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山縣美礼

山縣美礼

 - ,,,  08:00 PM

肩の力を抜こうよ。上海で学んだ「即時対応」ワークスタイル

肩の力を抜こうよ。上海で学んだ「即時対応」ワークスタイル

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『台湾・日本国際共同企画川端康成三部作』上海公演終演後のアフタートークの様子
(左から)劉亮延 (『少年』演出)、川口隆夫(『少年』出演)、筆者(『水晶幻想』演出・出演)、通訳者、ノゾエ征爾(『片腕』演出)


舞台制作者・パフォーマーとして活躍する山縣美礼(やまがた・みれい)さんは昨年末、台湾と日本の国際共同企画として、川端康成の短編からインスピレーションを得た舞台、『川端康成三部~少年・片腕・水晶幻想~』を中国・上海で上演。盛況とともに幕を下ろしました。

舞台の裏側では現地の中国人スタッフの働き方に「日本との違い」を感じて驚きの連続でしたが、その体験は山縣さんに新しい価値観をくれたようです。山縣さんは「日本のやり方を基準にしている意味なんてない。もっと日本人は肩の力を抜こうよ」と言います。上海で体験した出来事とは? そして中国で仕事をする上で踏まえておくと役に立つこととは? 以下、山縣さんによるコラムです。


2014年11月、台湾の劇団と共同で行っている演劇のプロジェクトを、中国・上海の演劇フェスティバル、Shanghai ACT International Contemporary Theater Festivalで上演する機会をいただき、日本から8名のキャストとスタッフを連れて2日間の公演を行った。

開始から3年目を迎えた、川端康成の短編3作品を舞台化した本プロジェクト。演出家は台湾人と日本人、キャストは日本人・台湾人・中国人という国際的なプロジェクトである。これまでは台湾と日本で上演を行ってきたが、中国本土での上演は初めてだった。また、日本側のメンバーのほとんどが中国本土に行くのは初めてという状況で、行く前は不安が多かった。


旅立つ前。中国のイメージはどこか、物々しかった


ガイドブックを見ると「中国ではミネラルウォーターの偽物が売っているから気をつけて」と書いてあるし、メディアから伝えられる中国のイメージでは日本の国旗を燃やされているシーンもあった。

それに、上海の劇場から用意された上演用契約書には「中国の憲法を攻撃する内容のものではないと約束する」ようにと書かれていた。更に脚本は政府からの検閲を受けるために提出せねばならず、3週間ほど審査を待たなくてはいけなかった。

また、上演に必要な大道具や機材について、本番1カ月以上前から現地スタッフと細かいやりとりをしていたのだが、本番2週間前に突然連絡が途絶えるなど、入念な準備をしたい日本人としては「本当に大丈夫なのだろうか」という気持ちをもったまま、上海へ飛び立つことになった。


降り立った。上海と東京に、違いを感じた


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外灘(ワイタン)の夜の様子


到着した当日、上海に駐在員として住んでいる父の従兄弟が、私とスタッフを夜景のきれいな外灘(ワイタン)や、美味しい小籠包のレストランへ連れて行ってくれた。電車に乗りながら「上海のみんなはなんて明るくて楽しそうなのだろう」と思った。夜22時でも電車は賑わっていて、子供も大人も大声でしゃべっている。静まり返って、スマホを見ながらうつむいている人ばかりの東京とは全然違う。誰も騒がしい人や子供をにらんだりしていない。賑やかでいいなあ、と思ってこっちもテンションが上がる。

外灘の夜景はピカピカしていて派手で、後ろを振り返ると植民地時代の名残がある美しい西欧風建築の建物がライトアップされている。活気あるエリアで、たくさんの観光客がワイワイとこの風景を楽しみにたくさん押し寄せていた。

父の従兄弟は日本の商社に勤務していて、駐在員としての日々をとても楽しんでいるようだった。上海は日本食もあるし、中華料理も美味しいし、職場の中国人は残業せずパッと帰るらしく、なんだか羽を伸ばして仕事ができているらしかった。

そして、「中国では強い女性と結婚をしているというのが、男性にとってのステイタス。週末は男性が家族のために料理をするのが文化なんだって」と話していた。日本と全然違う文化に、わくわくがさらに強まった。


仕込みの前日。日本ではありえない想定外に、焦りが募る


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東京と上海のスタッフの照明の打ち合わせの様子


今回の公演は仕込みが1日しか取れないため、円滑に進められるよう、仕込みの前日にスタッフとのミーティングをお願いした。劇場側の舞台監督、技術スタッフは全員時間通りに現れ、私たちのニーズに全て応えようとひとつひとつ資料の項目を見ていった。

しかし驚いたことに、1カ月前から用意をお願いしていたものが、ほとんど用意できていなかった。「本番では舞台上にロッカーが必要です」「大きな黄色いパネルを用意してください」と、必要な大道具、仕掛け、照明機材のサイズや種類を全員に伝えなくてはいけなかった。

「事前に用意をしておけば労力も減る」という考えはなく、「オッケー!明後日の本番までには必ず用意するね」という返事に衝撃を受け、不安が増していった。

例えば、今回上演する作品ではとても重要な大道具であるロッカーは、サイズや写真などを事前に正確に伝えてあった。本番では役者がそこに入ったり、持って移動をしたりするので、必要なのは掃除用具を入れるような細身のロッカーだ。しかし、「はいはい、ロッカーはありますよ」と見せられたのは明らかに渡していた写真や寸法とは違う、巨大なキャビネットだった。「これでもいいんじゃないの?」と聞かれた時はさらに驚いた。

また、現地雇用をお願いしていた音響スタッフにも、そのミーティング中に「本番の日に予定が入っちゃいました。大丈夫!明日までには必ず誰かを用意します!」と言われ、その言葉を信じるしかなく、ひとまず解散した。


慌ただしい仕込み、そして上演。中国人スタッフはよく働いた


ドキドキしながら迎えた仕込みの当日、私たち日本人より先に劇場の中国人スタッフは到着していて、「何をしたらいいのか言ってください」と指示を待ってくれていた。通訳を介しつつ、大量の業務をこなすために慌ただしく準備が始まった。スタッフはとっても働き者で、親切で感じがよく、必要なものにすぐ対応をしてくれた。「もう少し早くこれが用意できていればストレスも少なかったのに...」と思ったこともあったが、スタッフも結局本番までになんとかすべてのものを用意してくれた。

なるほど、中国では「即時対応」が可能なのだとわかると、諸々お願いをしやすかった。「写真と映像の撮影をしてくれるカメラマンを探してくれますか」「どこか練習用に借りられる部屋はありますか」と本番前日に聞くと、「了解!(リャオチー)」と言って、すぐに準備をしてくれた。日本であれば、「事前に言ってくれないと厳しいですね」と確実に言われていただろう。


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上演作品:『片腕』、演出:ノゾエ征爾、出演:菊沢将憲、陳元元、中川晴樹
男が女に片腕をひと晩貸してもらう物語


例のロッカーも、その朝、スタッフが注文の前に私たちとサイズ・見た目の確認をしてから電話で注文をしてくれ、5時間後には劇場に配達されていた。この対応の早さは素晴らしいなと思った。日本だったら都内でもおそらく「本日中の配達はちょっと難しいです」となんやかんや言われて終わるだろう。結局、通訳もスタッフも、大変キツいスケジュールの中、マイペースながらもこちらのニーズに一生懸命応えてくれた。新しく来た音響スタッフも、本番の音のきっかけを頑張って覚えてくれた。

しかし、胸を撫で下ろす暇もなく、ロッカーは翌日、本番のリハーサルをしている最中に壊れてしまった。造りが弱かったため、女優が中に入ったら底が抜けてしまったのだ。代替物を探している時間がないので、結局演出を一部変えて壊れたまま使用しするしか手がなかったが、大きな問題はなく、無事に2回の本番をなんとか終えられた。面白いことに、「ロッカーが壊れても冷静に日本人の演出家が対応したことに、中国人スタッフが驚いていましたよ」と通訳さんが伝えてくれた。

つまり、彼らは「自分たちだったら怒り散らしているはずなのに、日本人は冷静に対応をした」ということに感心していたのだった。


上演して感じた、忘れがちだけど、大事な視点


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上演作品:『水晶幻想』、演出・出演:山縣美礼
発生学者の夫を持つ不妊に悩む夫人の話。舞台では砕いた卵の殻を使用


本番中も、文化の違いを知ることができて面白かった。上海の観客は、劇場を自由に出たり入ったりしていた。舞台写真を撮影していたカメラマンも、観客に遠慮せず、堂々と舞台の前を横切ってシャッターを切っていたが、観客はそれを気にしていなかった。ちなみに日本では、観客が好きな時に来て、好きな時に帰ることは通常なく、カメラマンは本番時にシャッター音を消すカバーをかけ、1カ所から静かに撮影する。


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『片腕』より。男が女の片腕を隠して街中を歩くシーン


そして私たちの作品を見た上海の観客は、両日客席を埋めてくれて、とても温かい拍手を私たちに送ってくれた。本当に来て良かったと一同思った。アフタートークでは質問をたくさんいただき、「日本から来ているカンパニーだから見たかった」という理由で来てくれた人が多かったことを知った。おおらかで自由な、歓迎の空気を劇場の中で感じた。日本側スタッフも現地スタッフとやりとりをする中、彼らの親切心に感動していた。


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上演作品:『少年』、演出:劉亮延、出演:川口隆夫
川端康成が高校時代に恋に落ちた同級生の少年、清野との手紙を題材にした作品


私は、「こんなに優しい中国人に対して、なぜそもそも偏見というものが生まれるのだろう?」と考えた。

誰でも「未知のものへの恐怖」を持っている。特に日本は島国で、つい160年前まで鎖国しており、文化的には大陸である中国より閉鎖的ではあった。その日本では政治的・歴史的な出来事やメディアのイメージや、日本への観光客の姿を見て、訪れたことのない中国をさし、「中国人はこうだ」と決めつける節がある。しかしそれが「偏見」であることを、どれだけの人が気づいているだろうか? 「偏見」は人々の気持ちを楽にするものである一方、「なんとなくあるイメージ」が「本当である」かのようにする力を持っている。文化には上も下もないのに、日本人は中国人よりも文化が「上だ」と思っているのかもしれないが、実際はただ文化が「違う」というだけだ。その「違い」に日本人は恐怖を感じているため、偏見が生まれるのではないか。

今回のプロジェクトで出会った中国人の人たちはみんな律儀で、真面目で、笑顔がいっぱいで、日本人に対して偏見のかけらも持っていなかった。人と人が初めて会い、一緒にひとつのものに向かって仕事をする時は、人間と人間同士の交流であり、国と国の交流が行われているわけではないのだから。隔てなく、文化の「違い」を認識してさえいれば、公演だけでなく、仕事もスムーズに進むはずだ。


帰国して思った。日本人はもっと肩の力抜いたら楽になれる


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東京、上海、台北のスタッフ・キャストの集合写真


入念に、事前に準備をしたがる日本人だが、その準備や想定通りにいくとは限らない。そのために何かが起きた時、対応が遅れることが日本では多々ある。また、「事前にしっかり準備をしたい」という精神があるせいで、「ぎりぎりで時間もないけれどやってみよう」というチャレンジ精神を消してしまっていないだろうか

演劇の話を例に挙げると、日本では通常、公演を打つためには1年以上前から助成金を申請したり、劇場やスタッフ・キャストのスケジュールを押さえたりと準備をする。ただ、1年先のことなんて誰がわかるはずがあるだろう、と思う。1年先の誰かのスケジュールを押さえたところで、その人にもこちらにも変化なんていつだって起きる可能性がある。こういったやりとりの中では「全部がうまくいくことを前提に」話が進められるが、その確信は一切ない。

一方で、台湾や中国は1~2カ月先に行う公演であっても助成金申請ができ、お金が下りることがある。対応がとにかく早いのだ。今回の公演も、上演の3カ月前に上海の劇場側から「やらないか」という話をいただいた。そして、与えられた時間の中で「準備期間は短いけれどやってみよう」と台湾の演出家と決めた。

日本と中国のスタッフががっちりと協力をして踏ん張ってくれたおかげで、なんとか上演を終えることができた。「日本ではあり得ない」ことばかりだったが、日本を基準にしていることに意味なんかないのだ。

「今の日本人はなんだか暗いよね」と日本人出演者も中国に来て言っていた。電車の中で人の「迷惑」なんて気にせずに、喋ったっていいじゃないか。きっちりスケジュールを立てて、手帳を予定で埋めても、まわりを気にしていても、頑張って「いい人」や「迷惑かけない人」になっても、しんどいだけだ。笑顔がなくなるまでそんなに頑張っていたら、喜びを感じられないんじゃないか。

予定していた通りに電車が来ないことだってあるし、スケジュールがプラン通りに行かないこともある。人生もプランしていた通りになんていかない。そんな時は、あんまり真剣に考えすぎないで、その場でできる限り対応したらいい。想定通りにいかなくても、結果的には面白いことが待っている。「もうちょっと肩の力を抜いていいよ」。驚きとわくわくでいっぱいの中国での経験は、私にそう教えてくれた。


山縣美礼(やまがた・みれい)
香港生まれ、アメリカ・ドイツ・日本育ち。パフォーマー、声優、プロデューサー、翻訳者、語学講師。株式会社ミレオン 代表取締役。「台湾日本国際共同企画 川端康成三部作」を2012年に始動し、これまで本作品を台北・東京・上海で上演。個人の作品はアメリカ、韓国、ポーランド、中国で上演。声優としてNHKワールド、Eテレ、ベネッセの番組に出演中。英語のほかにフランス語、ドイツ語、イタリア語を話す。
川端康成三部作 : www.kawabatatrilogy.org
山縣美礼 : www.mireiyamagata.com

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