社説:電源構成 原発回帰が透けている

毎日新聞 2015年04月12日 02時40分

 あの原発過酷事故をなかったことにしたいのだろうか。経済産業省が2030年の日本の電源構成について、「ベースロード電源6割」を打ち出した。自民党の調査会も同様の提言をまとめている。

 政府によればベースロードは発電コストが安く安定して発電できる電源で、原子力、石炭、水力、地熱を指す。経産省は現時点で原発比率を明示していないが、水力・地熱が簡単には拡大できず、石炭は温暖化対策の観点から抑制が必要であることを考えると、引き算で「原発20%以上」となる可能性が高い。

 この数字が原発回帰を示していることは明らかだ。

 事故後に決まった「原則40年廃炉ルール」を守れば、国内の全原発を再稼働させたとしても30年の原発比率は15%程度。20%以上とするには、多くの老朽原発の稼働期間を60年まで延長するか、原発の建て替え・新増設が必要になる。

 統一地方選への影響を考慮し、ベースロードを隠れみのに原発比率を決めようとしているのだとしたら、姑息(こそく)な話だ。

 そもそも、「ベースロード6割」に特段の意味があるわけではない。欧米では今後、その割合が低下していくとの予測や、ベースロード電源という考え方自体が時代遅れとの指摘もある。欧米では、まず再生可能エネルギーを優先的に活用する流れができてきている。ひとたび事故が起きれば何年も動かせない原発を、「安定供給できる電源」と言えるのかという疑問もある。

 経産省は再生エネの比率についても20%台半ば(水力を含む)を検討しているというが、これも政府方針の「最大限の導入」からはほど遠い。太陽光や風力の拡大には送電網の増強などに高コストがかかるためというが、まずは、既存の送電網を再生エネのために有効活用できるよう制度を改善することが先決だ。将来に向けては、事実上破綻している核燃料サイクルや、温暖化対策に逆行する石炭火力への投資分を送電網の拡充にふり向けられる仕組みも考えるべきだ。負担が増えても再生エネを選びたい国民はいるはずで、それを可能にするためにも透明性のある議論が不可欠だ。

 環境省は30年の再生エネの割合を最大35%まで拡大できるとの委託研究の試算を公表している。この試算をめぐっては技術的制約やコストなどの検討が十分かについて見方がわかれているが、経産省は門前払いするのではなく、公の場で議論してほしい。

 原発にしても再生エネにしても、正面からの議論を避けているとすれば、政府が決める電源構成に国民の理解は得られない。

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