クローズアップ現代「テロの拡散が止まらない〜呼応するイスラム過激派〜」 2015.04.10


後を絶たないイスラム過激派によるテロ。
1つのテロに呼応するかのように新たなテロが次々と起きています。
日本人を含む22人が犠牲となったチュニジアの事件。
先週、大学が襲撃され148人が殺害されたケニア。
テロの脅威が世界に広がっています。
こうした中IS・イスラミックステートの手法をまねて、勢力を伸ばそうとする過激派組織も出現。
急速にその活動を先鋭化させています。

危機感を強める国際社会。
しかし有効な手を打てずにいます。

テロの拡散をなぜ止められないのか。
その背景に迫ります。

こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
パリの新聞社襲撃事件や日本人も犠牲になったチュニジアの博物館襲撃事件など世界各地でテロが起き多くの人々が犠牲になっています。
広がるテロの脅威とともに目立っているのが、過激派組織IS・イスラミックステートに忠誠を誓ったり、支持を表明する過激派組織が増えていることです。
アメリカの研究機関がまとめたISと連携している、あるいは連携しているかのように見せている組織です。
16か国にある32の組織で中東、アフリカ、そしてアジアにまで広がっています。
先月、アフリカのナイジェリアを拠点とするボコ・ハラムが新たにISへの忠誠を表明しました。
ISもこれを受け入れ西アフリカにまでみずからの勢力圏が広がったと主張しています。
このボコ・ハラムは、去年4月200人を超える女子生徒を誘拐し世界を震かんさせました。
事件からまもなく1年になりますが多くの女子生徒の行方は今も分かっていません。
ボコ・ハラムによる誘拐、襲撃無差別な虐殺など際立つ残虐行為。
ISへの忠誠を表明したボコ・ハラムは、みずからもイスラム国家の樹立を宣言し支配地域を広げようとニジェールやチャドなど周辺国まで越境し襲撃を繰り返しています。
ISと呼応するかのように活動を先鋭化させていくこのボコ・ハラム。
なぜISとつながりを求めたのか。
どうしたらテロの拡散を食い止められるのか。
初めにボコ・ハラムの実態からご覧ください。

去年4月女子生徒の誘拐事件を起こしたボコ・ハラム。

今でこそ数千人の戦闘員を要する組織となりましたがもともとは、ナイジェリア国内の反政府の集団にすぎませんでした。
ボコ・ハラムは2002年ごろにナイジェリア北部で結成されました。
石油の富で発展する南部に対し北部には、貧しいイスラム教徒が多く暮らしています。
腐敗した政府を倒してイスラム法が支配する社会を実現すると主張。
貧富の格差に不満を募らせる若者などの支持を背景に政府機関や教会などをゲリラ的に襲撃していました。
女子生徒の誘拐事件がボコ・ハラムにとって大きな転機となりました。
女子生徒200人以上を誘拐し、戦闘員と結婚させたり奴隷として売り飛ばしたりするという卑劣な事件。
テロ組織を研究する専門家はこの事件をきっかけにボコ・ハラムは国際テロ組織としての自覚を持つようになったといいます。

この事件はボコ・ハラムの名前を、世界に知らしめることになりました。
アフリカで最も過激なテロ組織へと変貌するきっかけとなったのです。

さらにボコ・ハラムが目をつけたのが、世界を脅かす存在にまでなっていたISでした。
去年6月、シリアとイラクにまたがる国家の樹立を一方的に宣言したIS。
これまでの国家の枠組みを越えて支配地域を広げようという野心をむき出しにしました。

その呼びかけに呼応するかのようにボコ・ハラムをはじめ世界各地の過激派組織が活動を活発化させていきます。

各地の過激派組織はISのやり方を取り入れみずからの戦略を強化するようになりました。
互いに通じ合いながら手法を学び合っているのです。

8月には、ISにならうかのようにボコ・ハラムも、アフリカでのイスラム国家の樹立を宣言。
チャドやニジェールなど周辺国にまで越境して襲撃を繰り返し支配地域を広げました。
メディア戦略の効果にも気付きインターネットを通じて自分たちの力を誇示するようになりました。

ボコ・ハラムの襲撃で今100万人以上が周辺国などに逃れています。
隣国ニジェールにある難民キャンプです。

とりわけ子どもたちは心に深い傷を負っています。
鉛筆と紙を渡すと、真っ先に描くのは、ボコ・ハラムが襲撃してきたときの様子です。
銃弾を浴び、首を切られる人々。
炎に包まれた集落。
血や炎を表す赤色が多く使われていました。
ボコ・ハラムに捕らえられていた12歳の少年に話を聞くことができました。

少年はひとつきにわたって監禁されていました。
そのとき銃を渡され、兵士として戦うよう脅されたといいます。

こちらの13歳の少女も捕らえられ、戦闘員と結婚するよう脅され続けました。

少女は見張りの隙を見て逃げ出すことができました。
しかし、一緒に捕らえられていた多くの友達の行方は今も分からないままだといいます。

ことし1月ボコ・ハラムによると見られる新たな手口のテロが起きました。
買い物客でにぎわう市場で爆発物を身につけた10歳ぐらいの少女が自爆。
19人が死亡しました。
少女に自爆テロを強制するISさえ行ってこなかったテロにボコ・ハラムが手を染めたと見られています。
さらに先月、ボコ・ハラムはISに忠誠を誓うと宣言。
ISの知名度を自分たちの権威付けや戦闘員の勧誘に利用しようというねらいがうかがえます。

ISに呼応しながら各地で活動を先鋭化させていく過激派組織。
その脅威は拡散の一途をたどっています。

今夜は、ボコ・ハラムの実態と、アフリカ情勢に大変お詳しい三井物産戦略研究所の白戸圭一さんをお迎えしています。
よろしくお願いします。
残虐さが、アフリカにも拡散していくという、非常に怖い時代だなと思うんですけれども、なぜ、このボコ・ハラムはここに来て、ISとの連携を選択したのか、それによって、どう変わったのか。
現地にも行かれて、見てらっしゃって、どう感じていらっしゃいますか?
ISの側は今のVTRの中にもありましたように、今、イラクやシリアの一部地域にとどまっている自分たちの、いってみればグローバルジハードの運動が直線距離で4000キロ離れたナイジェリアにまで広がっていくという、そういうことで、運動の世界化というメリットがありますね。
ご質問にある、ボコ・ハラムのほうで考えると、なかなかアフリカに関する情報は少なくて、少ない中で、ボコ・ハラムの運動というのは、例えばイスラム過激派による、キリスト教徒に対する運動だとか、そういう捉えられ方をしがちなんですけれども、実はこのボコ・ハラムの活動自体は、非常に複雑な、複数の性格を兼ね備えていると。
1つの性格は、ISがやってるんですね、イスラム原理主義にのっとった世界の実現、これは確かに思想運動としてはあるわけですね。
しかしそれ以外の分で、非常に土着のローカルな理由が、運動の性格が大きくて、日本であまり知られていないことなんですけども、先ほど出てました、ボコ・ハラムのリーダーのアブバカル・シェカウもそうですが、ボコ・ハラムの運動というのは、ナイジェリア北東部からチャドの南部に住んでいるカヌリという民族の人たちを中心に担われているのが、現実なんですね。
イスラム教徒ですか?
イスラム教徒です。
この地域、イスラム教徒は非常に支配的なんですけれども、実際にイスラム教の中でも、支配階層にあるのは、フルベという人たちだったりハウサという人たちだったりして、このカヌリという人たちは長い間、イスラム社会の、現地のイスラム社会の中で、周辺化されているという言い方をしますけれども、貧富の差でいえば貧しい側にあったりする。
そういう人たち、若者が、例えば就職できないであるとか、失業しているとか、そういうときに、お前が差別されているのはカヌリであるからなんだと、なので、今の支配階層である彼らを打倒すれば、自分たちの幸せが得られるかもしれないと、そういうふうにしてリクルートしていくと。
こういうローカルな運動を、ISと連携することによって、すでにたくさんの民間人も殺してしまっていますから、それだけ、今のままでは支持は得られないので、自分たちの運動に大義名分を与えて、要するにグローバルジハード運動の一環として、自分たちの運動を、再定義する、大義名分を得るという、そういうメリットが大きいんですね。
それをすることによって、自分たちの地域以外の所からも戦闘員も加入してくれるかもしれないという、そういうねらいがあると思います。
正当化、そして大義名分が得られるということですけれども、それにしても、やっていることがあまりにも残虐、なぜここまで、先鋭化しているのか。
それは複数の理由があると思うんですが、1つはそのテロ組織一般にあるように、恐怖によって支配すると。
住民の支持じゃなくて、言うことを聞かないと、痛い目に遭うぞということで、支配するということがありますね。
それから、実際に現地から上がってくる報告を見ていますと、末端の構成員ですね、ボコ・ハラムの。
これは、例えば犯罪者集団であったり、刑務所から出てきたような集団にお金を払って、虐殺や略奪に加担するようにしていると、そういうのもあると。
あとまあ、あとでもう少し議論になるかもしれませんが、残虐なことをすることによって、先進国の世論を喚起して、やはりアメリカを引っ張り出すという目的があると思いますね。
お伝えしているように、互いに呼応しながら、先鋭化している過激派組織。
テロの拡散をなぜ止められないのでしょうか。

1年前、ボコ・ハラムに誘拐された女子生徒の救出を求めて行われたデモです。
女の子たちを返して!を合言葉にした国際的な支援の動きが広がり、当時多くの著名人も賛同しました。

アメリカはテロ対策の専門チームを派遣しナイジェリア軍の指導に当たりました。
しかし、アメリカの関与はそれ以上、本格化していません。

女子生徒救出を求める活動を続けているナイジェリア人の弁護士エマニュエル・オゲベさんです。
アメリカ政府やメディアにも働きかけを続けてきましたが女子生徒の安否すら分からない現状に、焦りを募らせています。

1年たっても何も進展はなく希望も失われつつあります。
国際社会にも、アメリカにもあらゆる手を尽くしてほしいのです。

世界各地で拡散するテロへの対応に迫られるアメリカ。
今、最も重点を置いているのがISの掃討作戦です。
去年8月から戦闘機や無人機などによる空爆を続けています。
今やイスラム過激派はイラクやシリアだけでなくアフリカやアジアでも活動を活発化させています。
アメリカはその対策のための資金や人員を十分に割けずにいます。
ナイジェリアにアメリカの大使として駐在していたジョン・キャンベル氏です。
今の状況では、アメリカがナイジェリアに全面的な支援を行うのは難しいといいます。

ボコ・ハラムはナイジェリアにとって直接の脅威であり、アメリカもそのことを懸念しています。
しかし、アメリカにとっての直接の脅威はISやアルカイダでありボコ・ハラムではないのです。

テロの脅威にさらされている当事国だけでは過激派組織に対抗するのは難しくナイジェリア軍も苦戦しています。

戦闘が長引くにつれ、武器も装備も足りなくなっています。
彼らは世界中のテロ組織の戦法を身につけ、一般市民に紛れ込んで戦っているのです。

住民の間に紛れるボコ・ハラムとの戦いは困難を極めます。
これはナイジェリア軍の様子を撮影した映像です。
人権団体が入手しました。
兵士が、ボコ・ハラムのメンバーだと疑う住民に激しい暴行を加えています。
十分な裏付けもないのに行き過ぎた行為だとして住民の反発を招いています。
軍が対応に苦慮する中攻撃の手を緩めようとしないボコ・ハラム。
その脅威は国境を越え周辺国にも及んでいます。
ことし1月、アフリカ連合はナイジェリアとチャドやカメルーンなど、5か国による多国籍部隊の創設を決定。
大規模な地上部隊を投入しボコ・ハラム包囲網の構築を急いでいます。
先月にはボコ・ハラムが支配下に置いていた国境付近の村を奪還しました。
そこには、ボコ・ハラムに殺害された人たちの遺体が放置されていました。
奪還した村を再びボコ・ハラムに占領されるケースもあり一進一退の攻防が続いています。

ボコ・ハラムとの戦いは長く険しいものになるでしょう。
今やテロは、世界にまん延する伝染病です。
国境はもはや意味をなしていません。
すべての地域、すべての国がその脅威と向き合わなくてはならないのです。

白戸さん、軍事面で、今やアフリカ連合5か国で共に戦っていこうという動きが出てきてますけども、その軍事面で、このボコ・ハラムの勢いというのを抑えられると考えられますか?
確かに、一定の効果はあると思うんですね。
今軍事的に、政府軍のほうが劣勢にあるわけですから、これを支援することは、意味はあると思います。
ただしかし、今もVTRでもありましたけれども、軍事的な対応だけでは、恐らく限界があるのも、また事実であって、それは今のアフリカの経済格差の拡大であるとか、そうしたものを背景にして、人々が不満を持つ、その不満がうまく過激主義者になんていうのかな、利用される形で、こういう運動がいつまでも命脈を保っているわけですから、そこに切り込まないと、どうにもならない面はありますね。
貧富の格差とおっしゃいましたけれども、アフリカは、各国で急成長している。
7%や8%、時には20%の成長という声も聞くんですけれども、そうすることによって、うまく分配すれば、そういう不満や、不満分子も抑えられるんではないかと思いますけども。

確かに今、国谷さんおっしゃったとおり、アフリカ、すごい勢いで経済成長していて、これはまあ、これからも恐らく続いていくんだと思うんですね。
しかし、これは極めて皮肉なことなんですが、経済成長率が上がるということがイコール、人々に雇用を提供しているかというと、必ずしもそうではない。
雇用?
雇用。
雇用の創出、つまり教育は受けたけれども、仕事がない若者、これがまあ、過激主義の温床に一番なるわけですね。
そういう意味では雇用を作らなきゃいけない。
今、世界で一番地域別に見て、高い人口増加率をアフリカが経験してます。
年2.6%。
それから都市化も著しいと。
農村は崩壊までは行っていないけれども、少しずつ壊れていっていると。
そういう中で、人々に、じゃあ製造業、アジアが経験したような、日本人が見てきたような雇用が提供されているかというと、全くそういう経済構造にはなっていない。
だから過激主義がのさばり続けるその温床というのは、皮肉なことに、成長すればするほど、今のままですと、拡大していってしまうと、そういう現実がありますね。
拡大していくと、不満を持った人たちが、過激派組織に入る?
入る、少なくとも温床になりますね、それは。
そして一方で、この拡散を、テロの拡散を抑えられなければ、すでに100万人の人々が難民になっていますよね。
もちろん、目指すべき目標として、貧富の差を縮めていくとかいうことは、非常に重要なんですが、一方で、現実的な対応をどうするかと、理想にばかり走っていると、現実の対応がおろそかになるので、そこをなんとかしなきゃいけない。
ですから、難民キャンプというのは、しばしば、そこにいる子どもたちが、将来、テロリストにリクルートされる、標的になりやすいということがあるんですね。
ですから難民キャンプが出来た地域の住民と難民との間の摩擦であるとか、そういうことを低減、できるだけ減らしていく政策、資金も必要ですし、紛争を、いってみればできるだけ封じ込めていく、現実的な政策というのが必要だと思います。
拡大をなるべく封じ込める。
なるべく封じ込める。
その中で、アメリカの役割はどうですか?
アメリカは、いってみれば、ボコ・ハラムはアメリカが出てくるの待ってるわけですね。
出てくれば、反米闘争として、自分たちの闘争を位置づけることができると、そういうジレンマを抱えているので、オバマ政権は慎重になっているんだと思います。
きょうはどうもありがとうございました。
三井物産戦略研究所の白戸圭一さんと共にお伝えしました。
去年5月追跡・出家詐欺という番組を放送しました。
この番組で、いわゆるやらせがあったとの指摘を受けNHKは、調査委員会を設けて取材や制作などが適切であったかどうか調査を進め、きょう中間報告を公表しました。
放送の中で、出家をあっせんするブローカーの活動拠点だとしてお伝えした部屋は活動拠点ではありませんでした。
取材が不十分だったもので部屋の借り主と視聴者の皆様におわびいたします。
そのほか、取材や制作などが適切であったかどうかについて調査委員会はさらに調査を進めできるかぎり早い時期に調査報告書を公表することにしています。
それでは今夜はこの辺で失礼いたします。
2015/04/10(金) 01:00〜01:26
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「テロの拡散が止まらない〜呼応するイスラム過激派〜」[字][再]

イスラム過激派組織ISと連帯する過激派のネットワークが拡大の一途をたどっている。ナイジェリア北東部で猛威をふるうボコ・ハラムを取材し、拡散するテロの実態に迫る。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】三井物産戦略研究所 中東アフリカ研究室主席研究員…白戸圭一,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】三井物産戦略研究所 中東アフリカ研究室主席研究員…白戸圭一,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:8010(0x1F4A)

カテゴリー: 未分類 | 投稿日: | 投稿者: