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子どもの事故「偶然」で親の責任免除認める判断
4月9日 17時09分

子どもの事故「偶然」で親の責任免除認める判断
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親の目の届かないところで幼い子どもがした行為で、他人がけがなどを負ったとき、親がどこまで賠償責任を負うべきかについて、最高裁判所は「子どもの行為が通常なら危険がないもので、偶然起きてしまった事故の場合には、原則、親の責任は免除される」という初めての判断を示しました。
子どものしつけなど、親の対応にも限界があることを考慮した判断で、ほとんどの場合で親に責任を負わせてきた司法判断の流れを変えるものとなりました。
11年前、愛媛県今治市の小学校の校庭で、6年生の男子児童が蹴ったサッカーボールが外の道路に飛び出し、バイクで走ってきた85歳の男性が避けようとして転倒する事故が起きました。
男性はその後亡くなり、遺族が児童の両親に損害賠償を求めた裁判で、1審と2審は幼い子どもの過失は親が代わりに賠償責任を負うとする民法の規定を基に、両親に1000万円を超える賠償を命じていました。
この裁判の判決で、最高裁判所第1小法廷の山浦善樹裁判長は「親は、目の届かないところで子どもが他人に危険が及ぶような行動をしないよう、日頃からしつけをする義務がある。しかし、校庭でサッカーゴールに向かってボールを蹴るといった、通常は危険がない行為によって、偶然事故が起きてしまった場合は、原則、親の賠償責任は免除される」という初めての判断を示し、遺族側の訴えを退けました。
9日の判決は、子どものしつけなど、親の対応にも限界があることを考慮したもので、事故の状況にかかわらず、ほとんどの場合で、子どもの過失の賠償責任は親が負うとしてきた司法判断の流れを変えるものとなりました。
最高裁判所の判決を受けて、サッカーボールを蹴った児童の父親は弁護士を通じてコメントを出しました。この中で父親は「被害者の方にけがを負わせ、結果的に死亡したという事実を厳粛に受け止め、親としての道義的責任を痛切に感じています。息子もずっと罪の意識を持ちながら歩んできました。一方で、1審と2審の裁判で『親のしつけ、教育がなっていない』と断じられたことは大変ショックでした。最高裁の判決が出て、まだ気持ちの整理もできておりませんが、主張が認められたことでひとまず安どしています。ただ、被害者のことを考えると、苦悩が終わることはありません」と述べています。

親が賠償を負う根拠は

民法は、他人に損害を与えた未成年者が、自分のしたことの重大さを十分理解できるまで成長していなければ、本人に賠償責任を負わせられないとしています。一般的に小学生以下の子どもがこの対象となります。しかし、そのままでは被害者が救済されなくなるため、民法は別の規定で、損害を生じさせた人を監督する義務のある人が代わりに賠償責任を負うと定めています。このため、子どもの監督義務者である親が責任を負うことになるのです。
この規定は、状況によっては責任が免除されることも認めていて、『監督義務を果たしていたとき』と『義務を果たしていても避けられなかったとき』を挙げています。ところが、具体的にどのような状況であればこの場合に当てはまるのか、判断基準がなく、これまでの裁判では、ほぼ一律に親に賠償責任を負わせる結果となっていました。

過去の裁判は「親に責任」

学校生活や友だちとの遊び中、幼い子どもたちが親の目の届かない場所で思いがけない事故やトラブルなどを起こし、他人にけがを負わせることがあります。そうした場合、親が損害を受けた相手から裁判で訴えられると、どういう事情があったとしても賠償責任を免れないと考えられてきました。
実際にあった裁判の例です。
▽友だちと自転車で遊びに出かけていたときに、よそ見をして歩行者に衝突。相手の足にけがを負わせ、親は250万円の賠償責任。
▽運動公園で児童2人がキャッチボール中、ボールがそれて、近くにいた別の子どもの胸に当たった。子どもは亡くなり、2人の両親に6000万円を超える賠償命令。
学校の教師など大人が近くにいるケースでも、親の責任が認定されてきました。
▽授業中の教室で子どもたちが騒いでいて、そのうちの1人が友だちに足を掛けて転ばせ、3週間のけが。学校の責任は問われなかった一方で、親には70万円の賠償責任。
▽少年団のキャンプに参加し、引率した大人の指示で竹とんぼを飛ばしたところ、近くにいた別の子どもの目に当たり、視力が低下。親はキャンプに同行していませんでしたが、引率者と連帯して700万円の賠償責任があるとされました。
いずれのケースでも、家庭でふだんのしつけが足りないなどとして、親は損害を賠償しなければならないと判断されています。こうした子どもの過失などで親がどこまで責任を負うべきか、これまで最高裁が具体的な考え方を示したことはありませんでした。

子ども以外の裁判に影響の声も

今回の裁判で焦点となった、「事故の原因を作った人を監督する義務のある人に賠償責任を負わせる」という民法の規定が適用されるのは、親と幼い子どもの関係だけではありません。認知症や精神的な障害で自分のしたことの重大さを理解できない人が起こした事故でも、その人を介護をしている家族が代わりに賠償を求められることがあります。
愛知県で認知症ではいかいしていたとみられる91歳の男性がJRの電車にはねられた事故を巡り、JRが運行の遅れで損害が出たと訴えた裁判では、この規定を基に、男性の介護をしていた高齢の妻が360万円を支払うよう命じられました。
今回の判決は子どもの事故のケースでしたが、専門家からは、民法の同じ規定を基に判断された認知症の裁判などにも影響を与えるのではないかという声も出ています。

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