「斎藤」「斉藤」「齋藤」「齊籐」・・この差って何? 錦織圭が「ニシキオリケイ」ではない理由
ビジネスシーンにおいて、メールのやり取りは日々の必須業務。一方、送り先の名前を書き間違えた……なんて失態は時折ある。特に「太田さん」と「大田さん」、「伊藤さん」と「伊東さん」など同じ読みなのに、微妙に漢字が違う、なんていう場合は特に注意が必要だ。
ましてや「斎藤さん」と「斉藤さん」と「齋藤さん」と「齊藤さん」に至っては、本当にややこしい。「安全策で……」と、いちばん簡単な「斉藤さん」と表記にした時に限って、「私のサイトウはその漢字ではありません!」などと厳しく指摘されてしまうこともある。
それにしても、「斎藤さん」と「斉藤さん」と「齋藤さん」と「齊藤さん」、この「差」っていったい何なのだろうか? そもそも「差」があるのだろうか?
TBSテレビ『この差って何ですか?』(初回は4月12日よる6時30分~)取材班は、この件を徹底調査することにした。
めったに出会えないサイトウさんが多数存在
まず向かったのは日本一の品揃えを誇るハンコ屋さん、「はんのひでしま」。ここで扱う「サイトウ」の印鑑をすべて出してもらったところ、何とその数16種類! 「才藤」「妻藤」「西東」などめったにお会いすることのないサイトウさんから、「これでサイって読むの……?」という難しい漢字のサイトウさんまで。これは奥が深そうだ。そこで、名字研究家の高信幸男氏に話を伺った。
高信氏がかつて調べたときのデータによれば、日本には「サイトウ」と読む姓が31種類は存在しているはずだという。
中でも断然トップが「斎藤」で15万0494件。続いて「斉藤」が7万3424件。「齋藤」が1万7071件。そしてグッと減って「齊藤」が1111件。
以下、「西藤」「西塔」「才藤」「済藤」「西頭」と続き、さらに「西等」「佐井藤」「再藤」など日本全国で100件を割る小数派のサイトウさんが21パターン確認されているという。
その由来に衝撃を受ける
由来について伺うと、高信氏からは衝撃的な答えが返ってきた。
実は少なくとも、「斉藤さん」「斎藤さん」「齋藤さん」「齊藤さん」の4つの姓は、すべて同じ「斎藤」が由来で、残る3つの姓は「役所の人間の書き間違い」による、とのこと。
書き間違い……。
まさに冒頭で、ビジネスマンにとってご法度だと書いた事態が、役所で起きていた!?
これはいったいどういうことなのか。
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TBSテレビの新番組『この差って何ですか?』 初回4月12日(日)はよる6時30分~2時間半スペシャルです(通常は日曜よる7時)。「原料が同じなのに、とろけるスライスチーズと普通のスライスチーズ」 「美少女コンテストでグランプリを獲る子と獲らない子」 などなど、気になる「この差」を徹底解明
時は平安時代。藤原氏の一族である藤原叙用(もちのぶ)が、伊勢神宮の近くにあった役所の「斎宮寮(さいぐうりょう)」の長官を務めていたことから、「斎宮寮(さいぐうりょう)の藤原氏」ということで「斎藤」を名乗ったことが始まりだという。
それ以降、多くの「斎藤」が誕生することになるが、明治時代になると、それまで貴族や武士など高貴な人間しか名字を使うことが許されていなかったのが、国民全員に名字を名乗ることが義務付けられるようになり、多くの庶民が役所に行き、名字を申請した。
このとき人々は口頭で名字を伝えたが、当時、すべての役人が読み書きをできたわけではなかったため、
「サイトウでお願いします!」
と言われたのに対し、役人はそれぞれ思い思いの「サイトウ」を書いてしまったというワケ。
具体的には「齋藤」は旧字体で書いてしまったパターンで、「齊藤」は旧字体の書き間違い。そして「斉藤」は本来の「斎藤」の書き間違い、というのだ。
そもそも「斉」は当時「さい」ではなく「せい」と読んでいたので、単純な間違いとしか言いようがないらしい。
「斉藤さん」は「斎藤さん」の書き間違い……。取材班はこの衝撃の事実を世の「斉藤さん」に直接お伝えしに行った。
が、皆さん一様に微妙なリアクション。「今さら言われてもなぁ(苦笑)」というのがほとんどでこちらも「ですよねぇ」と応えるのが精一杯でした。
ニシコリ、ニシキオリ……、この差は?
そしてここから、さらなる疑問。漢字違いで同じ読みの「サイトウさん」で衝撃情報をキャッチしたところで、同じ漢字で読み違いの場合はどうなのだろうか? たとえば、世界に誇る日本の宝「錦織圭」の「ニシコリ」と、かつてニッキの愛称で世の女性を夢中にさせた、少年隊のリーダー「錦織一清」の「ニシキオリ」。この差はいったい?
名字研究家の高信氏によると、「ニシキオリ」は「ニシコリ」の後に誕生した名前で、元祖は「ニシコリ」とのこと。ニッキさん、すいません……。
何でも「錦織」は滋賀県大津市の「錦織郷」が由来で、この土地を本拠としていた、錦を織る技術で名をなした中国系の渡来人、錦織(ニシコリ)氏からきているとのこと。
ただ、この名残が残っているのは島根や鳥取だけで、その後全国に広まっていった「錦織」姓は、漢字表記に従い「ニシキオリ」読みになっていったということで、全国的には「ニシキオリ」読みがメジャーになっているというわけ。
調べてみれば、錦織圭選手も島根県松江市の出身。今となっては小数派となってしまった「ニシコリ」読みを、世界のメジャーに押し上げたのが錦織圭選手だったのだ。