教科書検定 幅広い視点を育んでこそ
国際化が進む時代の教育には、幅広い視点を育てることこそが求められるのではないか。
来春から使われる中学校教科書の検定結果が公表された。領土関連の記述が倍増し、政府見解が詳しく紹介されているのが特徴だ。
社会科の全教科書に竹島と尖閣諸島が登場し、多くが「固有の領土」と書いている。
一方で韓国や中国の見解は記載されていない。
政府の立場を教えることは大切だ。だが関係国との対立の理由を教えなければ、子供たちに敵対心だけを植え付けかねない。
何よりも歴史にはさまざまな視点や解釈があることを知り、自主的な判断力を身に付けることが教育には必要なはずだ。
課題に向き合い、他者とともに解決する力の育成を目指すという、次期学習指導要領の理念とも反するだろう。
今回の検定は、文部科学省が昨年改定した学習指導要領解説書と検定基準が初めて適用された。
教科書作成の指針となる中学校と高校の学習指導要領解説書は、竹島と尖閣諸島を「固有の領土」と明記するよう改められた。
検定基準も、政府見解を明記し、近現代史で通説的な見解がない場合は明示することなどが加えられたのである。
今回の検定では不合格本を含めて6件の検定意見が付けられ、政府見解については、日本の戦後処理で「国家間賠償は解決済み」との政府の立場などが加えられた。
関東大震災の際に殺害された朝鮮人の人数については、通説的な見解がないと明示するよう意見が付けられた。
さらに注目しなくてならないのは、出版社側に自粛と画一化の傾向がうかがわれることだ。
旧日本軍の関与が論争になる沖縄戦の集団自決について、7教科書のうち6点が「自決に追い込まれた」と同じ表現になっている。
現行の「自決を強いられた」を変更した出版社は、全てが軍の強制とは言えないと強制のトーンを弱めたというのである。
「慰安婦」の記述も1997年の教科書には全てあったが徐々に減り、今回は新規参入の1点だけになっている。
検定の合否は出版社には死活問題にもつながる。政権への忖度(そんたく)や微妙な問題には触れたくないという思いもあったのではないか。
教科書検定制度は、民間の創意工夫により多様な教科書をつくることに重きがあるはずだ。
それには先の大戦へと導いた国家主義的な教育への反省がある。
国の関与が強まり、出版社も政権の意向をくむようでは「国定教科書」と変わらなくなるだろう。
安倍晋三首相は「戦後レジーム(体制)からの脱却」を掲げ、第1次政権時に教育基本法を改正し「わが国と郷土を愛する態度を養う」という目標を加えた。
第2次政権でも反対意見の強い道徳の教科化を決めるなど、教育改革を押し進めている。
特定の国家観や価値観を教え込むことに走れば教育はゆがむ。教科書の多様性を保障すべきだ。
来春から使われる中学校教科書の検定結果が公表された。領土関連の記述が倍増し、政府見解が詳しく紹介されているのが特徴だ。
社会科の全教科書に竹島と尖閣諸島が登場し、多くが「固有の領土」と書いている。
一方で韓国や中国の見解は記載されていない。
政府の立場を教えることは大切だ。だが関係国との対立の理由を教えなければ、子供たちに敵対心だけを植え付けかねない。
何よりも歴史にはさまざまな視点や解釈があることを知り、自主的な判断力を身に付けることが教育には必要なはずだ。
課題に向き合い、他者とともに解決する力の育成を目指すという、次期学習指導要領の理念とも反するだろう。
今回の検定は、文部科学省が昨年改定した学習指導要領解説書と検定基準が初めて適用された。
教科書作成の指針となる中学校と高校の学習指導要領解説書は、竹島と尖閣諸島を「固有の領土」と明記するよう改められた。
検定基準も、政府見解を明記し、近現代史で通説的な見解がない場合は明示することなどが加えられたのである。
今回の検定では不合格本を含めて6件の検定意見が付けられ、政府見解については、日本の戦後処理で「国家間賠償は解決済み」との政府の立場などが加えられた。
関東大震災の際に殺害された朝鮮人の人数については、通説的な見解がないと明示するよう意見が付けられた。
さらに注目しなくてならないのは、出版社側に自粛と画一化の傾向がうかがわれることだ。
旧日本軍の関与が論争になる沖縄戦の集団自決について、7教科書のうち6点が「自決に追い込まれた」と同じ表現になっている。
現行の「自決を強いられた」を変更した出版社は、全てが軍の強制とは言えないと強制のトーンを弱めたというのである。
「慰安婦」の記述も1997年の教科書には全てあったが徐々に減り、今回は新規参入の1点だけになっている。
検定の合否は出版社には死活問題にもつながる。政権への忖度(そんたく)や微妙な問題には触れたくないという思いもあったのではないか。
教科書検定制度は、民間の創意工夫により多様な教科書をつくることに重きがあるはずだ。
それには先の大戦へと導いた国家主義的な教育への反省がある。
国の関与が強まり、出版社も政権の意向をくむようでは「国定教科書」と変わらなくなるだろう。
安倍晋三首相は「戦後レジーム(体制)からの脱却」を掲げ、第1次政権時に教育基本法を改正し「わが国と郷土を愛する態度を養う」という目標を加えた。
第2次政権でも反対意見の強い道徳の教科化を決めるなど、教育改革を押し進めている。
特定の国家観や価値観を教え込むことに走れば教育はゆがむ。教科書の多様性を保障すべきだ。