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[ インタビュー・ライティング, 森 旭彦 ]

研究活動の生命線である科研費。毎年申請の時期になって、「どう書いたらいいのか分からない」と先輩研究者を訪ねたり、研究室の過去資料をひっくりかえし、インターネット上を走り回っても、不安はつきものです。
この連載では、科研費を申請する際のバイブルともなっている『科研費獲得の方法とコツ』(羊土社)の著者である児島将康氏が、最新版の科研費申請のコツを紹介します。申請書で、ついつい筆が止まってしまう箇所の対処法や、採択されるための秘訣、「なんとしても獲りたい!」の願いを叶えるための具体的な方法論を、研究者の目線に立って伝えていきます。初回はまず、科研費申請について平成26年度までの最新の資料を用いた傾向の分析を行い、その対策を紹介します。

ベーシック3種目は30%前後の新規採択率を確保、今後科研費獲得の競争率はやや高い傾向に

◆予算額の推移(平成26年9月12日 更新)
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出典:日本学術振興会 科研費データより

 平成26年度を振り返ると、まず前年に比べて予算額は2,276億円でマイナス105億円、助成額が2,305億円で13億円減少という結果となりました。微減傾向に見えますが、基金分が先に積み立てられて計上されているため、予算額・助成額の面では近年とほぼ変わらない状況といえるでしょう。

そうした状況を踏まえ、応募・採択件数の推移を見ていくと、近年の特徴として、新規の「応募件数」が頭打ちになっているのに、「採択件数(新規+継続)」が大幅に伸びていることが挙げられます。ここから、平成26年度における科研費の配分状況を分析してみましょう。

科研費、応募・採択件数の推移

◆応募・採択件数の推移(平成26年3月27日現在/平成26年9月12日 更新)
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出典:日本学術振興会 科研費データより

 まず新規の「応募件数」を見ていきましょう。継続の分は次年度にも100%そのまま継続されるため、変化の特徴を捉えるためには新規の応募に注目します。すると平成20年度・21年度に比べ、22年度から減少していることが分かります。その後、23年度には増加に転じ、再び24年度には減少します。この減少には研究期間の制度変更の影響があります。

かつて「基盤研究」は期間が最短2年間で上限が4年間までに設定されていました。しかし平成22年度より「最短が3年間、上限が5年間」とされる制度変更が行われたのです。

一見、研究期間が1年伸びただけに見えますが、これが研究者にとっては大きな変化でした。まず、制度変更前は2年ごとに応募できていたのに、変更後は最短でも3年ごとにしか応募できなくなります。そして期間が何年であっても、与えられる研究費の総額はほぼ一定です。科研費を使える期間が伸びれば、それだけ1年間で使える額が減ります。仮に1,000万円の科研費が与えられた時に、期間が2年間であれば年間500万円ずつ研究に当てられますが、3年間になると1年当たり約330万円です。要するにこの制度変更は、研究者にとっては実質的な配分額の「目減り」だったのです。こうした背景が、応募件数の停滞となって統計データに現れているのです。

その一方で、この制度変更は、採択件数を上げることに貢献しています。期限の最短が3年間となったことで、最短2年間だった頃に比べ、応募件数の総数が減少する分、採択される件数は相対的に増加します。新規の「採択件数」を見てみると、平成22年度の制度変更時には一時24,000件まで減少するも、23年度には3万件にまで増加し、「基盤研究(C)」や「挑戦的萌芽研究」、「若手研究(B)」などのもっともベーシックな3種目の新規の採択率は目標とされていた30%を達成しています。科研費の大幅な増額があり、拡大した背景もありますが、制度変更も採択件数増加に大きく貢献していると考えられます。

科研費の配分状況

◆科研費(補助金分・基金分)配分状況一覧(平成26年度 新規採択分)
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出典:日本学術振興会 科研費データより

 こうした背景をふまえ、平成26年度における基盤研究(C)や挑戦的萌芽研究、若手研究(B)といったベーシックな3種目の科研費の配分状況を見ていきましょう。表の中の「研究課題数」、「採択率」に注目してください。

挑戦的萌芽研究は残念ながら、ここ2~3年間は採択率30%を保持していましたが、応募件数が激増したこともあり、採択件数は減少し、平成26年度では新規採択率は25%程度で推移しています。

その一方で、基盤研究(C)と若手研究(B)ともに採択率29.9%です。ほぼ30%前後の新規採択率が確保されているため、非常に良い状態といえるでしょう。かつて、最も採択率が低い時には25%を切っていました。つまり4人に1人程度しか採択されていなかったのです。現在では3人に1人程度が採用されていることから、良い傾向にあるといえるでしょう。予算が安定して推移することが期待できることから、この傾向は今後も続くことが予想されます。

科研費対策の有無による採択率の差は拡大していく

また、今後の見通しとして応募件数の増加傾向が続くことが挙げられます。現在、地方の国公立大学、さらに私立大学の、科研費獲得へのモチベーションがどんどん高まってきています。さらに高等専門学校(高専)も力を入れているところが目立ちます。こうした動きに合わせて採択件数も増えていけばいいのですが、残念ながら今のところは横ばいの状態であることから、今後は科研費獲得がさらに難化する可能性は否定できません。科研費申請への対策をきちんとしている研究機関とそうでないところの採択率の差はより拡大するでしょう。

【第2回】-研究種目分析~若手研究者がねらうべき種目とは に続きます

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kojima_prof_s児島将康(こじま・まさやす)
淡路島生まれ。1988年宮崎医科大学大学院博士課程修了(医学博士)。
日本学術振興会特別研究員を経て、1993年国立循環器病センター研究所生化学部室員、1995年より同室長。2001年より久留米大学分子生命科学研究所遺伝情報研究部門教授。
研究テーマは未知の生理活性ペプチドの探索と機能解明。グレリンを中心とした摂食・代謝調節の研究。趣味は山登り、クラシック音楽、読書、映画鑑賞など。山は槍ヶ岳が一番好き。「研究は山登りであり、研究者は山に登らなければならない」と、思いませんか?クラシック音楽はもっぱら聴くだけ。CD購入枚数は年間500枚以上で、最近は完全に飽和状態。活字中毒。出張で時間があれば映画館へ。著書:「科研費獲得の方法とコツ」(羊土社)kaken00_book科研費獲得の方法とコツ 改訂第3版〜実例とポイントでわかる申請書の書き方と応募戦略
単行本: 221ページ
出版社: 羊土社; 改訂第3版 (2013/8/9)
言語: 日本語
ISBN-10: 4758120439
ISBN-13: 978-4758120432
発売日: 2013/8/9
商品パッケージの寸法: 25.7 x 2 x 18.2 cm

 


森 旭彦(もり・あきひこ)
サイエンスとの様々な接点を描写してゆくライター。
理系ライターチーム『パスカル』のメンバーであり、研究者インタビューや、大学のメディア制作などに関わっている。