三人旅 *父島での出来事*
父島では特に予定を入れてなかった。 この時期のナイトツアーは 光るきのこのグリーンペペが見れるわけでも無く こうもりとヤドカリは見た(注意:娘は寝たので見ていません)ので 美しい星に焦点をしぼり 望遠鏡で星を見せてくれるスターツアーを 申込んでいた。 初日の母島行の船に乗り継ぎの為の空き時間に 水産センターに行った。 息子は疲れて動けずDSしながら荷物番をしていた。 この日はなぜかアカバの歯磨きに成功し 水族館もユウゼンの人工ふ化に成功したらしく一番大きな水槽に沢山のユウゼンを一度に見たのは圧巻だった。 その話に女二人で盛り上がったら 息子がいじけた。 水産センター = 小さな水族館的な感覚だったので ゲームしてたら 昨年夏に出会ったユウゼン(八丈~小笠原の海で見れるレアな魚)に魅了された息子。 ぜひまた行くことになった。
父島での二日目は 夜のスターツアーのみ時間が決まっていたので 夕飯前にシャワーを 浴びるのはMUSTである。 予定という予定はそれだけだが やりたいこと 行きたいところを リストアップすると ベリースペシャルワンパターンではあるが ビジターセンターと水産センターと海洋センターである。
ので一番近かったビジターセンターから行くことに決めた。 春の観光客数が昨年より減ったせいか 春休みだから島民が昨日の船で出て行ったからか ビジターセンターは 閑散としていた。 ここには40年前に噴火した西ノ島の噴石が展示してあった。 軽石のように軽く 大きさの割には娘でも軽々しく持てた。 この噴石を見て 御嶽山の噴火で亡くなったかたの事を思った。 こんな大きな石が 頭や背中に当たったのかと思うと 胸が痛んだ。
何度来ても変わらぬ展示に安心感と懐かしさを浮かべる。 息子はユースで出会った大学生とクジラの話で盛り上がっていた。 娘は飽き始めていた。 間を持たせる為に くじら(ザトウとマッコウ)の塗り絵をさせた。 子供の想像力で自由な色合いで完成するくじらは カラフルでリアルなそれとは違った。 それを クジラにこだわりのある兄がけなし始めた。 本物のクジラに紫は使わないとか・・・ どう見てもおかしい・・・ とか相手を不愉快にする言葉を 羅列しはじめた。
「やめなさい」 軽く注意した 「そんなこと言わないのよ」
話し相手の大学生が消えて 私達家族だけだった。 その日は隣のお祭り広場でフリーマーケットを やっていた。 始まるのは11時なので 10時半からビジターセンターにいた。 息子はそこに行きたいのだと察した。 でも家族一緒に行動することを 家を出発する前から話していたが ほぼ出来ていない。 子供二人に 母親一人。 間を持たせるための塗り絵が裏目にでた。 4つ絵があり3個目にとりかかっていた。
「ねぇ。 広場に行きたいなら 先に行ってみて来てくれる?」
「やだ。 一緒に行動する。」 息子は私にそう言い 妹に 「早く塗ってくれる?」 と急かし始めた。 妹に早くは禁句である。 ゆったりと時間が流れるこの島で はやくする理由がない。
「じゃあ・・・ 他の展示物を 見て来なさい!」 兄に言えば 「もう見た! ここにいる。」 と来る。 兄に言われれば言われるほど 妹の態度はイライラしていた。 塗り方が雑になり 顔から笑顔が消えた。
「ねぇ・・・ 残りは後でやろうか ・・・?」 今度は娘に言ってみた。 「・・・ 全部塗りたい!」 母親として 一番面倒くさいパターンに陥った。 ここに父親がいれば・・・ 別行動は容易である。 でも・・・ というか 今まで散々自由に別行動してきて 何で隣の広場に一人で行けないかなぁ・・・ 小4の兄よ! 溜息しかでなかった。
そんな時である。 イライラしながら色を塗る 力強く塗るとテーブルが揺れた。 ぬりえの用紙の束の隣に 筒状の入れ物に色鉛筆が入れてあった。 ご自由にお使いくださいと。 使い途中の色鉛筆を 一回一回元に戻す使い方は 小さな子はしない。 また使うかもしれないので 近くに置き 最後に片づける。 テーブルが揺れたので 色鉛筆が転がり落ちた。 誰もいないビジターセンターは 静かである。 その音に反応するかのように 女性職員が顔を出して注意した。
「色鉛筆を 投げて遊ばないで下さい! みんなで使う物なんです。 投げると芯が折れてつかえなくなってしまうでしょう。」
「・・・ すみません。」 一応謝った。 それに満足したかのように彼女は 事務所の仕事に戻った。
我が家の子が うるさいのは親として自覚していた。 でも子供が色鉛筆投げて遊んでいるのを目撃した訳でもなく 決めてかかるものの言い方は感じ悪かった。 そう言えば兄が アンケートに答えるとクジラのポストカードがGETできたのを見て 妹もやりたがった。
「すみませ~ん。 アンケート下さい。」 と質問すれば パソコンから離れず 顔を見ないで
「ここにはありません。 左側にあるので 勝手に取ってください。」 という態度だった。 それだけ仕事が忙しいともいえるのだろうが 今まで何度も来たビジターセンターでこの対応は初めての経験だったので ビックリした。 その上 この言い方だった。 きっと子供がいない 子供を理解できないタイプの人なのだと理解した。
「おこられちゃったね・・・ なんで鉛筆投げたと思われたと思う?」 その場で反省会を 始めた私。 周囲を見渡し 他に誰もいないのを確認して話し合いに入った。 子供に後では 通じない。 なぜ母親がその場で 「そんなことしていません」 と自分たちの味方につかなかったのか 子供自身も疑問を持つだろう。 やっていない罪をかぶって謝った = 負けと子供は感じるものなのだ。 だからその場での話し合いが必要なのである。
でもそれは母親目線の言い訳でしかなかった。
「そういうの・・・ 外でやってくれますか? 今は他にお客さんいないからいいけど・・・ あなた達 さっきからかなり感じ悪いですよ!」 再び職員が顔を出して言った。
「申し訳ありません。 他に人がいないのを 確認してから話し合いを始めました。 子供を連れて 今すぐ出ますので・・・ ご迷惑をかけて 本当に 申し訳ございませんでした。」
彼女の口調も 荒々しかったが 私の口調も負けずにキツかった。 子供達は私達の表情と口調に 完全に怯えていた。 三人は無言で大好きだったビジターセンターを出た。
すぐ隣のおまつり広場では 人々がごった返し 元気な子供達が大声で叫んでいた。 騒々しい光景とは裏腹に 私の頭の中は凍り付いていた。 子供達に話しかけないとと思ったが 好きな場所から追い出されたショックから 言葉が思い浮かばなかった。 代わりに出てきたのは 涙だった。
「ねぇ・・・ お兄ちゃん。 あなたが昨日から行きたがっていたビジターセンターに今日は一番に連れて行きました。 時間はたっぷりありました。 島にきてから妹はくじらに興味ないと散々言ってました。 でもね・・・ 家族一緒に行動しようとママも努力したんだよ。 妹に塗り絵与えて・・・ 彼女は握る力が弱いから字もふにゃふにゃだし・・・ あなたのように上手に塗れない・・・・」
それは発達が遅れている事を示すと だから支援級に移動するのだと続きそうになった言葉を止めた。
「ママはね 何度も・・・ 何度も ケンカにならないように 離れてって言ったのよ。 言葉は違うけど 他の展示物見に行けば・・・ とか フリーマーケットに先に行っていいよ・・・ とか」
母親の言葉を受けて それはそういう意味だったのかと やっと納得できた顔の息子がいた。
「今まで何度も ビジターセンターきて 子どもがあふれている時はいつも賑やかな場所だけど ママも知らなかったんだよね。 図書館の様に静かにしていないといけない場所なんて思ってもいなかったよ。 どこにも静かにしてくださいとも書いてないけど・・・ あなたたちの話し声がうるさかった 迷惑だったと思えば 何で追い出されたか分かるでしょう!」
二人は 状況を少しづつ理解していた。 反面 私はまたもや出入り禁止の場所(実家と同じ)が出来たのだと思うと悲しくなった。 この後フリマを見て 食事して 水産センター・海洋センターと思っていたが 全てのやる気スイッチが消えて 子供の顔も一瞬にして見れない状態(うつ状態)に陥った。
「ごめん・・・ ママには薬が必要です。 もう本日は終了しました。 一日フリーマーケットにいるもよし 隣の遊具で遊ぶもよし・・・ 海には入らないでね。 先に宿に戻ります・・・ 息が・・・ 苦しくて・・・ 薬が必要なの・・・ 迎えに来るまで公園にいなさい。 屋台の食べ物屋さんもあるし・・・ 落ち着いたら 迎えにきます。 できますか・・・?」
「・・・・・・ はい」 「・・・ わかった ・・・」 二人は状況を判断し返事をしたので 背中を向けて部屋に戻った。 部屋に戻ったら 一気に涙があふれ出て止まらなくなった。 壁によりかかり タオルで目をおおい久しぶりに声をだして泣いた。 泣き始めたら止まらなくなった。 誰もいないから 思いっきり泣けた。
泣き出したら負の連鎖が始まった。 今まで考えたくなかったことも 一瞬で頭の引き出しから飛び出した。 新しい病院 心臓とは別の専門の医者との会話 医者は遠慮なく事実だけを言う。 統計上の裏付けされた事実。 これからその恐怖と向き合うかもしれない。 今まで何度も 嫌な思いをした病院とまた向き合う現実。 肝臓の状態も気がかりだけど 今の自分はそれと向き合う覚悟が出来ているのだろうか。 結局どこに行っても 子供の世話も管理も出来ない母親だと 皆に思われている。 それが悲しかった。
悪い事しか思い浮かばず でも涙を出すと心が軽くなる。 頭の中では 早く薬を飲みなさいと命令しているが 泣いている方が楽だったので 体が動かなかった。 決して 子供達が公園で待っていることを 忘れた訳では無い。 むしろ迎えに行っても 怒っられたことなど忘れてブランコで遊んで手を振る姿が 浮かび・・・ 今はまだ 行きたくなかった。 だから泣いていた。 思いっきり泣ける時間と場所があるのが 私にとって貴重な場所なのである。 娘に涙を悟られないよう 笑顔を作りつづけたり 病院の大部屋で声をあげずに泣いたり・・・ そんなことの繰り返しだった。 だから遠慮なく この時間を大切にしたいと思った。
気付けば2時間近く経っていた。 さすがに時計を見て慌てた。 深呼吸をして薬を飲み 化粧を直して 公園に戻った。
そんなに広い公園ではないが・・・ 二人はいなかった。 母親として あるまじき行為だが 私は小学生の子供二人を公園で置き去りにした結果 二人を見失った。
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