおせたのが美しい
そうです。ひとつの仮説としてだけど、DNAの構造と機能が完全一致した。そこが「美しい」。だから、フランクリンも認めた。クリックには、様々な原子の位置関係に関する既存の知識があったのでしょう。ワトソンは、その助言を受けながら、DNAの分子模型を組み立てていった。そして、その試行錯誤の過程で、ついに唯一の解に到達したのでしょう。この偉業の前には、X線写真の「盗用」など、なにほどのこともでもないのです。
最後の1行には同意しかねる。
「なにほどのことでも」あるからこそ、長年物議を醸し続け、W氏は著作の中で必要以上に自身を正当化し、他者を貶め、C氏はそれがゆえにW氏と不仲になり、F氏が貶められた事に義憤を感じた記者が他の本を書く事になった。
不正捏造論文の筆頭著者を正当化する為に歴史的事実の解釈まで歪曲して流布するとは、何の利害をお持ちなのでしょうね。不思議だ。
>最後の1行には同意しかねる。
それでは、あなたは、ワトソン/クリックのノーベル賞を剥奪すべき、あるいは、ネイチャー論文を撤回すべきとお考えですか?
W&Cは回折像を何らかの経緯で見て、その情報を用いてモデルを組み上げた。モデルを報告したNature論文に不正事実はない。情報を見た経緯には不審な点があり、倫理的に問題があると取りざたされているし、私も許しがたい面があると思うが、論文に不正がない以上、撤回の必要は無い。ノーベル賞はそのモデル構築の業績に対して与えられたので、剥奪の必要もない。
かたや・・・
STAP論文は、
・認定されただけでも明白な不正を4つ含む。
・主張の根幹となるデータに記載と異なる細胞が使用されていた。
・再現性がない。
いずれの理由も撤回理由になりえます。(1つ目だけならコリゲでもよかったかもね。)
さらに、著者全員の同意によって、論文は既に撤回されています。
不正捏造論文の筆頭著者を正当化する為に・・・(以下略)
>情報を見た経緯には不審な点があり、倫理的に問題があると取りざたされているし、私も許しがたい面があると思う
「盗用」の疑いが強いのですね。
>論文に不正がない
X線写真の「盗用」に基づいて、論文の結論が導き出されているのですよ。「盗用」は研究不正ですよ。
Nature論文をもう一度読み直してみましょう。
モデルは、完全にモデルとして作られていて、何らかのデータを参考にしたとは書かれていません。
水面下でロザリンドのデータを見ていたにせよ、論文に用いられていないので、「盗用」にはあたりません。
念のため繰り返しておきますと、倫理的に問題があると取りざたされているし、私も許しがたい面があると思います。
しかし、不正ではありません。
一方、STAP論文は、
・認定されただけでも明白な不正を4つ含む。
・主張の根幹となるデータに記載と異なる細胞が使用されていた。
・再現性がない。
です。まさに月と「スッポン」。スッポン、元気にしてるかな?
>モデルは、完全にモデルとして作られていて、何らかのデータを参考にしたとは書かれていません。
>水面下でロザリンドのデータを見ていたにせよ、論文に用いられていないので、「盗用」にはあたりません。
「構造は、X線写真をみれば一目瞭然」だったのですよね。「W&Cは回折像を何らかの経緯で見て、その情報を用いてモデルを組み上げた」のですよね。「参考にした」と書かれていなくとも、事実として「論文に用いられた」のです。にもかかわらず、論文著者にはフランクリンの名前は入っていません。「盗用」すなわち「不正」の疑いは否定はできないでしょう。