第二言語習得研究は、SLA(Second Language Acquisition)といいます。なかでも、心理言語学という領域では、外国語の学習をする時に頭の中にどのような新しいシステムができるのか、ということを直接脳を調べるのではなくて、いろいろなタスクをすることを通して、解明していく学問です。
一方で、言語脳科学では、実際に頭にキャップをかぶって言語活動において脳のどこが働いているのかをみています。
研究をすすめることで、これまで常識とされていたことがほんとうにそうだったんだ、とか、実は間違っていたということがわかりますね。
母語は頭の善し悪し、IQ、みたいなことに関係なく習得していきますよね?でも第二言語については、同じ時期に始めても最終到達度に大きく差がつくわけです。これまでは、日本の英語教育はだめだということで片付けたりしていましたが、決してそう単純ではなくて、教授法や教材、それに第二言語ってそもそも頭の中でどうシステム化されていくのか、それらを解明することで習得のスピードを速めることができるだろう、と。
第二言語習得論は一部は純粋な基礎科学です。ただ、たとえば指導の現場で使える方法、サイト・トランスレーション(サイトラ)やシャドーイングをすることでリスニング力や速読力があがる、など。これらは、英語教育学のメソッドなのですが、第二言語習得論を現場で使えるものに還元していくことはできます。
鳴くことを習得する前のひな鳥に、録音された親の泣き声だけを聴かせても、いつまでたっても鳴き始めない、ということがわかっています。
実は、人が外国語を勉強する時でもこれと同じようなことが言えます。
よくお母さんが「うちの子供は小さい頃から英語のビデオを見せているので、英語がちょっとわかるみたいです」のようなことをおっしゃいますが、残念ながらこれは勘違いなんですね。言語習得はインタラクションがないとだめです。
ふつう、お母さんは必ずアイコンタクトをとりながら「マンマいる?」みたいな感じで話しかけますね?生後9ヶ月くらいから子供は「あ、こういうことなんだな」と言語を学んでいきます。話し始める前に、理解がすすんでいきます。
これは僕の私見ですけれども、1〜3歳の子供にはビデオをみせることよりも、安心できる環境、ハグをしてあげたりとか、そういう環境をつくる方が人間の良い発育には重要だと思います。
最近、「早期英語教育」というものがありますが、みんなすごく勘違いしています。片方の親がアメリカ人で、英語で話しかけることができるのであれば話は別ですが、「できるだけ早く」と躍起になることはとってもナンセンスです。
僕は記憶力が悪いので、中学生高校生の時にはなかなか単語や社会の年号とか、覚えられませんでした。人が10個覚える間に2つ3つが限界だったんですね。だからもう繰り返すしかない、「明日もそれする、明後日もそれする」というかんじでした。
Bilingual Dual Coding Hypothesisという仮説があって、どの言語においても具象的なものについては、絵と一緒に提示されたもの、例えば万年筆の絵が描いてあってそこにfountain penと書いてあるというようなものだと、覚えようという意識が無くても記憶に残りやすいということが今では分かっています。
さらに、情動と結びついたものだと、さらに思い出すのが容易になります。ある歌を聴くと、その時の情景、失恋したとか、運動していたとかそういうことがぱーっと思い出されることがありますね?
これは脳の扁桃体という部分が深く関わっているのですが、英語の単語などについても、絵や過去の体験に照らして覚えるといつまでも記憶が残ります。
これらはSLAや言語脳科学の知見ですね。
心理学者エビングハウスによると、24時間で記憶は70%近く失われます。だから、当日復習しなさい、というのはとても道理に適っています。このあとに、4週間後にもう一回復習すると、5年後、10年後の保持率がすごく高くなります。当日復習すれば、その翌日は復習しなくてもいいんです。
当日の復習、翌日、その翌日…1週間後と復習するのは現実的には無理ですよね。4週間後に復習するとかなり記憶を維持できる、と言われています。
脳と言語についての研究は、基礎科学としての知見を蓄積中で、この先に外国語・英語教育への貢献があります。実験をしながら、いままで経験的にこうであろうと推測されてきたことを確かめています。