格安航空会社(LCC)の定着・拡大で航空機の乗客が増えるにつれて、国際的な操縦士不足が大きな問題になっている。

 日本でも、40歳代に偏る操縦士が15~20年後に一斉に定年退職する「2030年問題」への懸念に加え、昨年には操縦士不足からLCCで欠航が相次ぐ事態となった。危機感を強めた国土交通省は、昨年夏の審議会提言を受けて、対策を検討中だ。

 短期策としては、外国人の積極活用、操縦士の年齢上限の引き上げ、使用可能な医薬品の拡大、通常は機長昇格まで7~8年という副操縦士の期間の短縮などを掲げた。今月下旬に年齢の上限を「65歳未満」から「68歳未満」とするなど、順に実施に踏み切っている。

 LCCを含む空のネットワークを充実させることは、国内の旅行客や訪日客を伸ばし、経済活性化につなげるためにも欠かせない。

 しかし、乗客の安全・安心を揺るがしてはならないことは論をまたない。その最大の責任者であり、緊急時に最後の頼みの綱ともなるのが操縦士である。

 ドイツのLCCの墜落事故は、そんな当たり前のことを改めて考える機会となった。

 原因を軽々に特定することは控えるべきだが、副操縦士が病を抱えていたこと、操縦室で1人になった際に意図的に機体を降下させたことは、どうやら事実のようだ。なぜ副操縦士の乗務を事前に止められなかったのか。全世界の航空会社が突きつけられた問いである。

 わが国の審議会の報告書には、航空会社の健康管理部門への指導の強化や、乗務員の疲労リスク管理システムの導入検討が盛り込まれた。ただ、これらは「健康管理を強化しつつ、もっと働いてもらう」という狙いがある。ドイツ機の事故を受け、まずは健康管理に的を絞るべきではないか。

 操縦士不足の中・長期的な対策の柱が、私立大学など民間養成機関の拡充だ。国の指定を受け、技能審査まで行うことで国の試験を省略できる。産官学の協議会は奨学金の創設など学生の負担軽減策を急いでいる。

 ところが、そんな大学の一つである桜美林大(東京)で手続きの不備が見つかり、同大学が指定を返上する事態となった。資格を取った学生の技量を国が確かめたところ問題はなかったというが、見過ごすわけにはいかない。

 不足の穴埋めより、操縦士の質の維持・向上である。事故が起きてからでは遅いことを、国交省は肝に銘じてほしい。