「ハメ手」って何? 将棋・電王戦で21手でコンピューターが投了 人類が圧勝した理由とは
将棋のプロ棋士とコンピューターソフトによる5対5の団体戦、「電王戦」第5局は4月11日、東京・将棋会館で行われ、阿久津主税(あくつ・ちから=32)8段が21手でソフト「AWAKE」に勝利した。この勝利で「電王戦」の対戦成績は3対2と人間が勝ち越した。
対局は阿久津八段が序盤、ソフト相手に有力と見られている、通称「嵌め手(ハメ手)」と呼ばれる奇襲手を指したところ、AWAKE開発者の巨瀬亮一さんが投了を宣言した。対局開始から1時間も経たずに終局。持ち時間は5時間が用意されていたが、消費時間は阿久津八段が13分、AWAKEが30分だった。
「ハメ手」とは、正攻法ではなくトリック戦法のこと。相手が対応できない場合には有利となるが、正しく対応されると一転して不利になる。コンピューターが相手の電王戦では、コンピュータ独特の弱点をついたハメ手が研究されており、今回の第5局でも「△2八角戦法」と呼ばれるハメ手が研究されていた。
「△2八角戦法」は後手であるコンピューターに2八角を打たせるというもの。この1手により後手は自分の駒を死なせてしまうことにつながり、先手が有利になるという。週刊アスキーによると、この形になると対AWAKE戦では、ほぼ9割先手が勝てるとされる。
電王戦第5局は局面が進めばこんな感じで後手が角取られます(サッと作った局面ですので細かい所は気になさらず)
去年くらいには、『将棋ウォーズ』等でコンピュータの強いponaさんに試された棋譜などがあります pic.twitter.com/lchey6M4OR
— itumon (@itumon) April 11, 2015
■本番までプログラムを直せないルール
AWAKEに対しては2月28日、この戦法を使ってアマチュアも勝利しており、再現性があるとみられていた。巨瀬さんは敗戦で初めて、この時の敗戦で初めて、「△2八角戦法」に気がついたという。コンピュータ将棋協会はブログで「劣勢がはっきりするまで長い手数がかかる局面に誘導する策はコンピュータ将棋が見破りにくいことが以前から知られて」いたとしている。
しかし、巨瀬さんはAWAKEのプログラムを修正することができなかった。ソフトの欠陥は、本番まで直せないというルールがあったためだ。巨瀬さんはAWAKEが2八角を打ったら投了することを決めていたという。巨瀬さんは対局のあと記者団に対し、「アマチュアが指した形なので、プロが指してくるかどうかはわからないと思っていた。評価関数の問題もあり、こうした穴があるのは、しかたがないところもある」とコメントした。
また、阿久津八段はソフトを事前に調べて勝ちやすい作戦を選んだとしており、「AWAKEは中盤から終盤にかけて強いので序盤が勝負だと思った。これまでの対局で優勢を読むのが人間より早いと感じていて、実際に戦ってみてもかなり強いと感じた。勝ち越しがかかるなかでの対局でかなり緊張し、最後の一手を打つまで優勢は確信できなかった」と話したという。
コンピュータ将棋協会は今回の対局について「持時間5時間・秒読み1分の一発勝負である将棋電王戦FINALでAWAKEはその罠に堕ちてしまいました」とコメント。「今回のこれはバグではなくコンピュータ将棋の弱点を突かれたもので、コンピュータは弱いから負けたのだ、ということになるでしょう。昨今、人工知能に対する関心が世界的に高まっていますが、このようなセキュリティーホールを突かれても人工知能は正常に機能できるか、という議論は今後数多くなされるであろうと思われます」とした。
なお、今回の電王戦に対し、ネットでは様々な意見が出ている。
電王戦いつもなら人間側を全力で応援するんだけど、今日対局するソフトの開発者の「プロ棋士を目指して15歳で奨励会に入会したが最高位1級どまりで21歳で夢を諦め退会して以来もう人間とは誰とも指していない」という経歴を知った今真剣にどっちを応援すべきか悩んでいる。
— Norita |ω・) (@norita113) April 11, 2015
AWAKEには△28角という弱点があるみたいですが、正直阿久津さんには狙って欲しくないです。
だってもう最後なんでしょ?電王戦。だったら勝ち負けではなく、棋士代表として、あなたのセンスを見せてほしい。
私は阿久津さんに相手してもらって8000敗ぐらいした事を誇りに思います。
— 天野貴元 (@amanoyoshimoto) April 4, 2015
これぞ電王戦だ。人間がコンピュータへの対峙を死ぬ気で考えたことで様々なことが生まれた第4回電王戦でした。
— 遠山雄亮 (@funnytoyama) April 11, 2015
先ほど弟弟子の村山とメールして確認したら第4局、今回の本番ポナンザは2八角は絶対打ってこないということです。
今日はどのくらいの確率だったかが気になります。
何手か2八角と打つタイミングがあるので、かなりの確率になるんでしょうね。
— 飯島栄治 (@eijijima) April 11, 2015
AWAKEの巨瀬さんの投了には、元奨励会の魂を感じた
— 林隆弘(はやしたかひろ) (@takhaya) April 11, 2015
皆さん色々思いがあると思います。
でも阿久津八段こそがもっとも"かっこ良く"戦いたかったはずです。
それでも勝つためにしたということを皆さん覚えておいてください。
今回の電王戦はコンピュータとは人間とはというのがよくでた印象です。
人類チームの皆さん勝利おめでとうございます!
— 山本 一成@Ponanza (@issei_y) April 11, 2015
電王戦。常に、いついかなるときでも我々の価値観を揺さぶってくる。それはもう、あらゆる角度から。こういうものを見せられて、あなたは何を言うかとか、何を感じるかということを、ただひたすらに問うてくる。逆説的に、何も言えなく、何も感じられなくなってしまうような恐ろしさがある。
— ふるのだ (@furunoda) April 11, 2015
【関連記事】
ハフィントンポスト日本版はFacebook ページでも情報発信しています。
ハフィントンポスト日本版はTwitterでも情報発信しています。@HuffPostJapan をフォロー