ノックは優しくして下さい。
ドンドンドンドン!
暦の上ではもう秋なのですが・・・
秋なのですが・・・
ドンドン!
どうなのでしょう?
秋なのでしょうか?
夏が終わってないのでしょうか?
夏は延長なのでしょうか?
これがサマータイムでしょうか?
違うと思います。
奈良崎で御座います。
ドンドンドンドン!
誰でしょうか?
大事な日誌を書いている大事な時間に・・・
邪魔をしないでいただきたい。
ドンドンドンドン!
誰ですか?
夜中ですよ?
声「奈良崎~」
はいはい・・・奈良崎ですよ。
ドンドンドン!
声「起きてるか~?」
はいはい・・・起きてますよ。
今出ますから、叩かないでくださいね。
ドアが傷んでしまいますよ?
ガチャン・・・
まったく誰ですか?
奈良崎「は~い。どちらさま?」
おや・・・誰もいません。
右も・・・左も・・・いませんね。
おかしいですが・・・まあいいでしょう。
この程度の不思議など不思議ではありません。
・・・ガチャン。
さてさて、そんな事より日誌を書きましょうか。
ええと・・・どこまで書きましたかね。
そうでした。サマータイムですね。
ドンドンドン!
サマータイム・・・
ドンドンドン!
声「奈良崎~?」
声「奈良崎さ~ん?」
声が増えてますね・・・
二人ですか・・・
ドンドンドン!
声「起きてるんでしょ~?」
ふぅ・・・もう一度ドアを開けて閉めれば
ドアを叩く人が増えるんですかね?
声「はやくはやく~」
覗き穴からドアの向こうを覗くと・・・
なんだ・・・知った顔ですね。
夕浅と羽生がいました。
~中略~
さて、ドアを開けてると姿が見えない。
↓
ドアを閉めるとドアを叩く音がする。
↓
覗き穴を覗くと夕浅と羽生。
以下、数回繰り返し。
~中略~
奈良崎「で?夜中に遊びに来た理由は?」
羽生「何言ってるんですか!」
奈良崎「何を言ったらいいんですか?」
夕浅「あれだ!勉強をしよう。」
羽生「勉強ですよ!とりあえず!」
奈良崎「唐突過ぎません?」
羽生「勢いは大事ですよ?」
・・・羽生と夕浅の目がらんらんとしてます。
ドーピングでしょうか?
時間に不釣合いなくらい元気です。
・・・何を言っても無駄みたいですね。
奈良崎「何の勉強ですか?」
羽生「何の勉強をしましょうか?」
・・・質問に質問で返されました。
夕浅「奈良崎が知ってて我々が知らない事がいい。」
羽生「ソレいいですね。」
夕浅「何かあるだろ?」
知識の提供を求められているのですね。
勉強をしたいのは立派ですが、
時間と頼み方が大事だと思います。
どうしましょうか?
夕浅「経済でも、歴史でもいいぞ。」
羽生「文化でも、オカルトでもいいです。」
なんでもいいんですね・・・
『勉強しよう』というより『先生になれ』
という意図が見えてきました。
夕浅には普段から世話になっています。
羽生には普段から世話をしています。
二人合わせて『行って来い』ですね。
さて、そうなると・・・突然夜中に来た分で・・・
結果、マイナスです。
先日、吾妻に貰った書籍の検証をしましょう。
では二人に説明をして協力を仰い・・・
羽生「僕と夕浅さんでジュース飲んでるんで!」
夕浅「飲み終わるまでに準備しといて。」
ほぅ・・・
そうですか・・・
そうでしたか・・・
そういうことをいいますか・・・
~中略~
はい。お待たせ致しました。
お嬢様、お坊ちゃま。
無事に二人は催眠状態に入りました。
本当に出来ました。
半信半疑でやってみましたが、
出来るものですね・・・
さて・・・
何をさせましょう。
夕浅には猛烈な甘党になる暗示を。
羽生には椎名執事になる暗示を。
最初にかけてみましょうか。
~中略~
暗示を掛けては検証。
↓
暗示を解いては新しい暗示を。
以下、数回繰り返し。
~中略~
すごく・・・楽しいです。
こんな時間なら永遠に続けはいいのに。
しかし現実は無情です。
おや・・・もう夜明けが来てしまいますね。
私も寝ないといけません。
二人には体力が回復する暗示をかけて、
いい夢を見られる暗示もかけましょう。
せめてものお礼です。
~中略~
二人はぐっすり寝ています。
私の部屋の床で寝ているのは・・・
寝ているのは・・・まぁ・・・いいでしょう。
うつ伏せで寝ている羽生の背中を
夕浅が枕にして寝ています。
片方は気持ちよさそうですね。
羽生「空が・・・赤い・・・」
夕浅「また・・・人がいない・・・」
寝言でしょうか?
夕焼けの夢を見ているのでしょうか。
羽生「虫が・・・黒い大きな虫が・・・」
夕浅「蜘蛛の大きさじゃない・・・」
ほぅ?オカルティックな夢ですね。
興味深い。
夕浅「おじさん・・・おじさんの首が・・・」
羽生「・・・エレベーターが来ない!」
夕浅「喉が・・・喉が渇いた」
羽生「異界で・・・その世界の物を食べると・・・」
夕浅「・・・食べると?」
羽生「その世界から出られなくなるって・・・」
何で寝ながら会話してるんでしょうか?
同じ夢を見ているんでしょうか?
夢の共有なんてあるんですね・・・
しかし・・・黄泉戸契ですか・・・
そうですか。
う~ん。
怖い夢なら起こしてあげたいんですが・・・
寝ている暗示をかけた相手を起こす手順が・・・
この本には書いてないのです。
朝になれば・・・多分・・・大丈夫。
・・・うん。
大丈夫・・・だと・・・思いたい・・・です。
羽生「・・・奈良崎さんを・・・探さないと・・・」
夕浅「寝てるだろうから・・・部屋に行こう・・・」
怖い夢でも私を探してくれるんですね。
ちょっと罪悪感が・・・はい。
もうすぐ朝です。
二人には起きた時のために紅茶でも用意しましょう。
部屋の上部の窓から光が差し始めてます。
赤い光が・・・
朝焼けでしょうか?
はて・・・?
私の部屋には朝日は入らないハズですが・・・
ガチャガチャ・・・
ドンドンドンドン!
夕浅「奈良崎~」
ドンドンドン!
夕浅「起きてるか~?」
ドアをたたく音と、夕浅の寝言・・・
ドンドンドン!
おかしいですね。
羽生「夕浅さん。でっかい虫が来た!」
夕浅「逃げるぞ!」
・・・ドアを開けてみましょう。
ガチャ・・・
誰も・・・いませんね。
・・・ガチャン
真っ赤な朝焼けが廊下を照らしてます。
それだけです。
そして・・・
ドンドンドン!
夕浅「奈良崎~?」
羽生「奈良崎さ~ん?」
寝言です・・・よね・・・?
ドンドンドン!
羽生「起きてるんでしょ~?」
ドアの向こうから叩く音・・・
羽生「はやくはやく~」
う~ん。
どういう事でしょうか?
私部屋は地下なので、その廊下に朝日は入りません。
その朝焼けも・・・いやに・・・赤いのです。
気がつけば寝ていた夕浅と羽生がいません。
部屋の上部の窓から黒くて大きな蜻蛉が見えます。
ドアを開けたときにチラっと見えたのは・・・
・・・見えたのは・・・子犬サイズの黒い飛蝗。
ドアの向こうから夕浅と羽生の声。
テーブルの上にはシャルドネジュースが赤く・・・
赤く・・・グラスの中で輝いています。
奈良崎で御座いました。
どうしましょう?
どうしたらいいのでしょうか?
とりあえず・・・この日誌を書き終えて・・・
・・・それから考えます。
・・・考えます。
・・・はい。