「ブログ読ませていただきました」
警察署の生活相談室でシマダは言った。鯨は(まじか!)と思った。柔道かラグビーをやっていそうなまるっこくて背の低いシマダは猫のような愛嬌のある目をして笑う。白髪まじりなので灰色に太ったペルシア猫みたいだ。
「ああいう風に書かれちゃうとね~」
心の中でシマダすんまそんと思った。次にシマダは扉の方を指差した。
「アマノです」
ガチムチイケメンが扉から顔を半分のぞかせた。
「おお」
「全然若いのじゃないです」
ええ、そんなこと言っちゃう?
今回警察署に呼ばれたのは、牟礼鯨が金沢で暴力沙汰を起こしそうな人物かどうかという品定めというとこらしい。それを聞いて鯨はおかしくなって吹き出しそうだった。文学フリマ金沢事務局山崎代表はとことん優等生キャラだ。牟礼鯨に批判されたぐらいで音をあげて勝手に恐怖心を抱き、妄想の階上に妄想を重ねて挙げ句の果てに警察に泣きついたのだ。おいおい、鯨がネット上で相手にしてきた犬どもに比べれば牟礼鯨なんてサガミオリジナルくらい安全だぞ。
「こういう炎上キャラでやってきたんですよ。向こうが先手を打って来るんで、そしたら打ち返す。しっぺ返しです」
「そういうキャラというのは分かりますが、ならやりかえさなければいいじゃないですか」
「それならまず山崎に言ってやってください。いろんな人をけしかけて鯨にちょっかいを出すなと」
「うーん。でもねあんまりこういうのが長く続いちゃうとね。警察は仲直り業務ばかりやっていればいいってもんじゃないんですよ。私たちも本来やらなければならない仕事がありますし。あなただってこんなことしてても利益にはならないでしょう」
警察の皆さん。同情致します。山崎代表に少しは警察さんのことも考えてあげる余裕があれば良いのだけれど。
「とりあえず牟礼鯨さんの人となりは分かりました。文章やブログは本部でも読ませてもらってるのでそれで審査させていただきます。もしかしたら警告なども文書で出させていただくことがありますのでその時はお願いします」
「あいっす」
「ブログではあまり攻撃しないでくださいよ。警察でも読ませてもらっていますからね」
「そういえば最近アクセス数が多いのは警察さんが読んでいらっしゃるからなんですね」
最近このブログのアクセス数はうなぎ登りだった。
「アクセス数といえばあなたのブログ検索したらランキング上位のほうにありましたよ」
「いえいえ、そんな」
「僕のこと、だいぶアホっぽく書いてありましたよ。ここの署の名前書いてあったらどうしようかと思いましたよ」
「脚色と思ってくださいよ。署の名前とか役職は書きませんから。出世とかに響くと悪いんで」
役職の話が出たときにシマダの猫のような細い目に一瞬だけ虎のような強い光が見えたのは気のせい、だったのだろう。鯨は話題を切り換えた。
「じゃあ今度はシマダさんのこと良く書きますね」
「絶対ですよ。ちゃんと読みますからね」
シマダはペルシア猫のような愛嬌のある目に戻って笑った。
鯨は愉快な気持ちになって警察署を後にした。前のハンダはいけすかない奴だったけれど、シマダはまた会いたくなる警察官だった。山崎代表にひとつ感謝するなら、それはさまざまな警察官と会う機会を作ってくれたことへだろう。それは鯨のように普通に暮らしている平凡な人間ではなかなか経験できることではない。それがたとえ牟礼鯨を追放するための策謀だったとしても、貴重な出会いをくれた山崎代表にはもし対面することがあるのなら「うぬぼれるなよ」とだけ言いたい。