「鋏男だった頃」と読めます

年の瀬・・・でございますね。
使用人も年末の大掃除の準備で
大忙しでございます。

奈良崎で御座います。


掃除をしなければならない私ですが
目の前に古めかしい本が・・・

手に取ると装丁が手にじっとり吸い付くような・・・
まるで本が汗をかいているような・・・
口に出すのもはばかられるような冒涜的な・・・
平常心がガリガリと削られるような・・・
なんともおぞましい本が一つ・・・

紅茶の倉庫の中から出てきました。
使用人が集まるってくると司馬執事の姿が・・・

「では奈良崎くんが責任もって修復してください。」

そう言うと執事は行ってしまいました。
第一発見者なんてロクなものではありませんね。

日誌にしてもよいと許可を得たのが救いです。

部屋にて叫び出したくなるような気持ちを抑え
本を開いてみました。

どうにも保存状態が悪いせいか
所々虫食いやページの乱丁が酷いものでした。
意味深な赤い染みでページが張り付いてもいました。


以下原文のままお伝えを致しましょう。

解読できない部分は※で表記をします。




僕はいつからここにいるのだろう。

気が※いたらここにいた。

ここには誰もいない。話す※もいない。

最近はネズミも見なく※った。

時※台の鐘の音も壊れた※かな?

鐘の音が※※えることもなくなった。

あの鐘の音は煩くて嫌※※ったし丁度いい。

春が来て・・・夏※来て・・・

秋が来て・・・※が来て・・・

※ればかり繰り返し。

※族も・・・ここにいたと思う・・・

ずっと会っ※※ない・・・

本当にいたのかも疑※※思えてくる。

ときどき誰かがや※※来る。

若い人、年老※た人、男、女。

誰も帰らない。帰さない。帰して※※けない。

※※だけは覚えている。忘れてはいけない。

たったひとつ覚えてい※※束だから。

ここに来る人は怖※※・・・悪い人・・・

だから※してはいけな※※だと。

よくわからないけ※※※らしい。


倉庫にあった大きな鋏が宝※※。

僕の※※が彫ってある宝物。

名前があるってことは僕のだよね。

使い込みすぎて※※てしまったけど、

手入れの仕方も忘れ※※まったけど、

動かすといい音がするんだ。

鳴らすと※※※※落ち着くんだ。

大※※しないと。

これを見ると皆驚い※※声を出す。

きっと※※鋏を奪おうとしていたに違いない。

※※奪われないように鋏を持つと※※※いく。

きっと僕※※※※※※※諦めるんだ。

僕※※※※※人なんていないんだから。

でもみんな※※※きり。

それっきり※※ことがなかった。

追い※※※※の途中でいなくなる。

僕※鋏だよ。似※※でしょ?って※※たいのに。

すぐ※※※言いたいのに・・・

ずっと考えてい※※※※※※て欲しいのに・・・

鋏の音を※※せたいのに・・・

一度見失うともう会えない。

地下※の奥にいるのかな?

でも地下室の奥は洞窟※※※ていて怖い。

入っ※※※けない気がし※※※※※※。

お化けが※※らどうしよう・・・そう※うと・・・



久しぶりに※が来た。

最近誰も来ないので珍しい。

メガネの男が二※※。

坊主頭※髭の眼鏡の男。

変※形をした眼鏡の男。

何をし※※たんだろう・・・

どうせ悪い人※※※。

※※ら話をしている。

うまく聞き取れない。

髭の眼鏡は「しふとよべ」と口癖※※※※言っている。

もう一人は違う名前で※※※いる。

それくらいしか聞き取れなかった。

※※※※※※※うか?

そんな※※※※える。

ひど※暴力的な動きをしている。

※※※悪い人だ。

帰し※※いけない。


宝物の鋏を取ら※※※いけない。

帰れな※※※やる。

二人が移動を※※た。先回り※※※※う。


一瞬髭の眼鏡と目が合っ※※※※た。

気づ※れた。早く何とかしないと。


廊下の曲がり角で待※伏※※て・・・

鋏を持つ手に力※入る。


足音が※※えてきた。

もうすぐ※※曲がって現れる。

目があったとき髭の眼鏡は笑っ※※がした。

※※※※悪い人だ。

もうすぐ※※る。


誰も来ない。

足音はあった。

でも誰※来ない。

曲がり角から覗いても誰もい※い。

きっと逃げた※だ。

許さ※い。


(ページが破れていました)


みつけた。

玄関の階段を下※て帰るつもりだ。

帰してはいけ※※。

※※※下で待ち伏せしてやる。

後ろか※近づいて・・・


階段を下りる足※※する。

二人分だ。

もうすぐ・・・もう※ぐ・・・


・・・足音がやんだ。

僕の真上で。


階段の板の穴から上を覗※た。

その時変な眼鏡の男と目が※※※。

気づかれた。


慌てて飛び出したときには・・・誰も※※※った。


お化けだろ※か?

お※※だろうか?

悪い人じゃ※くてお化け※※たんだ。


(ページが破れていました)


考えれば考※※ほど怖くなった。

もう部屋で一人で過ごす事にした。

もう誰が来てもいい。

約束なんて※※でもいい。

お化け※※る家なんて誰も来ないだろうし。

鋏があっ※※お化け相手に勝て※気がしない。


(ページが破れていました)


何日たっ※※ろう・・・

食べるも※※無くなって何日目だろう・・・

部屋から出てない※※※外にはある※※※※けど。

お化けが来たら※※。

怖いくらいなら※※なくてもいい。

すっかり痩せて※※ったけど。


(ページが破れていました)


人が来た。

たくさん来た。

家を壊し※※。

・・・と思う。

壁や屋根が※※音がする。

部屋から出てないからわからないけど。

※※※お化けがいなくなれば・・・


(ページが破れていました)


夜になった。

お化けがド※※叩いている。

※ッドの下に隠れた。

※アが壊されて誰か来た。

背の高い髪の長い男だ。

お化け・・・ではない※※※。

少し怖い。

※※気づいていない。

早く帰ってくれないかな。

いや駄目だ。

僕の鋏に気がついた。

取り返さ※※ては。

慌ててベッドの下から出て飛びかかろ※※※※。

でも・・・

飛びかかる前に男が鋏を手に※※※まった。

「返してよ」って言おうとしたら・・・

言おうとしたら・・・

※※鋏の柄を壊してしまった。

宝物だったのに。

名前の入った僕だけの鋏だった※※。

そう思ったとき・・・僕は泣いていたんだと思う。

男は困※た顔をしていた。


(ページが破れていました)


男は次の※※しい鋏を持ってきた。

誤って壊して申し訳ないと※っていた。

男の持ってきた鋏は大きさも同じくらいの鋏。

綺麗な新品の鋏。

高そうな鋏。

でも僕のじゃ※※。

家も半分壊され※※※僕には居場所もない。

家もなければ守る約束もない。

もうどうでもいい。


男は喜ばない僕を見て言った。

鋏は戻らないけど新しい約束をく※ると。


仲間をくれ※と。

暖かい食事と紅茶とやりがいのある仕事。

※※※くれると。


新しい鋏でも使い込めば大事になると。

それを使う機会も頑張ればもら※※・・・と。



僕はその男と壊れた家を出た。

壊れた時計台のある家には戻らないと決めた。

赤いシミを見て夜を迎えることはないと。






以上でございます。


本の汚れや虫食いが酷く解読できたのはここまで。

とりあえず、日誌にできる部分はここまででしょう。


本はとりあえず司馬執事に提出しましょう。

なんとなく・・・ですが。

プライバシーに触れる気がしますので。


相原だけがこの本を見たときに驚いていた事も

日記・・・と呟いたていた事も

ちゃんと報告しないといけませんし。



では。

修復を終え、読み終え、日誌に書き終えたところで

私の心が乱れ切ってしまいました。

不安に叫びたくて仕方がありません。

恐らく悪い夢をみる事になるでしょう。

鋏を鳴らす音はきっと幻覚だと信じたいです。

だんだん近づく鋏の音は・・・

鋏の音は・・・

考えたくありません。


さっさと日誌を提出して忘れてしまう事にします。

では、ごきげんよう。


奈良崎で御座いました。





本の最初のページには

「僕が鋏男だった頃」とだけ赤い文字で

小さく殴り書かれていました。

カテゴリー: 奈良崎 — Swallowtail 10:00