side 悠真
あれから。
杉浦の僕に対するちょっかいが、ピタッと止んだ。
「なあ、悠真。お前最近杉浦とケンカした?」
掃除の時間。焼却炉へゴミを捨てた後廊下を歩いていたら当番じゃない貢にばったりあってそのまま二人で歩いていた。もちろん行き先は教室だった。
「べつに。なんでそんなこと、思うのさ。」
僕は内心の動揺を悟られないように、平然を装ってわざとぶっきらぼうに返す。
「ふーん。」
貢が僕の顔をしれーっとした目で見た。
「なに?」
僕はちらりと貢の顔を見ると、角を曲がり階段を登り始める。もちろん貢も一緒に登る。
「自覚ないのかもしれないけどさぁ。悠真って嘘つく時、わざとぶっきらぼうに言うのな。」
「……へ?」
驚いた僕は、階段の途中で足を止め、貢を見た。貢は数段上に上がってから、僕が足を止めたのに気がつき振り返る。
「杉浦と、なにかあったんだな?」
「えっ?!。ないよっ。」
貢が僕に向かって伸ばした手を僕は払いのける。その拍子にバランスを失い足を踏み外した。
「うわっ。」
貢が手を伸ばす。僕の手は空を切りそのまま階下に落ち叩きつけられ―――なかった。
大きな胸が、僕を抱きしめる。
「危ないな……。」
その声に僕は上を見上げ、あきれた顔で見下ろしているその人物の顔を確認した。
「すぎ…うら……。」
「気をつけろ。」
そう言って杉浦は僕をぐいっと引き剥がすように立たせると、貢の横を抜けて階段をすたすたと登っていった。
「悪い。悠真、大丈夫か?」
貢が階段を降りて僕の肩を掴んだ。杉浦の消えた方向をずっと見ていた僕は、はっと我に返って貢の顔を見る。
心配そうな顔に、にこっと笑いかける。
「大丈夫。それよりか、はやく教室いこう?」
そう言って僕は階段をたんたんと登り始めた。
階段の下で僕の背中を複雑な顔で見上げている貢には気がつかずに―――。
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