社説:親の監督責任 限界に配慮した最高裁

毎日新聞 2015年04月10日 02時30分

 小学生が校庭でサッカーの練習中に蹴った球が道路上に転がって交通事故につながった。保護者の親は責任を負わなければならないか−−。

 親の賠償責任が争われた民事訴訟で、最高裁が「親に賠償責任はない」とする判決を言い渡した。

 民法は、責任能力に欠ける子供などが事故を起こした場合、監督義務者が賠償責任を負うと定める。監督義務を怠らなければ免責されるが、被害者を救済するため監督義務は幅広く解釈され、ほぼ一律に親の責任が認定されてきた。

 予想できない事故について、親の監督の限界を認めたのは初めてだ。社会の多様化や核家族化が進み、家族の誰かが四六時中子供を見守れる環境はなかなか望めない。不慮の事故に近い事案で、監督責任を問うのは厳しいとした結論は理解できる。

 事故が起きたのは、2004年だ。愛媛県内の小学校の校庭で、当時11歳の小6男児が放課後、友だちとフリーキックの練習をしていた。蹴った球が、ゴール後方の高さ1.3メートルの門扉を越えて道路に転がり、オートバイを運転していた80歳代の男性がよけようとして転倒した。男性は足を骨折して寝たきりになり、約1年4カ月後に亡くなった。

 遺族が男児と両親らに賠償を求め、1、2審では男児に過失があったとして、両親に1100万円を超える賠償を命じていた。

 最高裁は「フリーキックの練習は通常、人に危険を及ぼすような行為ではない」とした。その上で、そうした行為にまで親の監督責任を問えるのは、「(結果を)具体的に予見できていたなど、特別な事情がある場合に限る」との考え方を示した。

 個別の事案であり、判決を一般化するのは難しい。男児がふざけて外に球を蹴り出していれば、異なる結論になった可能性がある。

 それでも、監督する親の立場に、判決が一定の配慮をした意味は小さくないだろう。社会の中で家族の責任が強調される場面は少なくない。ただし、子供を見守り健全に育てるには学校や地域の力も欠かせない。

 今回の事案は、校庭でのできごとだ。球が外に転がる危険性があれば、フェンスを高くするなどの対応が取れなかったのだろうか。

 ボール遊びが禁じられている公園は少なくない。せめて校庭開放の時ぐらい子供は思い切り球を蹴りたいだろう。学校を含め、大人の側が目配りをして環境作りを進めたい。

 判決は、一定の条件下で親の免責を認めただけだ。社会生活上のきまりや交通ルールに反すれば、子供自身も含めて賠償責任は問われ得る。親の子供に対する適切な指導やしつけは大切だ。それも肝に銘じたい。

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