政府は、一部の労働者を残業代支払いといった労働時間規制から外す制度導入に向け、労働基準法などの改正案を今国会に提出する方針だ。

 「高度プロフェッショナル制度」と名付けられているが、「残業代ゼロ法案」との批判を浴び、第1次安倍晋三政権が導入を断念した「ホワイトカラー・エグゼンプション」の焼き直しである。

 時間ではなく成果で賃金が払われ、政府は柔軟な働き方につながると説明するが、根拠に乏しい。

 過労防止の明確な歯止めがなく、むしろ残業代抜きの長時間労働をまん延させるとの労働団体の懸念はもっともだ。

 昨年成立した過労死等防止対策推進法にも逆行しかねない制度見直しに強く反対する。

 対象は、「年収1075万円以上」の為替ディーラーや研究開発などの専門職を想定している。

 だが、かつて経団連は「年収400万円以上」を提言していた。

 13業務から始まり、対象が原則自由化された派遣労働の前例もある。経済界の意向に合わせ、一部職種を突破口に適用範囲がなし崩しに拡大する不安は消えない。

 そもそも過労防止を最優先に考えるのであれば、全労働者を対象に、労働時間の絶対的な上限や、欧州連合(EU)のような「1日に連続11時間の休息」といった規制を労基法に設けるべきだ。

 これが経営側の反対で見送られた代わりに、新制度を導入する企業に対し、「休息時間の確保」「1カ月か3カ月の労働時間の上限」「年104日以上の休日」の3要件が示された。

 しかし、企業は一つを選択すればよく、これでは全く不十分だ。例えば、年に104日休むだけでは、長時間労働は防げない。

 時間と休日の規則を組み合わせて、初めて実効性が担保される。

 厚生労働省の労働政策審議会で議論が本格化したのは昨年9月だが、既に新制度を盛り込んだ成長戦略が閣議決定され、今国会で法的措置を講ずるスケジュールまで明記されていた。

 労使の溝は最後まで埋まらなかったにもかかわらず、労働時間規制を成長阻害の「岩盤規制」とみなす安倍政権の方針を受け、労政審は改正案の要綱をまとめた。

 「導入ありき」の強引なやり方と言わざるを得ない。

 労働分野の規制は破壊すべき「岩盤」などではない。長時間労働がはびこる日本では、働く人を守る「最後のとりで」だ。