(2015年4月9日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

酔いに迷える群れ、日本の「サラリーマン」─アーバントライブ(6)

残業し、仕事が終わってからも同僚と飲む風習は今も根強く残っている〔AFPBB News

尽きざる生産勤しみ励み
世界の人に我等は送らむ
泉の水のこんこんと 絶え間なく出づる如
産業振興 産業振興
和睦一致の松下電器*1

 そろいのつなぎ服を着た労働者が斉唱したこの歌は、今や遠い昔となった1960年代、1970年代の高度成長期には、かなり典型的な日本の企業文化を表していた。

 戦後のこの目覚ましい成功の大半は、西側で主流だったものとは大きく異なる企業活動を軸にして築かれたものだ。

 大企業では、このシステムには複数の要素があった。年功序列型の賃金体系や終身雇用制度、労働者が主導する生産性改善運動といったものだ。

 その中核にあったのは、昔の大名と雇われサムライの関係と比較する人もいる雇用主と従業員の間の社会契約だ。従業員は会社への絶対的な忠誠と引き換えに、業績とは無関係に毎年増えていく賃金を得た。この制度は大企業で働く人だけに適用された。

 多くの労働者――ほぼ全員が男性――は、配偶者よりも会社に大きな愛情を示し、不必要な残業に何時間も費やし、夜遅くまで同僚や取引先と酒盛りをした。

時代に合わなくなった制度・慣行、マゾ的な残業に終止符を

 このような制度をあざ笑うのは簡単だ。だが、キャッチアップ時代には一定の合理性があった。今日の日本では、全く意味をなさない。

 日本は今、より良い電子機器を作れる企業(ソニーのような会社)はあまり必要としておらず、そうした機器を不要にするソフトウエアを生み出す企業(アップルのような会社)をもっと必要としている。

 日本には、キャリアの途中で進路を転換できる多彩な労働力、それも別の会社に転職するだけでなく、全く別の分野に転進できるような人材が必要だ。数合わせのためでなく、新たな考え方を取り入れるために、もっと多くの女性を労働力に取り込む必要がある。日本が抜け出せずにいる企業文化は、そうした課題に適さない。

*1=社歌の日本語は『キーワードで読む松下幸之助ハンドブック』(PHP総合研究所研究本部編)より。FTの原文記事にはありませんでしたが、この歌詞の冒頭には「新日本の建設に 力を協(あわ)せ心を合せ」という言葉が入るようです(JBpress編集部)