ミッシングリングだらけの年明け

2011年も無事に滑り出す事が出来ました。
これもひとえにお嬢様、お坊ちゃま、奥様、旦那様・・・
そして大旦那様のおかげであると、
初日の出を眺めながら心に刻んだものでございます。
ご挨拶遅れました。
奈良崎で御座います。




さて初めての深夜のお給仕が終わり、
暖かい布団へ向かうことなく
私が向かったのは東京都から離れたある島でした。

電車を乗り継ぎ、山道を抜け、
小さな港で一人用の手漕ぎボートを借り受け、
当家が以前に所有していた島へと向かったのです。

潮に流されながらも到着すると
そこには古びた建物が・・・

入り口も風化し、長い間放置されてきた様子が伺えます。
中へ入ると荒果て、埃のかぶったソファーや机が並び、
奥へ奥へと進んでいくと地下への入り口でしょうか?
何かの研究施設のように感じます。
内部の様子が変わっていくのを肌で感じていると・・・
大きな部屋に出ました。

まるで映画のような光景でした。
機会で作られた人型の人形の骨組みがズラ・・・っと
まるで整列しているかのように並んでいました。
大きさは私よりも少し小さいくらいでしょうか?
入り口から順に一つ一つ番号が振ってあります。
奥へ行くほど新しいのでしょう、
ほとんど大小のドラム缶の繋ぎ合わせのような「AAA号」
何となくですが、番号が進むにつれ、
無知な私にも技術の進歩が伺えます。
しかし最後の機体だけはハンガーが破壊され姿がありません。
壊れ方も、まるで内側から壊されたような様子です。
無くなっている機体の直前の番号は「KNB号」
一体何体製作していたのでしょうか・・・

壊れたハンガーには番号が削られていました。
「KNBの次だから・・・KNCかな?」
と思っているとメモのような紙が挟まっているのを確認しました。

開いてみると・・・
『KNB号は稼働時間、性能において問題なし。
当機体は最終的な改造を行い開発を終了。
この機体を持って開発の終了とする。
IDは【KNB-EX】とする』

けーえぬびーえくすとら・・・

ケーエヌビーイーエックス・・・


う~ん・・・






「誰だっ!!」

突然誰かの叫び声が聞こえました。

やましい事は何もありませんでしたが・・・
気がついたら走り出していました。
自分の小心者っぷりが嫌になります。

私がこの施設にいる事も、大旦那様から話は通ってると聞いています。
目的も含め、先方の許可も頂いているはずです。
何より、完全に廃棄された施設で、完全な無人島だと聞いています。

銃声のような音や、激しいエンジンのような音も聞こえました。

無我夢中で逃げ回り、見つかりそうになっては
隠れ・・・逃げ・・・隠れたまま眠り・・・起きては逃げ・・・

ふと、手元の時計を見ると1月3日午後10時をまわったておりました。
「しまった・・・
明日からお給仕だったのに!このままでは間に合わない」

とりあえず自分の命を優先させて頂きます。
しかし!次の日のお給仕に間に合うように帰ってみせます!

出口もわからず歩き回ると・・・大きな部屋に出ました。
ラボ・・・でしょうか?
大きな水槽が沢山並んでいます。
机や椅子には古びた白衣がかかっていました。
埃は積もってましたが、電気や水道はまだ健在のようです。
水槽の水が循環しているように見えます。
何より・・・水槽の中に何かが漂っています。
どう見ても人型・・・いや・・・人間?




いや・・・そんな馬鹿な・・・




水の中で人間は息ができない・・・




水槽の中の人(?)はみんなどこか見たような・・・







どこでだろう?・・・


ん?・・・みんな同じ顔な気が・・・




どこで?



思い出せない・・・




胸の鼓動が激しくなるのを感じました。
息が苦しく・・・いや、息が詰まるようです。
眩暈や激しい頭痛もしていますが、
何故か目が離せません。


水槽の中の人たちが私に気がついたようです。
ガラス越しに私をみてニヤニヤ笑っています。
同じ顔・・・同じ体つきで・・・
違いがあるのなら
彼らの左胸に痣なのでしょうか?文字がありました。

・・山・・・・岡・・川・・・・・・平・・・・林・・
・・・・辺・・・岸・・・橋・・・?


目の前に見たことの無い風景画フラッシュバックし、
薄れ行く意識の中水槽の水がボコボコと泡立ちました。

ラボの明かりが消え、明かりは水槽のライトだけになりました。
いや・・・なったような気がしただけかもしれません。

ふと視線を感じて横を向くと・・・
目の前の鏡に映った自分の顔がニヤっと笑った気がしました。


そして気がついたときは自室のベッドの上でした。

お恥ずかしい話でございますが。
「遅刻だ!!」と叫びながらベッドを飛び出したところで
正気に戻りました。

時計を見ると1月4日午前2時でした。

はて?

行くときは9時間かかったのに何故でしょうか?
夢だったのでしょうか?
しかし・・・
走り回ったときについた傷はちゃんとあります。
擦り傷もまだ生々しいまま寝巻きが赤いシミを小さく作っております。

部屋の隅には
行くときに買ったリコーダー
特急券の領収書
食べていなかった食料の入った鞄
執事と大旦那様に提出した「夏!使用人だらけのBBQキャンプ」の草案
そして・・・目的地の地図


気軽に「改装すればそのまま寝泊りができるかも」と喜び、
不用意に施設に入ったのがいけなかったのでしょうか?

こんなに記憶が曖昧になる事や、
不安定な精神状態が度々起きるのでしょうか?

不安になり、執事に相談しましたが。
「大丈夫だ」「正月ボケですか?」「年寄りをからかうな!」
と相手にされませんでした。

最初の意見だけ採用することにいたしましょう。



気付けにと、濃い目に入れたアスカコートノーブルを
勢いよくガブガブと飲み干し、グイっと口を手の甲でぬぐいまして、
新年のお給仕に向かったのであります。

腑に落ちない事は多々ありましたが、
今年も宜しくお願いいたします。

今年も、昨年以上の幸福と充実感が訪れますように。


年明けから。長文、乱文で申し訳ございません。

奈良崎で御座いました。







追記

未だに解決していない事を羅列しておこうと思います。

・目的地の地図
調べましたが日本地図にも載っておらず、
そのような島があった記述も事実も無い・・・との事でした。
・島へ向かう途中で買ったリコーダー
メーカーの名前が無く、アルトリコーダーよりも大きく、
該当する楽器はありませんでした。
未使用なので牧村にあげようと思いましたが、断られました。

・BBQキャンプの企画書
執事にも確認しましたが、「受け取っていない」との事。

・当日の奈良崎の足取り
「少しだけ実家に帰る」と言い残してお屋敷を出たとの事。
(時任執事談)

・私の左胸がズキズキ痛みます。
打った覚えもありません。内出血をしているようです。

・どうやって帰ってきたのか
一番の謎です。

・起きた時に握っていた「KNB-EX」のプレート
お屋敷の書庫にも、外の図書館にも手がかりはありませんでした。
悔しいので、次の朝に一番最初にこの話をして、
鼻で笑ったフットマンの部屋の扉に接着剤ではりつけてやりました。

カテゴリー: 奈良崎 — Swallowtail 22:00