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【戦後70年】
特攻(4)敗戦「軍神」一転「クソダワケ」…特攻隊員の親兄弟は泣いた「誰のために逝ったのか」
「弟の軍刀をトイレの天井に隠しておいたら、誰かに密告された。父が始末書を書いて、警察に没収された。弟は誰のために、何のために逝ったのか」
さまざまな思いを胸に秘め、出撃していった特攻隊員。出撃を見送った両親は、息子が国家のために散ったと誇りに思いながらも、手塩にかけて育てた子供を失った傷は生涯、消えることはなかった。怒りと寂しさをぶつける相手もなく、ただ、耐えるほかなかったのだ。(編集委員 宮本雅史)
坂口安吾のエッセー、GHQが掲載禁止
「特攻」は、これまで戦記や小説、映画などに数多く取り上げられてきた。
連合国軍総司令部(GHQ)占領下の昭和22年、坂口安吾はエッセーで、苦悩しながらも国に殉じた特攻隊を熱烈に賛美。特攻が強要であったとしても「平和なる時代に於(おい)て、かかる人の子の至高の苦悩と情熱が花咲きうるという希望は日本を世界を明るくする」とつづり、GHQにより掲載禁止とされた。
31年には、隊員の出撃までの日常などを日記体で描いた阿川弘之の「雲の墓標」が刊行される。
高度成長期の46年に刊行された大岡昇平の「レイテ戦記」は「悠久の大義の美名の下に、若者に無益な死を強いたところに、神風特攻の最も醜悪な部分がある」と断じる一方、死への苦悩を克服し戦果を挙げた事実に「今日では全く消滅してしまった強い意志が、あの荒廃の中から生まれる余地があったことが、われわれの希望でなければならない」とたたえてもいる。
元特攻隊員自身が、死を恐れながらも出撃を待ち望む、相反する心中を描いている作品も多い。一方で、特攻隊を自己犠牲の象徴として美化し、感傷的に仕上げた作品も少なくない。