御手紙
目の前には「新年度」という名の扉がひとつ・・・
大きな扉でございますね。
そして・・・私の足元にも大きな扉がひとつ・・・
先週までは無かったはずですが
立ち尽くす私の部屋(地下)にて・・・
奈良崎で御座います。
~一日目~(晴れ)
足元からは絶え間なくノックする音が・・・
誰が私の部屋にイタズラしたのでしょうか?
以前本で読んだ「違う部屋に誘導する」トリック?
私の記憶にダイレクトに書き込まれた情報?
仙場君か吾妻さんのイタズラ?
すべては妄想幻想幻覚幻視催眠思い込み・・・etc
どれでも構いません
結果「現状どうしようもない」
コレに尽きるのです。
もう寝てしまいましょう。
~二日目~(快晴)
おはようございます。
床からのノックの音で目が覚めました。
お給仕行ってきます。
確か今日は葵さんと環さんと隈川君とランチの約束も。
パスタは大好きです。
天井にヒビが入ってる気がしましたが
見ていると遅刻するので気にしません。
嘉島執事に怒られてしまいます。
追伸
扉の下の人へ起こしてくれてありがとう。
~三日目~(くもり)
天井のヒビが大きくなってきました。
この部屋の上には・・・普段は時任執事がいますね。
相談してみましょう。
桐島君と影山君に紅茶を淹れる約束もしてましたね。
相談の前にバンビーナを用意してあげましょうか。
今日のお給仕は花菱君と伽地さんと一緒のチーム。
今部屋を出れば藤堂執事と一緒にお屋敷まで歩けるはず。
急いで行かないと。
扉の下の人。行ってきます。
~四日目~(晴れ)
部屋の照明に紫色が混じって困ります。
天井のヒビから光が溢れてきてしまって
電気を消しても寝られません。
百合野さんみたいに寝なくても平気でいられません。
大河内さんに相談しようと思いましたが
「見に行くよ!」って笑顔で言って・・・絶対に来ないでしょう。
なんとなく想像つきます。
堤さんと橘さんにこの話をしたら笑いは取れそうです。
元気を出すためにも
有村くんにエナジーな飲み物を貰いにいきましょう。
扉の下の人へ。夜中に名前を呼ばないでください。
~五日目~(雨)
夜のお給仕が終わりました。
吉川執事と乾執事とで理想の髭の話で盛り上がりました。
どんなに話が盛り上がっても話の行き着く先は司馬執事。
羨ましい髭の持ち主です。SBCで髭とか・・・
なんとなく帰りたくなかったので
御厨執事と湯島さんと緑茶を飲んでから帰りました。
寄り道もたまには良いものですね。
小金井くんも来ればよかったのに。
扉の下の人へ。
帰って来て「ただいま」って言ったら一瞬ノック止みましたね?
見てましたよ?
聞いてましたよ?
~六日目~(晴れときどき曇り)
今日は高尾執事から山の素晴らしさについて聞きました。
藤之塚くんと五代くんは二人で違う話をしてました。
古谷くんは北条くんに伝えるメモを書いてました。
「授業かよ」って思いました。
今日は能見くんと藤原さんと夕食の約束。
ダイエットしてても約束すると食べたくなる不思議。
楽しみです。
ニヤニヤしてたら名護くんに突っ込まれました。
おのれ人狼め・・・覚えてろ。
伊織さんに「エクストラティーのレシピまだ?」って聞かれました。
レシピは先週伊織さんのデスクの上に置きました。
置いて写真も撮りました。
メールに添付して送ります。
帰ったら扉の下の人が名前を呼んだので
返事をしましたが、返事の返事がありません。
恥ずかしがり屋さんめ。
~七日目~(忘れました)
久しぶりに金藤執事にお会いしました。
椎名執事と一緒に歩かれてたところで挨拶しました。
金藤執事といい椎名執事といい。
オンとオフの切り替えの上手なこと。
プライベートではフランクで明るい金藤執事。
歌劇団の稽古では笑いを全力で取りに行く椎名執事。
ド新人の時に見なくて良かったと思います。
歌劇団の稽古では言えますが。
お給仕の時には言えません。口が裂けても。
それが私のオンとオフ。
夜は私の部屋まで
天河さんがお酒を持ってきました。
私は飲みません。
私の買ってきたお菓子を渡しました。
ビバレージサロンで使いましょう。
変な名前の日本酒を勧めてくるので。
根負けして舐めました。
飲めそうです。お嬢様方は喜んでくれそうですね。
扉の下の人へ。来客中は大人しいんですね。
内弁慶ですか?そうなんですね?
~八日目~(晴れ)
お休みなので寝てました。
病院にも行きました。
病院の近くで新山くんを見かけました。
何か人目を避けるように歩いていましたので、
水瀬くんを呼び出して尾行しようと電話してたら見失いました。
あれは忍者かシノビか私のうっかりか・・・
答えはひとつ。
水瀬くんとはご飯に行きました。
偏食と敏感な人のコンビなので
お店選びは大変でしたが、
結局橘さん行きつけのみせになりました。
お給仕終わりの香川さんと金澤センセイとお茶をしました。
香川さんに「おふたりは何故センセイと呼び合うのか?」と聞かれ
二人共答えられませんでした。
長い沈黙の中
金澤特製フェアレディと私の可愛いエンジェルヘイローが
静かに冷めていくのがわかりました。
~九日目~(曇り)
青木シェフがジュレ作りを教えてくれました。
あまりに親身になって教えてくれるので
嬉しくて涙目になったら笑われました。
「漢気」ですね。
一連の流れを荒垣君に見られてました。
目が合いましたが苦笑いしてました。
ジュレ作り・・・頑張ります。
帰りに漆野くんと例のアイス屋さんに行きました。
市丸くんも誘おうと思ったのですが。
忙しいそうです。残念。
ア イ ス お い し い で す 。
帰ったら床の扉が空いてました。
天井のヒビ・・・
もう穴ですね・・・これは・・・
穴の向こうに見える空には大きな砂時計が・・・
ここは地下なのですよ?
どうなってるんですか?常識さん?物理法則さん?
ボーっとしてると
床の扉の下から声がします。
覗き込むと・・
下り階段がどこまでも続き
奥は生ぬるい風が肌を舐めるように上がってきます。
湧き上がる恐怖と違和感の奥に興味と知識欲を感じました。
同時に本能が告げます。
行ったらもう戻れないと。
階段の下から呼ぶ声はもうありません。
私を誘うような沈黙だけ。
沈黙がまた答えでした。
私の今までの怪奇現象の数々の原因の・・・
~十日目~( )
お休みでした。
お屋敷の扉も閉ざされてます。
豪徳寺執事が来てくれました。
椎名執事と時任執事と一緒に。
周防執事と諏訪野執事から伝言だそうです。
聞かなくてもわかります。
私はもう知っています。気づいています。
無理矢理に紅茶とワインと干しぶどうの話をしました。
異質で奇妙な部屋の中でさぞシュールだったことでしょう。
部屋を出るとき豪徳寺執事が頭を撫でてくれました。
目頭が熱くなります。
肩に椎名執事が手を置いてくれました。
その手があまりに熱くて涙がこぼれました。
時任執事は手のやり場に困ってます。
笑いました。
ありがとうございます。
篠宮執事の写真も笑っていました。
ありがとうございます。
~十一日目~(はれ)
私はこの階段の下に行くことにします。
どこに通じているのか?
空間も時間も歪んでいるであろう場所へ。
部屋の歪みは広がり続けています。
きっと私の部屋から外へ歪みは広がろうとするでしょう。
私以外の誰かも困ることになりそうです。
それが大切なあなたであってはいけません。
私は大旦那様に沢山のものをいただきました。
紅茶という出会い。
歌劇団という代え難い喜び。
素晴らしい仲間との出会い。
どれも無くすことなど考えられません。
そして
あなたの使用人でいられた誇り。
これ以上のものはもうこの先の人生でも
得られないかもしれません。
そんな大切なもの全てを
私はこの場に置いていかなければいけません。
執事に
我が儘を言いました。
部屋の歪の広がりきる前に出発をすると
でもそれまでは
お屋敷の使用人でいさせてほしい。
歌劇団の一員でいさせてほしい。
どうしようもない
駄目な使用人な事を言っているのは自覚してます。
執事を、大旦那様を困らせている事も自覚してます。
~十二日目~
お許しを頂けました。
ありがとうございます。
四月十日のエクストラティーが
私、奈良崎の最後のお給仕になりました。
最後の時までお嬢様の笑顔のために尽くします。
私にはそれしかできません。
お給仕
お片付け
大旦那様への挨拶を済ませたら
私は扉の向こうに行ってまいります。
私の出発を確認した後
地下の私の部屋の扉を通路ごとコンクリートで塞いでもらいます。
水瀬くんと有村くんが約束してくれました。
二人にはいつも困らせてばっかりでしたね。
出来の悪い先輩で申し訳ない。
最後のお願いです。
お嬢様。
どうか笑顔を無くさないでください。
もちろん今回の私の事ではありません。
私の事はすぐに忘れていただいて結構。
大事なのは
一時の事ではありません。
此の先長い人生の中で
悲しくて辛くて涙が止められない事もあります。
あるのです。
でも
いつか乗り越えて笑顔になれる日が来ます。
来るのです。
その時の笑顔はきっと以前の笑顔より輝くはずです。
お屋敷で誰よりもお嬢様の笑顔を求めた私が言うのです。
間違いありません。
それだけを願います。
私はきっと大丈夫。
「世界で一番愛しい貴女へ」を口ずさみながら
ちゃちゃっと用事を済ませてみせます。
「黒の堕天使」を口ずさみながら出口を見つけて。
奥から風が来るということは出口があるということですし。
どこかの時代か場所かに繋がっているはずです。
・・・きっと
平行世界とか世界線とか難しいことはわかりませんが
藤堂執事に私の最期を看取ってもらう約束もあります。
その時のBGMは「名もなき季節」でお願いします。
戻ることがあれば
そのときは
いつものように笑ってくださいね?
その時は「Jubilee」をかけましょう。
ひとつ楽しみが出来ました。
喜びを表現するためにも、その時は
歌劇団のみんなと「TOXIC」を踊りましょう。
みんな みんな 大好きです。
では・・・いつものご挨拶とは逆になりますね。
行ってまいります。
大切なお嬢様へ。
奈良崎で御座いました。