(創論)都構想、大阪再生につながる?
以下は11日の日経です。
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「国際競争で勝つ基盤に」 慶応大教授 上山信一氏
地域政党「大阪維新の会」を率いる橋下徹氏らが大阪ダブル選を制し、大阪都構想が具体化に向けて動き出した。都構想の狙いはどこにあるのか、大阪を再生するうえで有効なのか。大阪維新の会の政策特別顧問を務める慶応大学の上山信一教授と、都構想に懐疑的な中央大学の佐々木信夫教授に聞いた。(聞き手は編集委員・堀田昇吾、同・谷隆徳)
――労力をかけて大阪都を目指すのはなぜか。
「今のままでは大阪が国際的な都市間競争に負け続けるからだ。大阪は競争に耐える基盤整備ができていない。府と市の二元行政が続いた結果、地域全体の成長戦略、大胆な投資で意思統一ができない。一応何でもあるが、全ての点で他より遅れた中途半端な都市になってしまった。この状況を脱せねばならない」
――実現には法改正など多くのハードルがある。
「大阪再生の手法として都構想を掲げ、選挙で賛同を得た。区割りや財政力の違いの調整など細かな制度の設計が簡単でないのは分かっている。しかし、手続きが難しいから今のままでいいというのはおかしい。実現のためにありとあらゆる手法を駆使する」
――大阪市の一体性がなくなるなどの批判がある。
「現行の市は基礎自治体としては広すぎ、広域行政を担う組織としては狭すぎる。もはや前世紀の遺物と化し、住民や企業にとってはむしろ不合理な存在になっている。所得向上や雇用拡大の都市戦略、住民に密着した行政サービスの両面で、現行の市域に固執する意味は全くない」
――府県制度や政令市制度に問題があると。
「大阪維新の会は日本全体の大都市制度の改革を目指すものではない。大阪の再生には、現在は東京だけに適用されている都区制度がいいと考えているだけだ。あくまで地域政党に徹する。ただ、大阪都構想で法制度に風穴が開けば、地域のことは地域が決める地域主権が強まり、一国多制度への流れにつながるとみている」
――規制緩和も重要か。
「全国一律とか政府が地方をコントロールする仕組みで一番損をしているのは大阪だ。ヒト、モノ、カネを動かすことで発展してきたから、日本の経済が停滞して最初にダメになるのが大阪。地域が独自に成長しようとすれば、あらゆる制度や規制を工夫しなければならない。緩和だけでなく、規制を厳しくする場合もあるだろう」
――大阪は復活するか。
「膨大な行政資産、豊かな個人資産、就労していない女性の労働という3つをうまく活用することができれば、サービス業を主体にした内需を喚起できる。ビジネスも海外からの資金や人材を取り込む試みを大阪全域で展開できる。鉄道、水道などインフラ整備を戦略的な輸出事業にすることも可能だ」
――変革によって今後、対立が深まらないか。
「今起きているのは、現状に危機感を持っている層と既得権を守りたい層の対立だ。アジアの大都市と競争していくには現状改善型の行政改革ではなく、過去を壊して作り直すような改革が必要になっている」
うえやま・しんいち 80年(昭55年)京大法卒、旧運輸省入省。マッキンゼー・アンド・カンパニーなどを経て07年から現職。54歳。
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■佐々木氏「司令塔一本化直結せず」
佐々木信夫氏(ささき・のぶお) 80年(昭55年)早大大学院政治学研究科修了。東京都庁を経て94年から現職。日本自治創造学会の会長を務める。63歳。
――大阪ダブル選の結果をどう見るか。
「国政を含めて改革が停滞しているなかで、有権者は明確なメッセージがあるリーダーを選んだ。日本に活を入れてくれというわけだ。これで大阪都構想は基本的に支持されたが、有権者はその中身を理解できていないのではないか」
――都構想の評価は。
「府と市の二重行政、二元行政を是正するために仕事を整理する点は評価できるが、疑問点も多い。外向きには司令塔を一本化して強い大阪をつくる。内に対しては政令市を分割して市民自治を強化する。さらに周辺の市町村には大阪の中心部からあがる税金で大阪全体をレベルアップさせると主張している。この3つが並び立つのかと思う」
――どうしてか。
「都になっても国から権限や財源が移るわけではない。つまり、大阪というコップのなかで仕事を入れ替えるだけ。二重行政の無駄を省くとしても、3つを成り立たせるためには、現在の大阪市の行政サービスの水準を下げて、財源を生み出すしか手はない」
――大阪を再生するための都構想なのでは。
「都になれば成長するわけではない。東京が繁栄しているのは企業の本社機能が集まっているためで、都制という自治制度とは関係ない。今は石原慎太郎さんが知事なので都の司令塔が一本化しているように見えるが、青島幸男さんが知事だった時はどうだったか。大阪の場合、特別自治区に東京23区以上の権限を与えるので区長の力は東京よりも強い。それで司令塔が本当に一本化するのか」
――なぜ、東京だけが都になったのか。
「東京府と東京市が合体して都になったのは戦時中の1943年。国が東京を事実上の直轄地にして、市の税収を戦費に回す狙いがあった。一方で、中身は違うが、東京市も都制の実現を求めていた。他の市よりも権限を与えよ、という自治権拡大運動だった」
「当時の東京府の人口の92%は東京市に集中し、税収の97%は東京市からあがっていたので、府と市の二重行政の弊害がひどかった。今の大阪をみると、大阪市と堺市を併せた人口は府全体の4割に過ぎない」
――中京都構想など他にも様々な提案があるが。
「これを機に大都市制度に関する議論が深まってほしい。国際的な都市間競争は激しいから、日本でも国の規制を緩めて大都市を強くしないと。明治の農村国家時代に始まった現在の府県制度はもう限界。道州制も含めて考えるべきだ」
「政令市は幾つかのグループに分け、横浜や名古屋のような大都市は府県から独立させればいい。大阪の場合も、大阪市と堺市の区域で都にするというなら、わからなくもない」
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登録日:2011年 12月 11日 10:20:47
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- プロフィール
- 上山信一
- (男)
- 慶應大学総合政策学部教授、経営コンサルタント。大阪市生まれ(57歳)→府立豊中高→京大法→運輸省→米プリンストン大(修士)→マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。国交省政策評価会(座長)、大阪府・市の特別顧問、愛知県政策顧問、新潟市政策改革本部統括、日本博物館協会評議員のほか各種企業の非常勤監査役、顧問等を兼務。趣味:僻地と難地の旅(海外102カ国を踏破)、鉄道、トレッキング、混声合唱団など。著書多数。ツイッター@ShinichiUeyama
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