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社説
3月23日付  刑訴法改正案  冤罪防止へ丁寧な議論を  
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 これで冤罪はなくなるのだろうか。首をかしげたくなる内容だ。

 取り調べの録音・録画(可視化)の義務付けや司法取引の導入、通信傍受の対象拡大を柱とした刑事訴訟法などの改正案が、閣議決定された。政府は今国会での成立を目指している。

 改革の議論は、2009年に村木厚子厚生労働事務次官が逮捕され、無罪が確定した文書偽造事件をきっかけに始まった。大阪地検特捜部の証拠改ざんが発覚し、強引な取り調べと自白に頼った捜査が強い批判を浴びたからだ。

 今回の改革は、密室での取り調べを可視化して、冤罪を防止する仕組みづくりを目指していたはずだ。

 ところが、改正案は可視化の対象を非常に少なくした上で、捜査機関の権限を拡大させたものになっている。

 本来の趣旨から程遠い内容だと言わざるを得ない。

 取り調べの可視化は、既に検察や警察が裁量で実施しているが、今回法律で義務付けられた意義は大きい。

 問題は、対象が殺人や強盗致死などの裁判員裁判対象事件と、検察の独自事件に絞られたことである。

 捜査側が「供述を得にくくなる」と猛反発したためだ。

 全事件の3%程度にすぎず、無実の人間が「自白」させられたパソコン遠隔操作事件や誤認逮捕が問題となっている痴漢事件は含まれない。

 幅広い例外規定も設けられており、恣意的な運用の可能性を指摘する声は根強い。

 改正案で最大の注目点は、司法取引の導入である。

 他人の犯罪を証言すれば、不起訴処分や軽い求刑にすることを、検察官が容疑者や被告と合意できる制度だ。

 新たな捜査の武器として期待される一方で、見返りを求めてうその供述をする不安は消えない。

 司法取引の対象は汚職や組織的詐欺、薬物・銃器犯罪などで、殺人は外された。

 事前収賄などに問われた岐阜県美濃加茂市長を無罪とした名古屋地裁判決は、市長への賄賂を供述した業者が自らの処分を軽くするために検察官に迎合し、うその供述をした可能性を指摘している。

 司法取引が認められれば、このようなケースが増え、新たな冤罪の温床となる恐れがあるのではないか。

 歯止めとして、弁護人の同意や虚偽供述への罰則も盛り込まれたが、実効性を疑問視する見方が早くも出ている。

 捜査で電話やメールを傍受できる対象には、組織性が疑われる殺人や詐欺など9類型が加わる。傍受の際、通信業者の立ち会いも不要になる。

 急増する特殊詐欺の摘発に効果が見込めるだろう。だが、乱用によるプライバシー侵害の懸念もある。

 司法取引導入、通信傍受の対象拡大は、捜査側が可視化の見返りに求めたものだ。

 しかし、検察や警察の姿勢は、可視化が捜査の邪魔になるかのような印象を受ける。それでは、国民の理解を得られない。

 国会審議に先立ち、村木さんは「捜査の誤りは人の人生を変えてしまう。冤罪をつくらない仕組みが必要だ」と訴えた。

 国会には、冤罪防止の原点に立ち返り、新たな制度の問題点や見直しの必要性、捜査の適正化をめぐり、丁寧で慎重な議論を求めたい。

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