岡本玄
2015年4月10日23時23分
クリミア半島の併合の際に核兵器使用の準備を検討したというロシアのプーチン大統領の発言に、広島市の松井一実市長が抗議文を送ったところ、駐日ロシア大使から9日付で「批判は完全に見当違い」と返書が届いた。日本が米国の「核の傘」にいると批判し、原爆を投下した米国に抗議すべきだと反論している。
広島市によると、松井市長は3日、プーチン大統領らに「強い憤りを覚える。核軍縮に誠実に取り組む義務がある」と抗議文を送った。これに対し、アファナシエフ大使から9日にファクスで返書が届いた。
返書では米国のミサイル防衛システムの開発などを批判したうえで、「日本がどこの国の『核の傘』に依存しているかはよく知られている。被爆者の平和への思いと矛盾している」と批判。さらに、「70年前、どの国が広島、長崎に原爆を投下したのか言及がない。この国こそ『抗議』の対象ではないか」と指摘している。
アファナシエフ大使は14日に初めて広島市を訪れる予定で、広島市国際交流課は「改めて市の考えを伝えたい」と話している。(岡本玄)
■アファナシエフ・駐日ロシア大使の返書(広島市が発表した仮訳)
2015年4月9日
広島市長 松井一実様
2015年4月3日の貴台の書簡を入念に拝読いたしましたが、ウラジーミル・プーチン大統領の実際の発言を誤って解釈した、根拠のない貴台の「抗議」は容認できない旨、お伝えしなければなりません。貴台及び貴市職員には、ドキュメンタリー番組「クリミア―祖国への道」の台本を注意深くお読みいただきたいと思います。
また、ロシア連邦はNPTの寄託国の一つであり、それゆえNPT体制を強力に支持していることをお知りおきください。我が国の様々な取り組みは、核兵器をはじめとする軍備の削減だけではなく、核兵器のない世界を目的としていますが、そのためには、当然のことながら、必要となる国際的環境の整備が求められます。米国の一方的なミサイル防衛システムの開発や宇宙武装の脅威など、戦略的安定に悪影響を与える極めて破壊的な諸要素に対し、国際社会の注意を喚起しようとロシアが声を上げていることを、残念ながら貴台は見落としていらっしゃるようです。
また、日本がどこの国の「核の傘」に依存しているかはよく知られています。このことは、貴台が的確に表現されているように、「こんな思いを他の誰にもさせてはならない」という言葉で表された被爆者の平和への思いとまったく矛盾しています。当然、第2次世界大戦により70年前に3千万人が犠牲になったロシアや旧ソビエト連邦の国民は、どれほど平和が尊く貴重であるか熟知しています。
市長様、貴台の書簡には、70年前、どの国が実際に広島と長崎に核爆弾を投下したのかについては言及がありません。しかし、それは世界中で知られています。私が思いますに、この国こそ貴台の「抗議」の対象ではないでしょうか。
松井市長、残念ながら、貴台の批判は完全に見当違いです。
駐日ロシア大使 エヴゲーニー・アファナシエフ
◇
■松井一実・広島市長の抗議文
ロシア連邦大統領
ウラジーミル・プーチン閣下
駐日ロシア連邦大使館特命全権大使
エヴゲーニー・アファナシエフ閣下
繰り返される貴国の言動は、いかなる事情があるにせよ、被爆者の「こんな思いを他の誰にもさせてはならない」との平和への思いを踏みにじるものであり、強い憤りを覚える。
また、折しも今月27日から開催される核不拡散条約(NPT)再検討会議の成功に向け、平和首長会議を含め国際社会全体で真剣に取り組みを進めている中でのものであり、到底許し難い。
そもそも貴国にはNPT締約国として核軍縮に誠実に取り組む義務があるはずであり、NPT再検討会議を成功させるためにも、核兵器の非人道性に十分思いを致し、自らの責任を果たすよう強く要請する。
2015年4月3日
広島市長 松井一実
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