2015.04.07 23:00
今、"編集"の定義が大きく揺らいでいる。WEBメディアが多様化するなかで、キュレーション、バイラルメディアなどPV至上主義が広がり、いま改めてビジネスモデル、コンテンツ、メディアのあり方に問いが投げかけられている。先月25日、下北沢B&Bで行われた有料イベント「ウェブ生まれの編集者が本屋で語る、これからの編集・メディア論」はチケットが完売し、会場は編集者・ライターを中心に満員となった。紙メディアに出自を持たない20代の編集者が再定義を試みた「編集」の行く末とは。
■WEBが産み落とした、三名の編集者歴
写真左より前島恵氏、小川未来氏、佐藤慶一氏
前島:前島恵(まえじまけい)と申します。現在、「Credo」というWebメディアを運営しています。大学院生のように専門性を持っている人がニュースを解説するというメディアです。毎日、世の中のできごとを分かりやすく伝えることを目的にやっています。一応企業ということで、僕はその経営をやりつつ、東大の学際情報学府の修士課程に在籍していました。先日、無事に卒業しました。専攻はメディア論、コミュニケーション論と呼ばれるあたりです。
佐藤:Webメディアの編集をしています。佐藤慶一(さとうけいいち)と申します。ザックリ経歴をお話しますと、大学四年生のときに、NPO法人グリーンズというところが運営しています「greenz.jp」というところで、ライターインターンを経験しました。同時期にコンテンツマーケティングを手がけるメディア企業でも編集アルバイトをして、その翌年からフリーの編集者になりまして、今は講談社の「現代ビジネス」というビジネスメディアでエディターとして編集活動をしています。その他、個人的には海外のメディア動向を追うブログ「メディアの輪郭」を運営してたりですとか、メディア周りを追いつつ、Web編集者として働いています。
小川:小川未来(おがわみき)といいます。ちょうど先日無事に卒業することができ、今月4月から社会人になります。簡単に経歴を話すと、大学一年次に米光一成さんがやっていた編集・ライター講座に通ったのをキッカケに編集・ライターをやり始めて、ゲームの企画、Twitter実況、あとは電子書籍の制作ですとか、佐藤君がやられている「現代ビジネス」の中でコラムを書いたりとか、幅広く業務をやってきました。四月からは「リクルート住まいカンパニー」に入社予定で、部署的にはフリーペーパー制作になるだろうと言われています。
前島:では早速、本題に入っていきたいと思います。今回は4冊の書籍をベースに話を進めていきたいと思っています。1冊目の本は『編集者の時代』。小川君の方からこの本を選んだ理由をお話していただいた上で、ディスカッションをしたいと思います。
■『ポパイ』にはWEBメディアにはないイデオロギー、文化があった
(『編集者の時代 雑誌作りはスポーツだ』マガジンハウス、2009年)今回紹介する4冊全ての本はB&Bの店頭で購入することが可能。
小川:この本に限らず、今回選書した4冊に共通して言えることは、僕や佐藤君がまだ編集者駆け出しということで、これを読んだから編集者になれた、あるいはなろうと思った、実際に役立っているみたいな観点で10冊くらいブァーッと挙げたらけっこう被ってたんですね。その中から更に絞ったら4冊になりました。1冊目に取り上げる『編集者の時代』からは編集者の姿勢、心意気、志の部分でものすごくインスピレーションを受けると思っています。具体的に言うと、この本は『ポパイ』というマガジンハウスの創刊から数年以来の編集後記をまとめたものです。たしか、大体20〜30個くらいの編集後記が入っています。文庫で薄いので、ぜひ店頭で手に取ってみてください。
創刊編集長が数年に渡って書き続けた編集後記には、今のWEBや一部の紙雑誌にはないテンション、あるいはイデオロギーとまで言っていいかもしれない、がある。主張したいコンセプト、文化、イデオロギーが込められていて、ある種偏った編集後記になっている。今、WEBメディアで編集後記ってないですよね。けれど、そういった編集長の独善的なものだったり、偏りを押し出すことが欠けていると思ったので、この本をあえて今読むことで、ニュートラルにこれからの編集を考えられると思い選書しました。
前島:WEBが隆盛を極める時代だからこそ、こだわりを持って、イデオロギーなり、文化を押し出していったメディア作りを目指すべきということですよね。それを象徴する一文が「ポパイはこう思う」。どういうことかというと、媒体に擬似的な人格を持たせるということですよね。自分の意見を言うことが、『ポパイ』には許されていた。逆にいうと、今のWEBメディアではあまりそういったことが許されていないというか。どちらかというと、万人受けする内容を打ち出して、PVを稼いでみたいな状況になっている。それに対して、僕らはいま危機感があって... 簡単にいうと、『ポパイ』はだいぶ面白かった。
小川:三日前までスタディツアーで徳島県にいたんですが、WEB記事を書くよりやっぱり楽しいわけですよ。一年かけて企画して、50人分の飛行機を手配するのはとても面倒なのですが、生の体験や企画性を織り込んだものはすごく面白くて。一方でキュレーションしたりだとか、引用だけで作ったりとかっていうものはやはり面白味に欠ける。クラウドソーシングの求人サービスで「編集」って検索すると、基本的にはキュレーションサービスのインターン職みたいなのばかりで、母数からして、その要素だけで編集者になると良くないと思っていて。ある種の危機感を覚えているので、この辺について語りたいなと思います。
■キュレーション、バイラル・メディアに編集性は宿るのか?
佐藤:僕はWEBメディアの経験しかないので、いくつかお答えできる部分があると思います。キュレーションやバイラルと呼ばれるソーシャル上で拡散されやすく、コピーしやすいようなコンテンツの風潮を見ていて思うのは、WEBメディアってトレンドに乗っかる人が多かったり、時代に合わせる人が多いですよね。反対に、紙の人は時代を手繰り寄せる感があるというか。編集者としてまだちゃんと伝わっていない潜在的な価値観を、パッケージで手に取れるフィジカルなものとして打ち出すことで、来る時代の趨勢を伝えるのが雑誌編集という印象があります。その関連で、特集系のWEBメディアをやるっていうのも一つの解決策にはなりますが、そこで広告モデルがネックになってきますよね。
前島:もちろん広告というのは、見られればみられるほど高収益にはなるのですが、同時にたくさんの人に見られるというのは"らしさ"が希釈していくということでもありますよね。また単純にPVが可視化されやすいから、そこに迎合せざるを得なくなってしまうという。
小川:LINEという会社でアルバイトをしていて、今日がその最終出社日だったのですが、A/Bテスト的なものを使って、コンテンツに味付けをすることがあるんですよ。例えば、自分が正しいと思って使った言葉も、同義語でコチラの言葉の方がPVを稼いだとなればそちらにシフトしていく。そういったものの積み重ねなんですよね。WEBの世界では、広告収入の観点からみると、全ての単語、全ての切り口・企画においてそういったA/Bテスト的な数値が左右するのが正義なんですよね。それが最初の問題意識でいうと、果たしてやってる方が楽しいのか、やりがいがあるのか、編集者がやるべきなのか。そこらへんをもっと話したいと思います。
前島:究極的にいうと、そうやって機械的に還元可能というか、数値に合わせてコンテンツを変えていくことって今は人間がやっているけど、いつかはマシンに切り替わっていくかもしれませんよね。
小川:例えば、この本の中で、「『ポパイ』はアイスホッケーこそが最もエキサイティングなスポーツであると思う」って書いてあるんですよ。これって、その後にサッカーとか野球を取り上げることとか考えたら、言えない言葉だと思うんですよね。A/Bテストするまでもなく、炎上しかねない言葉というか。「アイスホッケーこそ最高だ」って定義しているよりは、ノリで言っているところがあって、こういうテンションの企画が許されないのがWEBの世界のような気が...。
前島:一面で言うと、お客さんの顔が見えないからこそ好き勝手できるっていうのはあるのかと。だからこそ文化を作れるというか。
■WEBと紙のコンテンツ構成の違いはボトムアップvsトップダウン
佐藤:やっぱりWEBだとどうしても読者目線になってしまうので、下から積み上げるしかないというか。1記事1記事に読者の求めるものであったり、目線を重視する。対して、その「アイスホッケーが面白い」は最初に上を決めてしまう。そこから逆算して、それを達成するためのコンテンツを編集していく。ボトムアップとトップダウンの違いっていう側面はありますよね。
小川:ちょっとカッコよく言うと、WEBは今流行っているものなんですよね。今話題になっているものをどんどん毎日更新していく。紙の方はどちらかというと提案する。今はないけど、これから流行る、もしくは流行ったら世の中が楽しくなっていくだろうみたいな独善性がある。なので見ている時系列の視点が全く異なるというのが一番決定的な違いじゃないでしょうか。
前島:現状分析的なところはこれくらいにして、「じゃあどうすればいいのか」っていう話に移っていきたいと思います。佐藤君は何千万PVある「現代ビジネス」に関わっていて、"らしさ"みたいなものを打ち出そうとするわけですよね。
佐藤:媒体の性質にも関わるのですが、大手のビジネスメディアは限られています。ニュースに強いもの、コラムに強いもの、様々あります。「現代ビジネス」の場合はどちらかというと、ニュース性というよりは、何かが起きた時に深い解釈だったり、読ませる読み物であったり、コラムを重視して"らしさ"を伝えるっていうことをしています。
前島:WEBの良いところでもあり、悪いところでもあると思うのですが、基本的に記事って単発消費じゃないですか。総体としての「現代ビジネス」ってどうなのかなと。
■WEBメディアのアンバンドルにいかに立ち向かうか
佐藤:現状はそうですね。いわゆる「アンバンドル(unbundle)」っていう、URLごとに読まれるという現象が起きていて、パッケージ化するのが難しくなっている。bundleは「束」という意味で、unbundleは「束じゃなくなる」という意味で、いわゆる雑誌みたいなページが束になっているものじゃなくっているということ。
前島:iTunesでアルバム単位ではなく、個別に曲を買うみたいなことですよね。
小川:Kindleでも記事ごととかあったりしますもんね。
佐藤:WEB編集者として僕がやっていることって、自分が書いた一本の記事が読まれ、拡散されるようにすること。これって雑誌でいえば、途中のページがひたすら拡散するみたいな。ちょっとジレンマみたいなものを感じているんです。紙だったらやっぱりトップの表紙から読まれるんですけど、WEBだとブランドのトップから来てくれる人は少ない。
小川:前から思っているのですが、例えば「Credo」でもいいのですが、社説とか書かないんですか?
前島:そうね。最近、社説はやりたいなと。以前は公正中立で、専門的な知識を解説するみたいなところを標榜していたんですけど、よくよく考えると自分がメディア論っていうものを学んでいく中で、編集とかライティングとかが入る時点で事実って捻れるんですよ。これを選んで、これを選ばないっていう恣意性が入るので、社説があってもなくても、元々意思は入ってるのかなと。
佐藤:でも中立って謳うよりは、偏りがあった方が必然的に面白いですよね。それは『編集者の時代』でも偏りのあるコラムがあるからこそ、集まったときにすごく面白いものになる。
小川:社説じゃなくてもいいんですよね。例えばヤフーニュースでも何でも良いんですけど、第三者的な中立ニュースを毎日流していく対極にあるのがやっぱり個人ブログ。例えば、ちきりんさんとかイケダハヤトさんとか。ニュース記事も出しながら、完全に個人の主観丸出しじゃないですか。
前島:そうそう。やっぱり方向性としては、その二極化かなと。無色透明、"中立"を謳って出された記事ってその媒体のことを覚えないですもんね。加えて、むちゃくちゃデカイ編集部を持っていて、記者もたくさんいて、お金もたくさんあって、中立的な記事を量産できるところでもない限り、ニッチなところに刺しに行くしかないのかなと。
佐藤:『WIRED』の若林恵編集長が、毎回特集をやるときに、紙と同じ「〜特集に寄せて」をウェブ版にも掲載しているんですよね。なんでその特集をやるのかっていうのをうまくコラムとして読ませているんですが、すごく面白いんです。
小川:『ポパイ』の場合は編集後記なんですけど、これは紙でいう広告を除いた一番最初のページですよね。たしか、"Editor's Letter"だったかな。若林編集長のある種ポエムみたいなものが最初にあって、すごく含蓄があって、それを読むことによって今回の特集をなぜ読むべきなのか、今回の特集の面白味は何かみたいなものがほのめかされている。これがあることで、読者も編集部側もこのメディアに対する姿勢が整うと思うんですよね。
■WEBメディアのマネタイズモデルを築いて、文化を創造するには
(佐々木紀彦『5年後、メディアは稼げるか――Monetize or Die?』東洋経済新報社、2013年)
前島:では、次の本『5年後、メディアは稼げるか』に移ります。この本は単純にいうと、紙からWEBにメディアの戦場が移ってきてますよと。こういった状況の中で、いかなるマネタイズ・モデルが良いのかについて書かれています。著者は現Uzabase執行役員兼NewsPicks編集長の佐々木紀彦さん。元東洋経済オンライン編集長ですね。
前島:その中からこういうフレーズを引用しました。「稼げるwebメディアづくりが健全な民主主義に寄与する」。僕、民主主義がどうとかいう議論が大好きなので、取り上げたんですけど(笑)これは民主主義じゃなくても、下北沢でもなんでもいいと思うんですよ。ようするに、WEBを使ってある考え方を広めようとか、文化を創っていこうといった理想は掲げやすいが、それを実現するため、もしくは継続させるためにはお金を稼げないと意味ないよねって、当たり前のことですが。それを再度言ってくれたのが良いなと。かつ、そうした状況の中で個人個人はどういう生き方ができるのか、どういうスキルセットを持つと、メディア作りやマネタイズに寄与できるのか。今著の中では、四分類が取り上げられています。
前島:この組み合わせによって、10属性くらいあるよねと。色んなメディアの会社の中でも、これを一個ずつ極めてる人って1割にも満たないと佐々木さんはおっしゃっていて、普通の人だと一分野を極めるのは難しいよねと。逆にいうと、「組み合わせた方がいいですよ」ともおっしゃっています。じゃあどういう風に組みわせることができるのか、実際にメディア人として活躍している方をマッピングしてみたのがコチラの図です。
作成した前島氏によれば、この図式はかなり簡略化したもので、本来は「深さ」も表すように三次元マップにすべきだったとのこと。
小川:なるほど、ちょっと偏ってますね(笑)「ビジネス」って言っても何って感じだと思うので、補足した方がいいですよね。これは広告に詳しいっていうイメージですか?
佐藤:広告であったり、WEBでどうお金を稼ぐのかというビジネスモデル。
前島:「テクノロジー」はメディアに関わる分析。ニュースアプリでいえば、アグリゲーションなど技術に関わっている人。メディアアルゴリズム。表には出てこないけど、大体どこのメディアも抱えているという意味で、かなり広義な書き方をしました。
僭越ながら、自分を中央に置いた理由としては一応会社(WEBメディア)を経営して4年目になるっていうのと、エンジニアも3年やっているので。今やっている会社を続けながら、リクルートホールディングスにエンジニアとして入るというキャリアプランになっています。
小川:正直、僕はつまみ食いしすぎて少々面倒くさいんですが、テクノロジー以外はやっているつもりです。紙の経験が一番薄いので、おそらくポジションはあそこで正しいと思います。広いところでいうと電子書籍も、ニコニコ公式チャンネルの番組企画もしたことがあり、もちろん講談社「現代ビジネス」でライティングをしてるのも(小川未来『就活事変』)、LINEでタイアップ記事広告を打っているのもやっぱりWEBメディアです。ビジネスの方でいうと、インデペンデントでスタディツアー50人を企画したり、電子書籍を作ったりというところで、お金周りも一応知ってはいるかなと。あとはタイアップ記事をlivedoorで作っているので、なんとなく広告とコンテンツの関係も勉強している最中です。紙に関しては、後ほど取り上げる『はじめての編集』の著者でもある編集者の菅付雅信のアシスタントをしていて、初めて色校だとかゲラ校正だとかを1年学びました。現在、徐々に紙のことも詳しくなりたい時期ではあります。
佐藤:僕は純粋なので、説明は不要かもしれません。WEBメディアの編集しかやったことがないので...。
小川:慶一君のようにWEBの編集をやっている人はたくさんいると思うのですが、「メディアの輪郭」っていうところでWEBメディアのアナリストというか、批評までできるっていうのは稀有な人材じゃないですか。それこそ『宣伝会議』や『事業構想』など紙の雑誌に寄稿もされているじゃないですか。
前島:WEBメディアといえば慶一君に意見を伺いたくなりますもんね。実は、「Credo」立ち上げのときにも相談に行ったんですよ。
佐藤:そうなんですね。「ニュース解説とかもいいんじゃないですか」って言ったら、その日にサイトが立ち上がっていたみたいな。
小川:少しこの図の人物を説明した方がいいと思うのですが、ナカムラケンタさんとか分かりやすいかな。「日本仕事百貨」というメディアをやられている方で、知っている方もいらっしゃると思うので重複だったら恐縮なのですが、求人サイトとインタビューサイトが一緒になっているものなんですよ。全部が求人なので、全て広告というわけですね。だけど例えば、地方の商店の求人が多いだとか、あるいは職人的な求人が多いだとか、クオリティ・コントロール、いわゆるトンマナを整えつつ、広告もやっている。そういう意味でWEBメディアも分かって、広告的な観点でメディアもやられているし、会社経営者でもある。
佐藤:あとSmartNewsをやっている松浦茂樹さん。元々、エンジニアをやってらして、経歴もlivedoor、『WIRED』、グリーなど。この前までハフィントンポスト日本版の編集長をやってらっしゃいましたよね。
小川:編集もできるし、裏側のアルゴリズムも分かる人。あとはケトルの嶋浩一郎さん。おそらく嶋さんはWEBもできるから、ここに入れるのは失礼だと思うんだけど、今一番メインでやられているのがここだと思いますので。今日の会場のB&Bのオーナー、博報堂ケトルの社長、紙の雑誌『ケトル』の編集長でもある。
あとは中心にいる田端信太郎さん。元々、NTTデータに就職されていることもあって、数値やテクノロジーに明るい。学生時代もWEBサイト構築で食っていたそうです。リクルートに移られて、『R25』というフリーペーパーを立ち上げられて、広告営業側でプロデューサーとしてやられた。その後にlivedoorで、livedoorニュースのディレクションをやって、コンデナスト・ジャパンへ。『WIRED』や『VOGUE』などのWEB版を立ち上げた。だから本当に紙とWEBの翻訳者というか、プロデューサーをやられていて、今はLINEの執行役員。コミュニケーション、SNS全て、オンライン/オフラインを今手掛けてて、まあ頭が良い方で、お話すると本当にビックリします。すいません、僕の個人的な感想でした。
■三者三様の目指す編集者像とキャリアステップ
前島:僕らの話ばかりで恐縮なのですが、まだ駆け出しの僕らがこれからどういうキャリアを築いていくのか、能力を身につけていくのかっていう話をさせていただけたらなと。
前島:では、僕から。なぜ中央にステイしているのか。僕はこれから深めていくだけだと思っています。リクルートに入ってもそうですけど、テクノロジーを使って、メディアを育てて、いかにお金を稼いでいくのか。それを極めたいなと。プラスこれに紙メディアだけでなく「学術」というカテゴリーも入れてほしいと思っていて、学術でいうと例えば、東浩紀さんや宇野常寛さんみたいな方。後はSmartNewsの会長でもある鈴木健さん。東大の博士まで行って思想的にも深いし、テクノロジー面でも天才エンジニアでサービスを立ち上げられている。当然ビジネスにも明るい。
小川:でもアレですよね、編集はあんまり得意じゃないんですよね...?(笑)
前島:一応、編集長として頑張っているんだけど、適性はないかなと。でも編集長がいかに気持ち良く働けるかみたいな環境を作るのは好きだし、すごく得意なんですよ。ただ、自分がプレーヤーでやるのは厳しいかなと。
小川:僕は4月からフリーペーパーを作るという物理的な移動があって、この3つかなと。僕はビジネス面が弱いと思っているので、リクルートでそこを学びたいです。テクノロジーでいうと、HTML/CSSくらいは分かりますけど、それ以上は学ぼうと思わないし、逆にいうと僕はこっちに適性がないと思っているので、それ以外の3つで自分のキャリアステップを作っていきたいと思っています。
佐藤:僕は新潟県の佐渡島っていう島の出身で、大学からコッチに来ているためか考え方や価値観がすごい田舎的な感じというか。今は地元では出来ないことをやろうと思って、WEBメディアの編集をやっているんですけど、将来的には島に戻ると思っています。
前島:学んだことを佐渡島で活かしたいということですか?
佐藤:そうですね。すごいシンプルな例だと、佐渡って鴇(トキ)っていう鳥が有名で、東京ではパブリックイメージとして佐渡=鴇って捉えられているところがあって。編集をやっていることにもつながりますが、別の魅力をちゃんと掘り起こして、編集で外に伝える部分をやりたいですし、自分自身のキャリアとしても同級生はずっと島にいると人が多いので、キャリアの多様性や選択肢の広さみたいなものを持ち帰って、還元できたらという思いからこういう矢印の方向になりました。
小川:島自体がメディアになったら面白いですよね。
佐藤:カッコイイこと言うね(笑)
前島:僕、実は専攻がローカル・イメージとメディア論ってちょうどドンピシャなんですけど、日本って超特殊で主要キー局や新聞社といったマスメディアが東京に一極集中してるんですよ。例えばニューヨークタイムズ紙でも発行部数がせいぜい70万とかなのに、読売朝日合わせて2000万部近いじゃないですか。そういう意味で超中央集権的。だから、地方は東京視点でイメージを決定されてしまう。アメリカの場合だと少なくとも議論はできる。
小川:そもそも国土が広いですしね。
■編集者志望にとって正解がない時代
前島:ここでちょっと小川君に聞きたいのは、「編集者」になりたいという像がまずあって、どうやって就職をしたのかということなんですが。
小川:編集者になりたいというのは先に決まっていて、それは正しい姿だと思うんですが、じゃあどの会社に入ればいいのかがすごく難しい時代になっていると思うんですよね。さっきの図が分かりやすいんですが、紙メディアもあるし、WEBメディアもあるし、広告ビジネスもつながってくるし、テクノロジーもキーになってくる。この4つを全てやっている会社ってすごく少ないんですよ。出版社に入ったらおそらくできないですからね。編集者として自分の付加価値を上げていくことを念頭にするキャリアステップが描きにくくなっている。 だから僕は「リクルート住まいカンパニー」っていう会社を選んだのも超シンプルで、(4つの要素)全部があるからなんですよ。社風とか、上場とかはどうでもよくて、この4つが全て揃っていて、それなりにマスにリーチできる所って本当に他にないんですよね。
前島:なるほど。配属もフリーペーパー制作ができるところで良かったですよね。一方で佐藤君の場合、以前WEBメディアだからこそ実現できるものみたいなお話をされていたんですよ。さっきのアンバンドルの話とも関連してくると思うのですが。
佐藤:WEBだけやっていると、どうしても抗えない部分が見えてきます。広告モデルであったり、それこそアンバンドルという流れ。そこで解答を出さないといけないという中で、やっぱり紙メディアのように世界観や価値観をパッケージ化して、読者に深く刺さって、人を動かすようなメディアをやりたいと思います。今のWEBメディアの環境を見ると、僕含めWEB単体で編集をできる人はうじゃうじゃというか、たくさんいるんだけれども、逆に紙からWEBに来る人もまだまだ少ない。僕は行ったり来たりできる両生類というか、コンテンツによって出し口を変えられる人を目指したい。それは編集の切り口であり、スキルであり、しっかり見極めできるように。
前島:二人のいう編集って誤字脱字チェックに収まらないで、コンテンツや人によって媒体レベルで変えられるような、適正な組み合わせを選んで、作っていけるような能力のことを言っていましたよね。
小川:少なくとも"編集"っていう言葉をそのまま字義通りに捉えるのであれば、従来は紙しかなかったですからね。今はWEBもあるし、僕はこの本屋も編集だと思うんです。あいうえお順とか、出版社別に並べるとかって人が要らない編集ですよね。この本屋では全くそんなことはなくて、大きさもバラバラだし、レーベルもバラバラ。完全にコンテンツありきで本棚が組まれています。だからリアルスペースも編集です。そういう意味で、僕がなりたい編集者像っていうのはその全部を包括しています。本を作りたいとか、テレビ番組を作りたいっていうのは分かりやすいんですが、あんまりピンと来ないというか。編集をやりたいのに会社でメディアを限定されるっていうのはどこか違う気がしています。
講談社で『モーニング』で『宇宙兄弟』や『バガボンド』などの人気連載の編集を担当した後、作家のエージェント会社「コルク」を設立した佐渡島傭兵氏は以前「全てのコンテンツビジネスはWEBが主戦場になる」と語った。(バガボンド&ドラゴン桜&宇宙兄弟の編集マンが語る「コンテンツビジネスの未来」)
三人の口から幾度も出た「テクノロジー」という言葉。WEB出身の編集者らしくキャリアパスに必要となるスキルセットを具体的にイメージしていたのが印象的だった。リンダ・グラットンが『ワーク・シフト』で強調していた「連続的専門性(serial mastery)」に近いだろうか。
[後編] 拡張を続ける「編集」の本質とは は4月13日にアップ予定
(取材・文=長谷川リョー/フリーライター、東京大学大学院学際情報学府在籍)
[登壇者プロフィール(2015年3月時点)]
佐藤慶一| KEIICHI SATO
1990年生まれ。新潟県佐渡島出身。学生時代にNPO法人グリーンズが運営するウェブマガジン「greenz.jp」のライターインターンやコンテンツマーケティングを手がけるメディア企業での編集アルバイト経験を経て、フリー編集者として講談社「現代ビジネス」の企画編集・ライティングをおこなう。ブログ「メディアの輪郭」を運営。
小川未来| MIKI OGAWA
1991年生まれ。慶應義塾大学4年。アシスタントエディターとして、(有)菅付事務所でアートブックや新書の編集に携わる他、livedoorポータル上のタイアップ記事制作をサポートしている。講談社現代ビジネスにて就活コラムを連載中。
前島恵| KEI MAEJIMA
作家・編集者。 1988年生まれ。東京大学修士2年。株式会社kairo代表取締役 credo編集長(http://credo.asia/)