額縁をくぐって物語の中へ「葛飾北斎“神奈川沖浪裏”」 2015.04.09


(池田)今週は世界で最も有名な日本人アーティストの作品を紹介するって聞いてずっと考えてたんだけど…。
誰かな?
(フレーム)えっまだ分からないの?ヨーロッパではレオナルド・ダビンチと同じぐらい有名だそうよ。
ほんとに?誰だろう?ヒントはない?しょうがないわね。
モネやゴッホにも影響を与えた人物よ。
もう分かったでしょう?という事は浮世絵の…。
え〜っと…。
う〜んじれったい。
ブー!時間切れ。
正解はこの絵を描いた人。
あ〜っ!北斎だ。
そう。
江戸後期の浮世絵師葛飾北斎の木版画「富嶽三十六景」の中の一枚「神奈川沖浪裏」。
世界で最も有名な絵の一つね。
東海道の神奈川宿の沖から見た富士山だけどこの絵の主役は崩れ落ちる瞬間のビッグウエーブ大波ね。
まるで大波の手前でシャッターチャンスを待っていたカメラマンがその決定的瞬間を捉えたような作品だよね。
いい事言うわね。
でもそれよりこれは「富嶽三十六景」の一枚って言ってたけど北斎は富士山をテーマにしたこんな絵をたくさん描いているという事?そうよ。
北斎は江戸を中心に関東一円から見た富士を独自の視点で描いているの。
北斎はなぜ富士山をテーマにした絵を描こうと思ったのかな?浮世絵で風景画を描くというのは北斎が長年温めていた企画だったのよ。
ふ〜んそうだったんだ。
確かにすばらしい絵だけどでもこの絵の何がヨーロッパの人々の心をとらえたのかな?まずはそれを調べてきて。
分かった。
あでもまあ相当波が高いからうまく乗船できますかね〜。
(波の音)お〜っとっと!ひゃ〜これは立っていられない。
(船頭)危ないじゃないか。
とにかく座んなよ。
ああ…はい。
ハァ…。
ところであなたは?おいらは房総から江戸へ生きのいい魚を運ぶこの押し送り船の船頭。
ここにいる8人はそのこぎ手さ。
ほんとに?じゃあなぜ船をこいでないんですか?それに荷物もないし。
荷がないのは今は帰る途中だからさ。
それにこいでないんじゃなくこげないんだよ。
ほらこんな波じゃ船にしがみついてるのが精いっぱいさ。
そうですよね。
でもこんなしけの日にも船を出すんですか?ここは江戸前だからこんな大波はめったにないしそんな日は船を出さないよ。
北斎が大げさに描いたのさ。
大荒れの日に船が海に出たらこんな大波に出会うかなって。
見る人だってハラハラドキドキするだろう。
そうか。
北斎のそんな思いが波を大きくしたのか。
ところで北斎をご存じなんですか?当たり前だろう。
江戸で一番の…いや日本一有名な浮世絵師だからな。
へ〜っ北斎の絵のどんなところがいいんですか?この絵だったら鮮やかな色だな。
ほら浪裏の「ベロ藍」がいい味出してるだろ。
日本の顔料と違って変色しにくいし濃い青から薄い青まで描き分けられるんだ。
へ〜っ。
そういえば輪郭線も青ですね。
いいところに気付いたな。
北斎はこのベロ藍に出会ったからこの「富嶽三十六景」を描く決心をしたくらいだからな。
そうだったんですか。
あっところで「ベロ藍」って何ですか?プロシアのベルリンで作り出されたという青藍色の合成顔料の事さ。
プロシアっていう事は…あっ今のドイツか。
そういえば北斎は海外でも人気があるって聞いたんですが…。
外国の事聞くなら「北斎漫画」のやつらだな。
「北斎漫画」って?えっ?北斎は漫画も描いていたんだ。
恋愛ものかな?スポーツものかな?おいおい何か勘違いしてないか?ここにあるから見たら分かると思うけど「北斎漫画」というのは絵を描く人のためのお手本みたいなもんだ。
ほらよ。
あっどうも。
あっ本当だ。
でもいろんな人の姿がたくさん描いてあって漫画みたいだ。
でも何でこの人たちが外国に詳しいんですか?
(町人1)えっお前そんな事も知らないのか?俺たちこそ最初にヨーロッパに渡った北斎の絵なんだけど。
うわびっくりした…。
あっそうか。
日本からフランスに輸出された焼き物の梱包に使われていた紙からヨーロッパに浮世絵が広まったといわれているけどその紙に描かれていたのはあなたたちだったんだね。
そうさ。
じゃあもうちょっと北斎の事聞かせて下さい。
そっちに行きますから。
おう何でも聞いとくれ。
ええとあの〜…西洋での北斎の評判を聞きたいんですが。
えっお前北斎の影響力を知らないのか?はぁ〜あの何となく有名だって。
(町人2)何言ってるんだ。
あのゴッホはな弟のテオに宛てた手紙の中で北斎の事を何度も絶賛しているんだ。
これですか。
え〜と…。
「テオ君が大波の絵を見て『この波は鉤爪だ。
船がその中に掴まえられた感じだ』と感動の叫び声をあげたのは北斎が描き出した線とデッサンがあまりにすばらしかったからなんだ」。
ゴッホは北斎の並外れた画力に驚いてたんだ。
それに色彩にもな。
色彩というとベロ藍ですか?そうだ。
ゴッホはベロ藍の使い方も北斎の影響を受けているんだ。
この絵見た事があるだろう?うん。
「種まく人」ですよね。
ゴッホが敬愛するミレーの「種まく人」をモチーフにゴッホならではの色彩で描いたものですよね。
そうだ。
この絵の種をまく人の部分にベロ藍が使われているんだ。
そうだったんですか。
ドイツで生まれたベロ藍が日本の北斎を通して再びヨーロッパでゴッホによって脚光を浴びるとはね。
それだけじゃない。
モネやドガたち印象派の画家たちも初めて見る北斎の構図に驚いたんだ。
実は北斎は大きな波を描きながら全体のバランスが崩れないようにちゃんと計算していたんだ。
えっ計算してた?どういう事ですか?この絵を描く時北斎はまず定規で対角線を引いてその次にコンパスで縦の長さを半径とする円を描いたんだ。
するとどうだい。
波の先端と富士山の頂上は線の交わる所にあるだろう。
ほんとだ!ハハ驚く事はないさ。
西洋の画家たちはみんな絵を描く時こんな事をしていたらしいよ。
すると西洋の画家たちは北斎が描いた見えない線が見えたから驚くだけじゃなく共感もしたのかな?きっとそうさ。
それにこの絵は波ばっかりに目が行くけど富士山や船や人も大事なんだ。
「富嶽三十六景」だから富士山は重要なのは分かるけど…。
船だってそうさ。
あるのとないのとじゃ全然印象が違うぞ。
ほら。
あっほんとだ。
大きな波が砕ける決定的瞬間を捉えたすばらしい絵には違いないけどう〜ん緊張感がなくなるなぁ。
フフン分かってくれたかい?大しけの中で人が乗っている船があるからこそ見ている人がハラハラするんだな。
ほんとそうですね。
それ以外にもこの絵には見る人を楽しませようとした北斎の工夫があるんだ。
工夫?う〜ん…。
手前の波だよ。
よ〜く形を見てみな。
波!?あれは富士山だよ。
後ろの小さな富士山より手前の波の形の方が本物に近いんだ。
なるほど!それだけじゃないぞ。
この大波以外の空の部分を切り取って180度回転させるとどうだいちょうど大波に重なるんだ。
おっお〜っほんとだ!でもほんとに…あれ?そんな事まで考えていたのかな?あれ?えっ?何?信じられないのか?それならこれでどうだ!ちょっ…ちょっと…いや…あっあ〜っ!目が…目が回る…。
おっおっ…おお…。
おっおっ…助かった…。
海の中じゃなくてよかった!随分派手に戻ってきたわね?ところで北斎のヨーロッパでの評判はどうだった?うん。
まあ北斎の影響力は日本人が考えていた以上に大きかったみたい。
そうかもね。
ところで池田君ちょっとこの絵を見てくれる?えっこ…これは?北斎の「おしをくりはとうつうせんのづ」という絵だけど「神奈川沖浪裏」を描く30年も前に描いてたのよ。
どう?いやこれ似てるね。
ところで今30年前と言ったけどじゃあ北斎がこっちの絵を描いたのは一体何歳?70歳過ぎてよ。
70過ぎ?もしかして北斎は波の細かな形が見極められるような訓練をずっと30年間していたのかな?…んなわけないでしょう。
だよね?ハハ…。
今度はそれを調べてみるよ。
まあ怖いけど。
しょっ!
(船頭)おっと!お〜っとっとっと…。
(船頭)危ない!また来たのかい。
で何だい?北斎はどうしてこんな波が止まった瞬間の絵が描けたのか知りたくて…。
う〜んそれは難しい質問だな。
ひと言で言えば天才だったんだな。
いやいやいやいや。
簡単に言うなっつうの。
どうして?剣豪は相手の動きが止まったように見えるって言うじゃないか。
あそうか。
いやいやいやいや。
納得できないかい?そしたらまた「北斎漫画」のやつらに聞いてみるかい?何か知ってるかもよ。
あっそうですね。
あれ?「北斎漫画」は…?ああ持ってます持ってます。
お借りしたままでした。
あの〜ちょっといいですか?おう何だい?北斎の「神奈川沖浪裏」の事なんですがどうして北斎はあんな崩れ落ちる瞬間の波を描く事ができたのか知りたいんです。
おいらもずっと不思議だったんだ。
それで調べてみたんだ。
そしたら北斎の大波に影響を与えたやつがいたんだよ。
ええそんな人がいたんですか?
(町人1)そう通称「波の伊八」こと武士伊八郎信由という江戸を代表する彫刻師よ。
上方でも「関東に行ったら波を彫るな」と言われているくらい大した腕前だった。
ふ〜ん。
ああ伊八の彫り物は江戸周辺のお寺にたくさん残ってたんだ。
そこでおいらは随分探し回ってやっと見つけたのさ。
房総の行元寺っていうお寺の欄間にあの波があったのさ。
あっほんとだ。
波の形がまさに北斎と同じだ。
(町人1)「波に宝珠」っていうんだけど北斎の版画では宝珠のところが富士山になっているんだ。
(町人2)伊八はこの波を彫るために何日も馬で海に入り崩れる波を観察してたそうだよ。
伊八が欄間の波を彫ったのはいつ?文化8年。
北斎が浪裏図を描く20年以上も前の事。
という事は北斎は伊八の波を見て…。
「波の伊八」か。
いや恐るべし。
いや〜すっきりしたな。
おい!立ち上がるなって急に危ないよ。
うわ〜っ!はい!あ〜っ危なかった。
着地成功!得点9.7!…じゃなくてそれよりどうだった?ああ分かりましたよ。
この北斎の大波の構想が30年たって実を結んだのは「波の伊八」っていう天才彫刻家の作品があったからなんだ。
そうなの?もしかして北斎はまねしたの?う〜んまあそうじゃないと思うよ。
ゴッホがミレーの作品から影響を受けたように北斎も伊八の作品からインスピレーションを受けたんだと思うな。
しかし70歳過ぎての作品が代表作になるとは北斎は長生きだったの?そう。
90歳まで生きたの。
池田君にもまだチャンスはあるわ。
頑張りなさい。
どういう事?2015/04/09(木) 23:30〜23:45
NHKEテレ1大阪
額縁をくぐって物語の中へ「葛飾北斎“神奈川沖浪裏”」[字]

世界に「浮世絵」「北斎」の名を知らしめた傑作は、北斎72歳・円熟の技と時代の流行や人との出会いが可能にしたもの。世界が認める傑作誕生の秘密を絵の中に探る。

詳細情報
番組内容
【キャスター】池田鉄洋,【声】杉本るみ
出演者
【キャスター】池田鉄洋,【声】杉本るみ

ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸

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