ウィザードリィ・ゲーム五章『戦意の理由』
手痛い敗北を喫したシオンとミラは、不器用に気持ちをすれ違わせる。
そんな中、シオンは今一度、戦う理由に向かい合う。
なんかもう、ミラずっと泣いてる気がする。
そんなわけで、次は最終決戦です。
第五章 戦意の理由
知恵比べ競技『ワイズマンズレポート』
このゲームは、一対一の『シングル戦』か、一対複数の『グループ戦』、主催対プレイヤーの『チャレンジ戦』の三種目がある。
ただし、このゲームは時間がかかるため、予選ではチャレンジ戦のみが行われた。
基本ルールとして、親と子に別れ、親はディーラー、子はノンディーラーとなる。ディーラーは、一つのお題を出し、それを解決できたら親の負け、解決できなかったら子の負けというルールである。
他のウィザードリィ・ゲームと違い、このゲームの大きな特徴は、身体的、あるいは能力的に弱くとも、知識や知恵さえあれば優位に立てるというものである。一応、出せるお題は審査があり、事前に申請をしておく必要がある。
一度お題を解決されたら、同じお題は二度と使えないため、競技性故に本戦以外では大会側がお題を用意する決まりとなっている。本戦にしたところで、魔法と純粋な知恵比べになるため、本当に玄人好みの競技である。
予選で出されたお題は、暗号解読だった。
その予選の参加者は十五人。全員に、七枚のカードが配られる。そのカードを一人一枚ずつ提示し、いち早く暗号の内容に気づいたものが勝ちだ。
競技中、魔法士とファントムは、一度だけ魔法を使っていい定めになっている。対戦相手に危害を与える以外は何をしてもよいので、それが良い駆け引きにつながっている。
「ミラ。このカードを、対面のカードに偽装して」
「うん」
力なく頷きながら、ミラはシオンの指示通りに行動する。
手持ちのカードは、母音と子音を表していることは第一試合で全員が気づいていた。あとは、それをいかに騙し合いに発展させていくかが肝となる。
提示されるヒントと、自分の手持ち札を見比べ、回答を得る。それを提示し、正解ならば手持ち札の残り枚数がポイントとなる。
幸い、シオンもミラも、サポート系の魔法を得意としているため、このゲームは簡単に勝利することが出来た。
予選は全部で四試合行われたが、その殆どを上位でクリアしている。
ワイズマンズレポートにおいて、インターハイ出場が決定した。
「…………」
勝利したにも関わらず、試合が終わった後も、ミラはあまり元気がなかった。
その姿に、シオンはどう声をかけてよいかわからず、お互いに気まずい沈黙が続くことになる。話しかければ普通に答えてくれるのだが、お互いに言葉が続かず、結局黙ってしまう。そんな、すれ違いのような時間を過ごしていた。
――わたしは、悔しいよ。
胸に刺さったその一言は、何度も頭の中でリフレインされる。
沸き上がってくる感情は、一体なんだろうか。焦燥感にも似た身悶えする苦しみに、シオンは名前をつけることができないでいた。ミラの涙が頭から離れない。泣かせてしまった、その後悔にさいなまれる。
自然と、シオンは病院に足を運んでいた。
元々、先日の試合で麻痺した人工臓器の調子を検査する必要があったのだ。霊子体の過剰なダメージによる影響は、皆無とはいえない。生身でないからこそ、不具合が出ることもあるので、専門医に診てもらう必要があった。
病院に行くと告げると、ミラは力なく頷いた。
「行ってらっしゃい。わたしもちょっと、出かけてくる」
そう言って、ミラはどこかに言ってしまった。
一人の時、彼女が何をしているかをシオンは知らない。
想像してみようとしても、思いつかないというのが正直な話だ。それに気づいた時、自分はミラのことを何も知らないのだと実感し、またショックを受ける。
病院での検査は、いつものとおりに進んだ。
先日のウィザードリィ・ゲームでの結果は、担当医に話してある。
若い、背の高いその担当医は、医者というよりはスポーツ選手と言われたほうが納得するような図体をしていた。
「珍しく無茶をしたなぁ」
そう担当医はぼやいたが、検査を進めながら楽しそうに話しかけてくる。
「君はまあ、少しくらい無茶してくれてもいいんだけどね。人工臓器にしても、少し酷使して鍛えたほうが、長持ちする」
「人工のものが、鍛えられるんですか?」
「そりゃあね。最新技術舐めるんじゃないぞ。魔法と並ぶためには、科学技術も随分進化しているんだからな」
くつくつ、と笑いながら彼は言う。
「しかし、怪我一つしてこない君に対して、相方の女の子は毎週のように問題を起こしているんだから、本当に君たちは対照的だな」
「……相方って言うと、アヤのことですか?」
「そうそう。彼女はすごいよ? 彼女が毎週のように問題を起こしてくれるおかげで、サポート外殻の技術は随分研究が進んでいるくらいだ」
リハビリで無茶をしているという話だが、なんともアヤネらしい話であった。
検診を終えると、問題のアヤネの部屋へ、いつも通りに向かった。
しかし、残念なことに彼女はリハビリのために不在であった。
留守を任されていた彼女のファントムは、皮肉げに顔を歪めながらシオンに言う。
「時機が悪かったな少年」
声色から、楽しそうなのが伝わってくる。
陽気な声で、飛燕は言う。
「リハビリには数時間ほどかかるそうだ。それにしても、本当に惜しい日だ。今日は存外、アレの機嫌が良い日だったのだが、つくづく間が悪い」
「そうか。今日は機嫌が良かったのか」
それは確かに、間が悪かった。
少々落ち込みながら、「ならいいよ」と言って、シオンはその場を去ろうとする。
「ふむ。少し待て」
シオンの背に、飛燕の制止の言葉がかけられる。
振り返ると、彼は腰に手を当てて、どことなく困ったような顔をしていた。
なんと言ったものか、と迷うように飛燕は息を吐く。
「まあ、気のせいではあるまい。あまり言いたくはないが、立場上言わざるを得ない」
「なんだよ。改まって」
「何。ちょっとした苦言だ。君はどうやら、アヤネの機嫌が良いことに、安堵ではなく遺憾を覚えたように見える。それについて、少し苦言を申したいだけだ」
「何のことだよ。別に僕は、残念がってなんか」
「いないとでも言うのか? そんな顔をしておいて、冗談にもならんぞ」
そんなに分かりやすい表情をしていたのだろうか?
無言を貫くシオンに向けて、飛燕は嘆息を一つ漏らす。
「アヤネに対する君の献身や、後ろめたさは知っているつもりだ。それが依存に近いものであるにしても、構わない。アヤネにしても、それに甘えている面もあるから、致し方無いと思っている。だが――それはあくまで君たち二人だけの問題に限ってだ」
「…………」
「関係のない失敗を責めてもらうために、アヤネを利用するのはやめてもらおうか」
言いづらそうにしながらも、彼ははっきりと、自身の主人を守るための言葉を口にした。
そこにいるのは、武の神霊だ。
殺意こそ向けられていないが、奥底にある気概はビリビリと辺りの空気を引き締める。これが、アヤネの契約したファントムかと、シオンは改めて、心のなかで感嘆を漏らした。
力なく、シオンはそばの壁に背をかける。
飛燕に言及されて、ようやく彼は、誰かに責めてもらいたかったのだと認識した。
「……悪かった。たしかにそれは、身勝手すぎるよな」
全身を支配している虚脱感が、羞恥と同時に襲ってくる。あまりにも身勝手。あまりにも傲慢。なんて、自分は罪深いのか。
何よりも、それを人に責めてもらうことで慰めようとしているのだから、手に負えない。
「なあ、飛燕」
「なんだ。少年」
武術の神霊は、泰然として少年の言葉を受け入れる。
胸につかえる感情を吐き出すように、シオンは尋ねる。
「お前は……敗北してしまった時に、それに納得することって、できるか?」
自分でも、どういうつもりでそんな質問をしたのかわからない。仮定の上にしか成り立たない空想上の感情を、他者に尋ねたところでどうなるのか。
しかし、飛燕はそれに律儀に答えた。
「場合によるだろう。敗北をどう捉えるかによるが、全力を尽くした上で負けたのならば、むしろ清々しく思うかもしれない。そうなれば、納得もするだろう。――だが」
そこで飛燕は、遠くを見るように視線をあげる。
「その戦いが譲れないものであれば、例えどんな結果であろうと、敗北を認めるのが難しいかもしれない。結局は、その時の思い一つといったところか」
「……そう、か」
シオンは力なくつぶやく。
つまり、ミラにとって、譲れない戦いだった、ということだろう。
――せめて、一撃。
彼女はボロボロの状態で、あの強大なファントムに対して、一矢報いろうとした。
はたから見れば無駄でしかないその行為は、しかしミラにとっては重要だったのだ。どんなに劣勢で、どんなに希望が見えなくとも、最後まで死力を尽くさなければいけない。そうしなければ、彼女は彼女で居られない。
悔しいよ、と彼女は言った。
全力を出しても、結果が出せなかった。そんな自身の無力さに、彼女は悔しさを感じた。
ああ、この大馬鹿め。
そんな彼女をサポートするのが、自分の役割だろうに。
「悪かった、飛燕。変な話、させてしまって」
「構わんさ。アヤネをダシにされるくらいなら、よっぽどマシだ」
そんな飛燕の言葉に、シオンは思わず苦笑を漏らした。
まったく、とんでもなく主思いのファントムである。
※ ※
シオンとミラが参加できる競技は、あとひとつ。
『メイガスサバイバー』の、サバイバル戦である。
夏のインハイにおいては、他にマギクスアーツの団体戦もありはするのだが、全校生徒のレーティングで選出されるマギクスアーツは、一年では参加するのは不可能に近いので、実質これが最後の予選になる。
――予選のメンバー表を見ると、シオン達と同じブロックに、明星タイガの名前があった。
ミラが傷心の状態で、この連戦はきつい。
一刻も早く、ミラとのコミュニケーションを取るべきなのだが、困ったことにミラは、昨日は家に帰ってこなかった。
魔力のつながり自体は問題がないので心配はしていないが、このままではいつまでも負けを引きずってしまいそうで不安になる。
次の日の放課後、シオンは学校の図書室に行った。
ミラと話をするにしても、まずは自分の方針をまとめなければいけない。
先日の敗北についてどう考えるか。
そして、これからどうしていくべきか。
目的が与えられたなら話は早い。
ぐだぐだ悩むよりも、行動している方がよっぽど気が楽だ。
かつて、アヤネにも言われたことがある。
『シオンは自分からは始めないくせに、誘われたら当人よりも夢中になるんだよね』
確かにそのとおりだと思ったことがある。なぜかと問われれば、きっかけが欲しいのだろう。自分の中にモヤモヤと漂うもどかしさがあって、それをまとめあげる機会を欲していた。
自分では作れない機会を、誰かに求めていた。
「――さて、やるか」
十冊ほどの書籍を積み上げて、シオンは調査を開始した。
さすがは魔法学府と言った所で、神話や伝承に関する書籍には事欠かなかった。
現在では書籍よりも電子媒体の方が広く普及しているが、過去の伝承を調べるならば、未だに書籍の方が情報を集めやすい。今ではあまり考察に登らないような細かな逸話なども、古い書籍には記述されていたりするからだ。
調べるのは『竜』の逸話。
千頭和ナギニの原始と、その弱点を調べあげる。
ヒントとなる要素は、先の戦いで幾つか手に入れている。あとは、それをどう扱うべきか。
関連書籍を読みあさり始めて、一時間ほどたった頃だった。
ちょんちょん、と。ためらい気味に肩をつつかれた。
「せ、精が出るね。久能くん」
「姫宮。どうして」
意外な人物に驚く。
この場にいることよりも、引っ込み思案な彼女が、声をかけてきたことに驚いた。
オドオドしたハルノは、言い訳をするようにそっと手に持った本を掲げた。
「わ、私、図書館の常連だから」
「ああ、そうだったのか。ごめん、驚いたりして」
「ううん。いいよ。図書館通いなんて、今どき珍しいし」
えへへ、と笑いながら、ハルノは本を胸に抱く。
見たところ、古い小説本のようだった。今時珍しいといえば、確かに珍しい。現代において、書籍の役割は過去の記録程度でしかない。データでは味わえない当時の名残や雰囲気を、書籍は残しているが、それを重要に思う人間は少ない。
「本、好きなのか?」
「うん。形が感じられるのが好きなの。読んだ本の内容も、なんだか形になりそうで。……あ、ごめんね。変なコト言っちゃって。関係ないよね。あはは」
「なんで謝るんだよ。聞いたのは僕だろ」
気弱な彼女は、あまり自分を語るのが得意でないようだった。気恥ずかしさに顔を染めているが、先ほど本の魅力を語るときの彼女は、非常に生き生きしていた。
クラスメイトの意外な一面を興味深く思ったが、それ以上話を続けるほど、興味は続かない。
なんとなく気まずい間が二人の間を包み込む
慌てて取り繕うように、ハルノが尋ねる。
「久能くんは、調べ物?」
「ああ。やっぱり、こういうのは書籍媒体の方がいろいろ集まるからな」
「ドラゴン……もしかして、こないだの?」
ためらうように聞くハルノに、シオンは頷いてみせた。
「明後日のメイガスサバイバーの試合は、明星と同じブロックだったから。一度負けている以上、対策はしないといけない」
「そっか……強いんだね。久能くんは」
ポロリとこぼした風に、彼女はそんなことを言う。
「強い?」
「あ、ごめんね。また変なコト言っちゃって。別に、おかしなことじゃないのに」
「いや、だから謝るようなことじゃ……」
なだめるように言うと、ハルノはうつむきがちな顔を少し上げ、上目遣いにシオンを見る。
言っていいのだろうか、という迷いが瞳を揺らす。
「だって……試合の後、二人共、すごく元気なくて。昨日の予選も、どこか調子悪かったし。でも、久能くんはもう立ち直ってる。すごいなって、思うよ」
彼女のその言葉に、シオンはバツの悪さを覚える。
当たり前といえば当たり前だが、友人たちはシオンの試合を見ているのだ。その後の状況だって、気にするなと言う方が難しい。
頭をかきながら、シオンは言い訳がましく言う。
「強くなんてないよ。実は僕も、昨日まで沈んでた。今だって、忘れようとしているだけだ」
頭のなかでは、未だにミラの泣き顔が離れない。
――私は、悔しいよ。
ガツンと後頭部を殴られたような衝撃。
あの言葉は、同時にシオンへと逃れようのない問を突きつけているのだ。
お前は、悔しくないのか? と。
「試合が終わった時、負けたことに対する喪失感はあったけれど、それはどちらかと言うと、諦観に近かったんだ。『まあ、こんなもんだろう』って、僕は諦めてた」
かつて、最高の少女の隣にいて、最先端を走っていたからこそわかる。今の自分が、どれだけ劣っているのか。
どんなに策を弄して、どんなに万全を期しても、届かない圧倒的な存在というのはある。相方に引っ張られてたどり着いた高みにも、化け物じみた者はいくらでもいた。上に行けば行くほど、途方も無い数の不可能が転がっている。
最下層近くにまで落ちた自分が、届くはずがないと心の何処かで諦めていたのだ。
「昔だって、自分の力で届いたわけじゃないってのに」
自嘲気味に、シオンはそうつぶやく。
かつて隣にいて、前に引っ張ってくれた輝かしい背中を思い出した。
「今でも、本当は悔しくなんてないんだ。あの結果は当然だと思うし、自分に昔ほどの力がないことは、もう受け入れている」
だけれど。
それでも、一つ、理由を作るとするならば。
「ミラを泣かせたことには、後悔している」
それが答えだ。
ならば目的は自ずと定まるだろう。
ならば自ずと行動が定まるだろう。
二日後。最後の予選のために、久能シオンは万考を尽くし、万策を尽くし、万全を尽くそう。
「そっ、か……」
シオンの言葉に、ハルノが顔を綻ばせる。
そこには、安堵の笑みがあった。
「良かった。久能くんが立ち直ってくれて。でも、できたらその言葉は、ミラちゃんに、直接聞かせてあげて欲しいな」
「……それはやまやまなんだけど、ミラは昨日から帰ってないんだ」
「あれ? そっか。久能くんには、知らせてないんだ」
まるで、ハルノはミラの居場所を知っているかのような口ぶりだった。
「私もミラちゃんのこと、心配だから、いっしょに行く?」
「知ってるのか? なら、案内してくれると助かる」
となれば、善は急げだ。
机に載せていた十冊の本の中から、三冊だけは借りて行くことにして、残りを棚に戻す。貸出カウンターに向かうと、ハルノも本を持って一緒についてきた。
学校の図書館で本を借りるのは始めてだったが、そばには常連さんがいるので心強い。そう思いながら、カウンターの前に立った。
カウンターの中では、座って本を読んでいる職員の姿があった。
女性にしては大柄で、小さな丸椅子に収まっているその姿は、どことなく窮屈そうである。赤い髪が目立つその職員は、椅子の上で足を組んで、静かに目を本に落としている。
――その姿に、見覚えがあった。
前に生徒が立ったのを察すると、彼女は本に栞をはさみながら言う。
「はいはい、貸出な。じゃ、生徒証出しな」
その職員は、千頭和ナギニだった。
「……は?」
あまりにも予想外すぎる人物の登場に、思わず硬直する。
驚きで固まってしまったシオンに、当の本人は、怪訝そうな顔を向ける。
「ん? おお、あんた」
ナギニの方も、見覚えが合ったのか、シオンを指さしながら得心いったように堂々と言う。
「確かタイガが言ってた、そう、確か……なんとかコンセントとか言うやつだ」
「……僕は電気プラグですか」
コンセプトである。
ナギニの間の抜けた受け答えに、一気に気が抜けてしまったシオンは、緊張の抜けない表情をひきつらせる。
「な、何やってんだよ、あんた。こんなところで」
「何って、見ての通り店番だけど?」
きょとんとした表情で、彼女は当たり前のように言う。
「いや、店番というか、客待ち? んー、そいつはちっとやらしいな。んじゃ、間を取って番頭で。かか、頭っていうとすげぇかっけぇ」
「意味がまるで変わってる……」
何だこのファントム、と一気に疲れが全身に襲ってくる。
ナギニはと言うと、小さな丸椅子の上で足を組み替える。スタイルの良い彼女がやると、どことなく窮屈そうだが、気にした風もなく、どんと構える。
そして、周囲を気遣うような小さな笑い声を上げて、シオンを促す。
「かか! まあ細かいこと気にすんじゃねぇよ。それより、本借りるんだろ?」
「……本当に職員なのか?」
「なんだよ、信用しろよな。ファントムが労働するのなんて、珍しくもなんともねぇだろ」
確かに、彼女の言うとおり、ファントムが労働の従事する例は多い。ファントム自身にも生活があるし、生きがいも必要だ。特に魔法士と契約したファントムなんかは、自由の対価として、魔法士の生活を助けるためにアルバイトをすることも多い。
ナギニもその口なのかと思ったが、すぐに彼女自身が理由を口にした。
「本に囲まれて金がもらえるなんて最高だからな。かか、現代は書籍に対する人間の関心が低くて助かるぜ。この無限の蔵書が、ほぼ独り占めだもんな」
言われてみると、先ほどまでも、彼女はカウンターの待ち時間に本を読んでいた。
どうやら本当に本が好きらしい。
「ファントムも、本、読むんですか?」
ひょこりと、横で話を聞いていたハルノが会話に入ってきた。
「あー、そりゃ好き好きだろ」
シニカルに笑いながら、彼女はひらひらと手を振ってみせる。
「あたしは、まあ元になった人格が知識欲の塊でな。それが講じて、いつの間にかファントムになんざなっちまってるんだから、業が深いったらありゃしない。ま、今の生活も、それはそれで楽しいがね」
かかか、と控えめに笑う姿は、図書室の空気を壊さないように気を使っているのだろう。
同志を見つけられたことで嬉しいのか、ハルノが珍しく前に出る。彼女はつっかえつっかえながらも、「ど、どんな本読むんですか?」と話しかけ始めた。ナギニの方も悪い気はしないのか、楽しそうに笑いながら「こいつ、読んだことあるか?」と、今しがたまで手に持っていた本を掲げてみせる。ぱぁ、とハルノの表情が明るくなる。
これは長くなりそうだと、シオンは嘆息を漏らした。
「おっと、あんまり話してると、日が暮れちまうな」
さすがに職員としての自覚はあるのか、それほどかからずに、会話は中断された。
「嬢ちゃん、結構話ができるみてぇだし、今度ゆっくり話そうぜ」
「はい! 是非に!」
こんなにハツラツとしたハルノははじめて見た。
呆れているシオンに対して、ナギニが貸出の手続きを取って手渡してくる。
「ほい、ということで坊主にはこいつな。期限は一週間だ」
「……ありがとうございます」
本を受け取ったところで、ナギニの目が薄く細められる。
「ふぅん。……『インド神話』に『蛇神伝説』、そして『九頭竜信仰』か。まあ、考察の方向性としちゃあ、かなり的確だ」
にやり、とシニカルに笑う姿は、風格に満ちていた。
「的確すぎて気持ち悪いくらいだ。他の可能性なんかは考えなかったのか?」
「竜とはちょっとした縁があるんだ。読み違えはしない自信がある」
「はは! そりゃあ結構。その様子だと、アタシの原始はとっくにわかっているんだろ? あとはまあ、弱点なりを探すつもりなんだろうが、問題はそこからだ」
「……例え弱点が分かったとしても、それを突く方法がない、ってことか」
「ご名答だ。かかっ。ああ、確かにタイガのやつが言うとおり、こりゃあ骨がある」
心底から楽しそうに、竜の神霊は快活に笑う。もちろん、図書室ということを考慮して、ボリュームは抑え気味であるが。
彼女は微笑みを保ったまま、堂々と胸を張って言う。
「超えてみせろよ、少年。伝説の英雄のごとく、我が伝承を超えてみろ」
「……言われなくても」
精一杯の買い言葉は、竜の神霊への敵対を意味した。
決着は、明後日だ。
※ ※
七塚ミラは、トレーニング室にいた。
彼女は葉隠レオに協力を求め、草上ノキアとデイム・トゥルクのバディと共に、自主的な練習を行っていた。
シオンに隠れて何をやっているかと思えば、彼女は一人で、そんなことをやっていたのだ。
「……というか、僕だけ仲間はずれかよ」
「いや、本当にそういうつもりじゃないんだぜ。ただ、ミラちゃんが、シオンには内緒にしてくれっていうからさ」
霊子庭園の外で、グロッキー状態で休憩をしていたレオが、言い訳がましく言う。どうやらつい先程まで、庭園内でトレーニングに付き合っていたらしい。
見ると、彼の体内魔力は、ほとんど底をつきかけていた。
「しっかし、ほんとお前、すごいな」
「何のことだよ」
「いろんなことに、だよ」
しみじみと、噛みしめるようにレオは言う。
「ミラちゃんのトレーニングにあたって、一時的に魔力供給してやったんだけどさ。なんだよあのミラちゃんの術式の完成度。使用魔力の配分は完璧だし、まったく無駄がねぇ。おかげで、底を考えず俺のほうが張り切っちまった」
くく、と。レオはくぐもった笑い声をあげる。
それに、シオンは目を伏せながら言う。
「今の僕は、魔力総量が少ないし、出力量も限られているから、無駄は省かないといけなかっただけだ。ミラだって、本当ならもっとやれるんだ」
七塚ミラの持つ『鏡』の因子は、幅広い可能性を持っている。
本来ならば、あと幾つかの因子が覚醒して、方向性を定めるべきなのだ。今の彼女は、『鏡』という力がただ漠然と吹き溜まっているだけで、それを形にする能力を持っていない。おそらく成長すれば、かつて『カール・セプトの鏡回廊』と呼ばれた頃以上の力をえるはずだ。
今だって、配分さえ考えなかったら、近い規模の神秘を起こせるはずだ。それが出来ないのは、ミラ自身の経験不足もあるだろうが、何よりも主人であるシオンの力量不足が原因だ。
前途ある彼女のそばに、はたして自分のような落伍者が居ていいのだろうか。
シオンは静かに霊子庭園内に視線を落とす。
中では、ミラがトゥルクと模擬戦を繰り広げている。徒手空拳での相手に対する攻防の練習なのだろう。敏捷を上げたトゥルクの攻撃を、ミラは鏡を使って躱しながら、隙を探っている。
その懸命な姿が、あまりにも眩しい。
まるで在りし日の姿を見ているようで、目を開いていられなくなるくらい、眩しいのだ。
「ミラ」
気づけば、シオンは自ら霊子庭園の中に入っていた。
霊子で構成された肉体が空間に顕現する。本体と寸分変わらない分身。肉体のあり方も、魂のあり方も、かつての自分ではなく、現在の不完全な自分である。
この不自由な自分を受け入れるのに、随分時間がかかった。
シオンの姿を見て、ミラが驚いたように慌てふためく。
「え、なんで? なんでシオンが、えっ!?」
見るからに動揺している相棒を見て、シオンは思わず笑ってしまう。
「僕に隠れて何やってんだよ、お前。バディほったらかしなんて、ひどいだろ」
「そ、そんなつもりじゃないもん! それに、放ったらかしって言うなら、シオンこそ、わたしのこと放ったらかしで病院に行ったじゃん」
「病院通いは仕方ないだろ。僕の身体はほとんどポンコツなんだから」
小さく息を吐く。
大丈夫だ。気まずさはない。
頭の中でリフレインするミラの泣き顔を思い返す。そして少女に向けて、頭を下げた。
「悪かった」
「っ! し、シオン?」
ミラはビクリと身体を震えさせた後、怯えたように恐る恐るこちらを見る。
シオンは頭を下げたまま、本心を告げる。
「僕は、お前を一番にするって約束した。それなのに、『仕方ない』なんて言葉で、あの敗北を片付けてしまった。あまりにも、お前に対して不誠実だった。だから、ごめん」
「そ、そんな! 頭上げてよシオン」
いきなりの行動に、びっくりしたのかミラは後じさりながら首を振る。
困ったような表情は、次第に歪んでいく。
「そんな風にされても、わたし、わたし……」
言葉にならない声に、涙が交じる。
頬を紅潮させ、目尻に涙が浮かぶ。ミラはそれを隠すように、慌てて顔を伏せる。
そのまま表情を見せないままで、彼女は言う。
「わたしの方こそ、ごめんなさい」
「え?」
まさか逆に謝られるとは思っていなかったシオンは、驚いて顔を上げる。
ミラの足元には、こらえきれなかった雫が落ちて、点々と印をつけていく。幼い少女は、後悔と負い目からくる感情を、抑えきれずに居た。
「わたしなんて、シオンに頼ってばっかで、何もできていなかった。全部シオンにやってもらってたのに、偉そうに、『悔しくないの?』なんて、聞いて……。恥知らずだよ、わたし。力が及ばなかったのは、わたしなのに」
「ミラ……」
「シオンは、わたしを強くしてくれた。だから、今度はわたしが頑張る番」
彼女は乱暴に目元を拭うと、顔を上げた。
涙で赤くなった目を、彼女はまっすぐに向ける。
ミラは強い意志のこもった瞳でシオンを見ると、右腕を真横に振るう。それに従うように、彼女の周囲に鏡が顕現する。
七枚の鏡。
その鏡は、お互いを映し合う。合わせ鏡の原理で、鏡の中に鏡が生まれ、無限に続く階段の様に延々と続いていく。光すらも辿りつけないであろう無限の回廊。そして、それが外界へとあふれだす。
鏡が、増殖した。
二枚は四枚に。四枚は八枚に。八枚は十六枚に――
七塚ミラの周囲に、無数の鏡が顕現する。それら一枚一枚の霊的な神秘性はそれほど高くない。起点となる七枚に比べると、強度も魔力も低いが、何よりも数が多い。
七面鏡を起点として行う術式に対して、媒介として扱える手段が格段に増えている。
――素直に、感嘆の息を漏らした。
これは、彼女が自分で作った力だ。
「まったく、大変だったんだよ。ここまで作り上げるのに」
そばで二人の様子を見ていたノキアが、疲れたように肩をすくめてみせる。
「トゥルクはともかく、私まで協力してやったんだから、ありがたく思いなよ」
「うん、ノキちゃんにも、すごく感謝してる」
ノキアに対して、ミラは素直に頭を下げる。
そして、シオンに向き直る。
「わたしは、頭が悪いから、シオンみたいにすごいことは出来ない。けど、何も出来ないのだけは嫌だ。だから、なんでもいいから、シオンの役に立ちたい」
「………」
「これが役に立つかわからないけど、わたしも頑張りたい。だからお願い、シオン」
ミラはまっすぐにシオンを見ている。
その目は、逃げることを許さない純真な目だ。
あまりにも眩しすぎる、若くひたむきな感情に、シオンは惹かれたのだ。
「わたしを使って、一番にして」
「……あぁ」
自然と笑みが溢れる。
まったく、こんなにも生きがいを貰ってしまったら、諦めるに諦められないではないか。
「任せろ。お前を最強のファントムにしてやる」
シオンは手をのばす。
ミラの表情が明るくなる。感極まったように、また目尻には涙が浮かび、ポロポロとこぼれ始める。次から次にあふれるそれを、乱暴に拭いながら、ミラはシオンの手を取った。
ここに、契約は再び結ばれた。
※ ※
魔法士・明星泰河
ファントム・千頭和ナギニ
原始『■■■■■■■』
因子『人』『竜』『蛇』『天候』『毒』『翼』『火』『捕食』『不死性』
因子数・九。ハイランク。
霊具『■■■■■』
ステータス 筋力値B 耐久値A 敏捷値B 精神力C 魔法力B 顕在性C 神秘性A
これが、公表されている千頭和ナギニのステータスである。
これを見た時、思わずシオンがぼやいたのが、
「何だこの化け物」
である。
最低値である『精神力』と『顕在性』ですら平均値である辺りが、彼女のステータスの高さを物語っている。どれ一つとってもハイランクにふさわしい、まさしく最強のファントムだ。
改めてそれを見せると、他の皆も完全に顔を引きつらせていた。
黙り込んだ中で、ようやくレオが本心を口にする。
「おいおい。こんなの、本当に一介の学生が制御できるのかよ……」
「それは僕も気になってるところだ。正直、いくらなんでもキャパシティオーバーにも程がある。きっと、何か理由があるはずだ」
そしておそらく、そこが攻略につながる。
シオンの確信に近いその考えに、トゥルクが賛同する。
「ファントムの強さと魔法士の強さは、比例するので、久能様のお考えはおそらく的を射ているかと思います。どんなに強力なファントムであろうと、主の力が不足していれば、十全な力は発揮できません。その点から見ると、この竜のファントムは、はっきり言って異常です」
まじまじとナギニのステータスを見ながら、トゥルクは言う。
「そもそも、『竜』などという規格外の因子を見に宿しているのです。おそらく、力の安定のために、何らかの策を施しているはずです」
「策、というと、やっぱり他の因子かな」
横からノキアが、端末に映されたステータス表示を指しながら言う。
「ファントムが複数因子を持つ理由は二つある。一つは、トゥルクみたいにいろんな力を取り込んだ結果としての複数因子。伝承を後追いしたり、人工的に伝承を再現しようとしたら、こういうファントムが生まれる」
「ああ。そうだな。そして、多くの場合、自然発生した弱いファントムは、そうやって因子を重ねて強くなっていく」
ファントムの成長とは、存在力を高めることにほかならない。
ステータスの中の、顕在性と神秘性とは、この世におけるファントムの影響力を直接的に表したものなのだ。これが強ければ強いほど、ファントムは強力になる。
「そして、もう一つ」
指を立てながら、ノキアが言う。
「もう一つのタイプが、強すぎる原始を持ったファントムが、力を制御するために、方向性をつけて分散させるタイプ。おそらく、千頭和ナギニは、こっちのタイプだろうね」
強力な原始から生まれたファントムが、その力を因子という形で安定させる方法。
例えば、本来ミラは、こちらのタイプに分類されるだろう。漠然とした力を、きちんと役割ごとに分けて意味づけるだけで、存在としての力はぐんと高まることになる。
「なにより、それなら明星がナギニを制御できているのにも、納得がいく。ちゃんと使える力を、彼自身が制御しているってことだからな」
桁違いの膂力を見せつけたナギニであったが、もし制御もできずにファントムの好きに行動させていたのならば、少しの行動だけで無駄に魔力を消費してしまうだろう。あれでちゃんと制御しているということだから、ますます明星タイガの株は上がる。
「ってことは、シオンは敵側のガス欠を狙えばいいってことか?」
「狙えるもんなら狙いたいけど、それは向こうも承知してるだろう。そんなこと、簡単にやらせてくれるとは思えない」
少なくとも、相手頼みの策などで挑んでも、返り討ちに合うだけだろう。
だからこそ……
「真っ向から、弱点を作って打ち破るしかない」
決意を固めるように、シオンは宣言する。
「ま、真っ向からって、正気かい、シオンくん」
「正気だ。第一、それ以外に方法がない」
「でも、そんなの危険だ」
「危険? そんなことはない」
ゆるく首を振って、シオンは言う。
「どんなに痛くても、死ぬことはないんだ。こんなの、危険でもなんでもない」
「……シオンくん」
珍しく、ノキアが心配そうな目でこちらを見ている。
その憂慮を振り払うように、シオンは手を振って話を元に戻す。
「ナギニの原始には当たりが付いている。彼女の元となった伝承は『ナーガラージャ』。インド神話における、蛇神族の王たちの総称だ。おそらく、ナーガ族のどれかじゃなくて、全体の伝承を彼女は見に宿している」
『竜』『蛇』『天候』『毒』の四つは、確実にその要素を持っている。
問題は、あとの五つだ。
「『人』の因子は、おそらく彼女の元人格だ。竜の魅力にとりつかれた人間、といったところだろう。それはともかくとして、後の四つ、『翼』『火』『捕食』『不死性』がおかしい」
「おかしいって何がだ? そりゃあ、こんだけ凶悪なのが揃っているのは、なんか恐ろしいとは思うけど、竜の能力としたらおかしくはないと思うぞ」
レオの疑問に、シオンは頷きながら言う。
「僕も最初は、この全部が、竜の伝承から来ているんだろうと思っていた。けど、一つおかしな話が、ナーガに、翼なんてない」
「え?」
シオンの断定に、集まった仲間たち全員が驚く。
「ちょっとまてよ。竜って言ったら、羽があるもんじゃないのか?」
「西洋の悪竜のたぐいは、それが多いけど、インド神話の場合、竜の始まりは蛇神だ。ナーガラージャの多くは蛇神からの派生で、みんなが思っているような竜の姿じゃない」
だからこそ、騙された。
おそらく、自身の原始を拡大解釈し、能力を作り替える意味もあったのだろう。
「あとの三つの因子にしても、ナーガそのものよりも、他の存在が見え隠れしていた。翼を持ち、蛇神を補食し、炎をまとい、不死の霊薬を対価にナーガと取引をした、ナーガの敵対者」
その名前は、『ガルダ』。
ナーガの天敵である、神鳥である。
「ああ、なるほど。そういうわけか」
ここまでの説明で得心行ったのか、ノキアが頷く。
「つまりこいつは、自身の弱点となる因子を取り込むことで、力を安定させたんだな」
「そういうことだ。そしてそれは、同時に竜という存在の完成にもつながる。ナーガラージャという一つの枠ではなく、拡大解釈としての『竜』を、こいつは作り上げた」
神話の竜神である『ナーガラージャ』という原始を安定させるために、伝承を拡大解釈して、あえて弱点となる因子を作り出す。
そしてそれは、同時に世界中に存在する『竜』の逸話に、限りなく近い要素を体現することになる。結果的に力の幅は格段に広がる。
因子九つ、なんていう馬鹿げた数は、それだけなければ安定しないことと同義なのだ。
「言ってしまえば、九つの因子でようやく安定しているんだ。だったら……その中の一つが崩れれば、全部のバランスが崩れる」
シオンの言いたいことがわかったのか、ハルノがポツリと呟く。
「因子崩し……」
シオンは小さく頷く。
それに、ハルノが驚いたように言葉を続ける。
「で、でもそれじゃあ、千頭和さんの相手を直接するのは……」
「その話はあとだ。それよりも、ミラに確認したい事がある」
ハルノの言葉を遮りながら、シオンはミラの方に話しかける。
ここまでの会話で、ミラは一言も口を開かずに、ただ会話をじっと聞いていた。自分にできることを探しだすように、真剣に、一言も漏らさないように黙って聞いていたのだ。
そんな彼女に、シオンは確認を取るように言う。
「次の試合は、僕達が出る予選の最後だ。『メイガスサバイバー』のサバイバル戦。言ってしまえば、最後の三人にさえ残ってしまえば、本戦に進める。無理に明星たちに喧嘩を売らなくても、勝ち残りさえすればいいんだ」
「うん」
「けれど――他の参加者のことは、この際無視しようと思う」
あまりにも大胆な発言に、周りが驚き声をあげる。
唯一、表情を変えようともしないミラは、黙ってシオンの言葉の続きを聞く。
「明星と千頭和ナギニだけに焦点を絞る。実際、こいつらが本気を出したら、他の参加者が生き残るには、ほとんど運でしかない。だからこそ、この二人を倒すのに全力を尽くそうと思う」
「………」
「もちろん、リスクは大きい。勝てる試合をみすみす捨てることになるかもしれない。だから、ちゃんとミラの意見を聞きたい。お前は、どうしたい?」
「わたしは」
ミラは、迷いのない瞳で、シオンを見返しながら言う。
「あの人達を倒さない勝利に、意味は無いと思う」
「よし、決まりだ」
ならば策を練ろう。
ならば策を弄そう。
持てる手段を全て使い、必ずや、かの竜王を打ち砕こう。
最弱のバディは、最強のバディを下すために、残された時間で準備を始めた。
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