下手な創作の「×」と「×」

猛暑が続いております。
体力的にも精神的にも試されている今日この頃。
奈良崎で御座います。



暑さに負け現実逃避の手段として
創作活動を始めることにいたしました。

空想の世界では誰もが主役。
素晴らしきかな創作活動。

7月を迎える前に作品が完成いたしました。
睡眠時間を削ってまでやった甲斐があったというものです。

タイトルこそまだ付けておりませんが、
珠玉のパニックホラーでございます。
普段から怪奇現象をご報告させていただいている私。
その経験と、知識を総動員しての最初にして最高傑作。

さっそく製本して、高坂の本棚に忍ばせましょう。
普段無口な彼がどんな表情を見せてくれるのか・・・
胸が高鳴ります。

目的があればこその行動力!
すぐさま原稿を印刷して製本所へ向かいます。


お屋敷の敷地を抜けて市街地へ自転車で30分。
以前見かけた製本所へ向かうと・・・

定休日でした。

仕方ありません。別の製本所を探しましょう。

私の記憶が確かなら、あの交差点を曲がると・・・






道に迷ってしまいました。

土地勘のない場所での迷子は心細いものです。
しかし、そんな迷えるフットマンな私にも神はいました。

なんと!目の前に製本所があったのです。

小さな佇まい
コンクリート剥き出しの壁
古めかしい看板

これも何かの縁です。
製本依頼のついでに帰り道も聞いてしまいましょう。

扉を開け中に入ると受付の女性がいました。
年の頃はハタチと少しでしょうか。
極端に色白な肌と、長く黒い髪、虚ろな目。
声をかけるのを戸惑ってしまいましたが、
見た目で仕事人を判断してはいけません。
消え入りそうな声の女性に精一杯の笑顔で
珠玉のパニックホラー(無題)の台本を渡しました。

料金も破格の安さ!しかも納期も早い!
なんて消費者に優しい会社なのでしょうか。
今後もお付き合いをしたいと思える会社です。

料金を払って原稿を渡し、帰り道を聞いて帰路へ。

カバンもお財布も軽くなり自転車のペダルも快調です。

鼻歌でも歌いながら自転車をこいでいると、
道で子供が泣いています。
迷子でしょうか?
怖い時代です、変質者と誤解されるのも怖いですが、
子供が泣いているまま見ぬふりできません。

自転車を降り、手で押しながら近づきます。

奈良崎「ぼく?どうしたの?」

子供は下を向いたまま泣いています。

奈良崎「おとこのこだろ?はなしてごらん?」

子供「ないの・・・えぐっ・・・えぐっ」

横隔膜に泣き癖が付くくらい泣いています。
可哀想に・・・

奈良崎「なにがないの?いってごらん」

子供「つづきがないの・・・つづけないの・・・」

奈良崎「つづき?・・・????なんのつづき?」

子供「このままだとォ・・・オわれナヰのォォォォ」

顔を上げた子供に顔は無く、縦に裂けた傷がありました。
傷口から歯のようのものが生え中央からは長い舌。

子供「つヅきヲぉぉおぉォオォォ・・・チョうダぃヨぉォォ」

悲鳴を上げる暇なんてありません。
飛び退くように子供から離れると自転車に飛び乗ります。
一目散に逃げ出しました。
この歳で子供から逃げるなんて・・・恥ずかしい・・・

とか冗談を言っている場合ではありません。
全力でペダルを回します。
恐怖とパニックでフリーズしない自分に驚きです。
経験って怖い。

振り返ると「子供だと思っていたもの」が追ってきます。
しかし首から下は子供のまま速度は遅いものです。
悠々と逃げられましたが、何なんでしょうか?

また異界に入ってしまったのでしょうか?
何にせよ、私は今までの私ではありません。
恐怖体験を重ね知識と経験を持つ中級者です。
この異界からすぐにでも出口を見つけ帰ってみせます。

気がつくと空は真っ白で黒い雲が浮いています。
反転世界なのでしょうか?

とりあえず、落ち着いて考える場所を探しましょう。
全力で自転車をこぎました。

街を走ると商店街に入りました。
誰もいない商店街を抜けると確か・・・駅が・・・



・・・駅がありません。
道を間違えたのでしょうか?
いや・・・

しまった・・・

商店街を走っても走っても・・・商店街・・・

閉じ込められた・・・

空間がメビウスの輪のように繋がっているのでしょうか?

商店街に閉じ込められてしまいました・・・
立ち止まって絶望していると

カン・・・



カラン・・・



カン・・・


金属を引きずる音・・・

振り返ると・・・

ゴルフクラブを持つ男と金属バットを持つ男・・・
墨を塗ったよりも黒い肌
目は緑色に光り歯も口の中も真っ黒な男が五人
ゆっくりと近づいてきました。

「ツづキヲ ヲイてュヶえエエヱ!」

ヲイて?おいて?・・・置いて!?
置いてゆけ?何を?・・・つづき?続き?

意味がわかりません。
今回も逃げようと自転車のハンドルを握りしめると・・・


ベチャ・・・


手がベトベトしました・・・

自転車を押す手が軽くなりました。
不意に下を見ると・・・

自転車がドロドロに溶けて地面に広がっています。

考えている暇はありません。
とりあえず逃げなければ・・・

相手の要求を理解できない今
目の前にあるのは撲殺死体になる私の未来だけです。

地面を蹴って走り出すと・・・


ガツン・・・

何かにぶつかりました。
道の真ん中で?何に?
頭をさすりながら前を見ると
無限に広がっていた商店街はそこになく
道を塞ぐように壁がそそり立っていました。


え・・・?


後ろから男たちがゆっくり近づいてきます。

とりあえず逃げ道を探さねば・・・

すぐ近くの扉の空いていたパン屋に飛び込み奥へ・・・
不法侵入でしょうが、異界に来てしまったのです。
そうも言ってられません。

裏口から抜け出して走り続けます。
心臓と脇腹が痛みます。
こんな精神状態で健全な走りなんてできません。

追って来る気配はしませんが・・・

誰かに見られているような視線を感じます。

空には無数の銀色のカラスが飛んでいます。



私の上空を・・・



直感で理解しました。

カラスは私の亡骸を狙っていると。

隠れる場所を見つけなければいけません。

どこに?

遠くから子供のような声が聞こえます。
「あの」子供の声が・・・
カン・・・カン・・・
と、そう遠くない場所からも聞こえてきます。

心臓が締め付けられます。
冷や汗も止まりません。
肺が空気を深く吸ってくれません。

今回こそマズいです。

異界にいる事は理解できます。
でも、理由もわかりません。
出口も思い当たりません。

そして・・・

異界に「迷い込んだ」のではなく・・・


「連れてこられた」のです。


異形の者が要求をしてました。

私に何かを求めているのです。

しかし、よこせと言われて渡すものに覚えがない・・・

答えられない・・・応じる手段がない・・・


そうなったら・・・





このまま永遠に彷徨うか


異形の者に食われてしまうか・・・


どちらかでしょう








もうダメなのでしょうか?

もうダメなのでしょう・・・




そう思うとヒザがガクガクと震えます
声が出ません
視界がゆっくりと狭くなります
このまま・・・





あ、

新しいエクストラティーのレシピ・・・
伊織に渡しておりません。

なんてこった・・・

私としたことが・・・

帰らなくては・・・


そう思ったとき、





ガシャーーーーーーーン!




近くの建物の窓が大きな音を立て割れました

ガラス片が飛び散り無数の万年筆が飛んできました。

逃げ惑う私。

追い立てられるように袋小路に追い詰められ
男達に囲まれてしまいました。


撲殺確定でしょうか?

カバンを投げつけて活路を見出そうとします。

投げつけたカバンは黒い男に当たり・・・それだけでした。

男たちとの距離が

3メートル・・・

2メートル・・・

どんどん近づいてきます。










男たちの後ろで





何か紙を破く音がします

何か紙をグシャグシャにする音がします

何を食べている音がします


ゆっくりと思考回路が動き出します。



何故 パニックにならないのか

何故 怪異が近づきこそすれ襲わないか

何故 いつもより冷静でいられるのか

何故 怪異に既視感があるのか

何故 こうも簡単に状況把握ができるのか






怪異どもの影から声がします

「コレで・・・オわれノレゥ・・・」

知っていたのです

私はこの怪異たちを知っているのです





怪異たちが去っていきます

私はここでようやく理解しました

彼らが求めていたのは 渡し損ねた原稿のラスト

彼らは・・・私の創作した・・・怪異であると


私が原稿の最後を渡していなかったので・・・

現れてしまったと・・・


しかし

私は主人公ではありません



登場もしていません


怪異がいなくなった後
元の世界に戻っている感じもしません

物語はバッドエンドで終わりますが
閉じ込められる終わりではありません


こんな事ならば
創作ホラーではなく
「スペース大河内2~大河内 対 メカ大河内~」
のプロットを書いておけば良かったと公開しました


・・・



・・・・・・・・・




どうやら
何も起きなさそうです

このままお給仕の生活に戻れないのでしょうか?

しかし


この正解での私の役割は終わりました・・・

この世界は私をまだ返してはくれません・・・

続きを書けと?・・・いやいや!

終わった話の続きほどつまらないものはありません。

用済みの私はこの世界にとって・・・









・・・・・・・・ボトっ

視界が赤く染まります

首筋に思い液体のようなスライムのようなモノが

首筋が焼けるような痛みを感じます

薄れゆく意識の中で




「用済みは養分かエサか・・・」

という、作中の言葉を思い出しました。



私は用済みのようです



痛みが首筋から顔全体まで広がってきています。

目が焼けるように痛い・・・

耳の奥で何かが膨らんでいる痛みがします・・・

唇がグズグズと崩れる感覚がします・・・

熱くて・・・痒くて・・・・痛くて・・・









熱さが・・・



































「・・・きさん」
















「奈良崎さん」







え?

「奈良崎さん!お出迎え!準備いい?」








藤堂執事がいました。

目の前に?・・・はい・・・目の前に

堂々執事がいます



玄関の前に私がいます。


鏡を見ると

燕尾を着て、虚ろな目をした私がいます。


藤堂「どうしたの?お迎えだよ?」






どうもしています

白い空は?

怪異は?

どうして玄関前に?

え?

今日はお給仕の日?

目も、唇もあります。

火傷のあともありません。





状況整理のできない私ですが

お出迎えのお時間です。


お給仕をしましょう。


奈良崎で御座いました。






追記

お給仕が終わり着替えていると

シャツとベストの間に赤いドロドロしたものがありました

お風呂場で耳に水が入ったようで片足でトントンしたら

ドロリ・・・・と赤い物が出てきました


驚いて固まっていると

赤いドロリとしたものは

シャワーの水に流されていきました。


鏡を見てみると唇の裏側が縦に軽く裂けていました。

部屋の万年筆が根こそぎ無くなっていました。

古い知り合いが置いていったゴルフクラブが
部屋の壁に刺さっていました。


本棚に知らない本がありました。

カテゴリー: 奈良崎 — Swallowtail 10:15