2011年10月23日に開店させた麺処hachiを2014年8月23日に閉店させました。
麺処hachiとはなんだったのか、主に僕の主観を軸に振り返ってみたいと思います。
そもそも、hachiは厳密には僕が経営していたのではありません。別に社長がいて、僕は会社的には役員扱い、店については基本的な権限はありました。
西新宿のこの地に決めたのには色々と事情があるのですが、当時は多少は楽観的だったのは間違いありません。因みに個人的に本命で申し込みも通った洋食屋居抜き物件が、その後ラーメン屋になり未だに営業しているのは皮肉なものです。
味については、開店当時は正直それほど自信はありませんでした。厨房の狭さによる制約と、まあこの程度でも何とかなるかなという楽観的な考えの両方です。当時は「生産者応援」をコンセプトに掲げ、生産者直送の野菜を総菜にしてサービスしたり月毎に旬の食材で限定ラーメンを作る事を売りにしようとしていました。
この狙いは、経営的な観点からは大きく外れました。総菜は一部の方を除いてサービス品としてしか受け取られず、限定ラーメンはラーメンマニアの格好のネタになるだけでした。少なからず「限定ラーメン」の食券を購入された方から調理中に「ところで限定ラーメンってなんですか?」と聞かれた事があり、僕は何の為にこれを作っているのかと思わされました。
開店しても売上は伸びず、開店直後にテコ入れを行う事になります。オープンから提供していた「醤油ラーメン」、元々野菜を多く使っていたのですが、更に強調、魚介の風味を取り除き「濃菜醤油ラーメン」としてリニューアル、更に濃厚でありながらしつこさのない斬新な「極煮干ラーメン」をリリースします。
このリニューアルは一応の成功を見せて「王様のブランチ」にも取り上げられます。しかし、ここで人員の増強を主張するも受け入れられず、hachiとしての瞬間最大風速を記録した期間を僕が耐えきれずに、やがて売上は失速していきます。
やがて、売上的には低迷期に入っていきます。そして度重なる社長との確執の末、人件費を削る為に僕は一人で店を動かす事になり、それに対する不満も含めて僕は2週間店を閉めてアメリカに飛ぶ事になります。
サンフランシスコにて開店準備中のお店のメニューの一つとして、豚骨ラーメンをプロデュースする事が渡米の目的でした。様々なトラブルをクリアしながら、極めて濃密な2週間を過ごし帰国します。
帰国後、営業時間を短縮し「生産者応援」のコンセプトを捨て去り(生産者応援の気持ちを捨て去った訳ではありません)、段々と「アイドル」との関わりを強めていきます。アイドルをイメージしたラーメンを作り、果てはコラボラーメンイベントまでも。
この辺りから、ラーメンを使ったエンターテイメントを大きく意識していきます。方向性が定まった事により、味について意識する余裕も生まれ、2014年4月のリニューアルあたりからレギュラーメニューは以前より格段に美味しいものになります。最早、評論家や多くのマニアからは見向きもされなくなっていましたが。
皮肉にも閉店が決まるのはその2ヶ月後。常に数ヶ月後を見据えながら仕掛けていき、経営的にはようやく安定期が見えていたタイミングなので、個人的には寝耳に水でした。夏に向けて「台湾ラーメン」、その後に「極濃菜ラーメン」をレギュラーメニューに登場させようとしていたのにTwitter限定メニューに留めたのは、終わりが見えているからこそ、わざわざ食べたい方に少しでも召し上がって頂きたかったから。
「極濃菜ラーメン」を召し上がった方なら、このラーメンが唯一無二のもので有りながら極めて完成度の高い美味しさであるのを理解して頂けるかと思います。そういう自負で作りました。
結局、僕は最初から最後までラーメン屋として余りにエゴを全面に押し出し過ぎたのかも知れません。だからこそ生まれた物も多くあるし、失った物も多くあります。経営は失敗でした、でも他にない数多くの経験、そして他では味わえない多くのラーメンを生み出した事は成功とも言えるし、結果として閉店してしまう事には悔しさはありますが、清々しい気持ちもあります。
「美味しい」ってなんだろうと、未だに思います。だって、僕が作るラーメンが一番美味しいのに、それでもやっていけませんでしたから(笑)。
閉店して、それを惜しんでくれる声を沢山聞きます。それでも店はやっていけなかった。僕がどこかで妥協していればもっと長続きした?でもそれでよかったのだろうか?全てタラレバになってしまうし、答えは出てきません。
もし、次にラーメン屋をやる事があるなら、もっと圧倒的にひれ伏させるような美味しさの物を1500円くらいで作る事しか考えていません。その為に、また1から、いや、0から勉強し直しです。
ただ美味しければそれだけじゃだめなのか、という僕のエゴを具現化したのが麺処hachiであり、それに対する世間のノーが閉店という事実だと受け止めています。本当に自分が美味しいと思える物を数多く作れたから、それでよかったと思えるのは、やはり僕がエゴイストだからなのでしょう。
こんな僕を、麺処hachiを支えて頂ける方が少なからずいらっしゃった事、本当に嬉しく思っています。ありがとうございました。