季節、過ぎ去りし365日   作:ハゼノキ
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高校3年生を目前にして北海道から転校することになった楠木陰。

飛行機を降り目的の地『神田』へと足を進める

期待に胸が高鳴り心も踊る時期、果たして素敵なスタートを切れるのだろうか。





1日目 神田にて

『次はー神田、神田ーお降りの方は~』



…次か

これから少なくとも1年間は住む場所、どんな場所かゆっくり見て歩きたい気もするが…まずは家を探すところから始めることにしよう。


改札を出て、初めに抱いた感想は思ったより都会だということ。

まぁこれは北海道に住んでたから仕方ない

そして秋葉原や日本橋に歩いていける程度の距離ということ、隣駅が東京だということ。

交通の便も流石東京といったところで。

さて、地図通りに行くとこっちだな…






この近くだな…神田淡路町と書かれた看板を目にしたし間違いない

ただ、来る途中は同じような建物ばかりだったから慣れるまでは地図必須だな。







「着いた…ここがこれからの新拠点」


部屋番号らしきものが書いてない辺りから若干の疑いは掛けてたが…まさか一軒家とは。


「ああ…鍵、鍵はどこだ…」


「これか、分かりやすいようにキーホルダーでもつけとくか…」


ガチャ


「広いな……こういう時は…お邪魔します…か?ただいま?まぁいいか」


靴を脱いでとりあえず荷物を置く


「あーやっと肩が楽になった…両手も塞がってたしなぁ」

「…とりあえず持ってきた荷物だけでも整理するか」


段ボールに入れて送ったのは業者の手違いで今週中に届くことになったらしい、使うものないしいいけどな

唯一困った点といえば食器や調理器具がすべて段ボールの中なのでこれから数日間は全て外食ということになる

学校でも購買を使うしかないだろう

さて、片付け終わったらギターとカメラ持ってふらつくか

家にいても退屈だし、な







「よし、一通り片付いたし行くか」


片付けたと言ってもノートパソコンに充電器を差し、提出する書類をファイルにまとめただけである

というかそれ以外何もないのですることがない。

ってことでちょっと外に出てみることにした、行き先はもう決めてある

『隅田川』だ。

元々行ってみたいと思っていたのに合わさり桜が咲いているとのことで。

桜はボケっとしてるとすぐ葉が出てきたり散っちゃったりと、後悔するからな

見れるときは常に見て目に焼き付けておくのが良い、カメラもあるしな。




「神田からだと…淡路町から銀座線で浅草まで行けばいいんだな」


思い立ったが吉日、時間も30分かからないらしいし楽だな






現在時刻午後3時35分、来る途中に桜の写真を撮ったりふらふらしてたから予定より時間はかかってるが隅田川の遊歩道のような場所に着いた。



「……すごく綺麗だ」



植物は基本的に太陽を求める、それによってビルがある方向より開けてる川沿いに桜の枝が広く大きく伸びるのは理に適ってることになる。

植物も効率化を図ったり、成長を求めたり、生物として生き生きしてるんだよな

無心でシャッターを押す。

綺麗に撮れるように心掛けてはいるけど、俺は狙った感じの写真じゃなくて素材そのものの表情を写せるようになりたいと思ってる。

自然体が一番美しくて綺麗だからな、加工とかは邪道だ。


接写で撮ったり望遠で撮ったりなどをしているうちに良さげな座るスペースを見つけた。



…人も少ないし少しくらい良いか

ん?ここは路上で歌を歌うのは許可されてるのだろうか

駄目だったら注意されるか

ギターを出し若干の坂になっている芝生の上に座る



1曲目は…せっかくの桜だし




「…過ぎ去った人と~新しく出会う人~終わりと始まりで物語は進む」

「投げ捨てた涙拾い集めて~今年も気づけば春だった 僕は 歌う 歌う 歌う」

「さくら さくら 今でも 桜咲く 消えない」

「さくら さくら 僕等の 桜咲く 物語」




目の前に満開の桜を望みながら歌う『さくら』

このアーティストのどこか感傷に浸ってくる歌詞やメロディーが好きでずっと聴いている

アコギを始めたのもこの人の影響


あと2曲くらい…やるか

通行人が少なくあまり気にしなくて良いのが良点かもしれない、かなり気持ちよく歌える

音楽が好きという意味も込めて、こんな曲はどうだろう




「陽はいーつか~暮れて海へ」

「知られずまた波に咲く~」

「水面の花にキミを見るよ」

「揺れて消えた遥か~」




鳥の鳴き声や自然音に囲まれての『バンディリア旅行団』

原曲が壮大なだけあってアコギ一本じゃ迫力が欠けるが、その分想いを込めやすいと思っている

この曲は歌っていて気持ちいいしな




ん?あの人はこっちをじっと見てどうしたというんだ

もしかして歌ってることが気に障ったとかか…?

謝るか…?いやでも待てよ、髪赤いぞ、近寄ったら有無を言わさず消される可能性が無きにしも非ずだ。

……とりあえず会釈しとくか







-真姫side-



私は目を奪われていた

高校生活が始まる前に、色々な買出しをしようとし家を出て帰り際。

隅田川の桜が綺麗だと聞き歩いてみることにした。

浅草駅に向かう河川道の途中、弾き語りをしている男性がいた

その張り上げた儚くて力強い声に私は魅了されたのかもしれない。

どうやら曲が終わったみたい

…あれ?なんか私のこと見てない…?

な、なによ…?

え、会釈してきた?!と、とりあえず返しとこうかしら…何なのよ、もう






-木陰side-



あ、会釈し返してきた

…話しかけてみるか


「あの…何かありましたか?」

「えっな、何もないけど?」

「えっ、あ、そうですか。失礼しました」

「あ、ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!」

「ん?」

「その…歌、素敵だったわ」


あ、歌聴いてくれてたのか

全然悪い人じゃなさそうだな


「ああ、聴いててくれたんですか、ありがとうございます…あと一曲くらいやるけど聴いていきますか?」

「良いの?」

「好きでやってるんで」

「じゃあ…聴くわ」

「折角だしもっと近くに来てくださいよ、ほら」


俺は赤い子の手を掴んで引き寄せた


「え、あっ…わ、分かったからっ」



…顔がトマト並に赤くなってる

手引いたくらいでこんな赤くなるってその先はどうなるんだ



「じゃあ一曲…夕暮れだしそれに合った曲で」




「…争ったり いがみ合ったり 日々のとがった部分を」

「飲み込んだ街で 嘆いても 笑っても 見上げるこの空には~」


「いつでも紅い夕焼け~戸惑う未来教えて~」

「歩き慣れた街で 僕ら 迷子みたいに」

「明日の道しるべ~探してる」

「この先後どれ位~信じてゆけるのかな~」

「不意に止んだ風に 不安になったりして~」

「この街で生きている」




夕暮れ時にカッチリと一致しマッチする曲。

しっとり歌うのも良いし、原曲みたく一歩一歩踏みしめるような声で歌うのも良い。

…そういえば聴いてる人がいるのか、反応は…





「……すごく、良かったわ」

「ありがとうございます、原曲がとても良いので是非聴いてみてください」

「…いつもここで弾き語りしてるの?」

「いえ、今日が初めてですよ…元々写真撮りに来ただけですし」

「そ、そう…ま、またここでやるなら見に来ても良いわよ?」

「んー気が向いたらって感じです、今日は引っ越し初日だったのもあって気分が高揚してた部分があったので」

「…あの、多分歳近いしタメ口でもいい…ですけど…」

「…じゃあタメ口でいく、楠木陰、17歳だ」

「私は西木野真姫、15歳よ」

「年下だったのか、随分大人っぽいな」

「あっ当たり前でしょっ」

「15歳ってことは今週から高校生か?」

「そうよ」

「なるほど」

「楠さんは高校3年生でしょ?」

「だな」

「こんな時期に転校なんて珍しいわね」

「まぁ色々あって、東京の大学を目指すから高3からこっちで慣らせって言われたんだ」

「なにそれ、意味わかんない」

「俺も分からない…っていうか楠さんって呼びづらいだろうし下の名前で良いぞ、タメ口なのにさん付けも変だろ」

「……こ、木陰…?」

「ん、それで良い」

「あ、あなたも下の名前で良いわよ」

「真姫?」

「な、なによっ」

「下の名前で良いって言われたから言っただけ」

「か、勝手にすればっ」

「……真姫は、照れ屋だな?」

「は、はぁ?!何言ってるのよ意味わかんない!」

「顔超赤いぞ、例えるならトマト」

「う、うるさいわね!」


…これは決定的なツンデレだな、しかも照れ屋とは

東京にて、初めての知り合いはからかい甲斐がありそうな人。


「じゃあ俺は家に帰るからな」

「ええ」


そうしてなぜか隣を歩いてくる西木野真姫


「…?」


これはもしや


「真姫、もしかして浅草から帰るのか?」

「えっそうだけど?」

「…一緒か」

「そ、そうなの?!」

「ああ、銀座線で淡路町ってところまで行くんだ」

「うぇえ、何で一緒なのよ!」

「…家、もしかしてご近所?」

「西木野病院って近くにあった?」

「いや、ないな」

「じゃあご近所ではないわね」

「…病院に住んでるのか?」

「ええ、将来は継ぐことになっているわ」


なるほど…医者の娘なのか

将来は医者志望…想像すると面白いな


『な、なんで私があなたの手当てしなくちゃいけないのよっ!』

『何風邪引いてるのよ!薬置いておくからさっさと直しなさいよね!』


「…ツンデレだな」

「はぁ?!急に何よ!」

「なんでもない」

「…木陰はギター小さい頃からやってるの?」

「んーと…4年前だな、始めたのは」

「随分弾きなれてそうだったから…」

「かなり練習したからな…睡眠時間削ったこともある」

「身体壊すわよ…」

「真姫は何かやってたのか?」

「私はピアノ、あと少しなら作曲も出来るわ」

「すごいな、趣味?」

「習い事だったんだけど延長線上で続けてる感じよ、高校に入ったらやる暇がなくなっちゃうけど」

「…そうか?趣味なら好きな時にやっていいと思うけどな」

「だって医者を目指す以上成績は上位キープが普通じゃない?」

「ああ…まぁ目指す大学によるよな、医大か?」

「そうね」

「…でも、毎日勉強漬けなんて折角の3年間が辛い思い出になるから出来るだけ楽しいと思うことした方が良いぞ、もちろん勉強もするべきだけど」

「…時間があったらね、そういう木陰は成績良いの?」

「前の学校だと良い方だったけど、東京だと通用するかは分からないな」

「前はどこにいたの?」

「北海道だ」

「北海道…行ったことないわね」

「良い所だから一度行ってこい、帰りたくなくなるかもな」

「本当かしら?でも機会があれば行ってみたい気もするわ」

「ああ、素敵な場所だぞ…俺はこっちなんだが、真姫はどっちの方向だ?」

「あっちよ」

「…送るか」

「うぇ?!いいわよ別に」

「別れてから何かあったら後味悪いだろ?」

「…じゃあ、お願い」

「ん、素直でよろしい」




流石に別れた後にナンパされて!とか

俺が曲がった途端不良に絡まれて…とかになったら後味悪すぎるし、次あったとき気まずいからな

あり得ない話じゃないし0.1パーセントでもある可能性は無理矢理にでも0にした方が良いだろ




「ここでいいわ、家の玄関がそこだから」

「ん、じゃな」

「あっ、待って」

「どうした」

「その…連絡先、またギター聴いてあげるから連絡先教えなさいよ!」

「電話番号で良い?登録したら多分アプリでも出てくるだろ」

「ええ」

「じゃあ言うぞ、しっかり聞いとけよー090のー」

「うぇえ急すぎるのよ!」

「…登録できたか?」

「ええ、できたみたい」

「ん、じゃあ行くな」

「…今日はありがと、送ってくれて」

「…どういたしまして」

「また…ね」



そういった真姫の顔は電灯のせいかもしれないがさっきよりも赤かったかもしれない








「あー…家着いた」


なんということだろう

夜ご飯を買うのをすっかり忘れていた。

…明日の朝学校行く途中にコンビニで何か買うか

確か学校への地図にローソンが書いてあったな…神社も近いし立ち寄ってみるか


初日にまさか知り合いができるとは思ってなかったけど、これも何かの縁か

さてと、お風呂入って寝るか




次はスピリチュアルな感じがする

気のせいか…?