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 天皇、皇后両陛下の訪問で注目を集めたパラオ。太平洋戦争末期、現地アンガウル島の島民に米軍への投降を勧めて命を救い、自らは玉砕した兵士がいた。両陛下が9日、同島に向かい深くこうべを垂れる姿を、日本から特別の思いで見つめた遺族がいる。

 長野県飯田市出身の旧陸軍砲兵大尉、故・松沢豊さんは戦争末期、パラオ・アンガウル島で守備隊の小隊長だった。おいの卓治さん(68)によると、旧日本軍は島民の多くを別の島に疎開させたが、アンガウル島には100人余りの島民が残ったという。

 1944年9月、米軍の猛攻下、旧日本軍とともに鍾乳洞に立てこもった島民に、松沢さんは「島民を道連れにはできない。米軍に投降しなさい」と強く促した。その後、24歳だった松沢さんをはじめ約1200人の守備隊はほぼ全滅。投降した島民らは助かった。

 この事実を、生き延びた島民シシリア・マツコさん(85年死去)が68年に来日して飯田市を訪れ、大学生だった卓治さんに伝えた。シシリアさんは松沢さんについて「命の恩人です。彼は神だった」と流暢(りゅうちょう)な日本語で語った。松沢さんの戦友らも戦後、島民からの聞き取りでこの出来事を確認し、記録を残している。