このままでは、イソップ物語「ウサギとカメ」のウサギになってしまうのではないか。

 かつて公害防止や省エネルギーの技術で環境先進国を自任した日本だが、いま地球温暖化に対する取り組みが鈍すぎる。

 二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスについて、政府は2020年以降の削減目標をいまだに打ち出していない。

 温室効果ガスは、大半が経済活動に伴って排出されるため、その削減は容易なことではない。だが、国際社会はそれでも温暖化対策に正面から向き合おうとしている。人類全体への脅威と認めたからだ。

 国内経済ばかり考え、地球全体の利益、地球益に背を向ければ、国際的な信用を失う。

 政府は十分な削減目標を早く掲げるべきである。

 日本はもはや排出水準が突出して低い国ではない。その点で誤解が根強く残っている。

 確かに温暖化が世界的な課題として広く意識されるようになった1990年ごろ、日本はGDP当たりの温室効果ガス排出量が世界で最も少ない水準だった。石油危機を契機に官民で省エネに励んだ結果、世界をリードしていた。

 だが、今は先進7カ国では英仏伊に抜かれ、ドイツが迫る。残る米国、カナダとの差も詰まった。ほとんど足踏みの日本を尻目に、各国が着実に排出削減策を進めてきた結果である。

 温暖化対策の新たな枠組み作りで、各国は2020年以降の削減目標をできるだけ早く国連に提出することになっている。

 欧州連合(EU)は「30年に1990年比で少なくとも40%減」、米国は「25年に05年比26~28%減」との目標を出した。ロシアも「30年に90年比25~30%減」を提出済みだ。削減努力を続ける決意表明である。

 世界第5位の排出国である日本はどうするのか。

 英国のエネルギー気候変動相が日本の環境相や外相、経済産業相に「30年に05年比40%減」と数字を挙げて、早期提出を促す異例の書簡を寄せた。国際社会のいらだちは高まっている。

 温暖化は海面上昇や風水害、干ばつなどを通して、直接、間接に人命を脅かす。

 将来取り返しのつかない事態に陥らないように努めるのは、いまの世代の義務である。

 世界は、二酸化炭素排出が少ない低炭素社会へと大きくかじを切ろうとしている。

 石油危機後に成し遂げたことを思い出し、高い目標を掲げ、官民で努力しよう。それが新たなビジネス機会にもつながる。