「米軍と自衛隊が切れ目なく行動する機会が増える。アジア太平洋、世界中で対応することがこれで可能になる」

 来日したカーター米国防長官が強調したのは「世界中」という言葉だった。今月末に予定される日米防衛協力のための指針(ガイドライン)改定の意義を訴えた。

 実現すれば、自衛隊が世界各地で米軍の活動を補完することになる。日米同盟の大きな質的転換と言っていい。

 米国は財政難で軍事費を抑えたい。日本は対米協力を強めて抑止力の強化を図りたい――。日米の思惑が一致し、新ガイドラインは日米のグローバルな協力を打ち出す見通しだ。

 旧ソ連の日本侵攻を想定したのが、1978年のガイドライン。朝鮮半島危機など周辺事態を想定したのが97年のガイドライン。今回は地理的制約を取り払い、宇宙やサイバー空間も協力対象となる。

 ここまで拡大すると、もはや「防衛協力」という言葉自体が適切かどうかも疑わしい。

 「脅威が世界のどの地域において発生しても我が国の安全保障に直接的な影響を及ぼし得る」(昨年7月の閣議決定)という考え方に基づくのだろうが、日本防衛を主眼としたレベルを踏み越え、世界規模で活動する米軍への「軍事協力」という意味合いが強まっている。

 日米ガイドラインは両政府の「政策文書」という位置づけであり、制度上、国会承認は必要ない。しかし、実質的な意味は大きく、安全保障法制のベースでもある。本格的な国会論戦も始まっていないのに、これだけの大転換に踏み切れば、安倍政権の姿勢が問われる。

 しかも、中東ホルムズ海峡での機雷除去を停戦前でも可能にするため、新ガイドラインで地理的な限定を外す方針だ。集団的自衛権行使の新要件にあてはまるかどうかで公明党と見解が割れるテーマである。与党内の議論さえ煮詰まらないまま対米公約に踏み切るようでは、国内の広い理解は得られまい。

 「中東、インド洋、地球の裏側は考えられない」。周辺事態についての国会審議で当時の小渕首相は述べたが、「地球の裏側」も活動範囲となるだろう。他国軍も加わった共同訓練が増え、中東やインド洋、南シナ海などで日本の軍事的な存在感が高まることが想定される。

 専守防衛を掲げる自衛隊の変質をもたらし、防衛費の拡大を伴う可能性がある。日米合意を急ぐあまり、国内の議論を置き去りにしてはならない。