米シンクタンク・戦略予算評価センター (CSBA) のアンドリュー・クレピネビッチ所長が、島嶼防衛 (Archipelagic Defense) の視点から中国をいかにして抑止するか、というエッセイを『フォーリン・アフェアーズ』に寄稿しています。第一列島線上における陸上部隊の有効活用、といったはなしですね。
クレピネビッチ率いるCSBAが旗手となっていた「エアシー・バトル構想」が、「JAM-GC (国際公共財におけるアクセスと機動のための統合構想)」へと変更されたばかりです (USNI News)。JAM-GCでは、エアシーバトル構想ではほとんど見られなかった陸軍・海兵隊の役割も増えるでしょうし、積極的に取り込んでいくことと思われます。中国のA2ADに対するのはエアシーやJAM-GCよりも上位概念である「統合作戦アクセス構想 (JOAC)」であり、今回のエッセイにおける陸上部隊の活用法も限定的な作戦構想の階層に過ぎませんが、クレピネビッチがこういうエッセイを書くというところにも注目しておきたいと思います。ところどころ、「え〜?」という疑問点というか突っ込みどころもありますが、とりあえずメモ代わりの更新です。
How to Deter China: Archipelagic Defense (Foreign Affairs)
By Andrew Krepinevich Jr.
- 米軍の「ピボット」はすでに始まっており、2020年までに空・海軍の60%がアジア太平洋地域に配備される。
- 高脅威環境下では、限られたリソースを新型・長距離爆撃機と原子力潜水艦に振り分けようとしている。
- 中国の領土拡張主義が、第一列島線上にある日本、フィリピン、台湾といったワシントンが守る義務のある国々を脅かしている。
- 航空攻撃や海上封鎖といった懲罰的抑止は中国の冒険主義をくじく役割を果たすだろうが、米国とその同盟国は中国に対し、力の行使によって彼らの修正主義的な目的が達成されることはないと納得するよう拒否的抑止を達成すべきである。
- このことは、米国やその同盟国の陸上兵力を活用することで達成することができる。
- 中国は平和的に台頭していると主張するが、実際は西太平洋の支配を目論む修正主義的パワーだ。
- 軍が強大になるとその国の指導者は安心し、その態度は穏やかなものになるという者もいるが、中国は逆だ。
- 北京による周辺国への挑発は、軍事力の成長と軌を一にする。
- 中国軍は西太平洋が米軍にとって立入禁止区域になるようA2AD(接近阻止・領域拒否)能力を強化しつつある。
- 中国のASAT(対衛星攻撃)能力、通常弾頭の弾道/巡航ミサイル能力、衛星や無人機による長距離監視・探知能力などは、第一列島線内の米軍のアセット利用や米海軍の航行を制限するよう企図されている。
- 米軍が国防予算を減らす一方で、中国は予算を積み上げている。
- 中国の戦略文化として、ゆっくりとしかし容赦なく地域の軍事バランスを有利に変え、地域の周辺国は中国の強制に服従する以外にほとんど選択肢がなくなる状態を好む。
- 外交や経済的関与でこうした事実を変えることができないことを周辺国は確信している。
- 日本、フィリピン、ベトナムは中国の野心に対抗するために軍事力を用いようとしているが、彼ら個々の能力では不十分であることを熟知している。
- 米軍のサポートがあってはじめて中国の侵略や強制を抑止する態勢を整えることができる。
- 防空において、列島線沿いの国家は高機動・短距離ミサイルを装備した陸上部隊を配備することで中国のアクセスを拒否することができる(陸上発射型シースパロー&ジラフ・レーダーの組み合わせのような)。
- 一方、米軍は日本のような同盟国とより先進的な長距離迎撃システムを運用することができる。
- 第一列島線上の国ではないが、ベトナムはすでに航空拒否 (air-denial) 能力を強化しつつあり、広範な防衛協力に貢献しうる。
- 中国軍の海上コントロールを拒否するタスクもある。
- 米議会では沿岸防衛に砲兵を配置するという第二次大戦後に廃れた任務を復活させようという動きもある。
- このアイデアはシンプルで注目に値するものだ。
- 中国軍の防衛圏内に軍艦を派遣したり、より優先度の高い任務に就いていた潜水艦を転用したりするリスクをとるよりも、米国と同盟国は対艦ミサイルを持った陸上部隊を第一列島線に配備することで同等の作戦効果を得ることができる。
- 日本は演習でSSMを南西諸島に展開した実績がある。
- ベトナムも同様のシステムを持ち、他の国もそれに続いている。
- 陸上部隊の別の任務として、機雷戦がある。
- 掃海・掃討任務は海軍の持ち場であるが、敷設に関しては陸上部隊も役割を果たすことが可能だ。
- 短距離ロケット、ヘリコプター、はしけなどを使って陸上基地から機雷を敷設することで、中国海軍に対する長大な立入禁止線を設けることができる。
- 第一列島線のチョークポイント上にある機雷原は、中国海軍に複雑さをもたらし行動を制限する。
- さらに、沿岸に配備されたSSM部隊が、航路啓開にあたる中国海軍艦船の行動を妨げることができる。
- 長期的に見れば、陸上部隊は中国の潜水艦に対抗する作戦をサポートすることもできる。
- 潜水艦はその防御力を隠密性に頼るところが大きく、気づかれれば接触を回避したり破壊される危険も想定しなければならない。
- 我が方は第一列島線上の水面下に、低周波・音響センサーを配置することで、中国の潜水艦を探知する能力を向上できる。
- センサーによる探知を受けて沿岸配備の砲兵隊がロケットで魚雷を発射し、接近する潜水艦に任務の放棄を促す。
- 中国が米国の同盟国や友好国に侵略した場合、米陸軍はたとえわずかな数であっても抵抗に備えるその国の軍隊にとって助けとなるだろう。
- 中国による空と海のコントロールに対する拒否作戦を地上部隊が担うことで、我が方の空・海軍は彼らにしかできない任務(長距離偵察や航空攻撃)に専念することができる。
- 抑止政策として確かな報復能力が要求されるが、ここでも陸上部隊は有効である。
- 現在米軍が持つ報復攻撃能力は、脆弱な前線配備基地や空母上に配備されている。
- 国防総省は新型潜水艦や長距離ステルス爆撃機によってこの問題に当ろうとしているが、これらハードウェアのコストはその控え目なペイロードを考慮すれば高価である。
- それに比べれば、陸上部隊における火力の追加は安く済み、武器のリロードのために遠く離れた基地に戻る必要もない。
- 有事において中国は陸上配備の準中距離/中距離弾道ミサイルといった非対称兵器の恩恵を得られる。
- 米国はINF条約に縛られておりこうしたシステムを配備できない。
- しかし、条約の範囲内にある安価なミサイルを装備した陸上部隊を列島線上にある前線に配備することで、米国とその同盟国は中国との不均衡を修正することができる。
- 第一列島線の最大の弱点は、米軍の戦闘ネットワークである。
- このネットワークは現在、衛星と非ステルス無人機に依るところが大きく、どちらも中国軍が攻撃目標とするものだ。
- 解決法としては、光ケーブルを地下や海底に設置し、陸上の硬化指揮施設からデータを送受信できるようにネットワークを確立することだ。
- あらゆる作戦構想がそうであるように、島嶼防衛構想も問題を抱えている;財政的なものと、地政学的なものだ。
- 米国では危険な安全保障環境に相応しくない予算削減傾向にある。
- そんな中、島嶼防衛構想に投資することは西太平洋を越えたところでも将来リターンを得られるかもしれないという議論をペンタゴンは展開している。
- 例えば1970年代に掲げられた「エアランド・バトル構想」は中央ヨーロッパで成功しただけでなく、ワルシャワ条約機構によるNATOへの攻撃を抑止することを助け、修正されながら湾岸戦争でも用いられた。
- 島嶼防衛構想の要素は、ペルシャ湾やバルト海にある他の地域の同盟国・友好国を守るために利用することができる。
- 国防総省が予算を確保できない場合、全体的な態勢を現在の安全保障環境に沿うようにさらに変更しなければならない。
- ひとつの例として、北朝鮮から韓国を守るために米国はかなりの数の陸上部隊を展開している。しかし、大規模な侵攻はほとんどあり得ず、より大きな脅威は核や化学兵器を弾頭に搭載したミサイル攻撃である。
- 韓国は敵の2倍の人口と15倍の1人当たりの収入を持つのだから、韓国は伝統的な地上侵攻に対して自らの防衛予算をもっと負担すべきだ。
- 米国はそれぞれの同盟・友好国ごとに異なる役割を考慮しなければならない。
- 日本は凄まじい能力を持ち、米国の支援をそれほど受けなくとも陸上部隊の強化を進めることができる。
- 対照的に、フィリピンにおいては米国の陸上部隊が大きな役割を果たさなければならない。
- 一方、台湾は米国と外交関係がないことから、米陸軍の援助はほとんど得られないかもしれない。
- 日本とベトナムはすでに島嶼防衛構想に要求されるシステム構築に真剣に取り組み始めている。
- 第一列島線を越えたオーストラリアやシンガポールも基地提供や兵站支援などで協力しようとしている。
- ただ、NATOがワルシャワ条約機構に確固とした通常抑止力を確立するまでに10年あまりを要したように、米国とその同盟が一朝一夕に島嶼防衛 (Archipelagic Defense) 構想を確立することはできない。
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第一列島線の島嶼にSAMやSSMを配備するという議論が増えていますね。実際、自衛隊でも演習でSSMを南西諸島に展開したりしてます。