●本記事について
Part1では改造と炎上、そこに付随する危険性についての話だったが、こちらでは改造という実状から汲み取れるポケモンというゲームの性質についての言及を行いたい。
記事内容上、Part1の記事からの続きとして語彙や定義を利用していくためそちらに関してはご了承いただきたい。
なお、本記事では「ゲームに対して時間を消費すること」「ゲームに対してリアルマネーを投じること」の両者を等しく「課金」と表現することとする。
もしもこちらの考え方に馴染めないという人がいたなら、せめてこの記事を読んでいる間だけでも「時は金なり」という諺を頭の片隅で意識しながら読んでみていただきたい。
●なぜ人は改造するのか
Part1で挙げた改造例のケース2(一見大丈夫そうに見えるが矛盾を抱えた個体)やケース3(実機で再現可能な個体)が存在する現状を考察しよう。
そもそも人はなぜ改造してしまうのだろうか。
傍から見ると当然「勝ちたいから改造したのだろう」と一蹴されがちだが、果たして本当にそうなのだろうか。
実際に改造を行う立場に到った人物がなぜダイブボールに入っただけの通常通りのラグラージやドリームボールに入っただけのギルガルドを使用するのだろうか(当然これらは対戦そのものに影響を及ぼす個体ではあるが)。
もちろん現在は一部の特性や技を覚えたポケモンが規制され始めているため以前よりは些か難しくなってはいるものの、それでもただ勝つことだけが目的だったのであればきっと彼らは常軌を逸した改造ポケモンを生み出すことなど容易かったはずだろう。
名声が惜しかったのならば名前を変えた別のソフトを用意して改造を行うだけに留まる手段も考えついたであろうし、勝つことだけを重要視して改造を行うならそんな小細工も最初から必要なかっただろう。
つまるところ、ポケモンが好きでポケモン対戦が好きで、ポケモンによって得たものを大切に感じているからこそ改造という手段へ走ってしまったプレイヤーも少なからず存在しているということだ。
もちろん改造行為そのものは決して良い行いではない。だがしかし、同時に人の行動には必ず動機というものが存在する。
●享受する側から見たゲームとは
ゲームとは楽しいものである。それはおそらくここまで読んでくれた他ならぬあなたがよく理解していることだろう。
ゲームは楽しい。だからこそ人はときに現実のお金を支払い、ときに時間という名の金銭を支払いゲームをプレイする。人生には娯楽が必要なのだから、それは当然の行いと言えよう。
そしてそのすぐ隣では、楽しくないコンテンツからは次々に人がいなくなりやがては終焉を迎えるゲームがあったり、あるいは捨てられない何かを以て惰性でゲームを続ける人々がいたりする。
前述の通りゲームというものは人を楽しませるため、多種多様な手口を使ってプレイヤーの快楽神経に訴えかける。
しかし、それはあくまで値段(ここでは実物の金銭だけではなく時間も含む)相応のものであり、値段以上だと評価されればリピーターが、そうでなければ人は去っていくのが常である。
ここで話題をポケモンに戻そう。
では、ポケモンは果たしてどちらに分類されるのだろうか。
ポケモンというゲーム全体で考察した場合、それはおそらく前者、リピーターを獲得したゲームとなるだろう。
グラフィックや音楽、ポケモンを始めとするキャラクター、RPGゲームとしての種類の豊富さなど、日々様々な分野からファンを獲得している。
しかし、「ポケモン対戦」を個別の対戦ゲームとして見ると話は変わってくる。
ポケモン公式側が唯一ゲーム内コンテンツとしての大会を開催したり、ネット上で昼夜を問わず盛んに交流が行われ、あまつさえ開発部上位の人間である増田順一氏がポケモン対戦オフ会へ顔を出すなど、最早ゲーム内コンテンツの枠に収まらない展開や盛り上がりを見せている。
そんなポケモン対戦だが、つい先日多くの人間をゲームから離れさせるきっかけとなる出来事が生じた。通称「カロスマーク」と呼ばれるXY以降のゲームで入手したポケモンのみしか通常のレーティングバトルで使用できなくなるという仕様変更だ。
正確には、その仕様変更後のポケモン入手手段と速度に大きな問題が存在したのである。
それは、使用したい伝説のポケモンに対し「リセットによる厳選作業を強いる」という悪質なもの。
●ゲームと時間の付き合い
これはXYよりも前のシリーズ作品において可能であった乱数調整による理想個体値ポケモンの氾濫を受けてのものだと思われるが、それと同時にその有用性を受けてポケモン対戦に参入していたユーザーの多くを否定するものとなった。
乱数調整によって、ポケモン対戦は良くも悪くも急激な変化を迎えた。
そして、最も大きい魅力としてユーザー達に訴えかけていたのは乱数調整による「対戦までの所要時間の手軽さ」だったと認知している。
これは乱数調整を覚えれば自分で多くのポケモンの個体を手軽に用意し対戦に突入できるのは当然のことながら、ネット上の交流におけるポケモンの流通市場において劇的な進化をもたらしたのである。
それは即ち、孵化厳選の不可能な伝説のポケモンへの敷居が大きく下がり市場へ出回るようになったことで更に対戦への切符が手軽に手に入り「相手のポケモンばかりが強そうだからやらない」といった考えの人間までもを対戦に参入させる大きな入口となったのである。これは、他の対戦育成ゲームではあまり見られない良い意味で珍しい傾向であった。
しかし、今回の仕様変更によってカロスマークを持たない個体のポケモンは全て通常のレーティングバトルには参加できなくなってしまった。
それはつまり、ポケモン対戦において乱数調整による手軽さを魅力として享受していた層の全てを切り捨ててしまったということである。
当然のことながら、それまでは忙しくて厳選まではしていられないといった人間でも参入できていたポケモン対戦にとって、そういった顧客を切り捨てるということは少なからずプレイヤー形状に変化を及ぼした。
ここで再び出てくるのが、改造を行ったプレイヤーの話だ。
ポケモンが好きで好きで堪らなかったのに改造してしまったプレイヤーは、一体なぜ改造を行ったのか。
(全員が全員そうでないにしろ)少なからず改造を行ったプレイヤーの中には忙しくて時間のかかるポケモン厳選をやってはいられない、がしかし、ポケモン対戦は好きだから止められなかったという人がいたかもしれない。もしもそんな時、データを他人にバレることなく改造できるかもしれないツールがあったとしたらどうだろう?
あなたがもしもその改造プレイヤーの立場でないのなら、その人になったつもりで考えてみてほしい。
●対戦ゲームとして見るポケモン
ポケモン対戦とは、文字の表す通り対戦ゲームである。
お互いが駒を用いて競い合う、という意味では将棋やチェスは無論、トレーディングカードゲームや一部のソーシャルゲームとも同じである。
そして、それらが長くプレイヤー達に愛され続けているのは支払った値段に値するだけの快楽をプレイヤーに与えると評価されているからに他ならない。
その「支払った値段」に対して、不誠実だとユーザーが感じれば前述の通り人は離れていく。しかしもうひとつ、ユーザー側に手段があるとすればそれは不正への関与、ポケモンで言う改造行為がそれにあたる。
ポケモンでは伝説のポケモンの厳選の際、必ずリセットと捕獲を繰り返す仕様になっている。乱数調整のない現在ではその厳選行為に通算で10時間はおろか100時間以上費やす場合すらあり得る。こうした厳選時間を自ら笑い話にしている人間もいるのだが、ユーザー側としては笑っている場合ではない。
リセットを行うということは、その厳選行為に対して支払った値段の分は何もゲームには換算されず所謂「浪費」という形をとることになる。
もちろんそれはギャンブル等のゲームにおいても同じであり、つきつめればソーシャルゲームのガチャについても同じことが言えるのだが、ポケモンに対しての問題はここから先にある。
トレーディングカードゲームやソーシャルゲームとポケモンの決定的な違い、それは「課金体制」の違いである。
トレーディングカードゲームは全てがリアルマネーによる課金制で、その分準備に時間がかかることはあまりなく、始めたいときに始めやすいのが特徴。
ソーシャルゲームはゲーム内リアルマネー課金制で、基本的には無料で遊べるが一部コンテンツを有料で開放する、というのが一般的なもの。こちらは無課金では時間を支払いパワーアップ、時間の代わりにリアルマネーで課金すると時間を短縮できるというのがよくある形式。
一方のポケモン対戦はというと、基本料金5000円で対戦以外の様々なコンテンツに触れることができる一方で、時間短縮という意味でリアルマネーによる課金は不可能。つまり支払い方法が現実の時間のみという体制になっている。
リアルマネーというものは稼げば増える。しかし人の持てる時間というものはどうだろうか。いくら勤勉に働き、誠実に生き、神に祈りを捧げたとしても人が恒常的に持てる時間が増えることには繋がらない。
こうした背景を鑑みると、ポケモン対戦における「支払い方法は現実の時間のみ」という手法と「伝説のポケモン厳選に対してのリセットの強要」は「ゲームバランスが崩壊している」と表現しても些か近しいのではないだろうか。
つまり、ここに改造に繋がりやすい仕組みが隠されているのだ。
ポケモン対戦には支払い方法が現実の時間でしかないと言ったが、あくまでそれは正規プレイの中での話である。そして皮肉なことに、ポケモン対戦における時間の短縮(リアルマネー課金要素)を見事に満たしているのが現状においてただひとつ、データ改造ツールしかなかったという現実的な話が改造問題の一端を担っているのは想像に易い。
●まとめ
昨今の日本人というものはえてして一定の歳を経ると次第に趣味ひとつに恒常的に時間をかけることが難しくなっていくことが多い。
そんな中で、ポケモンというジャンルから既に大きく成長しポケモンジャンルそのものと肩を並べるようにすらなり始めている「ポケモン対戦」というジャンルはここから先どのようにユーザーから時間を貰い受け、ゲームとして成長していくのだろうか。
もしも今よりもより万人が「値段に見合った楽しいゲームだ」と感じるようになったのであれば、その時には幾分か改造プレイヤーの数も減るのではないだろうか。
●最後に
今回は短くしよう、短くしようと頑張っていたのですが、やっぱりそれなりな長さになってしまいました。
こんな長い記事を最後まで読んでくださって、本当に感謝感謝でいっぱいです。
僕はポケモンというシリーズが大大大好きなので、もう少しだけよくなっていってくれたらなぁと思いながら今回の記事に着手しました。
少しでも誰かのポケモンライフに貢献できたのなら幸いです。
どうでもいいことですが、最近はライターのお仕事で記事を書いてばかりいたので、久しぶりにブログ記事を書いていたら趣味で書くとお金が発生しないんだという当然のことに気づいてなんだか疲れてしまいました。
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