3月下旬に中国の海南省で開かれたボアオ・フォーラムはAIIBと「一帯一路」構想のお披露目の場に(写真:新華社/アフロ)
東洋経済オンライン

北京・天安門広場の西に位置する金融街の一角で大規模な工事が進行中だ。地元では、今年末に設立されるアジアインフラ投資銀行(AIIB)の本部がここに置かれる、との見方がもっぱら。中国主導の下、アジア諸国のインフラ整備を支援するため、新たな国際金融機関づくりが着々と進んでいる。

中国政府が期限とした3月31日までに、51の国と地域が創設メンバーとしての参加を表明。最終的な資本金は1000億ドル(約12兆円)となる予定だ。その70~75%をアジア域内の国家が出資し、配分は国内総生産(GDP)の規模に応じて決められる。最大出資国の中国は、本部だけでなく、総裁ポストも取ることが確実視される。

アジア開発銀行(ADB)を主導する日米は、理事会のあり方などガバナンス(統治)の不透明さを理由に、AIIB構想に否定的だった。先進国からの参加はないとみられていたが、3月12日に英国が手を挙げてから、その構図は一変。独仏伊など欧州勢に続いて豪州やロシア、ブラジル、韓国もなだれを打って参加を表明。日米が孤立する格好となった。

■日本には早くから連絡

実は、AIIBの元となる構想を中国が日本に伝えたのは、もう5年ほど前。中国は世界銀行やIMF(国際通貨基金)など米国が主導する国際金融の枠組みの中で、自国が経済規模にふさわしい発言権を与えられていないとの不満を募らせていた。2010年には、IMFへの中国の出資比率を引き上げることが決まったが、米国議会の反対でいまだに実現しない。

ならば、自前の国際金融機関を持つべきだ──。中国社会科学院をはじめ政府系シンクタンクからは、AIIBの原型となるアイデアが提起されていた。だが当時の胡錦濤政権は、米国が主導する既存の国際秩序への挑戦と見なされることを警戒し、その構想を封印してきた。

しかし、2012年に習近平政権が成立してから、中国は自己主張をためらわなくなった。2013年10月には習国家主席がインドネシアでAIIBの構想を発表。ADBは、アジアでは2010年から2020年までインフラ整備に関し8兆ドル(約960兆円)の資金需要が生じる、と試算している。それに対応するには既存の機関だけでは不十分というわけだ。

中国の提案は魅力的?

これはアジア諸国だけでなく、欧州など域外国にとっても魅力的な提案だった。中国はAIIB構想に先立って「一帯一路」と名付けたインフラ整備ビジョンをブチ上げている。陸からユーラシアを抜ける「シルクロード経済ベルト(帯)」と、インド洋から地中海に至る「21世紀海上シルクロード(路)」で、欧州とつながる構想だ。これをAIIBに加え、14年末に発足したシルクロード基金が金融面で支える仕組みだ。

中国にとってこの構想は、経済協力を通じ周辺国との関係を安定させるという、外交面での意味合いが大きい。領土紛争を抱えるベトナムやフィリピンもAIIBに取り込めたのがその象徴だ。経済面でもメリットは多い。最も大きいのは、国内の過剰生産能力を、国外のインフラ整備に振り向けられること。また、投融資を通じて人民元の国際化を進められる期待もある。

■いずれ日米も合流へ?

3月28日に中国政府は「一帯一路」のビジョンを発表。習主席は「60を超える国と国際組織が『一帯一路』建設に積極的な姿勢を示している」と自信を見せた。

AIIB参加を表明した国には、インフラビジネスに自国企業を関与させる狙いがある。中国主導のプロジェクトを通じて人民元経済圏が徐々に拡大しそう。米国の“制止”を振り切って欧州諸国が参加する流れを作ったのは英国だが、そこには「ロンドンを香港と並ぶ人民元のオフショア市場にしたいという狙いがある」と、東短リサーチの加藤出社長は見る。AIIBがロンドンで起債することも視野にありそうだ。

3月30日には米国のジェイコブ・ルー財務長官が訪中し李克強首相と会談。ルー長官はAIIBのガバナンスについて注文をつけたものの、帰国後には「高いスタンダードを目指す中国指導部の姿勢に勇気づけられた」と言明。微妙に姿勢を変えてきた。

インフラ輸出は安倍政権の看板政策の一つでもあるだけに、日本の経済界からも不参加によってビジネスが不利になることを懸念する声が出ている。遠からず、「ガバナンスの改善が見られた」ことを名目に、日米も合流に傾く日が来るかもしれない。

「週刊東洋経済」2015年4月11日号<6日発売>「核心リポート04」を転載)

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