ポリオは小児麻痺を引き起こすとして、1988年に世界保健機構(WHO)で世界ポリオ根絶計画が提唱されました。この年の発症は世界で35万件と見られますが、2013年に報告された件数は416件と激減しています。
新しいガンの治療法は、ポリオウイルスが決め手ところが、アメリカのデューク大学では、このポリオウイルスを使って、脳腫瘍の中でも特に進行の早い膠芽腫を治療するという臨床実験が行われています。
いったい、どんな方法なのでしょう? その効果のほどは?
CBSの番組「60Minutes」(3月29日放送)から、ご紹介します。
◆がん細胞を攻撃するのは免疫力
25年にわたって、この研究に取り組んできたのは、神経外科学、分子遺伝学、細菌学の教授であるマシアス・グロマイヤー博士です。
がん細胞は免疫系の影響をさえぎるシールドを作りますが、改良したポリオウイルスはがん細胞の表面に張り付いて毒素を取り除き、シールドを破壊します。他の細胞には影響を与えず、がん細胞だけを免疫力で攻撃させるというものです。
FDA(米国食品医薬品局)の認可が下りるまでに7年かかり、ようやく2011年に人体に用いることができるようになりました。
◆最初の患者、リプスコムさん
最初の被験者は、手術で腫瘍の98%を切除したのに再発したステファニー・リプスコムさんでした。放射線治療や化学療法も効果がなく、「失うものは何もない」と新しい治療法に同意しました。
カテーテルを腫瘍まで通して、ポリオワクチンを注入したのが5月。6月には腫瘍が肥大しましたが、これはがん細胞が免疫力と対抗しようとしたためと見られます。
彼女の腫瘍がなくなるまでには21ヶ月かかりました。ワクチン注入から3年以上たった昨年8月にMRIをとったところ、腫瘍は跡形もありませんでした。
4か月ごとに検診を受けていますが、今のところ記憶や視力などに問題は起きていません。
◆残念な事例もある
14人目の被験者となったのは、60歳のドナ・クレッグさん。彼女もそれまでに手術、放射線治療、化学療法を受けて、他に手段がない状況でした。
デューク大学では、効果があれば、段階的にウイルスを追加投与していました。その結果、クレッグさんが注入された総量は、リプスコムさんの3倍になりました。
脳内の炎症がひどくなり、治療を断念した彼女は、その後、亡くなりました。これまで22人の被験者がいて、亡くなったのは11人。
でも、膠芽腫が発見されてからの平均余命は6か月なので、リプスコムさんのように3年生存しているというケースは、他の治療法ではありえません。
◆他のがんに対する可能性
2012年に膠芽腫を発病し、手術、放射線治療、化学療法を受けた58歳のナンシー・ジャスティスさんは、昨年の秋、ティースプーンの半分ほどのウイルスを注入されました。
これは従来の基準の85%ですが、クレッグさんなどの事例から、ウイルスの量を控えているのです。
一度は腫瘍が肥大しましたが、腫瘍を抑える薬を投与して、治療を続行。その後のMRIの検査では、腫瘍部にポリオウイルスが効果を与えていることが明らかになりました。
グロマイヤー博士によると、培養実験では、ポリオウイルスは肺がん、直腸がん、前立腺がんなどあらゆるがんに効果があるそうです。
これが安定したがんの治療法となれば、いずれは日本にも導入されるかもしれません。
参考:
http://www.cbsnews.com/news/polio-cancer-treatment-duke-university-60-minutes-scott-pelley/