社説:視点 浜田市の定住策

毎日新聞 2015年04月12日 02時30分

 ◇これこそ地方創生では

 地方の人口減少抑制を目指す地方創生の一環として政府は大都市から地方への移住促進に力を入れている。自治体側もさまざまなアイデアで熱心に移住を募っている。

 島根県浜田市はひとりで子供を育てる親を対象にして、介護業務に携わることなどを条件に1年間の定住支援を行う取り組みを始めた。地方創生でこれまで見落とされがちだった着眼点だ。他自治体に広がる可能性のある試みとして注目したい。

 浜田市の事業の支援対象は同市への定住を望む母子、父子家庭であり、子供は高校生以下などの条件を満たす世帯だ。面接で介護事業所と親が合意すれば最大で1年間、研修期間として雇用する。引っ越し代、子どもの養育費月額3万円や家賃補助などが支給される。

 人口約5万7000人の浜田市は他の多くの地方都市と同様に日本創成会議の発表した「消滅可能性都市」に該当し、介護人材を確保する必要にも迫られている。3世帯の定住を念頭に置いているが、研修期間に介護事業所が支払う給与は月額15万円を市が助成し、研修を終えた家庭に一時金100万円も用意するなど力が入った政策だ。

 地方の移住支援はどちらかというと若者や定年後の故郷へのUターンなどが主軸で、浜田市のように親がひとりの家庭に着目する動きは乏しかった。生活支援に伴う自治体の財政負担に二の足を踏んだためだろう。

 母子家庭の多くの世帯は経済的に厳しい状況にも置かれている。定住に成功すれば女性と子どもが地域に増え、浜田市の場合は介護需要に対応しつつ生活の自立を後押しできるという、社会政策的な意味もある。支援した家庭が本当に定住に至るかどうかなど課題はあるにしても、多面的な効果が期待できる。

 地方創生をめぐっては各自治体が来年春までに数値目標を盛り込んだ総合戦略を取りまとめる。これまでの議論では観光振興による雇用の創出など「稼げる自治体」の側面が強調されがちだ。それ自体は否定しないが、幅広く人口減少問題に取り組む懐の深さが必要ではないか。

 浜田市のような取り組みを広げるためには、やはり財源が課題となる。この政策では1家庭あたり400万円近い支援となる。同市の負担に加え、県からの補助などでまかなう予定だ。

 自治体の一定の負担は必要にしても大都市圏から親がひとりの家庭が定住するような場合、国も後押しを検討していいのではないか。経済的な自立を応援しつつ地方へ人の流れも生む。これこそ地方創生だと思う。(論説委員 人羅格)

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