京都新聞TOP> 政治・社会アーカイブ > 越冬する野宿者たち
インデックス

(2)日本の「第三世界」

「助かる命」救えぬ医療状況
支援活動の1つ「布団敷き」。新年を路上で過ごす人があふれていた(1月3日夜、大阪市西成区)
 日本で最も野宿者が集中する大阪市西成区の釜ヶ崎では、年末から2月にかけて、「越冬」活動が実施される。民間の越冬実行委員会やキリスト教施設など、さまざまな団体がほぼ毎日、野宿の現場を訪ねる「夜回り」を行い、毛布や寝袋、みそ汁やおにぎりといった食べ物を配布する。けが人や病人には、消毒薬やカゼ薬も手渡している。
 ぼくたち「野宿者ネットワーク」の活動を含めて、年間を通じて実施する夜回りは、平均して1週間に2、3回程度だ。冬に夜回りを増やすのは、厳しい寒さによって路上死が多発するからだ。
 大阪府立大の黒田研二教授らの研究によれば、大阪市内で餓死や凍死、治療を受ければ治る病気などで路上死した野宿者が2000年に計213人を数えた。自殺する野宿者も非常に多い。
 路上死が心配なのはまさにこれからで、1、2月がピークになる。寒さの上に、日雇いの仕事が激減する「お正月」が、野宿者にとって、実は最も厳しい。路上死を減らすには、できるだけ毎日夜回りをするしかない。危険な状態な人がいないか、1人1人に声をかけて確認するのだ。
 ぼく自身、夜回りを始めてから20年近くの間に、幾度も路上死した人の第一発見者になった。公園の片すみでカチンカチンに硬直している人を見つけ、救急車を呼んだことがある。釜ヶ崎のある市営住宅の屋上から飛び降りて自殺した人の第1発見者にもなった。また、テントの中で10日以上前に亡くなったまま誰にも気づかれず、夜回りしていた時に、ぼくたちが発見した人もいた。
 夜回り以外の支援活動もある。支援者が「あいりん総合センター」の軒先に布団を敷いて野宿者に寝てもらい、徹夜で警備している。これは「布団敷き」と言い、連日行われる。毛布も何もなく寝ている人、雨にぬれて震えている人らに呼びかけ、寒さをしのいでもらう。正月前後になると、最大100人近くになる。
 それでも、ひっそりと亡くなる人がいる。長く野宿者にかかわる活動をやっていると、どうしても避けられない現実だ。亡くなっていった人たちは、早いうちに、誰かに相談して病院に入っていれば死なずにすんだのかもしれない。
 危険な状態にある人を見つけ、救急車を数え切れないほど呼んだが、病院に運ばれてすぐ亡くなってしまうケースが後を絶たない。人間はいろいろなものに慣れていくが、社会的な支援があれば助かるはずの人々が、みすみす自分の近くで死んでいく現実には慣れることはできない。
 海外の難民問題にかかわってきた「国境なき医師団」は、ここ数年、日本の野宿者の医療問題にかかわってきた。「国境なき医師団」が先進国で活動を行うことはまさに異例だ。つまり、豊かなはずの日本は、本格的な「支援対象国」だった。「国境なき医師団」のメンバーは「大阪の野宿者の医療状況は、海外の難民キャンプでもかなり悪い状態に相当する」と言った。日本の大都会に「第三世界」が広がっている。

【2008年1月10日掲載】