クローズアップ現代「“ポスト”に託された命〜赤ちゃん100人のその後〜」 2015.04.07


8年前熊本の病院が設置した赤ちゃんポスト。
預けられた男の子が小学生になった今初めて取材に応じてくれました。
預けられた子どもたちのその後が明らかになってきました。
赤ちゃんポストに預けられた子どもはこれまでに100人を超えます。
預けられたケースを分析すると親の都合を優先する安易な利用が相次いでいました。
さらに預けたあと、突然引き取りたいと考える親もいます。
赤ちゃんポストに預けられた子どもや、その親を支援する仕組みは整っていません。
赤ちゃんポストに託された100人の命。
子どもたちのその後を追いました。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
自分には子どもを育てることができない。
親が赤ちゃんを匿名で周囲に気付かれないまま病院に預けることができるこうのとりのゆりかごいわゆる赤ちゃんポスト。
この8年間で、赤ちゃんポストに託された子どもは100人を超えています。
親が子どもを捨てることが許せない匿名で預けられる仕組みは育児放棄を助長するのではないかなどさまざまな批判がありますが親が育てられない子どもの命を救いたいと、熊本市の民間病院は国が関与を拒む中赤ちゃんポストの運用を続けてきました。
ポストに預けられた子どもの80%以上が生後1か月未満の新生児と圧倒的に多いのですが生後1年から就学前の幼児も6人いました。
病院によって保護された子どもはその後どうなるのか。
児童相談所の手続きを経て子どもは乳児院や児童養護施設などの施設にいったん預けられその後、里親や特別養子縁組で新しい家庭に迎えられます。
施設で養育されている子どもはご覧のように30人。
特別養子縁組が成立したケースが29件。
里親に育てられている子どもは19人。
そしてご覧のようにいったん子どもを手放した親に引き取られるケースも少なくありません。
血のつながりがあってもなくても子どもは早い時期から愛情深い家庭で育てられることが大切だとされています。
赤ちゃんポストに預けられた子どもは、安定した家庭環境で成長することができているのか。
ポストを設置した民間病院と病院のある自治体に運用が任されてきた中でポストに託されいわば育児放棄の対象となった経験を持つ子どもたちの立場はとても弱いのですが長期的に支える具体的な仕組みはありません。
預けられた子どもはその後何を思いどのように暮らしているのか取材しました。
おはようございます。
おはよう。
8年前、赤ちゃんポストに預けられた男の子です。
今は小学生になり里親のもとで育っています。
今回、里親の了解のもと初めて取材に応じてくれました。
ポストに預けられた当時男の子はすでに物心が付いていました。
そのときのことを今も覚えていると言います。
男の子は当時の光景を絵に残していました。
新幹線と、男性に手を引かれる自分の姿を描いていました。
熊本市内の民間病院にある赤ちゃんポスト。
ポストの扉を開けると中には親に宛てた手紙がありそれを取ると内扉の鍵が開きます。
誰にも知られることなくいつでも匿名で子どもを預けることができます。
男の子は赤ちゃんポストで保護されたあと児童養護施設に移され5か月たって今の里親に引き取られました。
本当の親は誰なのか。
男の子は生みの親とつながる物をずっと大切に持っています。
ポストに一緒に置かれていた靴や着替えです。
預けられた当初、男の子は生みの親が迎えに来るのを待っていました。
里親に引き取られた今男の子は家族の一員として大切に育てられています。
学校の人気者でかけっこも一番。
里親にとっても自慢の息子です。
絶対つかまえるから信用しろ。
お父さん、つかむ…。
違う、それはつかまれん。
新しい家族の愛情を受けながら、男の子は赤ちゃんポストに預けられた過去を乗り越えようとしています。
しかし、里親と子どもの安定した暮らしが奪われる可能性があります。
実の親が現れ引き取りたいと申し出た場合です。
その申し出に翻弄された里親が手紙で取材に応じました。
4年間育ててきた子どものことを考えると納得できるものではありませんでした。
「実の親に引き取られることになったら幼稚園の先生やお友達と離れる。
きっと気が狂ったように泣き叫ぶだろう。
引き裂かれる思いを想像すると涙があふれてきます」。
8年前に預けられ、今回取材を受けてくれた男の子です。
いってきまーす。
いってらっしゃーい。
気をつけてね!
この男の子も親族が現れ引き取りたいと強く主張されると里親から引き離される可能性があります。
今夜は、児童福祉がご専門でいらっしゃいます、山梨県立大学教授の西澤哲さんをお迎えしております。
男の子が自分が預けられたときのことを、くっきりと記憶していて、その話をしている、そのことばを聞いていると、切なくなるんですけれども、でも今、本当に元気にすくすくと、里親のもとで育っていて、よかったなっていう気持ちになったんですけども、どうご覧になられました?
そうですね、やはりとても胸を打たれるものがあったのは、こうのとりのゆりかごに、入れてくれてよかったっていうふうにあのお子さんが話したことなんですよね。
つまり、今が恐らく、幸せに過ごせている生活がしっかりちゃんと愛されて、自分が暮らせているっていうのがあるので、こうのとりのゆりかごに入れられるっていうのは、とんでもない体験なわけですけれども、それをよかったと意味づけできているんですよね。
本当にそれで、そのことばがずーんと胸にきました。
ただ、里親の方は、その安定した環境が壊されるのではないか、もし、親、あるいは親族の方が引き取りたいと言ってきた場合、手放さなくてはならない、そんな可能性を心配されてますが、そんなことっていうのは、現実に起こりうるわけですか?
今の法制度で、里親家庭での養育だと、それはありえるわけです。
もちろん、家庭裁判所がそうではない決定をする可能性もありますけれども、一方では、実の親のもとに戻したほうがいいというような判断をする可能性も否定できないですから、不安定さはずっと残りますね。
そうすると、しかし何年も安定した状況で、里親に育てられた場合、またいきなり環境が変わったときの子どもの気持ちとかを想像するとまたこれは難しいですよね。
恐らく心の傷に傷を重ねることになるので、場合によっては取り返しがつかないぐらいのダメージを及ぼす可能性がありますよね。
だから、やはりいろんな事情があるんでしょうけれども、もっと積極的に特別養子縁組という、新たな親子関係を結ぶっていう形で、安定した親子関係を作っていくっていうことを、周囲がサポートしてやっていかないといけないでしょうね。
これは誰が主導して、そういう方向に向けていくんですか?
基本的には、こうのとりに入ったお子さんたちに対しては、やはり児童相談所っていうことになります。
だから児童福祉の範囲の中で、そういった子どもにとって、よりよい環境を提供していく、それにはどうすればいいのか。
おのずと、施設よりは里親家庭、里親よりは養子縁組っていうような選択肢が出てくるんだろうと思います。
100人を超える子どもが今まで預けられているわけですけども、先ほどお見せしました養育状況ですけれども、ご覧のように実の親などに引き取られたケースが18件と、これは全体として、これ、自分を赤ちゃんポストに預けた親族、あるいは親に、もう一度引き渡すっていうのは、この数字、どうご覧になりますか?
私は基本的に多すぎるというふうに思います。
やはり、こうのとりに子どもを託するということは、ある意味、子どもを手放すわけですから、例えばその虐待とかですね、ネグレクトと比べても重篤な事例だと思うんですよね。
それがわりと安直に、軽々に名のり出てきたから帰すみたいな、そういうふうな甘い判断があってではないかなという気がしますけれども。
実の親のもとで育ったほうがいいのではないかという、そういう考え方もあるかと思うんですけれども、どこまでその後の子どもたちの状況が追跡されてますか?
いやー、それはされてないんでしょうかね。
実の親がいいというのもたぶん幻想なんじゃないかというふうに、私は思いますけれども。
そういう意味では、本当にきちっと子どものその後をフォローするということも大事なんだなというふうに思うんですけれども、続いてご覧いただきますのは、赤ちゃんポストに託された命がその後どうなったのか、さらに見てまいりますが、命が奪われたケースもあります。
子どもの立場を最優先にした支援の在り方が問われています。
3年前この人けのない山中で母と幼い娘の遺体が発見されました。
車の中で練炭を使った無理心中でした。
亡くなったのはいったんポストに預けられていた子どもでした。
一度は救われた命が奪われることになったこのケース。
30代の母親は未婚のまま出産。
子どもは母親が知らない間に相手の男性によってポストに預けられていました。
その後、乳児院に移された子どもを、母親はすぐに引き取りたいと申し出ました。
児童相談所は、数日後には子ども親元に帰していました。
赤ちゃんポストを検証してきた専門家の委員会の報告書です。
親の引き取りには慎重な対応が求められると指摘しています。
どこまで慎重な対応をすればよいのか。
赤ちゃんポストの場合はその見極めが難しいのが現状です。
4年間、施設で暮らし続けている男の子です。
母親は引き取りを申し出ていますが児童相談所は認めていません。
学生だった4年前母親は下宿先のトイレで1人で子どもを産んだあと赤ちゃんポストを利用しました。
その後、周囲に説得され引き取りを申し出ました。
しかし、まだ子どもを引き取る環境が整っていません。
今は定期的に面会を続けています。
子どもの生活の安定を考えれば、里親に託すという選択肢もあります。
しかし、赤ちゃんポストの場合親が引き取る意思を示している以上、その意思を尊重せざるをえないのが実情です。
男の子は結果的に施設に保護されたままの生活が続いています。
さらに赤ちゃんポストの場合いつまで支援を続けるのか明確な基準はありません。
この児童相談所が対応したのは生まれたばかりの子どもを衝動的にポストに預けたあと引き取りを申し出た母親の事例でした。
担当者は、引き取りを希望した母親に対して子どもを帰したあとも家庭訪問をして経過を見守り続けました。
しかし、赤ちゃんポストの場合は虐待のように継続的に地域が連携して見守る仕組みがありません。
結局、担当者は小学校入学を機に母子への見守りを打ち切りました。
赤ちゃんポストを日本に導入するにあたってモデルと位置づけられたのがドイツです。
15年前から福祉団体やNGOが国内100か所余りにポストを設置。
これまでおよそ300人が預けられました。
ドイツが日本と大きく違うのは赤ちゃんポストだけでなく望まない妊娠をした女性を支える多様な仕組みがあることです。
身元を明かさず病院で安全に出産できる制度。
行き場がない妊婦に対して出産後まで生活を支援する母子シェルターなどです。
赤ちゃんポストの運用にあたっては利用した親が8週間以内に引き取りを申し出なかった場合親権を放棄したと見なされます。
子どもを養子として速やかに新たな家庭に送り出すためです。
さらに預けられたすべての子どもの生活環境が良好か、継続的に調査するなど成人するまで支援をしています。
西澤さん、今のドイツでは、8週間以内に引き取らなければ、親権は失う。
そして、子どもを大人になるまで、継続してずっと支援するという、本当に徹底した子ども目線に立ったドイツの姿が見えてくるんですけれども、日本の場合は、国はこのこうのとりのゆりかご、黙認といいますか、関与を否定する、そういう状況ですけれども、本当はどんな対策が求められていますか。
基本的には、私は福祉の中の新しいオプションが増えたんだと思うんですね。
選択肢が。
そういった、こういうこうのとりのゆりかごっていうのが、1か所ではあっても、新しい仕組みが出来たわけですから、それに対応するような仕組みを整えていかなければいけない、今のままだと、入り口は増えたけれども、入っちゃったらあとは旧来の仕組みで対応するというような、そんな非常に粗末な扱いになっていると思いますよ。
そこは国の責任がやっぱり問われるだろうなと思います。
まだまだその預けられた子どもが、安定した家庭環境になかなか行けなかったり、あるいは里親が心配してたり、いろんな課題が見えてきたんですけれども、この新しい仕組みを通して、見えてきた一番大きな課題はなんですか?
基本的には、私、さっきのVTR見てても思ったんですけれども、やはりこれ、マニュアルがないと何もできないみたいな、これは専門家としては、いかがなものかなと思うんですよね。
ですから、例えば子どもを、産んだ子どもを直後にこうのとりのゆりかごに預ける親の心理、気持ち、どんなものなんだろうか、あるいはその預けられた子ども、それをどう受け止めるんだろうか、これ、かなりシビアな、深刻な事態ですよね。
それを共感性を持って、関係者が受け止めていかないと、こういったずさんな対応になってしまうのかなと思います。
この預けるということを、社会としてどう認識すべきですか?
そうですね、今、データがないので、本来はもっと分析していかないといけないんですけれども、例えば外形的なデータでも、例えば自宅分娩が多いとか、赤ちゃんの年齢であるとか、そういった状況を見ると、これ、虐待死亡事例の親の特徴なんかと、あるいは死んじゃった子どもの特徴と結構一致するんですよね。
そうすると、これ、虐待、単なる虐待よりも深刻なのかもしれない、そういうふうな見方をして、子どもの最善の利益を考えていくっていうような視線が必要だと思いますけれども。
思いがけない妊娠をして、葛藤して、産むべきか産まないべきかということを、苦しむ女性たちもいると思うんですけども、ドイツでは、そうした女性たちがSOSを発しやすくしている、女性の支援についてはどうですか?
日本はそこは抜けてますよね。
だから、このこうのとりのゆりかごだけがなんて言うのかな、際立ってしまったんですが、実はいろんな援助メニューの、支援のメニューの1つであって、その基本的な考え方っていうのは、やはり、妊娠で困ってる女性たちを助けて、そこから生まれてくる子どもたちを大事にするっていうシステムですよね。
これが次の世代を作っていくわけですから、そういった視点をやはり持つべきだろうというふうに思います。
そしてどういう親たちが預けているのか、その状況を知ることも。
そういった調査をしっかりしていって、そのための支援の方策を、あるいは制度を整えていくということをやらないとだめだろうなと2015/04/07(火) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「“ポスト”に託された命〜赤ちゃん100人のその後〜」[字]

熊本の病院が8年前に開設した「赤ちゃんポスト」に預けられた子どもたちは100人を超えた。子どもの命と尊厳を守るために、今後の運用をどうすべきか、考える。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】山梨県立大学教授…西澤哲,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】山梨県立大学教授…西澤哲,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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