医師から3Dデザイナーに転身した瀬尾拡史氏は「サイエンスを正しく楽しく」伝えるという目標を掲げ、医療CGのパイオニアとして活動しています。子どもから大人まで科学をより正しく身近に感じられる、サイエンスCG産業の必要性を強く訴えます。(TEDxKyoto 2013より)
【スピーカー】
医師/3Dデザイナー 瀬尾拡史 氏
【動画もぜひご覧ください!】
Opening doors with 3-D computer graphics | Hirofumi Seo
12万回以上再生された、1分間のサイエンス映像
(映像が再生される)
瀬尾拡史氏:今ご覧頂いたこの映像。これは今から約5年前、当時日本で世間を賑わせていた裁判員制度が始まる1年前に、大学4年生だった私が、模擬裁判用の資料として作ったものです。
「約5年前で大学4年生?」と思われた方が多いかもしれません。私はよく35、6歳と思われていますが、実はまだ28歳です(笑)。
(会場笑)
ありがとうございます。1985年の生まれです。さてそんな私ですが、今から14年前の1999年、中学2年生の時でした。テレビで観た、『驚異の小宇宙 人体Ⅲ 遺伝子・DNA』という作品にとても感動しました。そして、「いつか大人になったら、自分でこのような番組を作る人になりたい」そう思い、大学では医学部に入って医学を学びました。
そして同時に、別のところでコンピュータグラフィックも学びました。今から約2年半ほど前に医師国家試験に合格し、医者になりました。
この3月までは、病院で写真にあるように初期研修医として働いていました。しかし、この3月でお医者さんとしての生活には終止符を打ち、この4月からは白衣を脱ぎ、……。脱ぐのに時間がかかっていますが……(笑)。
はい、お願いします。(脱いだ白衣をスタッフに手渡す)
白衣を脱ぎ、「サイエンスを正しく楽しく」、英語で言うと「Fun and Factual Science」と私は言っているんですが、この言葉を合言葉に、サイエンスCGクリエイターとして活動しています。
最初にご覧頂いたこの映像。これは、心タンポナーデ、Cardiac Tamponadeという病気を、一般の方々、皆さんのような方々に理解していただくために作った、1分間ちょうどの映像です。
おそらく、一般の皆様は心タンポナーデなんていう病気は、これをご覧になるまで知らなかったかと思いますが、1分もあれば何となくどんな病気か理解していただけたと思います。この映像、日本語版、英語版とありまして、YouTubeでは5年間でですけれども、合計もう12万回以上再生されておりまして、たくさんのコメントも頂いています。
映像の目的は、正しく楽しく理解してもらうこと
しかし、一部の専門家たちからは、時々このようなことを言われます。「心拍数少なすぎるんじゃないですか?」(笑)。
あるいは、「出血するのは主に心臓が収縮してるときじゃないんですか? 拡張している時に本当に出血するんですか?」。
「そもそも骨が緑色って変でしょ?」(笑)。
(会場笑)
こんな風に言われることがあります。誤解されている方もとても多いのですが、このような専門的なサイエンスCGを作る時に最も大切なこと。それは、常に100%正確に作ることではありません。
誰を対象としていて、どの程度理解してほしいのか? それを把握した上で、正しさと楽しさとを絶妙なバランスでコントロールする。これが、サイエンスCGクリエイターとして最も大切なことです。
そしてそのためには何を強調し、何を省略するのか? それをしっかりと判断できるだけの専門知識が必要ですし、また専門家の方々と同じ目線でディスカッションをできるほどの知識も必要になります。
「サイエンスCGクリエイター」にできること
しかし残念ながら日本には、このように「サイエンスを正しく楽しく視覚的に理解してもらう」ということを学べるような教育機関もありませんし、そしてさらに、残念ながらこの日本では、サイエンスCGというものは産業として全く確立していません。
考えてみましょう。皆さんiPS細胞という言葉をご存知だと思いますが、iPS細胞って何でしょうか? これは日本が世界に誇る技術だと思いますが、よく考えてみてください。
iPS細胞についての誰もが知っているベストセラー。あるいは、とてもわかりやすくて人気のあるiPS細胞に関する映像コンテンツなどがあるでしょうか? もしかしたら、どこかにあるのかもしれませんが、私の知る限りでは残念ながらないと思います。
そしてその理由の1つは、このようにサイエンスを正しく、そして楽しく絵や映像に落とし込めるような人材がいないからだと私は考えています。私がお医者さんになったのは、そんな複雑なサイエンス、中でも医学の世界を、正しく楽しく説明できるような、そんなクリエイターになりたかったからです。
わかりやすいコンテンツは科学と人の架け橋になる
さて、最近私はとあるところで講演会をしたんですけれども、その講演会の直後に高校生2人が私のところにやってきました。そして、こんなことを言いました。
「私たちは、生まれた時から心臓に病気がありました。そして幼い頃に手術を受けました。そのため、胸には当然傷があります。病院の先生方は何度も自分たちの病気や手術の内容について説明をしてくれるんですが、やっぱり難しすぎてわかりません。CGなどを使って、絵や映像などでなんとかわかりやすいものを作ってもらえないでしょうか?」
これは、子ども達の叫びです。いち個人として、そして私なんかでも医者の端くれとして、そしてまた大人として、これは何とかしてあげたい問題だと思っています。しかし、このような専門的なサイエンスコンテンツというのは、しっかりと時間とお金を掛けてきちんとしたものを作らなければ意味がありません。中途半端なものを作ると、それは逆効果です。誰も使ってくれません。
ですが、サイエンスというのは世界共通です。ですのでたとえ日本語のコンテンツであっても、きちんとしたサイエンスコンテンツを作れば、その後新たな大発見やあるいは大きな間違いでもない限り、世界中どこでも、何度でも使うことができます。
また、このようなわかりやすいサイエンスコンテンツがあることによって、今まで結びつかなかった、異なった分野間での共同研究を生むきっかけになるかもしれません。
そして、幼い頃の私がそうだったように、サイエンスコンテンツを見ることによって、科学に興味を持つ子どもたちが増え、そして将来の新たな科学者を生むきっかけにもなるでしょう。
また医療の世界では、患者さんやそのご家族に安心感を与えるということは、とても大切なことです。先ほどのこのたった1分間の心タンポナーデが12万回以上世界中いろんなところで再生されているということを思い出してください。
子どもから大人まで、誰もがサイエンスを身近に感じてほしい
子どもから大人まで、誰もが自分たちの病気をもっと身近に知ることができ、そして子どもから大人まで、誰もがサイエンスを正しく、楽しく理解することができれば、今よりももっと恵まれたいい世界が待っているのではないでしょうか?
最後に、その子どもから大人まで、誰もがサイエンスに興味を持ってくれることを目指して、「サイエンスを正しく楽しく」「Fun and Factual Science」という思いを込めて作った私の短い映像をご覧頂いて、私のスピーチを終わりとしましょう。
(映像が再生される)
※ログミーでは、TED Talksおよび各TEDxの定めるCCライセンスを遵守し、自社で作成したオリジナルの書き起こし・翻訳テキストを非営利目的のページにて掲載しています。
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