東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

金銭解決制度 不当解雇助長しないか

 裁判で不当な解雇と認められた労働者に、企業がお金を払えば退職させられる「金銭解決制度」の検討を政府が始める。現実的な解決との見方があるが、不当解雇を助長することにならないか。

 政府の規制改革会議が導入を提案したのは、裁判で「解雇無効」の判決が出た場合、復職せずに金銭補償で退職する制度。乱用されないよう、労働者側が申し出た場合にのみ適用するとしている。

 労働者が生活の経済的な基盤を失うことになる解雇には、厳しい制約がある。

 企業の業績が著しく悪化した場合に行われる整理解雇は、人員削減しなければ会社の存続が難しく、役員報酬や給与削減などで手を尽くした場合でしか認められない。それでも不当な解雇は後を絶たない。

 提案の背景には、訴訟になった場合でもほとんどが金銭での和解などで解決している現実がある。金銭補償による解雇を制度化することで解決金の水準が固まる。裁判を起こす余裕のない中小企業の労働者が少額の解決金で泣き寝入りせず、一定の水準の金銭を受け取れるようにすべきだという考えがある。

 ただ懸念は消えない。制度化されることで、心無い経営者は「カネさえ払えば不当解雇というやり方で従業員をクビにできる」と考えないだろうか。不当解雇という法律違反を、結果として容認してしまうことにならないか。

 不当な解雇は景気が悪化したときに増える。リーマン・ショック後の二〇〇九年、労働問題で労働基準監督署への訴えは五十四年ぶりに四万件を超えた。賃金不払いが一番多く約三万五千件。ついで不当解雇が八千八百件余り。不況の波をかぶったときに、あってはならない扱いを受けるのは弱者である労働者だ。

 同様の制度は小泉政権時代にも検討されたが、労働側の反対や解決金の水準をめぐる経営側の意見対立で見送られた。

 圧倒的な多数与党を背景に、安倍政権は政策全般に力ずくが目立つ。強引に動かせば必ず弱いところにしわ寄せがいく。

 「金銭解決」の制度は、米国やドイツ、英国などで実施しており、現実に即してみると労働者側に利益があるとする意見がある。もし、懸念される不利益を上回る利益があるなら、労働者の側から導入を求める提案が出てくるはずだ。力ずくと拙速は避け、それを待つべきだろう。

 

この記事を印刷する

PR情報





おすすめサイト

ads by adingo