憧れと見えない結果
夜の散歩が快適な季節になりました。
月を見ながら夜の散歩・・・
夜道の車と
不審者と誤解されない立ち振る舞い
メガネはいつも心の中に
奈良崎で御座います。
毎日のお仕事というものがあります。
毎月のお仕事というものがあります。
毎年のお仕事というものがあります。
そして・・・
数年に一度のお仕事というものがあります。
今回はそんなお話。
人形供養というものがあります。
古くなった人形は縫いぐるみの供養を
お焚き上げにて供養するのが一般的なようです。
大旦那様と大奥様・・・だけでなく
近隣にお住みでらっしゃるご近所様
使用人の親類にまで手を広げ
行き場のなくなった人形たちを
盛大にお焚き上げの儀式を一括にて行う
一大イベント・・・が行われました。
・・・が、それは今回とは別のおはなし。
で・・・私と篠宮執事の目の前には・・・
目の前には・・・
「色々な理由で」お焚きあげられなかった人形の山。
異常な数が私たちの目の前に・・・
全部こっちを見てるのは・・・
誰かの悪戯でしょうか?
篠宮「さあ早く終わらせて帰りましょう」
奈良崎「執事・・・誰かの視線を感じませんか?」
篠宮「今私の視線を感じているんでしょ?」
奈良崎「はぁ・・・」
篠宮「仕事始めて私が他所を向けは感じませんよ」
奈良崎「そういう話じゃなくて・・・」
幻聴ではなく誰かの笑い声が聞こえます・・・
奈良崎「執事笑い声が・・・」
篠宮「わっはっは!」
奈良崎「執事・・・?」
篠宮「え?笑ってほしいとかそいう話じゃ?」
奈良崎「違います」
篠宮「そうでしたか・・・」
人形の目が赤く光ってます・・・
奈良崎「執事人形の目が!!」
篠宮「ガラス玉で可愛いですよね」
奈良崎「光ってますよ!」
篠宮「職人さんの精魂込めた逸品ですね」
奈良崎「赤く光ってますよ?」
篠宮「ウサギさんの人形ですか?」
手元だけを見て黙々と整理していく篠宮執事・・・
浮かぶ人形が篠宮執事を取り囲んでいます。
執事は下を向いたまま作業しています・・・
気がつかないのでしょうか?
執事に人形が飛びかかります。
奈良崎「執事!危ない!」
篠宮執事に飛びつき間一髪で人形をかわしました。
奈良崎「執事・・・大丈夫ですか?」
篠宮「わあああ!前が見えない!」
執事の頭には黒いビニール袋が被さっています。
奈良崎「今取りますね・・・っ?」
執事に近づこうとした時・・・足に違和感が・・・
小さな人形が笑いながら私の足を掴んでいます。
奈良崎「うわぁあああああ!」
篠宮「奈良崎さん?どうしたんですか?前が見えない!」
奈良崎「足に!人形が!人形が!!」
執事にも人形がいくつも飛びついてきます
篠宮「うわああああああ!」
奈良崎「執事!!」
篠宮「奈良崎さん!悪戯はやめてください!」
奈良崎「違います!!僕じゃない!!」
間抜けな会話でも目の前の危機は間違いありません。
もがいてももがいても組み付く人形は増えています。
篠宮「うわあああ・・・・・・・・」
奈良崎「執事いいいい!」
篠宮「・・・」
もうダメなのでしょうか?
ここで私は死ぬのでしょうか?
奈良崎「あ~あ・・・ここまでか・・・」
自分の諦めの良さが口に出ました。
恐怖で目も開けられません。
その時・・・
声「兄ちゃん・・・もう諦めたのか?」
誰でしょうか?
声「兄ちゃん・・・返事しないと・・・」
何ですか?
声「兄ちゃんごと・・・斬っちまうぜ?」
斬る・・・?
斬ると・・・血が出る・・・死ぬ・・・痛い?
痛いのは嫌です
痛いのは困ります
痛いのは御免こうむります
奈良崎「痛いのは・・・嫌で・・・」
言い終わる前には
時代劇の音とは違う斬撃の音がして
ボトボトと音がしました。
顔の近くで風が吹いたような気がします。
体の重みが減っていきます。
更に風が吹くような感覚がしました
前髪が切られている様な感じもします
それが何回も続いたあと・・・
静かになりました。
恐る恐る目を開けると
目の前にステッキを持ってビニールを被る男。
声「若いくせに諦めのいい男だね」
奈良崎「すいません・・・執事・・・」
声「兄ちゃん・・・苦労するぜ?」
辺りにはバラバラになった人形たちが散乱しています
声「やれやれ・・・年経て妖怪化でもしたのかね」
奈良崎「怖かったです・・・」
声「かわいそうに・・・お焚き上げてやろうかね」
バラバラの人形は未だ動きを止めません。
必死にこちらへ向かってこようと動いています。
奈良崎「でもこれは我々の手には負えませんね・・・」
声「まぁ・・・本職に任せようか」
奈良崎「ですね・・・」
声「でさ・・・ちょっと頼まれてくれないかい?」
今回はよくわからない経験でした。
前が見えないという別人のような
ビニール袋を被った篠宮執事の手を引いて帰りました。
前が見えないのならビニール袋を取ればいいのに・・・
何なのでしょうか?意味はわかりません。
しかし・・・勉強にもなりました。
そう思うことにします。
人形の供養は素人が出来ることではない。
ビニール袋を被ると前が見えない。
大事なこととして覚えておきます。
木のステッキで人形と前髪が切れたこと
あの時「だけ」別人のようになってしまったこと
気になった私は後日篠宮執事にお手紙を書きました。
そして・・・そのお返事が今ここにあります。
~奈良崎さんへ~
お手紙ありがとうございます。
人生には色々な事があるのです。
座頭市に憧れた少年時代もありました。
ただそれだけです。
口調が変わるのはZONEに入っただけなので
奈良崎さんも頑張ってください。
追伸
ステッキは早く動かせば大体の物が切れます。
だだそれだけです。
し の み や ☆
やはり色々奥が深い・・・
ステッキ・・・大事にしようと思いました。
奈良崎で御座いました。
前髪は少しだけ切れていました。