取り調べ録音・録画
2015年03月24日 05時00分
警察と検察による取り調べの録音・録画(可視化)を義務付ける刑事訴訟法などの改正案が閣議決定された。日本の裁判は供述調書を重視してきたため、密室での取り調べが冤罪(えんざい)を生む原因と批判されてきた。
直接のきっかけになったのは2009年に大阪地検特捜部が摘発した厚生労働省の郵便制度悪用事件だ。担当検事が証拠を改ざんしていたことが発覚し、司法改革の議論に火を付けた。法相の諮問機関・法制審議会は、専門家だけではなく有識者を入れて論議を重ね、昨年9月、法改正要綱を法相に答申した。
改正案は、逮捕した容疑者の取り調べを最初から最後まで可視化するように義務付けた。その対象は裁判員裁判となる事件と検察の独自捜査事件に絞った。取調官が容疑者の言動から十分な供述を得られないと判断した場合は、例外扱いできる例外措置も付けた。
捜査現場では既に裁判員裁判対象事件などを中心に録音・録画が実施されている。法制化の動きより実態が先行しているが、法律による義務付けの意義は小さくない。3年をめどに見直しを検討するとしており、全面可視化へ道を開く一歩と評価できそうだ。
日本弁護士連合会は改革が前進したとしながら、全事件への適用を求めている。国会審議ではまず冤罪防止の原点に立って、法案の内容を吟味してほしい。
論点の一つは、可視化の対象に参考人の取り調べが含まれていないことだ。検事による証拠改ざんという反省に立てば、目撃者など関係者供述の信用性も問われることになる。対象事件の範囲を含め、妥当かどうか慎重に検討してほしい。
可視化義務付けに伴って、捜査手段の強化策も盛り込まれた。経済犯罪などに限定して司法取引制度を導入し、容疑者や被告が共犯者など他人の犯罪を解明するために供述したり証拠を提出したりすれば、検察が起訴を見送ったり取り消したりできる。
また、これまで電話やメールを傍受できる対象は薬物犯罪など4類型に絞られてきたが、組織性が疑われる殺人や放火、強盗、詐欺、窃盗など9類型の犯罪を追加した。莫大(ばくだい)な被害を出し続けているオレオレ詐欺などの摘発に力を発揮しそうだ。
司法取引には課題もある。自分の罪を逃れたい人が無関係の人を巻き込んだり、捜査かく乱に利用される恐れが指摘されている。詐欺事件などに対象を限定したが、捜査側が可視化を受け入れる交換条件のように浮上した経過がある。当面、運用実態を見極めなければならないだろう。
取り調べ録音・録画の必要は、捜査機関に全幅の信頼を寄せられないことから始まっている。全面可視化こそが信頼を取り戻す方法でもある。捜査手段の拡大についても適正な運用が課題になる。法改正の狙いが冤罪防止にあることを強調しておきたい。
大阪地検によって逮捕・起訴され、無罪になった村木厚子厚労省事務次官(当時局長)は「間違いが起こりにくく、誤りに気づいた時に隠さず改められる仕組みが必要」と語っている。冤罪をつくり出さない司法にするため、国会は国民の代表者としての目で法案を審議すべきだ。(宇都宮忠)
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