ミッシングリングを・・・埋めたくて。
桜も咲き春の訪れの自己主張も如実に見え始めたこの頃、
お嬢様、お坊ちゃま。
いかがお過ごしでございましょうか。
奈良崎で御座います。
ほんの少し、ほんの少しづつではありますが平常運転の兆しの見えはじめた今ではありますが。
お屋敷の扉が閉ざされていたあの時間の事をお話させて頂こうと思います。
『何か出来る事があるはずだ。』
と執事に呼び出され、お屋敷に集合する私たち。
並んでいる執事の話を聞いてる我々。
「お嬢様、お坊ちゃまがご帰宅できない今だからこそ出来る事がある。」
と、椎名執事。
「自分を見つめなおして、お屋敷をキレイにしましょう。」
と、豪徳寺執事。
確かに掃除をしてキレイなお屋敷でお迎えするのは気分がいいものです。
「では!はじめましょう。」
時任執事の掛け声で掃除がスタートしました。
散らばり掃除に精を出す我々・・・
そんな私と申しますと・・・
「奈良崎君は水上君と野宮君と一緒にベルを磨いてください。」
了解しました。単純作業は大好きです。
ベルを集めてリボンを外し、まずは洗剤とスポンジで・・・キュッ・・・キュ・・・
~間~
水上「だいぶキレイになったんじゃない?」
野宮「でも磨いてないのと比べると・・・まだまだだよね。」
水上「あらら・・・確かに・・・」
~間~
水上「コレってさ・・・研磨作用の強いスポンジと研磨剤って組み合わせたらどう?」
野宮「その方が早そうだね。えっと・・・研磨剤は・・・」
奈良崎「じゃあ、自分はスポンジを調達してきますね。」
~間~
奈良崎「ただいま~」
水上「おかえり~」
野宮「じゃ、はじめようか。」
~間~
奈良崎「あの時はすごく揺れましたね・・・」
野宮「揺れたね~。皆無事でよかったよ・・・ねぇ・・・今揺れてない?」
水上「揺れて・・・ないですね・・・」
~間~
野宮「こういう作業をすると無口になりがちだよね・・・」
水上「確かに・・・集中しますよね・・・」
~間~
奈良崎「コレで半分ですかね・・・結構時間たって・・・ませんね・・・」
水上「時間進まないね・・・」
~間~
野宮「・・・ふぅ」
~間~
水上「コレで・・・あと何個だっけ・・・」
~間~
水上「コレで全部!けっこうキレイになったね。」
奈良崎「なりましたね・・・」
野宮「我々・・・頑張ったんじゃない?」
お互いの目を見てうなずき合う我々・・・
三人の間に漂う達成感。
その時・・・
金澤「すっごい研磨剤持って来ました!!」
野宮・水上・奈良崎「・・・」
金澤「自分の分担が終わったんで手伝いに来ました!」
金澤の手にはいかにも業務用な研磨剤が・・・
金澤「コレをちょっと布に含ませて・・・磨くと・・・」
野宮・水上・奈良崎「・・・ぉぉおおお!!!」
テンションが一気に上がる一同
今までの疲れもどこ吹く風。
疲れのせいか、半分以上悪ふざけのノリで一心不乱にベルを磨きだす我々。
さっきまで磨いたはずのベルが更に光沢を放ちピッカピカに・・・
気がつけば吾妻や夕浅もまじってベル磨き大会になっていました。
日も暮れかけ満足げな表情でベルに反射する自分の顔を覗き込んでいると。
「終わりましたか?」
と、椎名執事。
椎名「キレイになりましたが・・・キレイすぎて使い込んだ味も風情もなくなりましたね。」
完全に苦笑しています。
「でもまぁ、使い込んでいくうちに、味も出てきますよ。」
と、豪徳寺執事。
心地よい疲れと達成感の中ベルを元通りに戻していくと・・・一つ足りません。
皆で探したのですが、余震の心配もあり探すのは次の日になりました。
そして次の朝・・・
九条「奈良崎さ~ん。ベル持って来ました。」
奈良崎「見つかったんだ。ありがとう。どこにあったの?」
九条「皆の手伝いをしようと思って、昨日の昼間に持って帰ったんだけど・・・」
奈良崎「・・・持って帰った?」
嫌な予感がします。
九条「うん。でも磨かなかったんで返します。」
奈良崎「・・・」
九条「じゃあまたね~」
ベルを渡し、満面の笑顔で走り去る九条。
奈良崎「・・・え?」
慌てて追いかける私・・・
あの時は・・・自分のベスト以上の速さで走れた!・・・と思います。
もちろんベルは全部キレイに磨かれお嬢様、お坊ちゃまのテーブルの上に乗りました。
そんな私たちの一日の話でございます。
地震の日から一ヶ月経ち、日誌に綴らせていただきました。
ベルも一ヶ月が経ち少しづつ味が出てきているのでしょうか・・・
本来ならば、このような話はまだ適切ではないのかもしれません。
未だ不謹慎な部分があるのかもしれません。
しかし、空白になってしまったお屋敷の時間に我々が、
お嬢様、お坊ちゃまにできる事を、我々の日常を少しだけお話したく綴らせていただきました。
愚かな奈良崎のほんの小さな自己顕示欲をお許しくださいませ。
奈良崎で御座いました。