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中学教科書検定 理念に反する画一化を危ぶむ 2015年04月08日(水)

 教育現場への政治の関与を強く危惧する。
 文部科学省が、来春から使用する中学校教科書の検定結果を公表した。領土に関する教育の強化を指示した学習指導要領解説書や、政府見解を明記するよう改正された検定基準など、新たなルールが初めて適用された。
 結果は予想された通り、どの教科書も島根県の竹島や沖縄県の尖閣諸島についての記述を大幅に増やし、「日本固有の領土」など政府見解を際立たせた。社会科に関しては横並びの傾向が強まった格好だ。検定制度が目指す「民間の創意工夫による多様な教科書」の理念に反しよう。
 新ルールには安倍政権の意向が反映された。政治の関与が画一化を招いたと言わざるを得ない。多様な見方を育む現代の教科書の背景には、教える内容を国が決めた戦前教育への反省がある。政府は制度の理念に立ち戻り、自主性の尊重に努めてほしい。
 領土や歴史を教える重要性は論をまたない。が、政府の主張のみを押しつけるようなら看過できない。政府見解は時の政権によって変わり得るものであり、判断材料の一つと捉えるべきだ。とりわけ安倍晋三首相の歴史認識には、中国や韓国だけでなく米国からも懸念が示されていることを忘れてはなるまい。
 下村博文文科相は「歴史には光と影の部分があり、バランスよく教えることが必要」と強調した。影の部分が過度に弱められ、逆にバランスを欠いたとの印象を強くする。検定意見では「アイヌの人々の土地を取り上げ」を「土地をあたえ」にするなど、従来は問題にしなかった記述への指摘が相次いだ。
 自主規制も目立つ。沖縄戦集団自決は現行の「強いられた」「せまられた」から、旧日本軍の関与を弱める「追い込まれた」へと、各社がほぼ同じ表現に落ち着いた。南京事件で中国人の死傷者に触れない教科書もあった。行き過ぎた自粛に懸念が募る。
 次期学習指導要領は、多面的視点から課題に向き合い、話し合う中で解決を模索する力の育成を目指す。いわば知識偏重からの脱却であり、日ごろのニュースなどで接する機会が多い領土問題や近現代史は、こうした力を養うにふさわしいテーマのはずだ。
 ところが尖閣諸島や竹島の記述では、どの教科書も中韓の主張や根拠には触れていない。子どもたちの視野を狭めかねない検定結果は、自らが示す方向性に矛盾していると文科省は肝に銘じてほしい。
 学校現場に求められる役割は大きい。領土をめぐる対立の背景や経緯を含め、きちんと伝えなければ問題の理解につながらないからだ。授業では判断材料を多角的に示し、教科書を補わねばならない。