この冬も大雪が日本を襲った。
各地の国道では車が立ち往生。
4時間…4時間。
全く動かない。
交通機関はかき乱された。
昨日帰る予定だったんですけどまだ…そんな中暮らしを守るため人知れず闘うプロたちがいた事を皆さんはご存じだろうか。
日本屈指の豪雪地帯…ここには2メートルを超える積雪から交通を守り続ける信念のプロがいた。
北海道…吹雪に視界を奪われながらも飛行機を秒単位で誘導する百戦錬磨の管制官がいた。
そして札幌の住宅地にはいつも陽気なスゴ腕雪かき職人。
10本のレバーを自在に操る。
安全な日常を守る知られざる仕事。
雪国に生きる男たちのプライドをかけた闘いがそこにあった。
とある住宅街にその男はいた。
気温は氷点下でもいつも陽気。
複雑な運転をひょうひょうとこなす。
闘う相手はこの圧雪。
北海道ならではの寒さで氷と化しスリップ事故を引き起こす難物を砕き抜く。
札幌の雪を知り尽くすスゴ腕の除雪車運転士。
田口は市内の建設会社に勤めるサラリーマンだ。
夏場は土木工事冬場は除雪という生活を30年続けてきた。
この日も道路が狭く難しい住宅街を任された。
田口の相棒は最新鋭のグレーダー。
2,000万円の代物だ。
硬い氷をも砕く鉄の爪と刃を持つ。
この冬札幌の圧雪は特別手ごわかった。
雪が解けては固まる繰り返しで厚さ40センチもの氷となっていた。
激しい凸凹が生じて危険なため氷を10センチ以下にならさなければならない。
田口が作業に入った。
10本のレバーで氷に立ち向かっていく。
車体を動かすレバーが2本。
そして氷を削る刃を操作するレバーが7本。
更に爪を操るレバー。
硬い氷はまず鉄の爪でおおまかに砕いていく。
路面を傷つけずにどれだけ深く削れるかが勝負。
氷の厚さに合わせて数センチ単位で上下させる。
運転席からは真下の氷は見えない。
雪を削る音と車体にかかる僅かな抵抗を頼りにレバーを操作していく。
圧雪を砕き終えた田口。
今度は刃を使って更に路面から雪を削り取っていく。
その作業は極めて難しい。
硬い氷を削ると車体は滑る。
狭い住宅街。
20トンの重機をぶつけるわけにはいかない。
田口は車体のバランスをとりながら更に刃の動きを制御していく。
刃の上下を操作する両サイドのレバー。
刃の向きや角度などを調整する5本のレバー。
それらを同時に操作していく。
氷の硬い場所。
刃の角度を僅かに斜めにした。
1センチでも深く削るために。
刃の角度を調整し続ける。
小さな調整の積み重ねが除雪の効果を圧倒的に上げる事を田口は知り抜いている。
ようやく氷は厚さ10センチまで削れてきた。
札幌市が掲げる目標値だ。
だが田口は終わらない。
更に雪を削っていく。
目指すのは路面ギリギリ。
少しでも雪をなくせばその分ここに暮らす人たちが事故に遭う可能性を減らせる。
人一倍仕事を突き詰める。
そこに理由などないと田口は言う。
30分後。
40センチの氷に覆われていた道はアスファルトが見えるまでになった。
いやぁ…。
「当たり前の事をやるだけさ」。
そう言い放った田口。
仲間との楽しいランチに消えていった。
北海道の玄関口新千歳空港。
パウダースノーを求めて世界中から観光客がやって来る。
だが雪の季節飛行機が飛び続けられるのは決して当たり前の事ではない。
一日400便の離着陸と並行しての除雪作業。
「日本一忙しい空港」とも評される。
その航空管制を担う男が地上70メートルのコントロールタワーにいた。
この男あらゆる雪の状況に瞬時に対応する特別な力を持つ。
30年にわたって冬の千歳を守ってきた百戦錬磨の管制官。
凍結のおそれのある滑走路でギリギリを見極め発着を誘導してきた。
大橋は千歳に本拠を置く航空自衛隊に所属している。
管制業務は4人1組の交代制。
大橋はそのチームを束ねるリーダーだ。
大丈夫?オレンジライナー153ラスト01レフト。
そのあとが01ライトタッチ12。
この日前の晩からの雪が滑走路に積もり厳しい事態が起きていた。
この空港の滑走路はA・Bの2本。
未明から除雪を始めたもののまだ終わらずBは使う事ができない。
残る1本Aのみでの運用を余儀なくされていた。
通常の場合万が一にも飛行機の衝突を防ぐため離陸と着陸は別々の滑走路で行っている。
しかし今回のように滑走路を閉鎖すると残りの1本で全ての離着陸を行わねばならない。
だがその頼みのA滑走路も今再び雪が積もり状態は悪化していた。
一刻も早くBを開き今使っているAも除雪し直したい。
午前便のラッシュとなる10時まであと1時間。
どう乗り切るか。
大橋は安全のため着陸機の間隔を通常より空けるよう指示していた。
だがそのやさきアクシデントが起きた。
Bの除雪を終えたところで燃料切れ。
Aの除雪に入れないと連絡が入った。
既にAの状態は「極めて不良」。
その後の雪を考えると更に悪化していてもおかしくない。
その時大橋が意外な事を言い出した。
この数時間雪は降ったが飛行機のジェットで雪が吹き飛んだ可能性はないか。
点検車からの報告を待つ。
読みどおり「やや不良」に上がっていた。
滑走路を2本とも使ってラッシュに備えると決めた。
10分後再び吹雪。
吹雪が続けば最悪の場合全面閉鎖しなければならない。
上空には13機の飛行機が刻々と近づいていた。
それでも大橋は不敵にも笑顔を見せた。
胸に刻む流儀がある。
大橋は冷静に天候を読んだ。
気象レーダーの雪雲は切れ切れ。
吹雪は5分でやむとにらんだ。
離着陸はそのまま続行。
重圧のかかる場面に頭が真っ白になる管制官もいる中大橋は淡々と指示を続ける。
5分後吹雪が収まってきた。
更に次の一手を考える。
着陸する飛行機の間隔を詰め一気に降ろす。
雪に翻弄された一日。
大橋は自らが担当した94機の離着陸を遂行した。
9時間の勤務を終え帰路に就くのは夜6時。
だが大橋の表情は変わらない。
晴れ間がのぞいたこの日。
大橋さんは若手管制官をランチに誘った。
まだ業務に慣れない彼らの緊張を解きほぐすのがねらいだ。
大橋さんはもともと雪とは全く縁のない千葉県の生まれ。
大好きな映画がきっかけでこの仕事を目指す事になった。
小学生の時に見た映画「大空港」。
一人の男に爆破され機体に亀裂が入ったまま飛び続ける旅客機。
それを管制官やパイロットが奇跡の生還へと導くパニック映画だ。
「人々の安全を守る管制官になりたい」。
大橋さんは航空自衛隊に入隊した。
1年半の研修と訓練を経て配属されたのは千歳飛行場。
冬は雪でダイヤが乱れる管制官泣かせの空港だった。
着任して半年。
大橋さんは雪国の洗礼を浴びる事になる。
雪の降り方によって刻一刻変わっていく路面の状況。
それに合わせて離着陸を許可するか瞬時に判断しなければならない。
複数の飛行機から次々指示を求められると頭が混乱し何もしゃべれなくなった。
「お前じゃ駄目だ」と管制席からどかされる事も度々。
大橋さんは通信機に向き合う事さえ怖くなった。
「果たして自分に管制官という仕事が務まるのか」。
そんな時一人の先輩に言葉をかけられた。
「いつも100パーセントの力が出せると過信してはいけない」。
「自分の限界は常にわきまえておけ」。
「そのかわり起こりうる全ての事象を予測し続けろ」。
「自分の限界を高める努力を決して怠るな」。
大橋さんは先輩の無線記録を借りては休日に一人シミュレーションを繰り返した。
視界が悪い日でも僅かに見える機体の動きから路面の滑り具合を読み取ろうと目を凝らした。
ようやく周りが見えてきたと感じるまで8年。
動じない自信がつくまで更に5年かかった。
そして今80パーセントという力加減の絶妙さをしみじみとかみしめている。
今では新千歳一のベテラン管制官となった大橋さん。
鍛錬を重ねてきたその目は誰も気付かない僅かな異変も見逃さない。
重ねた修羅場を力に変えて。
大橋さんは雪国の空を守り続けている。
「雪と闘うプロ」スペシャル。
最後の男は日本屈指の豪雪地帯新潟にいた。
(ラジオの音声)この地に生まれて64年。
小野塚吉郎のトレードマークはかわいいマフラーだ。
あこれですか。
建設会社で除雪に30年。
作業を休んだ事も遅れた事も一度もないという。
仲間は総勢30人。
ひとたび大雪となると新潟でも屈指の除雪隊に早変わりする。
中でも小野塚は最も場数を踏んできた男だ。
雪が小降りなうちは通常の土木工事を行いながら緊急の出番に備える日々が続く。
この日午後に入って雪は激しさを増し大雪警報が発令された。
小野塚に緊急の出動指令が下ったのは深夜2時半。
山沿いを中心に雪が30センチ以上積もっているという。
ここ十日町には2本の国道が縦横に走っている。
文字どおり物流の生命線だ。
この日積雪が激しくなっていたのは山沿いを通る9キロの区間。
関越自動車道への最短ルートで寸断されれば影響は計り知れない。
相棒は1台3,000万円のロータリー車。
深夜3時現場に向かった。
国道は既に車1台が通るのがやっとになっていた。
朝の通勤ラッシュまで残り4時間で除雪を終えなければならない。
小野塚はまず「オーガ」と呼ばれる回転式の巨大な羽根で大量の雪をかき込んでいく。
そして道路の外へと吹き飛ばしていく。
一見単純に見えるこの作業。
だが思わぬところに熟練の技が求められる。
高い雪の壁に更に雪を飛ばせば雪崩を起こしかねない。
反対側へ雪を捨てる事にした。
辺りは漆黒の闇。
先に何があるか全く見えない。
だが小野塚は辺り一帯の地形を熟知している。
雪を載せてもよい場所を瞬時に選んでいく。
この時小野塚は同時にある事にも注意を払っていた。
(エンジン音)エンジン音の変化だ。
(エンジン音)エンジンが低い音を発するのは雪が湿っていて重い証拠。
雪をかき込み過ぎればオーガが故障し作業不能に陥る。
走る速度を1キロ落とし雪のかき込む量を僅かに減らした。
民家が建ち並ぶ最大の難所に入った。
吐き出す雪の威力は窓ガラスを突き破るほど。
慎重な操作が必要だ。
積雪の間に見つけたくぼみに雪をしまい込んでいく。
よどみなく作業を進める小野塚。
長年雪と向き合ってきた男の流儀がある。
作業を始めて2時間。
ノルマは残り3キロ。
小野塚は何度も引き返しきれいな路肩をつくっていく。
夜が白み始めた朝6時。
ノルマの9キロを終えた。
だが小野塚たちはすぐに今来た道を戻り始めた。
交通量が増える朝7時までの間に更に道幅を広げておきたい。
この日小野塚たちは更に4キロを除雪して仕事を終えた。
国道は車がスムーズにすれ違えるいつもと変わらない朝を迎えた。
会社に戻るとまだ仕事が待っていた。
車体についた雪を落とす。
また雪が降れば除雪作業は一からやり直し。
何が小野塚を支えているのか。
除雪という仕事に従事して30年。
いついかなる呼び出しを受けても嫌な顔一つせず現場に向かってきた。
ずっとこの土地で生きてきた。
小野塚は徹夜の疲れをものともせず再び現場へ向かっていった。
(主題歌)誰に感謝されるでもなく自らの仕事を全うするために。
人知れず闘い続けるプロたち。
雪をも解かす熱い情熱がそこにあった。
自分の能力と機械の能力を合わせて最大限に除雪できるように心掛けています。
雪が多いとやっぱりねちょっと無理するんだけどその最大限の能力を引き出すのがプロとしての仕事だと思います。
とりあえずいかなる事も対処できるように先に判断しておく。
だから不測事態にならないように。
そういう判断をしていた上でゆとりを持って行動ができる。
そこに達した時に「あっこいつもプロだな」と思えるようになります。
当たり前の事を当たり前にやるという事だね。
それしかない。
(取材者)ありがとうございます。
(笑い声)2015/04/11(土) 01:00〜01:50
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「“雪と闘うプロ”スペシャル」[解][字][再]
大雪に見舞われたこの冬の闘いに密着した緊急企画!日本屈指の豪雪地帯で腕を振るうスゴ腕の除雪車運転士。吹雪舞う空港で空の安全を守る管制官。知られざるドラマに感動!
詳細情報
番組内容
大雪に見舞われたこの冬の闘いを記録した緊急企画!!日本屈指の豪雪地帯・新潟の十日町で24時間態勢で雪に立ち向かう除雪車運転士。吹雪で一瞬にして視界が奪われる新千歳空港で空の安全を守る管制官。札幌には10本のレバーを自在に操り、道路の氷を打ち砕く男がいた!各地で繰り広げられた“雪”との戦いにカメラが潜入!そこで目にしたのは、雪国に生きる宿命を背負いながら、自らの仕事を果たそうとする男たちの姿だった。
出演者
【出演】田口純一郎,小野塚吉郎,大橋明広,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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日本語(解説)
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